令和 6年 4月18日(木):初稿 |
○債務超過の夫から離婚に伴う財産分与として夫名義不動産の譲渡を受けることは夫の債権者に対する詐害行為になりますかとの質問を受け、関連判例を調べたところ、以下の判例がありました。 ○事案は、以下の通りです。 ・被告Y1が訴外信用金庫から借入れをするに当たって、原告が被告Y1の借入金債務につき連帯保証 ・被告Y1が返済を怠り期限の利益を喪失して原告が訴外信用金庫に約931万円を代位弁済し、原告が被告Y1に対し同額の求償請求 ・被告Y1は、妻であった被告Y2に唯一の財産である本件土地を離婚に伴う財産分与をとして譲渡 ・原告は、被告Y1・Y2に対し、財産分与を詐害行為として取消し、被告Y2に対し財産分与土地の所有権移転登記抹消登記手続請求 ○これに対し、被告Y1に対する請求は認容した一方、本件財産分与が民法768条3項の規定の趣旨に反して不相当に過大であり、財産分与に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情の存在を認めることはできず、詐害行為として取消しの対象とならないとして、被告Y2に対する請求は棄却した平成23年9月30日東京地裁判決(ウエストロージャパン)関連部分を紹介します。 ○判決は「離婚に伴う財産分与は,分与者が既に債務超過の状態にあって当該財産分与によって,一般債権者に対する共同担保を減少させる結果となるとしても,それが民法768条3項の規定の趣旨に反して不相当に過大であり,財産分与に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情のない限り,詐害行為として,債権者による取消しの対象となり得ないものと解するのが相当」と財産分与と詐害行為に関する一般論を述べています。 ************************************************* 主 文 1 被告Y1は,原告に対し,931万1502円及びこれに対する平成22年3月13日から支払済みまで年14%の割合(年365日の日割計算)による金員を支払え。 2 原告の被告Y2に対する請求を棄却する。 3 訴訟費用は,原告に生じた費用の2分の1と被告Y1に生じた費用は同被告の負担とし,原告に生じたその余の費用と被告Y2に生じた費用は原告の負担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 主文第1項と同旨 2 原告と被告Y2との間で,被告Y1が,別紙物件目録記載の土地について,平成22年7月8日,被告Y2に対して行った財産分与を取り消す。 3 被告Y2は,別紙物件目録記載の土地について,東京法務局平成22年7月9日受付第11401号所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。 第2 事案の概要 本件は,被告Y1(以下「被告Y1」という。)が朝日信用金庫(以下「訴外信金」という。)から借入れをするに当たって,原告が被告Y1との間の保証委託契約に基づき被告Y1の借入金債務につき連帯保証をしたところ,被告Y1が約定の返済を怠り期限の利益を喪失したことから,原告が訴外金庫に対し合計931万1502円を代位弁済したとして,原告が被告Y1に対し,931万1502円及びこれに対する代位弁済の日の翌日である平成22年3月13日から支払済みまで約定の年14%の割合(年365日の日割計算)による遅延損害金の支払を求めるとともに,被告Y1の妻であった被告Y2(以下「被告Y2」という。)が,被告Y1から,被告Y1の唯一の財産である別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)について,平成22年7月8日,離婚に伴う財産分与を受けたとして,所有権移転登記を了したところ,当該財産分与は詐害行為に当たり,被告Y2は,債権者である原告を害することを知っていたなどとして,原告が,原告と被告Y2との間で,上記財産分与を取り消した上,被告Y2に対し,本件土地について,上記所有権移転登記の抹消登記手続をすることを求める事案である。 1 争いがない事実 (中略) 第3 争点に対する判断 1 離婚に伴う財産分与は,分与者が既に債務超過の状態にあって当該財産分与によって,一般債権者に対する共同担保を減少させる結果となるとしても,それが民法768条3項の規定の趣旨に反して不相当に過大であり,財産分与に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情のない限り,詐害行為として,債権者による取消しの対象となり得ないものと解するのが相当である(最高裁昭和57年(オ)第798号同58年12月19日第二小法廷判決・民集37巻10号1532頁参照)。 2 そこで,本件財産分与について,上記特段の事情があるか否かについて判断する。 (1) 前記争いのない事実に,証拠(甲29~32,乙1~29,30の1・2,31,32,被告Y2)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。 ア 被告Y1(昭和21年○月○日生)と被告Y2(昭和23年○月○日生)は,昭和50年5月12日に婚姻の届出をした夫婦であり,両名間には,2人の子(長男B,長女C)がいる。被告Y1は,自宅において,個人で皮革卸売業を行っていた。被告Y2は,家事に従事するとともに,被告Y1の仕事も手伝っていた。しかし,経営不振のため,被告Y1は,平成21年8月には,店を閉め,営業を停止した。 イ 被告Y1とその妹のDは,昭和55年5月17日,ローンを組んだ上,本件土地を買い受けた(持分は,被告Y1が5分の3,Dが5分の2であった。)。その後,被告Y1と被告Y2は,協力して,ローンを返済していた。本件土地は,貸駐車場として利用され,月額12万円前後の収益を上げていた。そして,平成10年7月28日,共有物分割により,被告Y1が本件土地の所有権を取得した。 また,被告Y1は,平成9年1月25日,自宅とその敷地の借地権(別紙1の2及び3の不動産)を相続により取得した。そして,被告Y1は,上記自宅について,平成10年1月9日,東京信用金庫を根抵当権者とする極度額1500万円の根抵当権を設定し,その旨の登記を了した。 ウ 被告Y2は,両親から生前贈与を受けたり,相続することなどにより平成10年初めころには3000万円を超える特有財産を有していた。そして,被告Y2は,被告Y1に対し,事業のために必要であるという説明を信じて,別紙2の第1記載のとおり貸付等をしてきた。しかし,平成22年2月ころ,上記貸付金等の多くが,被告Y1の競馬や飲食代などの遊興費に用いられていたことが判明した。そのため,被告Y2は,被告Y1との離婚を意識するようになったところ,同年5月には,被告Y1が,東京信用金庫浅草支店から借入金の返済を迫られていたことから,被告Y2に対し,「自宅についている根抵当権を外すのに100万円ほど必要だから,代わりに返済してくれ。」と嘘をつき,被告Y2に90万5236円を弁済させるということがあったため,被告Y2は被告Y1との離婚を決意した。 エ 被告Y1と被告Y2は,平成22年6月27日,長男Bの立会いの下,離婚について協議をし,その結果,まず,被告Y1が,被告Y2に対し,別紙1の「被告Y1から被告Y2に対する財産分与の内容」記載の各不動産(本件土地を含む。)を分与することが合意された。上記各不動産のうち,1の本件土地の固定資産税評価額は1980万8530円,2の建物(自宅)の固定資産税評価額は538万5500円,3の土地の借地権の評価は市場価値が不明である(東京都所有の非課税物件である。)。次に,被告Y2が,被告Y1に対し,別紙2の「財産分与に対する反対給付(対価)一覧表」の第1記載のとおり,従前,被告Y2が被告Y1に対し有していた貸金債権及び求償金債権の合計2292万4237円を上記財産分与の対価として充当すること,同第2記載のとおり,被告Y2が,自宅に付された東京信用金庫の根抵当権を解除するために,509万9691円を第三者弁済すること,新たに,被告Y1に対し,被告Y2の特有財産の中から594万円を分与することが合意された。 オ そして,被告Y1と被告Y2は,平成22年7月8日,E司法書士の事務所において,離婚協議書(乙3)を作成するとともに,離婚の届出をした。 被告Y1は,上記離婚協議書において,平成22年7月31日限り,自宅から退去すると定められていたことから,同月29日,自宅を出て,東京都葛飾区〈以下省略〉aマンション108に転居した。 カ 被告Y2は,上記エの合意に従い,平成22年7月16日,東京信用金庫に対し,509万9691円を第三者弁済し,これにより,同月23日,自宅に付されていた同金庫の根抵当権が解除された。また,被告Y2は,上記エの合意に従い,みずほ銀行千束町支店の被告Y2名義の口座から,同月16日に294万円を,同月27日に300万円をそれぞれ払い戻して,被告Y1に渡した。 キ 被告Y2は,現在,前記特有財産もなくなり,本件土地から得られる駐車場代(現在は月額9万円)で暮らしている。また,被告Y1は,離婚後,いったんはNPO法人の契約社員として稼働し,月額15万円程度の収入を得ていたが,平成23年4月4日からは,失業を理由に生活保護を受けている。 (2) 上記認定事実によれば,被告Y1と被告Y2は,真意に基づき離婚をしたものであり,また,被告Y1と被告Y2が離婚するに至ったのは,専ら被告Y1の側に責任があること,被告Y2は,家事に従事するとともに,被告Y1の仕事も手伝い,財産の形成及び維持に寄与してきたこと,被告ら間においてされた財産分与の内容は,おおむね均衡がとれていること,被告Y2は,本件土地からの駐車場収入により生計を立てていることなどからすれば,本件財産分与が民法768条3項の規定の趣旨に反して不相当に過大であり,財産分与に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情の存在を認めることはできない。そうすると,本件財産分与は,詐害行為として,債権者による取消しの対象となり得ないものと解するのが相当である。 3 また,上記認定事実によれば,本件財産分与が,被告Y1において強制執行を免れるためにされた通謀虚偽表示であると認めることもできない。 4 以上によれば,原告の被告Y1に対する請求は理由があるが,被告Y2に対する請求は理由がない。 よって,主文のとおり判決する。 (裁判官 志田原信三) 〈以下省略〉 以上:4,298文字
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