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刑事事件の基本方針-「事実は一つ」

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平成17年11月 2日(水):初稿
○私は刑事事件は余り取り扱っておらず、得意とは言えませんが、一つだけ変わらぬ基本方針があります。それは「事実は一つ」と言うことです。

○逮捕された被疑者(容疑者)に接見に行ったとき、被疑者から被擬事実(犯罪の疑いの内容)について否認するか認めるか迷っておりどうしたらよいかと相談を受けることがあります。その時のアドバイスは、「事実は一つ、神と貴方だけが知っている。」、「やってないならやってないと徹底して争うべし、やったならやったと速やかに認めるべき」です。

○被疑者の中には、「警察はこれしか証拠を掴んでいない、これで有罪になるでしょうか或いは認めた場合どのくらいの刑になるでしょうか。それによって認めるか、否認を通すか考えます。」と露骨に質問してくる方も居ます。

○この場合、私は「順序が逆だ。やったかやってないかの事実は一つしかない。その事実は貴方が一番良く知っている。証拠云々、裁判結果云々より、先ず、やったかやってないかハッキリさせるべき。」と厳しくアドバイスします。そして「本当はやっているが、証拠が足りないから無罪を主張すると言うのであれば、私は弁護人になれません。」とハッキリ伝えます。

○20年近く前の話しですが、仙台の企業家が東京の暴力団組織に誘拐され、多額の現金を喝取されて解放された後に誘拐犯の主犯格Aが逮捕され、たまたま私がAの弁護人を依頼されたことがあります。最初の接見時にAは私に対し、一緒に逮捕された子分格のBに「○○の時、被害者には▽▽しかしていない」と供述するように伝えて欲しいと要請してきました。

○これは明らかに口裏合わせ工作であり、罪証隠滅行為です。私は「弁護士は罪証隠滅行為のメッセンジャーではない。そんなことは絶対に出来ない。」と厳しく断りました。東京の暴力団員であるAは「東京の弁護士先生方はやってくれますよ。」と言いながらも私の厳しい態度に最終的には要求を撤回して私に弁護人を続けて欲しいと願ってくれました。

○この私の姿勢は「事実は一つ」の信念にあります。弁護人は事実を曲げてまでも弁護活動をすべきではなく、事実を曲げる行動は極力避けるべきとの考えです。刑事訴訟法の建前は審判の対象は「事実」ではなく、検察官の「主張」です。この建前論と「事実は一つ」の考えが相容れないと感じることもあります。しかし、被疑者本人は事実を知っており、「事実は一つ」であることを自覚して頂けるような弁護活動を続けたいと思っております。
以上:1,017文字

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