平成21年 5月11日(月):初稿 |
○「私が刑事事件について引退表明した理由1」を続けます。 ある引き籠もりの窃盗事件被告人と接見したとき、下を向いたままボソボソ小さな声で話すため何を言っているかサッパリ判らず、私は聴覚障害者で補聴器を付けているが、それでも普通の人の半分くらいしか聞こえず、貴方の話していることも良く聞こえない、顔を上げて大きな声で話して下さいと要請しました。 ○ところが、少し顔を上げて本人は大きな声で話す努力しているつもりでも,私には良く聞こえず、さらに直ぐに顔を下げて小さな声に戻るため、コミュニケーションが取れない状態が続きました。私は,一時、接見を打ち切り、留置課の警察官と話をして、その被告人は声が小さく、難聴の私には言っていることが判らない、取調の時は、どうなんでしょうかと質問しました。 ○すると警察官は、そうなんです、この被告人は声が小さく、取調官も苦労しながら何とか取調をしていますと答えます。仕切りのない取調室で、健聴の刑事にさえ聞き取りづらい声で話し取調に苦労するようでは、仕切りのある接見室で難聴の私には話す声も聞こえず、コミュニケーションが取れません、警察の方でも被告に対し、弁護士に対し大きな声で話すよう指導して下さいとお願いし、更に、被告人に対し,次回までの大きな声で話す訓練をして下さい、でなければ、私は貴方とコミュニケーションが取れないことを理由に裁判所に弁護人解任願いを出しますと,予告して第1回目の接見を終えました。 ○2回目の接見に行くと、さすがに第1回目よりは、顔を上げるようになり、また声も心なし大きくなっており,努力の跡が伺えました。それでも難聴の私には聞き取りづらい声には変わらず、私は補聴器を付けた左耳を接見室仕切りの穴の空いた部分にピッタリ押し付け、ようやく被告人の言葉を聞き取り、何とかコミュニケーションを成立させて、事情を聴き、法廷での対策を立て、引き籠もりとなって全てに自信を失っていた被告人には、それが立ち直りの第一歩なので,兎に角、顔を上げて大きな声で話す努力だけは継続して欲しいとお願いしました。 ○法廷では、その被告人のお母さんに情状証人となって頂き、型どおりこれからも被告人の面倒を見ていくことを証言して頂き、被告人には、裁判官の前で、これまでの投げやりな生き方を反省していること、これからは顔を上げて、大きな声で話す努力をして仕事を探す努力もしていくことを、正に顔を上げて,大きな声で供述し、何とか執行猶予判決を得ました。 ○この事件は弁護士20年目位の時のことで、その後10年の経過で難聴は徐々に進行して、ここ2,3年それ程小さい声ではない被疑者・被告人でも接見室での遣り取りが苦痛になってきました。 以上:1,116文字
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