平成18年10月28日(土):初稿 |
○「刑事弁護活動が違法として慰謝料が認められた例2」で「弁護士は依頼者の言い分を十分に聞くことは大変重要ですが、決して鵜呑みにしてはならないことが鉄則で、紛争と言う火に水をかけるのが弁護士の仕事である」と述べました。 ○人間は、程度の差はあれ、「自己に甘く他に厳しく」結局自分が一番大事なのが一般で、且つ思いこみが強く、一旦思いこむとその思いこみから抜け出すことがなかなか難しくなるのも人間です。この人間が紛争の真っ直中にはいると、視野が狭くなるため、ますます「自己に甘く他に厳しく」なり、且つ思いこみも堅固になります。 ○弁護士は、上記人間の特質を良く自覚して、紛争の真っ直中で、視野狭窄、思いこみ堅固になられた依頼者の方に対し、冷静に判断できる第三者として、実は物事には色々な見方があり、依頼者の方が視野狭窄と思いこみの罠に落ち或いは落ちる可能性があることを少しでも自覚して頂く機会を提供することが重要です。 ○依頼者の言い分を決して鵜呑みにしてはならないと述べた意味は上記のような意味であり、決して、依頼者の言い分を信じてはいけないと言う意味ではありません。専門家として依頼者とは一歩離れた位置から依頼者の置かれた状況を考慮して、第三者の眼で見る必要もあります。 ○「刑事弁護活動が違法として慰謝料が認められた例1,2」で紹介したC弁護士は、依頼者Bと一緒になって思いこみの罠に陥ったまま弁護活動を継続し、却って紛争の火を大きくさせてしまいました。 ○刑事弁護活動において被害者との示談交渉は、状況をよく考え、慎重に行う必要があります。特に被害犯罪が強姦や強制わいせつ等被害者が被害にあったことを知られたくない事案ではより一層の慎重さが必要になります。事実を知らないAの両親に知らせることを伝えたり裁判が公開であることを理由に告訴の取下や示談を迫る等の押し付けは却って相手を頑なにさせるだけで逆効果です。 ○C弁護士の「思いこみ」としてはAに対し、告訴を取下げて穏便におさめないと、両親に知られる事態にも成り、又裁判は公開だからこの事件が他人の目にも触れ、Aは却って厳しい立場になるとのことでAの立場を考慮しての弁護活動をしていたものと思われます。 ○しかし結果としてAの一層の怒りを買い、普通は考えられない弁護士まで含めて民事の損害賠償請求の訴えを出されてしまったもので、「思いこみ」の怖さを実感した次第です。 以上:994文字
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