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手を絡め合って繋いで歩き宿泊等から不貞を認めた地裁判決紹介

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令和 4年 8月29日(月):初稿
○原告が、原告の夫である訴外Aの研究室で働いていた被告がAとの間で不貞関係をもったことにより精神的苦痛を受けたと主張して、被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、慰謝料、調査費用及び弁護士費用並びに遅延損害金の支払を求めました。

○被告は、数回にわたって夜の遅い時間にA宅に入ったのみならず、(ア)A宅を訪れた際、B駅からA宅に向かう途中で、Aと、手指を交互に絡めあう形で手をつなぎ、(イ)A宅に宿泊しており、さらに、(ウ)Aは、その長女に対し、被告との再婚を望んでいる旨の発言をしたことが認められ、被告とAはかねてから職務上の信頼関係が強く、こうした関係が恋愛関係に発展することも珍しくないことも併せ考慮すると、被告とAは、ともにA宅に入ったことが認められる時点で不貞関係にあったと推認されるなどとして、請求を一部認容した令和3年12月2日東京地裁判決(LEX/DB)を紹介します。

○原告妻と夫訴外Aは、平成29年4月に別居し、Aは同年11月に原告に対し離婚調停を申立しています。不貞行為を認定した平成30年5月15日時点では、原告と夫訴外Aとの婚姻関係は完全に破綻していると主張すれば平成8年3月26日最高裁に従い不法行為責任は生じないと思われますが、被告はあくまで不貞行為不存在にこだわり婚姻破綻の主張をしていませんでした。別居且つ離婚調停まで至れば婚姻関係は完全破綻と思われますが、然るに夫婦関係が円満ではなかったとしての慰謝料認定は不可解です。

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主   文
1 被告は,原告に対し,143万円及びこれに対する平成30年5月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを3分し,その2を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
4 この判決は,仮に執行することができる。


事実及び理由
第1 請求

 被告は,原告に対し,395万4002円及びこれに対する平成30年5月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は,原告が,被告が原告の夫との間で不貞関係をもったことにより精神的苦痛を受けたと主張して,被告に対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,慰謝料300万円,調査費用59万4002円及び弁護士費用36万円(合計395万4002円)並びにこれらに対する不法行為の日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

1 前提事実(争いのない事実又は後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実。なお,証拠番号は枝番を含むことがある。)

         (中略)

第3 当裁判所の判断
1 認定事実

 前記前提事実に加え,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1)原告の家族関係
 原告は,平成2年6月13日にAと婚姻し,その後,平成9年○月○日までに,同人との間に3人の子をもうけた(前提事実(1))。

(2)被告とAの関係等
 被告は,平成17年からC総研にて研究補助員として勤務し,平成19年に婚姻したところ,勤務先の上司がD大学の教授に就任することとなったことから,上司の研究室立上げを補助すべく,平成21年,職場を同大学に移し,技術補佐員として勤務を開始した。当時,同大学にはAも在籍しており,被告は,同年7月からはAの研究室でも働くこととなった。(前提事実(2))

(3)E大学における勤務
ア Aは,平成22年2月,E大学教授(分子細胞生物学研究所)に就任した。Aは,このとき,被告に対し,「これまでも様々な研究室の仕事をお願いしてきましたが,これからも学術支援専門職員としてE大で勤務していただけませんか」と依頼し,被告はこれを承諾して同大学で勤務することとなった。(乙63,84)

イ 被告は,平成24年○○月に長女を出産し,平成27年○月には双子を出産した。Aは,これらの出産の際,被告に対し,「研究室の運営にあたっては産休中も他の事務職員は入れるつもりはない」,「あなたの席を空けて待っています。早く戻ってきてください」などと言い,被告の職場復帰を後押しした。(乙63)

ウ Aは,平成29年4月,E大学分子細胞生物学研究所の所長に就任した(乙1,84)。

(4)A及び被告の転居
ア 被告は,平成29年4月頃,東京都からB市にある実家に転居し,同年5月9日には住民票を移した(乙7,63)。

イ Aは,平成29年5月,本件マンションに転居して原告と別居するに至った(前提事実(3))。本件マンションは,被告の実家から徒歩で5分程度の距離にある(証人A)。

(5)研究所における残業禁止
 平成29年6月頃,Aが研究費を不正使用している旨の匿名の告発がされた(乙28,63)。大学側が調査を行った結果,不正の事実は認められなかったものの,Aは,それまでにも深夜に不審者が研究所内に侵入したなどの情報を得ていたことから,同年7月頃,研究所内での深夜に及ぶ残業を原則として禁止する旨を決定した(乙18,22,63)。

(6)原告とAの離婚調停等
ア Aは,平成29年11月,弁護士を代理人として,原告を相手方とする離婚調停の申立てをした(乙84)。

イ 原告は,平成30年3月頃,本件調査会社に対してAの素行調査等を依頼した(前記前提事実(4))。

ウ 被告は,平成30年5月15日,同月21日,同年6月7日及び同月18日の午後9時ないし午後10時頃,AとともにA宅に入った(甲2の1ないし2の4)。
 被告は,平成30年5月21日にA宅を訪れた際,B駅からA宅に向かう途中で,Aと,手指を交互に絡めあう形で手をつないだ(甲2の2)。また,被告は,平成30年6月7日にA宅を訪れた際,翌朝までA宅に宿泊した(甲2の3,証人D)。

エ 原告は,前記調停手続において,平成30年7月3日付けの主張書面を提出し,同書面の中で,Aの不貞行為が明らかになったと主張した(乙69)。前記調停手続は,同月5日,調停不成立により終了した(弁論の全趣旨)。

(7)Aの長女から長男へのメッセージ
 Aの長女は,平成30年7月頃,その兄(Aの長男)に対し,「Aさんは甲さんと再婚できたらいいとまで考えているというのを…最初に甲さんの存在をAさんから聞いた時に聞いた」とのメッセージを送信した(甲3)。

(8)離婚訴訟の経緯
 Aは,平成30年12月,原告との離婚を求める離婚訴訟を東京家庭裁判所に提起したところ,同裁判所は,令和2年3月31日,Aと原告とを離婚する旨の判決をした(甲8,乙84)。控訴審である東京高等裁判所は,令和3年1月21日,原告の控訴に基づき,原告との離婚を求めるAの請求を棄却する旨の判決をした(甲9)。

2 争点(1)(被告とAの不貞関係の有無)について
(1)被告は,前記認定事実(6)ウのとおり,平成30年5月及び6月に数回にわたって夜の遅い時間にAとともにA宅に入ったことが認められる。
 しかし,証拠(乙29ないし33,35ないし46,48ないし56)によれば,被告及びAは当時,研究所の業務で極めて多忙であり,共同して業務を行う必要性もあったと認められるから,研究所内での深夜に及ぶ残業が難しくなっている(認定事実(5))中で,業務上の必要性からA宅に立ち寄る必要があったとする被告の主張は不合理なものとはいえない。実際に,被告及びAは,ともにA宅に入った後に、業務上のメールを送信するなどしている(乙41ないし48)。
 そうすると,被告が夜の遅い時間にA宅に入った事実のみから両者の不貞関係を推認することはできないというべきである。 

(2)しかし,被告は,上記のとおりA宅に入ったのみならず,(ア)平成30年5月21日にA宅を訪れた際,B駅からA宅に向かう途中で,Aと,手指を交互に絡めあう形で手をつなぎ(認定事実(6)ウ),(イ)同年6月7日にはA宅に宿泊しており(認定事実(6)ウ),さらに,(ウ)Aは,同年7月頃,その長女に対し,被告との再婚を望んでいる旨の発言をしたことが認められる(認定事実(7))。被告とAはかねてから職務上の信頼関係が強く(認定事実(3)),こうした関係が恋愛関係に発展することも珍しくないことも併せ考慮すると,被告とAは,ともにA宅に入ったことが認められる平成30年5月15日の時点で不貞関係にあったと推認され,この推認を覆すに足りる証拠はない。
 以下,上記(ア)ないし(ウ)の事実認定についての説明を加える。

ア 平成30年5月21日の手つなぎについて
 手指を交互に絡めあう形での手つなぎは「恋人つなぎ」とも呼ばれ,交際関係にない男女がこうした形で手をつなぐことは通常考えにくいため,Aと被告がこうした形で手をつないだ事実は,両者間の不貞関係を推認させる。
 これに対し,被告は,緑内障を抱えている上に老眼でさらに疲労による疲れ目が重なったAが暗い夜道で転んだりすることがないよう介助するために手をつないだにすぎないと主張する。
 しかし,Aが緑内障に罹患していた事実は認められるものの(乙5,57),なぜ介助のためにいわゆる恋人つなぎの形で手をつなぐ必要があるのか明らかでなく,被告の上記主張は採用することができない。

イ 平成30年6月7日の宿泊について
 本件調査会社の調査員である証人Dは,同月8日の朝に被告が本件マンションの通用口から出てくるところを目撃したと証言している(証人D)ところ,被告が同日午前7時45分頃にA宅方面から被告の実家方面に歩く様子が写真に収められていること(甲2の3)からすると,証人Dの上記証言は信用することができる。そうすると,被告は,同月7日の夜から同月8日の朝にかけてA宅に宿泊した事実が認められる。

 これに対し,被告は,〔1〕上記写真に収められているのは,本件マンションからワンブロック離れた位置を被告が被告宅に向かって歩いている姿にすぎないところ,仮に被告が本件マンションから出た瞬間を証人Dが目撃しているのであれば,その瞬間を写真に収めているはずであり,そのような写真が提出されていないのは不自然である,〔2〕被告は,同月8日の朝,A宅に資料を置き忘れたことを思い出し,Aの携帯電話に電話をしたものの通じなかったため,A宅に直接向かい,一度は本件マンションに到着したものの,その頃にAに電話が通じ,既にAが同資料を持った上でA宅を出たことが分かったことから自宅に戻った可能性が高く,上記の写真は,こうして自宅に戻る途中の被告の姿が撮影されたものにすぎないと考えられる旨主張する。

 しかし,まず上記〔1〕の主張について検討するに,Dは,被告が本件マンションから出る瞬間を写真に収められなかった理由について,本件マンションの通用口を常時観察する形で定点カメラを設置することができず,また,常にカメラを回したままでは怪しまれてしまうため,カメラをかばんに入れた状態で通用口を見ており,その結果,被告が本件マンションを出たことを確認した後にかばんからカメラを取出して電源を入れなければならず,それに数秒の時間を要した旨説明しており(証人D),この説明に特段不自然な点はない。

 上記〔2〕の主張については,仮にこの主張が正しいとすると,証人Dは,まず被告宅から本件マンションに向かう被告の姿を確認することができたはずであるから,その時点でカメラを準備でき,被告が本件マンションに至って自宅に引き返そうとする瞬間や,その直後の瞬間を撮影することもできたはずである。ところが,被告も指摘するとおり,甲2の3に添付された写真には,被告が本件マンションからワンブロック離れた位置を被告宅に向かって歩いている姿のみが収められており,このことは,かえって,被告の主張する上記〔2〕の事実がなかったことを推認させる。

また,Aは,平成30年8月頃に上記写真が添付された調査報告書(甲2の3)の存在を確認し,これを被告にも見せている(乙84,被告本人)ところ,当時は既に離婚調停手続の中で被告(※原告の誤記?)がAの不貞行為を主張していたのであるから(認定事実(6)エ),仮に被告の上記〔2〕の主張が正しいのだとすれば,弁護士を通じて当日の携帯電話の通話履歴を調査することもできたはずである。ところが,Aも被告もこうした調査をしていない(被告本人,弁論の全趣旨)のであって,不自然さを否定できない。

 以上によれば,被告の上記〔1〕及び〔2〕の主張はいずれも採用することができない。なお,被告は,本件調査会社が零細企業であり,依頼者である原告が望む調査結果を獲得しようとする意図が働くため,調査報告書の記載や証人Dの証言の信用性は否定される旨主張するもののようであるが,抽象的可能性を指摘するものにとどまり,上記認定を左右するものではない。

ウ Aの長女に対する発言
 Aの長女は,平成30年7月頃,その兄(Aの長男)に対し,認定事実(7)のとおりメッセージを送った事実が認められ,この事実から,Aがこの頃,長女に対し,被告との再婚を望んでいる旨の発言をしたことが推認される。
 これに対して被告は,Aは長女から誰かと再婚するつもりなのかと尋ねられ,「不貞などしていない」と答えたにすぎないにもかかわらず,長女が,被告との再婚の可能性を否定していないと捉え,週刊誌のゴシップ記事のような気持ちで長男にメッセージとして送ったものであると主張し,同旨を述べる長女の陳述書もある(乙79)。

 しかし,上記メッセージの記載は,長女がAから被告と再婚したいとの意向を直接に聞いたという趣旨に読むのが素直であるし,長女は,上記メッセージの直前において,Aと被告の不貞を疑っている旨を長男に告げたことをAに言わないでほしい,Aに伝われば今後は長女に重要な連絡は何も来なくなるという趣旨のメッセージを長男に送信しており(甲3),きょうだい間で真剣なやり取りがされていると認められるから,長女が週刊誌のゴシップ記事のような感覚で上記メッセージを送ったものとは考え難い。

また,長女は,原告と絶縁状態にあり,原告とAが離婚することに賛成している(乙79,84)から,A及び被告に有利な供述をする動機もあるといえ,これらの事情を考慮すると,事後的に作成された陳述書(乙79)のうち上記メッセージの趣旨を説明する部分を直ちに信用することはできない。
 以上によれば,被告の上記主張は採用することができない。

エ 調査報告書の証拠能力
 以上の認定においては,本件調査会社による調査報告書(甲2の2ないし2の4)を証拠として使用している。この点について被告は,これらの調査報告書は違法収集証拠であり証拠能力が否定されると主張するが,これらの調査報告書が著しく反社会的な手段を用いて人の精神的肉体的自由を拘束するなどの人権侵害を伴う方法によって採集されたものとまでは認められず,証拠能力は否定されない。

(3)以上の次第であり,被告とAは,平成30年5月15日の時点で不貞関係にあったと認められる。

3 争点(2)(原告に生じた損害の額)について
(1)慰謝料
 被告は,Aが婚姻中であることを知りつつAと前記2のとおり不貞関係を有するに至っており,このような行為は,Aの配偶者である原告に対する不法行為を構成する。そして,原告とAの夫婦関係は現時点で実質的に破たんしており(甲8,9),原告は,被告とAとの不貞関係により相応の精神的苦痛を被ったと認められる。
 もっとも,前記2によれば,不貞関係が認められる時期は平成30年5月15日以降であり,それより前に不貞関係があったと認めるに足りる証拠はない。

 そこで,この頃の原告とAの夫婦関係について検討するに,原告とAは,平成29年4月頃,Aの両親との同居をめぐって衝突し(弁論の全趣旨),同年5月には別居するに至っていること(認定事実(4)イ),同年11月には離婚調停の申立てがされていること(認定事実(6)ア),Aの長女は,原告とAの不仲は平成18年頃に決定的になったと認識していること(乙79)からすると,平成30年5月当時の原告とAとの夫婦関係が円満なものであったと認めることはできない。

 以上の点を含め,本件に関する諸般の事情を総合的に考慮し,被告の不法行為により原告が被った精神的苦痛を慰謝するための慰謝料の額は100万円とするのが相当である。


(2)調査費用
 原告は,Aの不貞行為を疑いつつもその決定的証拠が得られなかったため,本件調査会社に調査を依頼したこと,それにより,被告とAとの不貞関係が確認されたことが認められ(甲2,証人D),これらの事情や同調査の内容等に鑑みると,原告が本件調査会社に支払った調査費用59万4002円(前提事実(4))のうち30万円について,被告の不法行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

(3)弁護士費用
 被告の不貞行為と相当因果関係のある弁護士費用は,13万円と認めるのが相当である。

4 よって,原告の請求は,被告に対し143万円及びこれに対する平成30年5月15日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第43部 裁判官 金森陽介
以上:7,151文字

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