令和 6年 4月12日(金):初稿 |
○原告が、原告の夫であるCと被告が不貞行為に及んだと主張して、被告に対し、不法行為に基づき、慰謝料等550万円の支払を求めました。被告は不貞行為を否認し、原告は従前、不貞行為して以来Cとの婚姻関係は破綻しており不法行為は成立しないと主張しました。 ○これに対し、認定事実によれば、Cと原告との婚姻関係は破綻していたと評価するのが相当であって、それ以降、被告とCとの間で不貞行為があったか否かにかかわらず、不法行為は成立しないというべきであって、婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益の侵害による不法行為の主張は採用することができないとして、原告の請求を棄却した令和4年11月7日東京地裁判決関連部分を紹介します。 ○不貞行為第三者責任追及の訴訟では、婚姻関係破綻の主張をすることが多いのですが、同居している限り、婚姻関係破綻は殆ど認められません。本件は、原告自身の不貞行為と別居が認定されて、婚姻関係破綻が認定された珍しい事案です。 ********************************************* 主 文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 被告は、原告に対し、550万円及びこれに対する令和2年7月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は、原告が、原告の夫であるC(以下「C」という。)と被告が不貞行為に及んだと主張して、被告に対し、不法行為に基づき、慰謝料等550万円及びこれに対する令和2年7月15日(催告期間が経過した日)から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実 (1)当事者 原告とCは、平成4年10月5日に婚姻し、平成5年○月○○日、長女d(以下「d」という。)を、平成8年○月○○日、長男e(以下「e」という。)をもうけた。なお、Cは、先妻との間で、昭和52年○○月○○日、長男f(以下「f」という。)を、昭和55年○○月○日、二男gをもうけている。(甲17、弁論の全趣旨) (2)K病院への入院等 Cは、平成29年8月24日、多発性脳梗塞により救急搬送され、K病院に入院した。(乙6) その後、Cは、平成30年1月15日、十慈堂病院に転院した。 (3)成年後見開始の審判 横浜家庭裁判所は、令和2年11月10日、Cについて成年後見開始の審判をした。(弁論の全趣旨) (4)原告による催告 原告は、令和2年7月2日、被告に対し、被告が、原告とCが婚姻関係にあることを知りながら、遅くとも平成29年5月頃には一緒に海外旅行に行く予定を立てていたほか、それ以前から不貞行為を繰り返していたとして、令和2年7月14日までに500万円の損害賠償を支払うよう求める内容証明郵便を送付した。(甲14、15) 2 争点及び争点に関する当事者の主張 (中略) 第3 当裁判所の判断 1 認定事実 前記前提事実に後掲の証拠及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実を認めることができる。 (1)示談書等の存在 h及び原告を当事者として、hはCに対し、慰謝料として600万円を、原告はj(hの妻)に対し、慰謝料として120万円をそれぞれ支払うものとする旨記載された平成18年10月1日付け示談書が存在する。上記示談書には、h及びj並びに立会人としてkの署名押印がされているが、原告及びCの署名欄は空欄となっている。 また、同日付けで、慰謝料として120万円を領収した旨記載された、j発行の原告宛て領収書が存在する。(乙1、2) (中略) 2 争点(1)(不貞行為等の有無)及び争点(2)(婚姻関係破綻の有無)について (1)婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益の侵害に関する主張について ア fは、証人尋問において、平成29年8月、Cが入院した旨の連絡を受けて実家に駆け付けた際、d及びeから、もう1、2年前から原告が実家に住んでいないという話を聞いた旨証言する。また、被告も、本人尋問において、Cから、平成28年暮れからは被告が家に帰って来なくなったと聞いた旨供述する。 前記1(4)のとおり、Cが入院したK病院の平成29年8月27日付け看護サマリーには、家族構成として、「妻は最近連絡がとれず所在不明」との記載がされており、経過記録においても、「息子・娘と3人暮らし」とされ、キーパーソンは長女であるdとされている。経過記録上、原告からK病院に初めて連絡があったのは、救急搬送から4日後の同月28日であり、今後のキーパーソンを原告及びdとすることを希望したものの、引き続きキーパーソンはdとされている。その後、入院から2か月近くが経過した同年10月16日付け看護サマリーにおいても、家族構成は「妻:別居中」、「同居:長女、次男」とされており、治療方針等に関する同意もdが行っている。これらの医療記録における記載は、fの上記証言や被告の上記供述を裏付けるものといえ、原告は、遅くとも平成28年12月以降、Cと別居していたものと認めるのが相当である。 加えて、K病院の経過記録(乙6~14)をみても、Cの入院中、dを始めとしたCの子らが度々面会に訪れ、医師からの説明を受けるなどしているのに対し、原告が主導的にCの看護等を行っている様子はうかがわれないこと、更には、Cが平成29年に死亡した原告の父の葬儀に参列していないことや原告が平成28年に死亡したCの姉の葬儀に参列していないこと(原告本人、被告本人)なども併せ考慮すれば、平成28年12月以降、Cと原告との婚姻関係は破綻していたと評価するのが相当であって、それ以降、被告とCとの間で不貞行為があったか否かにかかわらず、不法行為は成立しないというべきである。 よって、婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益の侵害による不法行為の主張は採用することができない。 イ これに対し,原告は、K病院の看護サマリーにCと原告が別居中であるなどの記載があるのは、入院当初、fがキーパーソンとして振る舞い、そのようにK病院の担当者に話したことで同担当者がそれを鵜呑みにしたためである旨主張する。 しかし、fがK病院の担当者に対して事実と異なる説明をしたことを認めるに足りる証拠はない。加えて、前記1(4)のとおり、K病院は、キーパーソンをfではなく、dとしており、同人からも家族構成や生活状況を含めた事実関係を聴取したことがうかがわれる上、入院当初の看護サマリー及び経過記録のみならず、入院から2か月近くが経過した平成29年10月の看護サマリーにおいても「妻:別居中」という記載がされていることも考慮するならば、K病院の担当者が事実と異なる説明を鵜呑みにして看護サマリー等にそのまま記載したとは認められない。 また、原告は、父親の看護のために実家に通っていたにすぎず、Cと別居していたわけではない旨主張し、本人尋問においてもこれに沿う供述をするが、父親の看護や母親の精神的サポート等のために原告が実家に通う必要があったとしても、Cの救急搬送の際、病院に駆けつけるなどの対応をしなかったばかりか、平成29年8月28日に至るまで4日も病院に連絡しないことが合理的に説明されているとはいい難く、原告の上記主張は、上記認定判断を左右するものではない。 ウ なお、被告は、原告が提出した電子メールにつき、違法収集証拠である旨主張するが、証拠能力が否定されるほどの手段によって原告が当該電子メールを入手した事実を認めるに足りる証拠はなく、これらの証拠の証拠能力が否定されるとはいえない。 (2)その他婚姻関係侵害の主張について 原告は、被告が、fらとともに平然と見舞に訪れてCを興奮させ、病院スタッフの対応を難しくさせたために原告はCを転院せざるを得なくなった旨を主張し、本人尋問においてこれに沿う供述をする。 しかし、十慈堂病院のスタッフが原告に対して送信した「昨日、例のmさんより、食べ物を持ってきたい、と看護師に相談があったそうですが、やんわりお断りして頂いております。」という内容の電子メール(前記1(5))をもって、被告が病院スタッフの対応を難しくさせたことが推認されるとはいえず、そのほか、上記供述を裏付ける証拠はないから、被告が、fらとともに平然と見舞に訪れてCを興奮させ、病院スタッフの対応を難しくさせたとは認められない。 また、原告は、被告が、Cの身の回りの世話だけでなく、病院への支払や折衝など事務作業を行っていたのを横目で見ながら、原告のことを悪魔呼ばわりした旨も主張するが、前記1(2)のとおり、「悪魔の父が死んだ、76.子どもは実家に行った、暴力的な人だった、僕は行かない。」との電子メールはCが被告に送信したものであって、被告が原告のことを悪魔呼ばわりしていたことを認めるに足りる証拠はない。 よって、その他婚姻関係の侵害による不法行為の主張は採用することができない。 3 結論 以上によれば、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求には理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第50部 裁判官 小川惠輔 以上:3,811文字
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