平成22年10月 2日(土):初稿 |
○マンションのバルコニー使用を巡っての争いは、結構あるようですが、公刊された判例では、「区分所有建物バルコニー温室事件事例と判決紹介」で紹介した事例が最も有名です。その他にどのような判例があるか調査していますが、マンションのバルコニーに置いた設置物について、マンション区分所有者個人が、バルコニーに歯科医療用のコンプレッサー(縦約1.75メートル,横約0.85メートル,高さ約1.5メートル,重量209キログラム)を置いて歯科医院として使用している歯科医師に対し、このコンプレッサーの撤去を要求して認められなかった平成20年6月30日東京地裁判例を紹介します。 ○事案は以下の通りです。 ・Xの主張 Yが賃借部分に前記コンプレッサーを設置することは、マンション使用規則「バルコニーへのサンルーム、物置等の設置禁止」条項に違反する。 ・このコンプレッサーは、例え避難通路を塞がないとしても設置を認めることは避難通路を塞ぐ物置設置を誘発し、また重量からして建物強度維持に問題があり、且つ、美観上も問題がある。 ・コンプレッサーの撤去は,本件建物の住民の生命身体の危険に関する事項であり,「集会の決議によらなければならない」とする区分所有法57条の規定に関わらずその撤去を求められるもので、Xは,人格権に基づき、また、管理組合が撤去請求をしないので、管理組合に代位して,コンプレッサーの撤去を求める。 Yの主張 ・マンション区分所有者Aは所有部分につき、マンション通常総会決議を得て月額3000円でコンプレッサー設置専用使用を認められた。 ・消防署において現地調査の上、コンプレッサーが避難経路の障害とならない部分に設置されていることから、「問題なし」との判断を示した。 ・コンプレッサー荷重は許容荷重以下となっており,また,床スラブの安全性についても充分余裕があり,問題ないと判断できるとされている。 ・人格権侵害・債権者代位の主張はいずれも必要な内容が特定されず、主張自体失当である。 ○この両者の主張に対し、平成20年6月30日東京地裁判決は、人格権侵害の主張は、内容が不明で且つ理由がなく認められず、債権者代位については、本件マンション管理規約によれば、使用規則違反者に対する是正措置は、区分所有法所定の手続か、理事会の決議を得て理事長が行うべきもので、区分所有者個人が管理組合を代位して行うことは出来ないとして、いずれもXの主張を棄却しました。 ○訴えを提起したXの居住部分は9階で、コンプレッサーを設置した部屋は2階であり、この状況も人格権侵害はあり得ないとの結論に至る理由の一つです。9階に居る人が,何故、2階のバルコニーのコンプレッサー設置を問題にするのか、奇異な感じがしました。本件では、管理組合理事長がマンション内で配布等したビラにより名誉を毀損されたとして、理事長に対しても損害賠償を求めており、マンション内での人間関係がこじれにこじれた結果の紛争でした。勿論、名誉毀損賠償請求も棄却されています。 以上:1,242文字
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