旧TOP : ホーム > 男女問題 > 男女付合・婚約・内縁 > |
令和 6年 9月26日(木):初稿 |
○性交渉には同意したが、避妊するよう求めたら拒まれたことについて、女性が男性に対し、173万円の賠償を求めた裁判で、令和6年7月19日、大阪地裁判決が「女性の性的な自己決定権の侵害だ」として、男性に74万円の賠償を命じたとのニュースを見てこの判決全文を探していますが、まだ公刊された判決は見当たりません。 ○女性が男性に避妊具を使用することを求めるも拒否され、妊娠すると男性に中絶を要求され、妊娠した子の出産を諦めざるを得ない状況に追い込まれて筆舌しがたい精神的苦痛を負ったとして、女性が男性に対し600万円の慰謝料請求をしたところ、100万円の慰謝料支払を命じた令和4年12月13日東京地裁判決(LEX/DB)を見つけたので紹介します。 ○事案概要は、原告と被告は、週に1,2回の頻度で会い、一緒に時間を過ごすなどして関係を深め、交際開始後、数か月してから、性交渉をするようになったところ、当初、被告は、避妊具を使用して避妊をしていたが、ある時、避妊具を切らしていた際に避妊せずに性交渉をしたことをきっかけに、それ以降、原告が避妊具の使用を求めても、避妊具を使用して避妊することに応じなくなったところ、原告は、立て続けに妊娠し、1回目の妊娠は、原告が普段生理不順であったことから、妊娠したことに気付かないままに流産となり、2回目の妊娠は、病院の検査で妊娠が発覚してから2,3週間程度で流産となってしまい、その後、約2年が経過し、妊娠検査薬による検査により、原告が妊娠していることが発覚したところ、原告は、被告も妊娠を喜んでくれるものと思い、妊娠したことを告げたところ、被告は、困ったような表情をし、「少し考えさせて」と言い、少し時間が経ってから、原告に対して、中絶して欲しいと述べたため、原告は、不本意ながらも、中絶手術を受けることとなり、妊娠した子の出産を諦めざるを得ない状況に追い込まれて筆舌しがたい精神的苦痛を負ったというものです。 ○被告は,「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との請求の趣旨に対する答弁を記載した答弁書を提出した後,原告の主張に対する認否を明らかにしないことで自白したとみなされた、実質的には欠席判決に等しいところ、600万円の慰謝料請求は100万円しか認めていません。避妊しない性交を拒否すれば良いのに同意して性交に応じたことが減額の理由と思われます。 **************************************** 主 文 1 被告は,原告に対し,127万7628円及びこれに対する令和元年7月11日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用はこれを5分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。 4 この判決は,仮に執行することができる。 事 実 第1 当事者の求めた裁判 1 請求の趣旨 被告は,原告に対し,677万7628円及びこれに対する令和元年7月11日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。 2 請求の趣旨に対する答弁 (1)原告の請求を棄却する。 (2)訴訟費用は原告の負担とする。 第2 当事者の主張 1 請求原因 別紙請求の原因記載のとおり(なお,3(2)のうち,「手術代として12万9600円」以下は,「(甲5号証及び6号証),令和2年7月20日に経過観察に関する費用として3580円(甲7号証及び8号証),令和元年12月12日に経過観察に関する費用として7500円を負担している(甲9号証及び10号証)。」と訂正する。) 2 被告の認否 被告は,「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との請求の趣旨に対する答弁を記載した答弁書を提出した後,原告の主張に対する認否を明らかにしない。 理 由 1 請求原因について (1)被告は,上記第2の2のとおり,請求原因事実を争うことを明らかにしないから,これを自白したものとみなす。 よって,請求の原因1項が認められ,このことから2項にいう被告の責任原因(なお,被告の原告に対する不法行為の成立時点は,被告が原告の出産に賛成できないにもかかわらず,避妊をせず性交渉をした時点と解される。)は認められる。 (2)3項の損害のうち,1項記載の事実及び終結時に至る被告の対応等に鑑みると,慰謝料として100万円を相当と認める。 また,3項(2)及び(3)記載の損害(合計16万1480円)については,いずれも被告の不法行為と相当因果関係がある損害と認める。 弁護士費用については,訴訟経緯及び上記認容額等に鑑み,11万6148円を相当と認める。 2 以上によれば,原告の請求は主文の限度で理由があるからこれを認容することとし,その余は理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法61条及び64条を,仮執行の宣言につき同法259条1項を,それぞれ適用して,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第12部 裁判官 吉田祈代 (別紙) 請求の趣旨 1 被告は、原告に対し、677万7628円及びこれに対する令和元年7月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 との判決並びに仮執行の宣言を求める。 請求の原因 1 事実経過 (1)原告は、平成28年7月、被告と知り合い、間もなく交際を開始した。 (2)原告と被告は、週に1,2回の頻度で会い、一緒に時間を過ごすなどして関係を深め、交際開始後、数ヶ月してから、性交渉をするようになった。 (3)当初、被告は、避妊具を使用して避妊をしていたが、ある時、避妊具を切らしていた際に避妊せずに性交渉をしたことをきっかけに、それ以降、原告が避妊具の使用を求めても、避妊具を使用して避妊することに応じなくなった。 また、被告は、この頃から、将来的に原告と結婚する気がある旨の発言を発言をしていた。 (4)そうしたところ、原告は、平成29年6月と同年9月に立て続けに妊娠した。1回目の妊娠は、原告が普段生理不順であったことから、妊娠したことに気付かないままに流産となり、2回目の妊娠は、病院の検査で妊娠が発覚してから2,3週間程度で流産となってしまった。2回目の妊娠の際、原告は子を出産するつもりであったが、被告も出産に反対する意思を特に示すことはなかった。 (5)原告は、二度も立て続けに流産したこと、病院では流産しやすい体質かもしれないから気をつけるようにと言われたこと、当時、まだ26歳と若年であったこと、次に妊娠した時は絶対に出産したいと考えたことから、今後は予期しない妊娠をすることは避けて計画的に妊娠をしたいと思い、今後の性交渉では避妊具を使用することを被告に求めたが、被告はこれに応じなかった。そのため、原告が避妊をするためにピルの処方を受けることを考えて調べ物をしていると、被告は、原告に対し、「俺との子どもは欲しくないのか」と言い、次に原告が妊娠した場合、出産することを望む旨の発言をした。原告は、2回目の妊娠の際、被告が特に出産に反対する意思を示さなかったこと、被告がかねてから将来的に原告と結婚する意思がある旨の発言をしていたこと、ピルの服用は副作用の観点から避けたかったこと、次に妊娠した際は、被告も積極的に出産を希望しているものと考えたことなどから、避妊をせずに性交渉を続けることを受入れた。 (6)その後、約2年が経過し、令和元年6月23日、妊娠検査薬による検査により、原告が妊娠していることが発覚した。原告は、被告も妊娠を喜んでくれるものと思い、妊娠したことを告げたところ、被告は、困ったような表情をし、「少し考えさせて」と言った。そして、被告は、少し時間が経ってから、原告に対して、中絶して欲しいと述べた。原告が被告に対しその理由を尋ねると、クレジットカードの利用代金の支払があるから、今子どもが生まれても子どもは幸せになれない、今はそういう状況ではないとのことであった。当時、被告は、原告のクレジットカードを使用して多額の買物やキャッシングをし、毎月その代金の支払のために多額の負担をしていたことは事実であったが、そのような状態に陥っていたのは、原告が3回目の妊娠をするより前からのことであった。仮に、そのことを理由に出産を望まないのであれば、そもそも自ら避妊に応じるべきであったし、原告がピルの服用を考えている時にそれを止めるような発言をするべきではなかった。 (7)原告は、出産を望んでいたため、何とか被告を翻意させるために、出産費用の助成制度について調べたり、出産やその後の育児に関して利用できる制度を調べるなどし、被告が抱いていた経済的不安を解消するため、話し合いの機会を持とうとしたが、被告は、聞く耳を全く持たなかった。原告としては、工夫次第で子どもが生まれても生活していくことは十分に可能だと考えていたが、被告は、中絶して欲しいの一点張りで、出産が可能かどうかろくに検討せず、話し合いに応じることは全くなかった。原告は、被告が出産を望んでいない状況で、出産するという決断をすることはできず、他方で、クレジットカードの利用代金の支払の問題が将来的に解決した時には、また被告との子を妊娠し、出産する機会もあると思い、不本意ながらも、令和元年7月11日、中絶手術を受けることとなった。 (8)原告は、もともと出産するつもりでいたが、被告が予期せず出産に反対したために中絶せざるを得ない状況に追い込まれたことから、精神的に深く傷つき、強い罪悪感に苛まれた。中絶の手術そのものについても、将来二度と妊娠できない体になってしまう可能性があると医師から言われたため、とても恐怖に感じた。原告は、手術後、しばらく体調が優れず、日常生活や仕事にも大きな支障を来すことになった。 他方、被告は、原告が中絶手術をせざるを得なかったことに何の責任も感じていない様子であった。原告は、それまでの2度の流産と1度の中絶について、3人分の水子供養をしたいと思い、被告の仕事の都合に合わせて令和元年12月15日に水子供養の予約をしたことがあったが、当日になって、被告は、水子供養に行くことを拒否し、原告は一人で水子供養に赴いた。 (9)被告は、出産に反対する理由として、被告が原告名義のクレジットカードを利用して買い物やキャッシングをした代金の返済があることを挙げていたが、令和元年9月以降、それまでは引き落とし日までに返済費用を原告に渡していたにもかかわらず、返済に必要な費用に満たない金額しか渡さなくなった(足りない分は、原告が負担せざるを得なかった。)。わずか2か月前に、クレジットカードの返済を理由に中絶を求めていた被告がたった2か月後にクレジットカードの返済費用を一部しか負担しなくなったことに鑑みると、原告としては、被告にはクレジットカードの利用代金の返済義務(多額のリボ払いに係る債務があった)を完済しようという強固な意思など全くなく、原告に中絶をさせるための方便としてそのような言動をしたのではないかと考えざるを得ない。 以上のような経緯があったことから、原告と被告の関係は次第に冷めていき、令和3年3月、交際を解消するに至った。交際を解消した時点で、被告が原告名義のクレジットカードを使用したことによる支払債務はまだ残っていたが、令和3年6月以降、その返済費用も一切支払わなくなり、原告が今も毎月返済を肩代わりしている状況である。被告は、この他にも原告に対する借入金の返済をしておらず、これについても、別訴を提起する予定である。 2 不法行為の成立 (1)原告は、被告が避妊具を使用して避妊をすることに協力してくれないことから、避妊のためにピルを服用することを検討していたところ、被告が「俺との子どもはいらないのか」などと発言したことから、原告が次に妊娠したときは、被告も原告が出産することを積極的に望んでいるものと考え、避妊をせずに性交渉することを続けてきたが、いざ原告が妊娠すると、被告は、原告に中絶することを求め、原告が話合いを求めても、ろくに応じることはなかった。被告は、中絶を望む理由として、クレジットカードの利用代金の支払を挙げたが、被告がクレジットカードの利用代金の支払いのために毎月多額の支払いをしていたのは、原告が三度目の妊娠をするより前からのことであるから、全く理由にはなっておらず、仮に、そのことが中絶を求める理由であれば、そもそも避妊具を使用して避妊をするべきであったし、原告がピルの服用を検討していた際にそれを止めるような発言をするべきではなかった。 被告は、原告が出産することに反対の意思であったのであれば(少なくとも反対する可能性があると考えていたのであれば)、自ら避妊具を使用して避妊をするか、原告が妊娠したとしても出産には賛成できない意思を予め伝えた上で性交渉をするべきであったが、被告は、そうした行為に及ぶことはなく、ただ漫然と避妊をせずに性交渉を続けていたのであるから、上記被告の一連の行動は、被告の妊娠及び出産に関する自己決定権を故意又は過失により侵害するものであり、不法行為を構成するものというべきである(同旨の判示をするものとして甲1号証)。 (2)また、被告は、原告の妊娠の発覚後、クレジットカードの利用代金の支払を理由に出産に反対の意思を表明したが、そもそもクレジットカードの利用代金の支払のために毎月多額の支払いをしていたのは、原告が三度目の妊娠をするより前からのことであったし、令和元年9月にはクレジットカードの利用代金を支払うための金員に満たない金額しか負担しなくなったのであるから、クレジットカードの利用代金の支払云々という話は、原告に出産を思いとどまらせ、中絶させるための方便であったといわざる得ない。加えて,被告は、原告が被告の抱く経済的不安を解消するために、出産や育児に関して利用できる制度を調べるなどして話合いの機会を持とうとしたにもかかわらず、出産の可否についてろくに検討せず、中絶して欲しいの一点張りで、話合いに応じることもなかった。 被告は、それまで一貫して避妊に応じず、その結果として原告が妊娠するに至り、さらには中絶をせざるを得なくなったのであるから、原告が中絶をすることに伴い受ける不利益を軽減し、解消するための行為をする義務があったが、それに該当するような行動は全くしなかった。原告は、中絶をすることに伴い受ける不利益を軽減し、解消するための行為を被告から受ける法的利益を有していたというべきであるが、被告がそのような行為をしなかったことは、原告の当該法的利益を侵害するものとして、不法行為を構成するものというべきである(同旨の判示をするものとして甲2号証)。 3 損害の発生 被告の上記不法行為により、原告には次の損害が発生している。 (1)原告は、被告の不法行為により、人工妊娠中絶手術を受け、妊娠した子の出産を諦めざるを得ない状況に追い込まれて筆舌しがたい精神的苦痛を負ったが、その精神的苦痛を慰謝するには少なくとも600万円の慰謝料の支払いが必要というべきである。 (2)また、原告は、妊娠発覚後、病院を受診して人工妊娠中絶手術を受け、その後も経過観察のために病院を受診しているが、その費用は被告の不法行為により発生した損害というべきである。具体的には、令和元年7月1日に妊娠検査代として1万0800円(甲3号証及び4号証)、同月11日に手術代として12万9600円(甲5号証な及び6号証)、同月20日に経過観察に関する費用として3580円(甲7号証及び8号証)、同年12月12日に経過観察に関する費用として7500円を負担している(甲9号証及び10号証)。 (3)さらに、原告は、令和元年12月15日、水子供養のお布施代として1万円を負担しているが(甲11号証)、これも被告の不法行為と相当因果関係を有する損害である。 (4)そして、原告が本件訴訟を提起するには弁護士に委任せざるをえないというべきであるから、上記(1)ないし(3)の合計616万1480円の1割に相当する61万6148円が被告の不法行為と相当因果関係を有する弁護士費用に関する損害というべきである。 4 結語 よって、原告は、被告対して、不法行為に基づく損害賠償請求に基づき、677万7628円及びこれに対する令和元年7月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう求める。 以上 以上:6,760文字
|