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将来の婚姻費用請求は訴えの利益がないとした地裁判決紹介

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令和 5年 9月 5日(火):初稿
○被告の妻である原告が、被告が、原告と被告との間で定めた婚姻費用を支払わないとして、被告に対し、未払の婚姻費用及び遅延損害金の支払を求めるほか、被告の態度等を踏まえると、今後も婚姻費用が支払われる可能性は低いとして、将来請求として、別居解消若しくは離婚成立の日まで、婚姻費用の支払を求める訴えを東京地方裁判所に提起しました。

○これに対し、原告が、本件合意に基づいて婚姻費用を請求することが信義則に違反し、又は権利濫用であるといえる事情は認められず、他方、現在、本件婚姻費用減額調停が係属しており、近い将来、当該調停ないし審判において、本件合意に基づく婚姻費用の額が変更される可能性がある状況において、本件合意に基づく婚姻費用の将来給付を認めることは、その必要がないばかりか、かえって混乱を招きかねないのであり、相当とはいえないから、原告が、いまだ履行期が到来していない婚姻費用の支払を求める部分は、訴えの利益を欠き不適法であるなどとして将来の婚姻費用の請求を棄却した令和4年7月19日東京地裁判決(REX/DB)関連部分を紹介します。

○裁判外で合意した婚姻費用について弁済期が経過した未払金については地方裁判所に支払を求める訴えを提起できますが、弁済期の経過していない将来分については、訴えの利益がないとされました。本件では家裁に婚姻費用減額調停が係属していますから、普通は将来分婚姻費用の請求は地裁には出さないはずです。訴えの利益を欠くとした結論は妥当です。

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主   文
1 被告は、原告に対し、315万円及びうち「別紙遅延損害金の起算日」に記載の「不足金額」欄に記載の各金員に対する「遅延損害金起算日」欄に記載の各日から各支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告に対し、210万円を支払え。
3 原告のその余の請求を却下する。
4 訴訟費用は、これを2分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
5 この判決は、第1項及び第2項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 請求

1 主文第1項に同旨
2 被告は、原告に対し、令和3年12月から、別居解消若しくは離婚成立の日まで、毎月末日限り、70万円を支払え。

第2 事案の概要
 本件は、被告の妻である原告が、被告が、原告と被告との間で定めた婚姻費用を支払わないとして、被告に対し、未払いの婚姻費用の合計額315万円及び各月の未払額に対する各弁済期の翌日から各支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求めるほか、被告の態度等を踏まえると、今後も婚姻費用が支払われる可能性は低いとして、将来請求として、令和3年12月から、別居解消若しくは離婚成立の日まで、毎月末日限り、婚姻費用70万円の支払いを求める事案である。

1 前提事実(当事者間に争いがない。)
(1)原告と被告は、平成30年9月2日、婚姻し、平成31年○月○日、長女C(以下「長女」という。)をもうけた。
(2)原告と被告は、令和2年9月29日から別居している。
(3)原告と被告は、令和2年10月23日、同月分以降、被告が原告に対し、婚姻費用として、70万円を支払う合意(以下「本件合意」という。)が成立した。被告は、本件合意に従い、令和2年10月以降、原告に対し、婚姻費用として月70万円を支払うようになった。
(4)被告は、令和3年3月から、婚姻費用の額を月35万円に減額し、同月以降、原告に対し、婚姻費用として月35万円を支払うようになった。

2 争点
(1)本件合意が事情変更の原則に基づき取り消され又は解除されるか
(2)原告の請求が信義則違反又は権利濫用に当たるか
(3)将来給付の訴えの利益の有無
3 争点に関する当事者の主張

     (中略)

第3 当裁判所の判断
1 認定事実

 前記前提事実、証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1)原告と被告は、平成29年6月頃から、交際を始め、平成30年2月5日頃から、被告及び被告の母が所有する自宅(本件自宅)で同居して生活するようになった。
(2)原告と被告は、平成30年9月2日、婚姻し、平成31年○月○日、長女をもうけた。
(3)原告は、長女を妊娠していた頃から、精神的に不安定な面がみられるようになり、原告と被告との間では、暴力を伴う夫婦喧嘩が生じるようになった(乙4~6(枝番を含む。))

(4)被告は、原告との同居生活に耐えられなくなり、令和2年5月3日、本件自宅を出て、被告訴訟代理人弁護士を通じて、原告に協議を申し入れた(弁論の全趣旨)。
(5)被告は、令和2年5月21日、原告に対し、離婚協議を申し入れた(乙8,9)。
(6)原告は、令和2年5月23日、被告の勤務先を訪問し、同居を再開することを求め、話合いの結果、原告と被告は、同日より、再び本件自宅で同居生活をするようになった。

(7)原告と被告は、令和2年6月28日、口論となり、原告は、2階の階段から1階玄関に飛び降りて重症を負い、救急車で運ばれ、入院することになった。世田谷区児童相談所による調査が行われ、同年8月18日、原告及び被告に対し、児童福祉法27条1項2号に基づく指導措置決定がされた(乙10)。

(8)原告は、退院後、長女を連れて、岩手県の実家で生活するようになった。
(9)被告は、令和2年9月29日、原告に対し、改めて離婚協議を申入れ、離婚に向けた別居を開始した。

(10)原告と被告は、令和2年10月23日、本件合意をした。被告は、本件合意に従い、同月以降、原告に対し、婚姻費用として月70万円を支払うようになった。
(11)原告は、令和2年12月頃から、被告に対し、令和3年1月頃から、長女のプレ幼稚園が始まることから、東京に戻ることを考えている旨伝えた(弁論の全趣旨)。

(12)原告は、令和3年3月3日以降、本件自宅に戻り、本件自宅で生活するようになったため、被告は、本件自宅を出て別の場所で生活するようになった。
(13)被告は、令和3年3月から、婚姻費用の額を月35万円に減額し、同月以降、原告に対し、婚姻費用として月35万円を支払うようになった。
(14)原告は、婚姻費用を減額されたことから、令和3年4月19日、東京家庭裁判所に被告を相手方として婚姻費用分担調停(東京家庭裁判所令和3年(家イ)第2811号)を申し立てたが、令和4年2月17日、不成立となり、審判手続に移行することなく終了した(甲4、弁論の全趣旨)。

(15)被告は、令和4年3月23日、東京家庭裁判所に原告を相手方として婚姻費用減額調停(東京家庭裁判所令和4年(家イ)第2073号。以下「本件婚姻費用減額調停」という。)を申し立て、同調停は、現在も同裁判所に係属している(甲5、弁論の全趣旨)。

2 争点(1)(本件合意が事情変更の原則に基づき取消又は解除されるか)について
 婚姻費用の定めの変更については、家庭裁判所に管轄があり(民法879条、家事事件手続法3条の10、39条、182条3項、別表第二の10項)、地方裁判所に管轄はない。よって、本訴訟において、本件合意に変更すべき事情があるか否か、いくらに変更すべきか等については、審理の対象とすることはできない。よって、被告の主張は採用できない。

3 争点(2)(原告の請求が信義則違反又は権利濫用に当たるか)について
(1)被告は、原告は無償で本件自宅に居住している一方、被告は費用をかけて別居先を確保しなければならず,公平を欠き、原告の本件合意に基づく婚姻費用の請求が信義則違反又は権利濫用に当たる旨主張する。

(2)被告の主張は、専ら住居費の負担に係る主張と思われるが、本件合意当時の事情に変更があったということであれば、これはまさに今現在係属している本件婚姻費用減額調停において調整を図るべきものである。その他、本件全証拠によっても、原告が、本件合意に基づいて婚姻費用を請求することが信義則に違反し、又は権利濫用であるといえる事情は認められない。よって、被告の主張は採用できない。 
4 争点(3)(将来給付の訴えの利益の有無)について
(1)原告は、被告に対し、令和3年3月分から同年11月分までの未払いの婚姻費用315万円及び各月の未払額に対する各弁済期の翌日から各支払済みまでの遅延損害金の支払いを求めるほかに、令和3年12月から、別居解消若しくは離婚成立の日までの月70万円の婚姻費用の支払いを求めている。

このうち、令和3年12月から令和4年5月までは、既に履行期が到来しており、その総額は420万円(70万円×6か月)である。被告は、この期間、原告に対し、月35万円の婚姻費用を支払っていると認められるから、未払額は210万であり、この限度では原告の請求に理由がある。

(2)他方、令和4年6月以降は、いまだ履行期が到来していないことから、訴えの利益があるといえるか問題となる。この点、原告は、被告のこれまでの態度等からすれば、任意の履行は期待できず、あらかじめ訴えを提起する利益がある旨主張する。

たしかに、被告は、令和3年3月以降、本件合意に基づく婚姻費用の支払いを拒否し、月35万円の婚姻費用のみ支払っていることが認められ、本件婚姻費用減額調停や本訴訟においても、本件合意に基づく婚姻費用の支払いを争っている。

そうすると、少なくとも、被告が今後も本件合意に基づく婚姻費用を支払うことは期待できず、原告の主張も理解できるところである。しかしながら、他方で、現在、本件婚姻費用減額調停が係属しており、近い将来、当該調停ないし審判において、本件合意に基づく婚姻費用の額が変更される可能性がある。

そのような状況において、本件合意に基づく婚姻費用の将来給付を認めることは、その必要がないばかりか、かえって混乱を招きかねないのであり、相当とはいえない(例えば、原告が、婚姻費用の将来給付を認める判決を債務名義として、被告の財産に強制執行をした場合、後に本件合意を変更する調停や審判が成立したとすると、被告は、その執行を排除するためには、請求異議の訴えを提起しなければならないといった負担を負うことになる。

他方、原告は、近い将来、調停ないし審判という形で債務名義を取得できるから、将来給付の訴えが認められないとしても、特段の不都合はない。)。よって、原告が、令和4年6月以降の婚姻費用の支払いを求める部分は、訴えの利益を欠き、不適法というべきである。


5 結論
 以上によれば、原告の請求は、主文の限度で理由があるから、その限度で認容し、その余は不適法であるから却下することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第37部 裁判官 味元厚二郎

別紙 遅延損害金の起算日
以上:4,427文字

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