平成22年 9月26日(日):初稿 |
○区分所有建物のバルコニーの使用方法を巡って先例となっている有名な判決であるバルコニー温室事件を紹介します。 事案は以下の通りです。 区分所有建物の一室を所有するYは、自己の専有部分に附属するバルコニー南側の手すり用障壁を利用してその上の空間部分に木製およびアルミサッシ製のわくを付設し、これにアルミサッシ製のガラス戸をはめこんで窓を設置し、この窓と右手すり用障壁が一体となつて建物の外壁を構成するに至らせ、さらに、右バルコニーと東側隣家のバルコニーとの境の仕切板の左右のすき間をベニヤ板でふさぎ、その上部に回転窓をとりつけ、これらによつて、バルコニーを外気と遮断された独立の部屋となし、その壁面と天井の全面に保温用発泡スチロールを張りつめて、温室としていました。いわばバルコニー全体をサンルームにしてしまいました。 これに対しこの区分所有建物管理組合Xは、管理規約でバルコニー改築禁止を規定しているので、Yのバルコニー全体を温室とする造作を加えることは、この禁止規定に違反する行為であり、撤去するように求める訴えを提起しました。 ○この事案は最高裁まで争われましたが、地裁と高裁の判断が分かれました。 一審昭和45年9月24日東京地裁判決 バルコニー改築禁止規定の趣旨は、①統一美観の維持、②バルコニー構造の危険除去・安全確保、③避難路の確保であり、改築してもこの①乃至③の趣旨が害されない限り禁止されず、且つバルコニー所有権に基づく自由の制限は共同の利益のために必要最小限にとどめるべきとして、本件での温室はこの改築禁止の趣旨を害さないので、規約で禁止された改築には該当しない。 二審昭和47年5月30日東京高裁判決 バルコニーは共同住宅の躯体部分に含まれる共有部分でありXの管理に属し規約で改築を絶対的に禁止し、違反者は理由のいかんを問わず原状にふくせしめることに規定しており、且つ、本件バルコニーの温室は、①統一美観を害するおそれがあり、②の危険はないとしても、③避難を困難にすることは否定できず、温室ガラス戸に付着したゴミが流れて手すりの擁壁を汚し、雨の吹き付ける日は本来バルコニーに吹き込んでそこの排水口を通って流失すべき雨水がガラス戸を伝わって多量に落下して階下の住民に多大な迷惑をかけていることから、改築禁止規定の実質的理由に抵触するものであり、建物区分所有者全体の共同利益を害するので撤去して原状に復すべきである。 ○この高裁判決に対し、Yは上告し、バルコニーの改築を禁止した本件規約及び建築協定は憲法13条、29条に違反し、公序良俗に反し無効であるとか、Yの本件行為は建築協定が禁止するバルコニーの改築にはあたらないなどと主張しましたた。これに対する最高裁判決は以下の通りです。 上告審昭和50年4月10日最高裁判決 その確定した事実関係によれば、本件バルコニーは被上告人組合の管理する共有物であり、上告人が本件バルコニーに加えた原判示の工事は、バルコニーの改築を禁止した判示の建築協定に違反するものであつて、上告人はその加えた工事部分を撤去して復旧すべき義務があるとした原審の判断は、正当として是認することができる。 以上:1,311文字
|