令和 7年 4月 8日(火):初稿 |
○原告夫が、被告に対し、遅くても令和3年6月までに、原告の妻である補助参加人を被告賃借マンションに住まわせ、被告自身も宿泊して被告と継続的に不貞行為して精神的苦痛を与えたとして、不法行為に基づき、慰謝料500万円等及び遅延損害金の支払を求めました。 ○被告は、被告補助参加人(原告妻)と、被告が参加人の住居として賃借した本件マンションに宿泊した事実は認めても不貞行為はなく、また原告と補助参加人は平成30年11月から別居状態で、被告が補助参加人と知り合った令和2年3月時点で婚姻破綻が明らかであったと主張しました。 ○これに対し、原告の妻である補助参加人を被告賃借マンションに住まわせ、被告自身も宿泊する行為は、原告と参加人の婚姻共同生活の平和を侵害し得るものとして、不貞行為に当たるとしながら、原告と参加人は、令和3年6月の宿泊までに、別居状態となってから2年以上が経過し、その間、原告と補助参加人との間には婚姻費用分担請求・夫婦関係調整申立事件等が係属し、子の監護をめぐって引き続き係争状態にあったから、婚姻関係が破綻していたなどとして、請求を棄却した令和5年12月8日東京地裁判決(LEX/DB)を紹介します。 ○不貞行為慰謝料請求について婚姻破綻を理由に請求棄却を求める例は多数ありますが、婚姻破綻が認められる要件は大変厳しくなかなか認められませんが、本件は不貞行為時点から2年以上前に別居状態となっており婚姻破綻は明らかな事案でした。不貞配偶者が補助参加人として裁判に参加するのも珍しい事案です。 ******************************************** 主 文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 被告は、原告に対し、550万円及びこれに対する令和3年6月7日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は、原告が、被告に対し、原告の妻と被告との不貞行為により精神的苦痛を被ったとして、不法行為に基づき、慰謝料等550万円及びこれに対する不法行為の日である令和3年6月7日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実(証拠等を記載しない事実は当事者間に争いがない。) (1)原告(昭和52年生)は、平成25年12月、被告補助参加人(昭和55年生。以下「参加人」という。)と婚姻し、長男D(平成27年○月生。以下「長男」という。)をもうけた。(甲1) 参加人は、平成30年11月2日、長男を連れて自宅を出て行き、原告と別居した。 (2)被告(昭和50年生)は、東京都内にある会社の代表取締役を務める男性であり、配偶者及び子がいる。(甲2) (3)被告は、令和3年6月7日、被告が参加人の住居として賃借したマンション(以下「本件マンション」という。)に、参加人と宿泊した。 3 争点 (1)被告と参加人の不貞行為の有無 (2)(1)の当時、原告と参加人の婚姻関係が破綻していたか (3)原告の損害額 4 争点に関する当事者の主張 (1)争点(1)(不貞行為の有無)について (原告の主張) 被告は、遅くとも令和3年6月7日までに、被告が賃借した本件マンションに参加人と長男を住まわせ、被告自身も本件マンションに宿泊するなどして、参加人との間で継続的な不貞関係にあった(以下「本件不貞関係」という。)。 (被告の主張) 被告は、社会貢献活動の一環として、シングルマザーや子どもに対する支援を行っており、令和2年3月頃、参加人から連絡を受けて、日用品等の支援を行うようになった。被告は、その後、参加人が当時居住していたアパートからの転居を余儀なくされ苦慮していたことから、本件マンションを賃借して参加人を居住させ、家賃については参加人から月額6万円の支払を受け、被告が差額を負担する形で、参加人を援助している。被告は、参加人の引越しを手伝った際に、時間が遅くなり、結果的に本件マンションに宿泊したことはあったが、不貞行為などない。 (参加人の主張) 参加人は、令和2年3月頃、シングルマザーや子どもに対する支援を行っていた被告と知り合い、以降、被告から、日用品等の支援を受けたり、本件マンションを賃借して家賃の一部を援助してもらったり、長男の遊び相手や習い事の送迎等の手助けをしてもらったりしているが、不貞関係にはない。 (2)争点(2)(婚姻関係破綻の有無)について (被告の主張) 原告と参加人は、平成30年11月から別居状態にあり、被告が参加人の引越しを手伝っていた令和3年6月の時点では別居から2年半以上が経過し、その間、原告と参加人との間では弁護士が関与して離婚に向けた協議、調停等も行われていた。原告と参加人との婚姻関係は、被告が参加人と知り合った令和2年3月頃の時点で破綻していたことが明らかである。 (被告補助参加人の主張) 参加人が長男と共に自宅を出たのは、原告の参加人に対する精神的・経済的DVに加え、長男に対する暴言や暴力により、長男が原告を嫌悪するようになったためである。原告と参加人の婚姻関係は、平成30年11月2日の別居の時点で、既に破綻していた。 (原告の主張) 原告と参加人の間に、参加人が主張するような問題は存在せず、別居直前まで、婚姻関係に問題はなかった。原告は、別居については参加人の精神疾患が多分に影響しているものと考え、別居後も、参加人に対し、粘り強く翻意を求め、翻意を期待していたのであり,婚姻関係が破綻していたなどとは到底いえない。 (3)争点(3)(損害額)について (原告の主張) 原告は、本件不貞関係及び当該関係に長男も巻き込まれていることを知り、極めて大きな衝撃を受けた。被告は、「シングルマザーと子どもに対する支援を行う企業経営者」との触れ込みで既婚女性に接近し、住居を与えた上で不貞行為に及んでおり、被告の行為は計画的かつ悪質である。原告が本件不貞関係によって被った損害は、本件訴訟提起のために必要な弁護士費用10%を含め、550万円を下らない。 (被告の主張) 争う。 第3 争点に対する判断 1 認定事実 前提事実に加え、後掲各証拠(証拠について枝番を全て挙げる場合には枝番の記載を省略する。)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 (1)原告と参加人の関係 ア 原告は、平成30年11月2日に参加人が別居した後、同年中に、夫婦関係調整(円満調整)調停を申し立てた。(甲5) 参加人は、平成31年3月、夫婦関係調整(離婚)調停及び婚姻費用分担調停を申し立てた。(丙3、5) 原告は、令和元年6月、長男について、子の監護者指定及び引渡し審判を申し立てた。(甲9) (以下、原告と参加人間に係属したこれらの事件を併せて「本件各事件」という。) イ 婚姻費用分担調停は、令和2年10月27日、不成立となり審判に移行し、夫婦関係調整(離婚)調停及び同(円満調整)調停もそれぞれ不成立となった。婚姻費用分担事件については、令和3年1月20日に審判がされ、同年5月31日に原告の抗告が棄却されて確定した。(丙4から6) 子の監護者指定・引渡し審判については、調停に付されたものの、令和3年9月28日に調停不成立となり、令和4年8月31日、長男の監護者を参加人と定める旨の審判がされた。(甲9) (2)被告と参加人の関係 ア 被告は、令和2年3月頃、参加人と知合い、参加人に対し、日用品や食料品を贈るなどの支援をしていた。(丙2、被告本人) イ 参加人は、当時居住していたアパートの取壊しに伴い転居しなければならなくなり、被告は、同年10月、参加人の転居先として、被告名義で本件マンションを賃借した。(丙2、被告本人) ウ 参加人は、同年11月、上記アパートを退去して一旦実家へ戻り、令和3年7月24日までに、本件マンションへ荷物を運び込み、長男と共に本件マンションに入居した。(丙2) エ 被告は、参加人が忙しい時期に長男を遊びに連れて行くなど、長男とも関わりがあり、参加人と長男が本件マンションに入居してからも、複数回にわたり本件マンションに宿泊した。(丙2、被告本人) (3)本件訴訟に至る経緯等 ア 原告は、令和3年3月、知人を通じて、被告が参加人と共に長男の卒園式に参列していたことを知り、その後、同知人に調査を依頼して、被告が同年6月7日に本件マンションに宿泊したことを知った。(甲3、原告本人) イ 原告は、令和4年1月17日、本件訴えを提起した。 ウ 被告は、同年4月26日、本件マンションにおいて、参加人に対する訴訟告知書を「同居者」として受領した。 2 争点(1)(不貞行為の有無)について (1)被告は、令和3年6月7日、参加人と本件マンションに宿泊したことが認められ、かかる行為は、原告と参加人の婚姻共同生活の平和を侵害し得るものとして、不貞行為に当たり得るものであると認められる。 (2)これに対し、被告本人は、社会貢献活動の一環として参加人を支援していたに過ぎず、不貞行為はない旨を供述するが、被告が参加人以外の女性に対してもかかる支援を行っていることを示す的確な証拠はなく、被告が本件マンションに継続的に滞在していることが窺われること(認定事実(2)エ、(3)ウ)に照らしても、被告本人の上記供述は採用できない。 (3)なお、原告は、参加人と被告が令和3年6月以前から不貞関係にあった旨を主張するが、上記時期以前に不貞行為があったことを認めるに足りる証拠はない。 3 争点(2)(婚姻関係破綻の有無)について (1)前提事実(1)及び認定事実(1)によれば、原告と参加人は、令和3年6月までに、別居状態となってから2年以上が経過し、しかも、その間、同人らの間には本件各事件が係属し、令和3年6月の時点でも、子の監護をめぐって引き続き係争状態にあったものと認められる。 かかる状況に照らせば、原告と参加人との婚姻関係は、被告が本件マンションに宿泊したことが認められる令和3年6月以前に、破綻していたと認めるのが相当である。 (2)なお、原告は、別居直後において、夫婦関係調整(円満調整)調停を申し立て、参加人と連絡を取るなどして(甲11)、婚姻継続の意思を有していたことが窺えるものの、参加人は自ら別居して平成31年1月以降は原告との連絡にも応じず(甲11)、夫婦関係調整(離婚)調停を申し立てて婚姻解消に向けて行動していたこと、その後原告から監護者指定・引渡し審判を申し立てるに至り、令和2年10月までに円満調整を含めて調停不成立となっていたことからすれば、仮に原告が参加人と被告との関係が発覚するまでは婚姻継続の意思を持ち続けていたとしても、そのことをもって婚姻関係が修復可能であったとは認め難い。 その他、原告は、婚姻関係が破綻していなかったことを示す事情として、参加人の精神疾患の影響を主張するが、上記判断を左右するものとは解されない。 4 よって、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がない。 第4 結論 よって、原告の請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第37部 裁判官 中井彩子 以上:4,601文字
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