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令和 6年10月29日(火):初稿 |
○女性が性交渉には同意したが、性交渉の際、避妊をすること求めたのにこれを拒んだことについて、「女性の性的な自己決定権の侵害」を理由に慰謝料150万円の支払を求めて提訴し、慰謝料60万円の支払を認めた令和6年7月19日大阪地裁判決(LEX/DB)全文を紹介します。以下の「同意の上の性交で避妊を拒んだ男性に賠償命令「自己決定権の侵害」」との朝日新聞報道で知りました。 ○避妊具を付けることを要求してこれを拒否したなら、性交渉に応じなければ良いだけで、性交渉に応じたと言うことは、避妊具を付けないでの性交渉に同意したとの評価も可能です。しかし、この判決は、「女性が性交渉自体に同意をしているとしても、男性が女性側から避妊を求められながらこれに応じずに性交渉を続行することは、女性の性的な自己決定権を侵害し、違法との評価を免れない」、「被告は、原告が被告への好意から強く抵抗しないことを逆手にとり、自己の性的欲望を満足させるためにあえて避妊行為を行わなかったと考えるのが相当」として、慰謝料60万円を認めました。 ○原告は代理人弁護士をつけていますが、被告は本人訴訟で、裁判所での対応も裁判官には極めて不誠実と評価されたようです。惚れた弱みにつけ込んで自己の性的欲望を満足させる行為についてキツいお灸を据えました。 ********************************************* 同意の上の性交で避妊を拒んだ男性に賠償命令「自己決定権の侵害」 朝日新聞7/19(金) 20:04配信 性交渉には同意したが、避妊するよう求めたら拒まれた――。女性がこう訴えて173万円の賠償を求めた裁判で、大阪地裁(仲井葉月裁判官)は19日、「女性の性的な自己決定権の侵害だ」と認め、男性に74万円の賠償を命じた。女性の権利に詳しい弁護士らは「画期的な判決」と評価している。 判決によると、女性は2020~21年、男性と2度ホテルで性的関係をもった。いずれも備えてあった避妊具を男性につけるよう求めたが、男性は応じず妊娠に至った。子の認知を求めると、「自分は既婚者だ」として認知を拒まれたという。 仲井裁判官は「妊娠した場合の身体的・精神的負担は大きく、女性のみに生じる」と指摘。「女性が性交渉に同意しているとしても、男性が避妊の求めに応じず行為を続けることは、女性の性的な自己決定権を侵害する」として、不法行為に当たると判断した。 その上で男性について、「自己責任だ」などと主張して女性の気持ちを顧みず「欲望を満足させるために避妊をしなかった」と指摘し、慰謝料などの支払いを命じた。 ********************************************* 主 文 1 被告は、原告に対し、74万1417円及びうち60万円に対する令和3年12月28日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用はこれを5分し、うち3を原告の、その余を被告の負担とする。 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 被告は、原告に対し、173万1417円及びうち150万円に対する令和3年12月28日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 事案の概要 本件は、原告が、被告が独身であると偽って原告と性交渉をしたことにより原告の貞操権を侵害し、また、被告が原告との間で避妊に応じることなく性交渉を行い、その結果、原告が妊娠したにもかかわらず、既に離婚していたのに婚姻していると虚偽の事実を告げて認知を拒否し、その後も調停手続等において不誠実な対応に終始したことにより、精神的損害を受けたなどと主張し、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求権として、医療費、慰謝料及び弁護士費用の合計173万1417円及びうち150万円(慰謝料)に対する認知を拒絶した日である令和3年12月28日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 争点及びこれに対する当事者の主張 本件の争点は、〔1〕不法行為該当性、〔2〕損害の有無及び額であり、これらの争点に係る当事者の主張は以下のとおりである。 (1)争点〔1〕(不法行為該当性)について (原告の主張) ア 被告は、平成29年12月24日から令和3年10月25日までの間、婚姻していた。原告は、被告が婚姻中であると聞かされていれば、性交渉には及ばなかったが、被告は婚姻の事実を秘して令和2年頃に原告と性的関係を続け、原告の貞操権を侵害した。 また、被告は原告が避妊行為を求めたにもかかわらず、これを拒絶して性交渉を行い、原告は同年2月頃に1度目の妊娠をしたが、被告は認知を拒否した。原告は過度なストレスを加えられたことも相まって子を流産した。 イ 原告と被告は、令和3年11月20日、性交渉を行った。この際、原告は被告が避妊しないことを拒否していたにもかかわらず、被告は半ば強引に避妊行為をしないままに性交渉に持ち込んだ。その結果、原告は2度目の妊娠をした。原告が、被告に対し、認知を要求したところ、被告は、既に離婚しているにもかかわらず、結婚しており子供もいると虚偽の報告をして認知を拒否した。 ウ 原告は、令和4年○月○○日に被告との間の子を出産し、同年9月16日に認知調停手続を申し立てたが、被告は期日に無断で欠席した。また、被告は、原告との間で、本件訴訟において、別訴の認知請求事件も含めた全体紛争解決のための和解協議を行っていたが、期日に持参すると約束した解決金の頭金を、期日の前日又は当日になって持参できないと反故にすることを繰り返し、無用な引き延ばしを行った。被告のこのような不誠実な訴訟対応により、認知請求事件の判断も遅れることとなった。 エ 男女の性行為の結果、直接的に身体的及び精神的苦痛を受け、経済的負担を負う女性は、胎児の父である男性から、それらの不利益を軽減し、解消するための行為の提供を受け、あるいは、女性と等しく不利益を分担する行為の提供を受ける法的利益を有し、この利益は、女性が男性に対して有する法律上保護される利益というべきである。 しかるに、被告は、前記アないしウのとおり、不誠実な対応に終始し、女性に生じる不利益を軽減し、解消するための行為をせず、あるいは、女性と等しく不利益を分担することをせず、原告の法律上保護される利益を違法に侵害した。被告の一連の言動は、違法性を有する程度に悪質である。 (被告の主張) 被告は原告からLINEで誘われて2度会うことになった。原告は,1回目に会ったときに、被告の子が欲しいと要求し、被告が妊娠はいいけれど一切の責任はとらないし結婚もしないけどいいかと聞くと、原告がそれでもいいと言うので、性交渉を行った。 2回目も、1回目同様、原告からLINEでコンタクトがあり、会うことになった。この際も、原告から、どうしても被告の子が欲しいと要求され、被告が妊娠はいいけど一切の責任はとらないし結婚もしないけどいいかと聞くと、原告がそれでもいいと言うので性交渉を行った。 いずれも原告から近付いてきたもので、原告の自己責任であるから、被告に責任はない。 (2)争点〔2〕(損害の有無及び額)について (原告の主張) ア 流産の手術費用 8万1417円 原告が1度目の妊娠の際に支出した流産手術費用は8万1417円である。この流産手術費用は、経済的な損害の公平な分担として、被告において負担すべきである。 イ 慰謝料 150万円 被告の一連の言動により原告が受けた精神的苦痛を慰謝するに足りる金額は、150万円を下らない。 ウ 弁護士費用 15万円 被告が何ら応答しないため、原告は、弁護士に委任して本件訴訟を提起せざるを得なくなったものであり、被告の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は15万円が相当である。 (被告の主張) いずれも争う。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実 当事者間に争いのない事実、後掲の証拠(枝番を含む。)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 (1)当事者等 ア 原告は、平成7年○月生まれの女性である。 イ 被告は、平成7年○月生まれの男性であり、平成29年12月24日に訴外女性と婚姻し、令和3年10月25日に離婚した。 ウ 原告と被告は、中学2年生の時に同級生として知合い、高校1年生の時に1か月程交際していたことがある。 (上記アからウまでにつき、甲5、8、13、原告本人) (2)1度目の妊娠に至る経緯 ア 原告と被告は、高校卒業後、しばらく会うことがなかった。原告は、令和2年頃、被告に対し、フェイスブックでメッセージを送り、その後はLINEでやりとりをするようになった。 イ 原告と被告は、令和2年2月頃、食事に行き、その後ラブホテルで性交渉を行った。この際、原告は被告に対し、備え付けの避妊具により避妊するように頼んだが、被告はこれを無視して避妊行為を行わなかった。なお、再会した際、被告は原告に対し、自分は独身であると告げており、原告は被告が独身であると信じていた。 ウ 原告は、上記イの性交渉の結果妊娠し、被告に対して認知を求めたが、被告は認知を拒否した。その後原告は流産し、その手術費用等に8万1417円を支出した。 (上記アからウまでにつき、甲6、13、乙1、原告本人、弁論の全趣旨) (3)2度目の妊娠に至る経緯 ア 原告は、令和3年9月9日、被告に対してLINEでメッセージを送り、被告から「近々あう?」と問われて「会いたいかも!」と応じた。原告と被告は、同年11月20日に会い、ラブホテルに行き性交渉を行った。この際、原告は、被告に対し、避妊するように頼んだが、被告はこれを無視して避妊行為を行わなかった。 イ 原告は、上記アの性交渉の結果、2度目の妊娠をし、令和3年12月15日に産婦人科で診断を受けた。 ウ 原告は、令和3年12月28日、被告に対し、LINEで「今日産婦人科行ったら妊娠してた」、「認知はしてくれる?」とメッセージを送ったところ、被告は、既に離婚していたにもかかわらず、「俺、結婚してるから認知は難しそう!!」と返答した。原告は、被告に対し、「妻子居るの知らなかったから強制認知と慰謝料と養育費を請求しようと思ってる」などと伝えた。 (上記アからウまでにつき、甲1、2、5、原告本人) (4)その後の経緯 ア 原告は、代理人弁護士に依頼し、被告に対し、胎児の認知を求めると共に養育費及び慰謝料を請求する内容の令和4年3月7日付け「御通知」を送付し、上記通知は同月8日に被告に到達したが、被告はこれに応答しなかった。 イ 原告は、令和4年○月○○日、長女C(以下「C」という。)を出産した。 ウ 原告は、Cの法定代理人として、令和4年9月16日、被告を相手方に認知調停手続を申し立てたが、被告はこれに無断で欠席した。その後の認知請求事件(大阪家庭裁判所令和5年(家ホ)第119号)において、DNA鑑定が行われ、令和5年7月18日、被告とCとの間には、生物学的な父子関係が存在すると極めて強く推定できる旨の鑑定結果が出された(総合父権肯定確率99.999993%)。 (上記アからウまでにつき、甲3、8、12、原告本人) 2 争点〔1〕(不法行為該当性)について (1)原告は、独身であるとの被告の虚偽の言葉を信じて、性交渉を持ったものであり、独身であるか否かは、性交渉に応じるか否かを決める要素の一つであることからすれば、被告が独身であると偽ったことは不適切かつ不誠実な行為であることは明らかであるものの、原告と被告が婚姻を前提とした交際関係にはなく、このことをもって直ちに不法行為であるとまでは評価できない。 (2)他方で、被告は、令和2年の際も、令和3年11月の際も、原告が避妊を求めたにもかかわらず、その要求を無視し、ラブホテルに備え付けの避妊具により、容易に避妊行為を行うことができたにもかかわらず、あえてこれを行わなかったものである。原告は平成7年生まれの女性であり、この当時、妊娠の可能性があったところ、妊娠した場合の身体的・精神的負担は大きく、その負担は女性のみに生じることにかんがみれば、女性が性交渉自体に同意をしているとしても、男性が女性側から避妊を求められながらこれに応じずに性交渉を続行することは、女性の性的な自己決定権を侵害し、違法との評価を免れない。 (3)被告は、原告から被告の子が欲しいと要求され、一切の責任をとらないことの了解を得ていたなどと主張するが、2度目の妊娠の際、原告が被告に対して妊娠を告げて「認知はしてくれる?」とメッセージを送ったところ、被告は、結婚しているとの虚偽の事実を告げて認知を拒んでいることからすれば、上記被告の主張は直ちに信用できないものである。かえって、妊娠告知をされた後の、原告の身体的・精神的な負担や不安感を一切顧みない被告の態度や、認知調停手続や訴訟手続等における誠意のない対応に照らすと、被告は、原告が被告への好意から強く抵抗しないことを逆手にとり、自己の性的欲望を満足させるためにあえて避妊行為を行わなかったと考えるのが相当である。 (4)以上からすれば、被告が避妊を拒絶して、1回目及び2回目の妊娠に至る性交渉を行ったことは、いずれも原告の性的な自己決定権を侵害し、不法行為に該当する。なお、その後の認知の拒絶等の対応は、それ自体を何らかの権利の侵害と評価することは困難であるものの、慰謝料の点で考慮する。 3 争点〔2〕(損害の有無及び額)について (1)流産の手術費用 8万1417円 被告が、原告の求めに応じて適切な避妊行為をしていれば、原告は1度目の妊娠をすることはなかったことからすれば、原告が1度目の妊娠の際に支出した流産手術費用8万1417円は、原告の損害として認められる。 (2)慰謝料 60万円 被告が、原告の避妊の求めを無視して、避妊行為を行うことなく性交渉をしたこと、これにより原告は2度妊娠したこと、原告が被告に妊娠を告げた後も虚偽の事実を告げて認知を拒絶し、その後も「自己責任」などと主張して一切の責任を放棄する不誠実な対応に終始していることなど、本件にあらわれた一切の事情を総合すると、原告の精神的苦痛を慰謝するに足りる金額は60万円とするのが相当である。 (3)弁護士費用 6万円 原告が本件訴訟の提起及び追行を弁護士に委任したことは当裁判所に顕著であり、認容した慰謝料の額、本件事案の内容等に鑑みれば、被告の不法行為と相当因果関係にある弁護士費用は6万円が相当と認められる。 (4)合計 74万1417円 第4 結論 よって、原告の請求は、被告に対し、74万1417円及びうち60万円(慰謝料)に対する令和3年12月28日から支払済みまで年3分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第24民事部 裁判官 仲井葉月 以上:6,172文字
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