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震災直前に売買した建物が津波で流された場合1

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平成23年 4月15日(金):初稿
○震災関係法律相談のサンプルで今回は、表記震災直前に売買した土地・建物の内建物が津波で流されて焼失した場合の売主と買主の法律関係です。
具体的にはAがBから中古土地建物を、代金5000万円(内訳は土地4000万円、建物1000万円)で買い受け、平成23年2月1日売買契約書を交わして、手付金1000万円を支払い、2ヶ月後の同年4月1日に、残代金4000万円支払・引渡と同時に所有権移転登記をする段取りとなっていたところ、同年3月11日発生地震で建物全部が流されて消失してしまい、且つ土地も地盤沈下して価値が大幅に下落しました。契約書にはこのような事態を想定した約款はありません。
 買主Aは、売買目的物全部が滅失したと同様な事態であり、売買契約を解除して手付金1000万円を返して貰いたいところ、売主Bは、以下の民法の規定を縦にして、予定通り売買を実行して残代金4000万円を支払うよう強く要請しています。
第534条(債権者の危険負担)
 特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合において、その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、その滅失又は損傷は、債権者の負担に帰する。


○上記条文は危険負担の定めで、これを形式的に当てはめると、上記土地建物の売買契約は、「特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約」であり、津波による建物消失と地盤沈下は、「その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失」した場合に該当しますので、「その滅失又は損傷は、債権者の負担」になるため、土地建物引渡請求債権者であるAが「その滅失」を負担することになり、B主張の通り、Aは地盤沈下して価値の無くなった土地を引き取り且つ残代金4000万円を支払わなければなりません。この結論は、Aにとっては踏んだり蹴ったりで、到底、納得出来ないはずです。

○特定物を目的とした双務契約における危険負担は債権者が負うのが民法上の原則です。その趣旨は、利益帰する所に危険(損失)も帰する、或いは、特定物の所有権は契約成立で債権者に移転するので危険も移転すると解説されています。設例ではAがその土地建物で転売による一儲けをもくろんだのだから、或いは、売買契約成立でAが所有者になったのだから、その危険も負担するのが当然との考えです。しかしAにしてみれば、転売で儲けるとは限らず、売買契約成立しても、引渡もなく、到底、実質的には所有者にはなっていないと反論したいはずです。

○Aが不動産業者の場合、売買契約書には、通常、以下のような約款が入ります。
本件不動産が、引渡完了前に天災その他の不可抗力によってその価値が著しく減少し、買主が買受の目的を達することが出来なくなったときは、本契約は当然効力を失うとともに、その損害は売主の負担として、売主は既に受け取った手付金を買主に返還しなければならない。
本件不動産が、引渡以前に、当事者の責めに帰すことが出来ない理由で滅失または毀損したときは、その損害は売主の負担とする。
 これは民法の原則である危険負担債権者主義を債務者主義に修正する合意であり、当然、有効です。契約書にこのような約款があれば、本件で買主Aは残代金4000万円の支払を免れ、逆にBに対し手付金1000万円の返還請求ができます。

○このような約款がない場合どうするかです。まず手付金1000万円を支払っており民法の、
第557条(手付) 買主が売主に手付を交付したときは、当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を償還して、契約の解除をすることができる
との規定により、「契約の履行に着手」以前であれば1000万円を放棄して一方的に売買契約を解除できます。
しかし、Aとしてはこの1000万円放棄も悔しいはずです。なんとか1000万円を返して貰う方法がないか、別コンテンツで検討します。
以上:1,620文字

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