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不貞行為慰謝料等請求について婚姻破綻後等を理由に棄却した地裁判決紹介

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令和 5年 4月17日(月):初稿
○原告が、元夫である被告に対し、主位的には、原告と被告が離婚したのは被告の不貞行為によるものであるとして、予備的には、被告に暴行を受けて負傷したことについて、不法行為に基づく損害賠償金等330万円の支払を求めました。

○これに対し、婚姻破綻後の不貞行為であること、被告の暴行は違法行為とは評価できないことを理由に原告の請求を全て棄却した令和3年6月2日東京地裁判決(LEX/DB)全文を紹介します。

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主   文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 被告は,原告に対し,330万円及びこれに対する令和元年8月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は,原告が,元夫である被告に対し,主位的には,原告と被告が離婚したのは被告の不貞行為によるものであるとして,予備的には,被告に暴行を受けて負傷したことについて,不法行為に基づく損害賠償金330万円及びこれに対する平成29年法律第44号による改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

1 争いのない事実
(1)原告と被告は,平成27年9月7日婚姻し,令和元年8月27日,離婚した。原告と被告の間には,長女(平成28年○月○○日生)がいる。

(2)被告は,令和元年6月14日から同月15日にかけて,被告宅において,原告以外の女性と肉体関係をもった(以下「本件不貞」という。)。
 原告は,同日,当該女性の写真を撮影しようとしたため,被告が,原告の腕をつかみ,口をふさぐなどして(以下「本件行為」という。),被告宅から原告を追い出した。

2 争点及びこれに対する当事者の主張
(1)本件不貞時以前に原告と被告の婚姻関係が破たんしていたか否か(主位的請求原因)
(被告の主張)
 原告は,平成30年3月ころ,被告に対して暴行を振るい,それ以降も,被告に対して汚い言葉を使ったり,元交際相手と連絡を取り続けたりするなどしたため,被告は,原告との婚姻関係を継続することは難しいと考えるようになった。被告は,平成30年11月からタイへ長期出張し,令和元年5月1日,長期出張を終えて帰国したが,原告は,被告と同居しようとはしなかった。
 原告と被告は,同年5月26日,今後の夫婦関係について協議をし,離婚することを決め,その1週間後,被告は,原告が持参した離婚届に署名押印をして原告に交付し,同年6月14日までに,賃貸借契約解除や原告の荷物の搬出など離婚に伴う諸々の手続きを進めていた。
 以上のとおり,同日までには,原告と被告の間の婚姻関係は破たんしていた。

(原告の主張)
 原告が,被告に対して一方的に暴行に及んだことはないし,被告の生活態度が改善されなかったために口論となったことはあるが、汚い言葉を使ったことはない。元交際相手への連絡も,被告から注意を受けて以降,連絡を取っていない。
 原告と被告は,令和元年5月26日,子の監護について詳細を取り決めるまでは離婚届を提出しないことを合意した。原告は,当時,被告と離婚することを確定的に決意していた訳ではないから,本件不貞時,婚姻関係は未だ破たんしていなかった。 

(2)本件行為は被告の原告に対する不法行為を構成するか(予備的請求原因)
(原告の主張)
 原告は,本件行為により左大腿部に皮下出血の傷害を負ったほか,口唇部,頚部,腕にあざや擦り傷を負った。
 本件行為は原告に対する不法行為に当たる。

(被告の主張)
 本件行為は暴行と評価されるものではないし,被告も同様に負傷していること,原告と被告がもみ合いになった経緯にも照らせば,本件行為は不法行為に当たらない。

(3)損害額
(原告の主張)
 原告は,本件不貞行為又は本件暴行により精神的損害を被った。原告が被った精神的損害を慰藉するには300万円が相当である。
 また,本件と相当因果関係のある弁護士費用は30万円である。

(被告の主張)
 争う。
 予備的請求については,本件行為によって慰謝料請求権を発生するほどの精神的苦痛が生じたとはいえない。

第3 当裁判所の判断
1 認定事実

 争いのない事実に加えて,甲4,乙4及び後掲各証拠並びに弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1)原告と被告は,平成27年9月7日,入籍したが,原告は,当時,大阪府内にある大学の医学部の学生であり,被告は東京都内で勤務をしていたため,婚姻当初から別居であった。

(2)原告は,平成28年○月○○日,長女を出産し,原告の母が原告と同居して育児の手伝いをし,被告は,月に1回程度,大阪の原告宅を訪問していた。

(3)原告は,平成30年4月から東京都内の病院で研修医として勤務することとなったため,同年3月,東京都台東区内の被告宅に転居した。
 そのころ,被告が予定より遅く帰宅したことに腹を立てた原告が,被告が操作していた携帯電話を取上げたために,携帯電話の取り合いとなって,被告が原告を押さえつけ,原告は被告の膝に噛みつくなどした後,原告が110番通報したため,被告は警察署で事情聴取を受けた。
 原告と被告は,同年4月には東京都新宿区内へ転居する予定となっていたが,被告は,上記110番通報の翌日,原告の母に前日の状況を説明し,原告と一緒に生活できない旨伝え,原告は,当面,静岡県熱海市内の実家で生活することとなった。
 原告と被告は,同居に当たって,原告は,被告に対し,汚い言葉を使わないこと,警察を呼ばないこと,包丁などの凶器を持たないことを約束し,被告は,原告に対し,帰宅時間を連絡することを約束した。

(4)原告と被告は,平成30年4月から東京都新宿区内で同居をした。原告の母は,長女の面倒を見るために,東京都内にマンションを借りて居住するようになった。
 原告と被告は,原告が元交際相手と連絡を取ったり,被告の帰宅時間が遅かったりすること等を巡って,同居後も諍いが続いていた(乙2の4の1)。

(5)被告は,平成30年7月,転職した。原告は,被告に対し,転居や単身赴任が多い職場へは転居しないで欲しいと要望をしていたため,被告は,勤務先に対してその旨を伝えていたが,同年10月,勤務先から同年11月14日から平成31年4月末までタイへ長期出張するよう命じられた。
 被告は,平成30年12月28日から平成31年1月11日まで一時帰国したが,原告は,原告の母が居住するマンションや熱海の実家に帰省していたため,一時帰国中,長女に会えたのは2回だった。

(6)被告は,令和元年5月1日,帰国したが,原告は,原告の母が居住するマンションや熱海の実家に居住していた。
 被告は,同月23日,原告に対し,「今は別居中やんね?」というLINEのメッセージを送信し,原告は,被告に対し,「まあそおなるねw」と返信すると共に話がある旨のメッセージを送信し,原告と被告は,同月26日,話をすることとなった(乙2の1)。

(7)原告と被告は,令和元年5月26日の話し合いの際,原告は,被告に対し,被告が,長期出張によって原告や長女のことを顧みなかった態度について不満を伝え,被告は,原告に対し,夫婦関係を続けるのは無理であると述べた。
 原告は,上記話合いから一週間後,被告に対し,離婚届を持参して,被告は,離婚には異存がなかったため,離婚届に署名押印し,長女との面会交流について考えて欲しい旨伝えた。
 被告は,同年6月14日,原告に対し,クレジットカード,預金通帳,鍵を被告宅の玄関に置いておくよう依頼するLINEのメッセージを送信し,原告は,今月中に荷物を搬出した後に鍵を置いておくこと,長女の養育費を払って欲しいことを伝えた(乙2の2)。

(8)原告は,令和元年6月15日,荷物を取りに被告宅を訪ねたところ,被告宅の寝室に原告が知らない女性が下着姿で寝ていた。
 原告が,当該女性の写真を撮影しようとしたため,被告は,とっさに原告の腕を掴み,原告が大声を出したことから,その口を塞ぐなどして,原告ともみ合いとなり,そのまま原告を被告宅から追い出した。その結果,原告は,首,右腕,左脚にあざが,顔,下唇,左足首に擦過傷が,被告の右腕にはひっかき傷ができた(甲3,乙3の1,3の2)。

(9)被告は,令和元年6月18日,原告に対し,長女の幼稚園に関してLINEのメッセージを送信したところ,原告から,同月20日,同月15日,被告宅に知らない女の人がいたのに普通のメッセージを送ってくるのかという趣旨の返信を受けた。そこで,被告は,原告に対し,結婚生活での不満を述べたところ,原告から,だからといって女性を被告宅に入れて性交渉をするのは違うのではないかという返信を受けた。被告は,原告に対して,離婚届は出したのか,クレジットカードの解約をしたのかと尋ねるメッセージを送信したが,原告から返信はなかった。(乙2の4)

(10)原告は,原告訴訟代理人弁護士に対し,被告との離婚条件の交渉を委任した。

2 検討
(1)争点(1)(本件不貞時以前に原告と被告の婚姻関係が破たんしていたか否か)について
 上記認定事実によれば,原告と被告は,平成27年9月に婚姻したものの,その後も別居が続き,平成30年3月以降,同居を開始した後も,諍いが続いていたところ,原告は,被告が,同年11月から平成31年4月までタイに長期出張したこと自体やその間の態度に対して不満を抱き,他方,被告も,一時帰国した際にも,長期出張から帰国した後も,原告が,原告の母が居住するマンション等に居住して,被告と同居しないことについて不満を抱いていたものであり,その結果,原告と被告は,令和元年5月26日には離婚することに合意したのであり,遅くとも,被告が,原告持参の離婚届に署名押印した時点をもって,原告と被告の婚姻関係は破たんしていたものと認めるのが相当であるから,本件不貞は原告に対する不法行為を構成しない。

 これに対して,原告は,子の監護について詳細を取り決めるまで離婚届は提出しないこととしていた,離婚を確定的に決意していた訳ではないなどと主張する。しかし,原告は,被告との協議の後,自ら被告に対して離婚届を持参して署名押印を求め,被告が,同年6月14日,原告に対し,クレジットカード等の返却を求めるLINEのメッセージを送信するまで,被告に対して何らのメッセージも送信しておらず,被告のメッセージに対しても,同月中には荷物を搬出する旨回答しているのであって(乙2の2),原告において,被告との婚姻関係をやり直そうなどという気持ちがあったとは認められない。このような事情に照らせば,婚姻関係が破たんしていなかったとの原告の主張は採用できず,仮に,原告と被告の間で,離婚届の提出自体は,子の監護の詳細が定まった後に提出するとの合意があったとしても,上記認定を左右するものではない。

(2)争点(2)(本件行為は被告の原告に対する不法行為を構成するか)について
 本件行為は,被告が,被告宅を訪問していた女性の写真を撮影しようとした原告の行為を制止しようとしたことによって生じているところ,原告は,当該女性の承諾も得ずにその写真を撮影しようとしたものであり,当時,原告と被告との婚姻関係が既に破綻していたことからすれば,被告が原告の撮影行為を制止すること自体は相当な行為であると考えられること,また,被告が原告の腕を掴んだり,大声を出す原告の口を塞いだりする行為によって,原告の右腕,首のあざや顔,下唇の擦過傷が生じていることからすれば,被告はやや力を込めて原告の腕を掴んだり,口を塞いだりしたものと推認されるが,被告の腕にも原告によるひっかき傷があったり,被告から直接暴行を加えられていない原告の足にもあざ等があることからすれば,原告は被告の制止に抵抗するなどしてもみ合いとなったことが窺われるのであって,被告が原告に対して一方的かつ強度な暴行を加えたものとは認められないし,原告が本件行為後に通院したなどの事情も認められないことなど,被告が本件行為に至った経緯,その状況,原告の負傷の程度を総合考慮すれば,本件行為が違法であると評価することは困難であるし,仮に,本件行為が違法であると評価したとしても,本件行為によって,被告が原告に対して金銭で賠償をしなければならないほどの精神的損害が原告に生じたとは認め難い。
 したがって,本件行為が原告に対する不法行為を構成するとの原告の主張は採用できない。

3 よって,原告の請求はいずれも理由がないから,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第7部 裁判官 小川理津子
以上:5,198文字

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