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婚姻破綻と誤信に過失を認めて不貞行為第三者慰謝料支払を命じた地裁判決紹介

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令和 7年 5月 1日(木):初稿
○原告男性が、被告に対し、原告元妻Cとの令和2年2月頃から始まった不貞行為を理由に慰謝料300万円の支払を求めました。被告は、不貞行為時、原告と元妻Cの婚姻関係は破綻していたとして争いました。

○これに対し、不貞行為時点において、原告と原告の元妻との間の婚姻関係が破綻していたとは言えず、婚姻関係が破綻していると誤信したことについて被告には過失があるとして金100万円の慰謝料支払を命じた令和6年1月17日東京地裁判決(LEX/DB)全文を紹介します。

○判決は、令和3年4月頃には、Cの原告の子の妊娠により原告とCが実際に性交渉を持っていたことが明らかになったことを考慮すれば被告としては、遅くとも令和3年4月の時点では、原告とCの婚姻関係が破綻していない可能性に気づくべき状況にあったとして、原告とCの婚姻関係が破綻していないと誤信したことにつき、過失があるとしています。

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主   文
1 被告は、原告に対し、100万円及びこれに対する令和4年10月21日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを3分し、その2を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

 被告は、原告に対し、300万円及びこれに対する令和4年10月21日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は、原告が、被告が原告の元妻と不貞行為に及び、これにより原告と元妻の婚姻関係が破綻したとして、民法709条に基づき、慰謝料300万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和4年10月21日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

1 前提事実(当事者間に争いがないか、掲記の証拠又は弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)原告とC(以下「C」という。)は、平成30年○月○日、長男をもうけた。原告とCは、平成31年1月11日に婚姻し、原告は、同日、Cの子1名と養子縁組をした。(甲1)
(2)被告とCは、遅くとも令和2年2月頃までに、Cの勤務先のスナック(ガールズバー)で知合い、同月末頃から交際を始め,不貞行為に及んだ(弁論の全趣旨)。
(3)原告とCは、令和3年11月20日に離婚した(甲1)。 

2 争点及び当事者の主張
(1)婚姻関係の破綻の有無(争点1)
(被告の主張)
 被告は、Cから、原告からDVやモラルハラスメントを受けている、原告が拒否していることや経済上の理由から離婚できず、生活費のためにやむなくガールズバーで働いていると言われ、原告が作成した今後暴力を加えない旨の記載のある念書を見せられた。また、原告は、Cに対して性行為を強要したほか、Cや子に暴行を加えるなどしており、被告も、Cの電話越しに、原告がCや子に怒鳴る声や物を破壊する音を聞いたことがあった。さらに、原告は、Cの外泊やガールズバーでの勤務を容認していた。これらの事情からすれば、被告とCが不貞行為に及んだ時点で、原告とCの婚姻関係は破綻していたといえる。
(原告の主張)
 原告は、Cに暴行を加えたことはあるが、一方的なものではなかったし、Cと口論をしたり、感情的になって距離を置く発言をすることはあったが、いずれも一般的な夫婦にある程度の諍いであった。原告とCやその子は、令和2年2月以降も家族で外出するなどしており、被告とCが不貞行為に及んだ時点で婚姻関係は破綻していなかった。

(2)被告の過失の有無(争点2)
(原告の主張)
 上記(1)(原告の主張)のとおり、原告とCの婚姻関係は破綻しておらず、被告は、一方当事者であるCの話だけを聞いて、婚姻関係が破綻したと判断したものであるから、被告には少なくとも過失がある。
(被告の主張)
 上記(1)(被告の主張)のとおり、被告は、Cから婚姻関係が破綻していると聞いていたし、原告と直接話をした際、原告もその事実を否定しなかった。よって、仮に、不貞行為の時点で原告とCの婚姻関係が破綻していなかったとしても、被告がそのような誤信して不貞行為に及んだことに過失はない。

(3)損害(争点3)
(原告の主張)
 原告は、被告とCの不貞行為により、C及び子らとの家庭生活を破壊された。被告が、原告からの度重なる制止にもかかわらず主導的に不貞行為を継続していたことも考慮すれば、原告の精神的苦痛に対する慰謝料は300万円を下らない。
(被告の主張)
 争う。

第3 当裁判所の判断
1 認定事実

 前記前提事実、掲記の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(1)Cは、被告と知り合った当初、被告に対し、Cはシングルマザーであり、子が2名いると伝えていた。Cは、同月末頃から被告と交際を始めて不貞行為に及んだ。Cは、その頃、被告に対し、実は既婚者であるが夫(原告)からDVを受けており離婚を考えている、そのためにスナックで働いていると述べたことから、Cに好意を持っていた被告は、離婚について協力すると述べた。ただし、原告とCは、その時点で離婚について協議したことはなかった。(前提事実(1)、甲8、乙8、証人C、原告本人、被告本人)

(2)
ア 原告は、令和2年3月中旬頃、被告とCが食事をしているところを見かけ、両者の関係を問い詰めたが、被告及びCは交際を否定した。その後、Cは、原告に対し、被告とはもう会わないと述べたが、被告及びCは、それ以降も交際を継続した。(争いのない事実、甲8、証人C)

イ Cは、その後も、原告を含む家族で遊びに出かけるなどしており、原告と性交渉を持つこともあった(甲7【枝番含む】、原告本人、被告本人)。

(3)
ア 原告は、令和3年2月頃、被告とCの交際が続いていることを知って被告と連絡を取るようになり、同年3月5日には被告と直接会って話をし、Cと性交渉があり、一緒に風呂に入ることもあった、Cとの関係の再構築をしたいと考えているなどと述べた。また、その頃、Cの妊娠が発覚し、被告は、同年4月頃にCから妊娠したことや、その父親は原告である可能性が高い旨の報告を受けた。(甲9、乙2,3、原告本人、被告本人)

イ 被告とCはその後も交際を続け、Cは、被告に対し、令和3年8月29日、原告が子に本を投げつけて泣かせた旨、同年9月3日、原告から同意のない性交をされた旨のメッセージを送信した(弁論の全趣旨、乙6、7)。

(4)被告は、Cとの交際中、Cから、原告がCに対する暴力について謝罪する旨の記載がある書面の画像を見せられたり、Cの電話越しに、原告の怒鳴り声等を聞いたりしたことがあった。被告は、Cに対し、警察や弁護士に相談したほうがよいとアドバイスしたが、C自身が警察等に相談することはなかった。また、被告は、Cに対し、原告と離婚しないのであれば不倫になってしまうので別れるなどと述べたことがあった。(甲8、9、乙2、6、証人C、原告本人、被告本人)

(5)
ア Cは、令和3年6月頃、原告に対し、離婚したいというようになった。その後、原告とCとの間で離婚協議がされ、原告とCは、同年11月に離婚した。(前提事実(3)、甲9、証人C、原告本人)
イ 原告とCは、原告とCが離婚した頃、交際を終了した(甲8、証人C)。

2 争点1(婚姻関係の破綻の有無)について
(1)前提事実(1)、認定事実(1)、(3)ア、イ、(5)アによれば、原告とCは、令和3年9月頃までは本格的な離婚協議を行ったことはなく、性交渉を持ち、家族で遊びに出かけるなどの交流も持っていたと認められる。よって、被告とCが不貞行為に及んだ令和2年2月末頃の時点において、原告とCとの間の婚姻関係が破綻していたとはいえない。

(2)被告は、原告がCやその子に暴行を加えていたことや、Cの外泊やスナックでの夜間勤務を容認していたことから、原告とCの婚姻関係が破綻していた旨主張する。しかし、原告のCへの暴行は口論の際にお互いに手が出たという程度のものであり、C自身、離婚の理由は被告との結婚を考えていたからであった旨述べ、原告の行為が直接の原因であるとは述べていない(証人C)。また、Cの夜間勤務についても、原告は、勤務先が友人の経営する店であることから勤務を容認していたもので(原告本人)、Cの行動を制限なく容認していたものでもない。よって、被告の主張は採用できない。

3 争点2(被告の過失の有無)について
 認定事実(1)、(3)イ、(4)によれば、被告は、Cから、原告からDVを受けており原告との離婚を考えている旨を聞き、その根拠となるような原告作成の書面を見せられたり、電話越しの怒鳴り声を聞いたこともあったのであり、少なくとも不貞行為に及んだ当初は、原告とCの婚姻関係が破綻しているものと誤信していたものといえるし、その判断に全く根拠がなかったというものでもない。

 しかし、原告による暴行は、原告とCとの関係が良好ではないことの根拠にはなっても、婚姻関係の破綻を直接推認させる事情であるとはいえないし、Cが、DV等を理由に原告と離婚したいと述べ、被告がある程度具体的なアドバイスをしていたにもかかわらず、警察や弁護士に相談することもなく、具体的な離婚協議が進展している様子がみられなかったことや、原告と被告が令和3年3月5日に直接話をした際、原告がCと性交渉を持ち、一緒に風呂に入ることもあり、Cとの関係を再構築したい旨の発言をしていたこと、同年4月頃には、Cの妊娠により原告とCが実際に性交渉を持っていたことが明らかになったことも考慮すれば、被告としては、遅くとも令和3年4月の時点では、原告とCの婚姻関係が破綻していない可能性に気づくべき状況にあったといえる。よって、被告には、少なくとも同時点においては、原告とCの婚姻関係が破綻していないと誤信したことにつき、過失がある。

4 争点3(損害)について
 認定事実(2)、(3)イのとおり、被告及びCは、当初は交際を否定し、その後、令和3年2月頃に関係が継続していることが発覚した後も関係を継続しており、不貞期間は2年以上に及ぶし、原告とCは最終的に離婚にまで至っている。他方で、原告とCとの婚姻関係は、被告とCが不貞行為に及ぶ前の時点で必ずしも良好であったとはいえないし、Cが被告に原告と離婚したいなどと話していたこと、被告が、Cに対し、原告と離婚しないのであれば関係を続けていくことはできないと述べるなど、原告との婚姻関係と不貞関係を同時に続けることは相当でないと述べていたこと(認定事実(4))からすれば,不貞行為の開始や継続を主導したのは、被告ではなくCだというべきである。これに加え、上記3のとおり、被告とCが不貞行為を開始してから一定の期間については、被告が原告とCとの婚姻関係が破綻していると誤信したことにそれなりの根拠があるといえること、そのほか、本件における一切の事情を考慮すれば、被告の原告に対する慰謝料の額は100万円とするのが相当である。

第4 結論
 以上によれば、原告の請求は主文の限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第7部
裁判官 工藤明日香
以上:4,670文字

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