平成19年 4月29日(日):初稿 |
○ある事業倒産事件をモデルにしたフィクションを続けます。 昭和○年12月19日午前6時、予定通り苫室港第1岸壁に入港したイカ釣り漁船第二B丸は、D執行官によって積載冷凍イカ全部差押処分がなされ、その執行のため乗組員15名と屈強なヤクザ10名によって必死の水揚げ作業が始まりました。 ○D執行官は、執行に先立ち鮮魚等水産品卸販売業者のE水産株式会社に連絡を取り、冷凍イカの評価と買受を打診し、E水産社員を同行していました。水揚げされた冷凍イカはD執行官の指示によりE水産が準備したトラックに次々に積み込まれ、E水産指定倉庫に搬入されました。 ○乗組員15名とヤクザ10名の必死の運搬作業により、普通は丸2日以上でかかる水揚げ作業が、19日の午後8時頃までにはほぼ終了しました。その間執行官は夕方6時頃までにE水産との間でキロ当たり単価と冷凍イカ全部の総量を推測して売却代金を3000万円と決めました。 ○しかし3000万円と決めた時点では水揚げが完全に終了していなかったため、執行官は手続上売却金額は3000万円と決め調書にもそのように記載するが、水揚げが完全に終了した時点で冷凍イカ全部の実際総量が推測総量を下回っていた場合、A社とE水産の間で清算するようにA社専務とS事務員に指示し、A社専務は口頭で同意しましたが、これが後に紛糾する原因の一つとなりました。 ○A社専務はD執行官がE水産と取り決めた売却代金3000万円が安すぎると不満に思っていましたが、兎に角、他の債権者に知られる前に迅速に売却を終え、売却代金を取得する必要があったため、不承不承執行官の指示に従うことを表明しました。 ○その結果、19日午後6時には手続上は代金3000万円でのE水産への競売が決定され、代金3000万円は、翌20日午前中にE水産が3000万円の小切手でD執行官に支払い、20日午後1時にS事務員が苫室地方裁判所執行官室でその小切手をD執行官から受領する段取りが決まりました。 ○19日の水揚げ作業中、S事務員はヤクザが手配した自動車の中でヤクザの親分と共に水揚げ作業を見守りましたが、そのヤクザ親分は、S事務員に対し、この作業がうまく行かず、自分たちに約束の金が入らなかったらお前のボスに落とし前をつけて貰うと凄まれ震え上がりました。 ○19日午後8時頃、水揚げ作業が完了した後、S事務員はA社専務と引き離され、ヤクザの親分とホテルの同じ部屋に宿泊し、周りの部屋は子分のヤクザ達が宿泊して、いわば人質として監禁状態となってしまいました。 以上:1,046文字
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