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メールやりとり・ホテル利用明細書での不貞を否認した地裁判決紹介

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令和 4年 6月 3日(金):初稿
○被告が夫と不貞行為を行ったとして妻である原告が被告に対し不法行為による損害賠償として500万円を請求し、メールのやりとりや夫が所持していたホテルの利用明細書等だけではただちに被告と原告の夫との不貞関係は認定できないとして、その請求を棄却した令和3年2月26日東京地裁判決(判時2514号○頁)理由文を紹介します。

○被告とAは,「心から愛しあって」,「愛おしく思っている」などの語を用いながら,非常に親密な内容のメールを交換していることについて、被告が帰国子女であり,「愛する」という言葉への感覚が欧米的であることによるものとの被告の弁解は、不自然・不合理で到底採用できないとしながら、「被告が,Aとの関係について,不自然不合理な主張及び供述をするからといって,被告とAが不貞行為を行っていたと推認できるものではない」として不貞行為は認めませんでした。

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主  文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 被告は,原告に対し,500万円及びこれに対する令和元年5月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
1 事案の要旨

 本件は,原告が,被告に対し,被告が原告の夫と不貞行為を行ったと主張して,不法行為に基づき,慰謝料500万円及びこれに対する不法行為後の日である令和元年5月16日(本件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

2 前提事実(当裁判所に顕著な事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
 
         (中略)

【原告の主張】
 原告は,被告とAとの間の不貞行為そのものからのみならず,被告とAの不貞関係が原因となって,Aと別居せざるを得なくなったことからも精神的損害を被っている。そして,別居という事実により発生した慰謝料請求権は,原告とAが一緒に住むことがなくなった平成28年5月に発生したものであるから,本件訴訟提起時点(平成31年4月19日)で時効期間は経過していない。

 また,原告は,被告とAとの間のメールを見た時点では,被告の住所は全く認識しておらず,氏名さえ明確には認識していなかったのであるから,弁護士に依頼して被告の住所・氏名を調査した平成30年4月が消滅時効の起算点である。
 さらにいえば,被告は,自らも家庭がありながらAと不貞行為を行い,原告とAの婚姻関係に亀裂を生じさせて別居に至らしめ,これによって原告は過酷な状況に置かれたのであるから,被告による消滅時効の援用は権利濫用である。

第3 当裁判所の判断
1 認定事実

 前記前提事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

(1) Aは,原告に対し,平成25年7月18日,離婚を申し出た。原告は,Aに理由を問い質したが,Aからの回答は,「愛情を持てなくなった。」という程度の曖昧なものであった。(甲11(2頁),原告本人(3・4頁))

(2) 原告は,平成26年12月,「ホテル幸和 渋谷店」の同月2日付けの利用明細書(以下「本件明細書」という。)を自宅で発見した。本件明細書には,平成26年12月2日19時41分から翌3日1時41分まで,上記ホテルを利用した旨が記載されていた。もっとも,原告は,本件明細書について,Aに確認することはなかった。(甲12,原告本人(4,23・24頁))

(3) 原告は,平成27年1月26日,Aの携帯電話を見て,Aと被告との間のメールのやりとりを確認した後,自身の携帯電話のメールアドレスへ転送した。原告が転送したAと被告との間でやりとりされたメールは,以下のようなものだった。(甲1,2,4ないし9,原告本人(4頁))
ア 平成26年10月21日,Aは,被告に対し,「雨が止んでたら夕方16:00から会えます〓」などとメールを送信し,被告は,Aに対し,「え?明日は予定が変わったの? お天気次第になったの?」,「Aさんとの約束と同じくらい大切な用事を貴方との約束あると思い,午後,夜共に断っているので,明日はそちらの都合の方を優先してもいいかな。お目にかかるのはまたにしましょう。」,「お互いを思いやる愛情と信頼でのみつながっている私達の儚い関係を思えば,せめて,理由を聞かせてほしいとは思わないでしょうか。」などと返信した。(甲4)

イ 同年11月16日,Aは,被告から,その日の予定を聞かれると,「書類を3時間位までに目処つけてそれから4~5時間位君を見つめる時間かな!」,「晩御飯まで一緒に食べれますがそちらの都合をベースに考えてみて下さい。そちらへ行っても構いません。」,「連絡ありがとう!昼ごはんは食べた??渋谷で待ってるね。」などと返信した。(甲5)

ウ 同年12月17日,被告が,Aに対し,「国分寺で待っていてもいいかしら。一緒にご飯を食べようね。」,「…19:00頃有楽町に到着できるけれど,いかがですか?」などとメールを送信すると,Aは,「有楽町のエストネーション(ビックカメラ横)でお会いしましょう。」と返信し,その後,被告は,「19:10 有楽町到着です。」と返信した。(甲6)

エ 同年12月20日,被告は,Aに対し,「お互いにかけがえないと奇跡のように心から愛しあって,愛おしく大切に思ってきて,何に負けてしまったんだろう。」,「…貴方が,私への愛情から難しい状況の中でふたりのために精一杯努力して,出来る限りのことをしてきてくれていたこと,ずっとずっと有難くて本当に嬉しく思っていたよ。」などとメールを送信し,Aは,被告に対し,「ねぇY 僕達まだ遅くないよ。だって,今でも心から愛してるから。」,「いつも君を愛おしく思っているし,繋がっています。」などと返信した。(甲1)

オ 同年12月27日,Aは,被告に対し,「君の隣で空気を吸いたい…」とのメールを送信し,翌28日,被告は,Aに対し,「今日も寒いね 元気?」と返信した。その後,Aは,被告に対し,「貴女を思ってます!」,「Huluで失楽園を見てしまい,更に貴女を思い焦がれてしまっております…」などと,被告は,Aに対し,「失楽園~!!私達のハッピーな様子は思い描く事ができますか(^^/」と,Aは,被告に対し,「もちろん!将来は君と僕で2人で幸せに暮らすぞ~!」とメールを送信するなどした後,Aは,被告に対し,「顔見て,頬ずりして君の手を触って隣にいたい。君とただただ寄り添っていたい。」とのメールを送信した。(甲2,7)

カ 同年○月○日,被告は,Aに対し,「もし,今も希望を感じておつきあいを続けていたら一緒にジムに行ったり出来てたのかなと思いました。今日は予定をあけていたので残念です。」などと,Aは,被告に対し,「…予定を空けておいたの先に伝えて欲しかったよ。○日大丈夫としてたのに」などとメールを送信した後,被告は,Aに対し,「どういう気持ちで会うの?また去年,一昨年の繰り返しでは??」と返信した。(甲8)

キ 同年12月31日,Aが,被告に対し,アメリカンフットボール(以下「アメフト」という。)の試合のチケットをとったので,当日(1月3日)は,水道橋駅に11時30分に集合して,昼食をともにすることを提案したところ,被告は,Aに対し,「ライスボウルのチケットもご手配ありがとう!とっても楽しみです~(絵文字)11:30水道橋ね!それから,Aさんの44歳を(絵文字)新年にふたりであらためてお祝いしましょうね(絵文字)」などと返信した。(甲9)

(4) 原告は,Aと被告との間のメールを確認した後,Aに対し,不倫ではないかと問い質したものの,Aはこれを否定した。
 その後,Aから,原告に対し,平成27年1月28日,改めるべき点は改めて,原告とやり直したいという趣旨のメールが送信されたが,原告は,Aと被告の関係が気になったため,もう少し話合いが必要だと思うと返信した。
 (乙5(5・6頁),原告本人(8,19,23・24頁))

(5) Aは,原告に対し,平成27年11月29日頃,再度,離婚を申し出て,自らの実家へ行ったものの,母から自宅に戻るよう言われたため,自宅へ帰った。しかしながら,その後,平成28年4月に香港へ長期出張に出た後,自宅へは帰らなくなった。(乙9(18頁),原告本人(11頁))

(6) 原告は,本件訴訟の尋問期日(令和2年12月4日)の直前,Aの手帳(以下「本件手帳」という。)を自宅で発見した。同手帳には,平成26年ないし平成27年のメモとして,「12/17(水)有楽町 韓国 ¥4000 ¥4000国分 1100 電車」,「5/29 … 3800ホ渋 …」,「8/8 … 国分寺6762円 …」,「9/1 … 国分泊タクシー910」などと記載されていた。(甲13,原告本人(9・10頁))

2 争点1(被告とAとの間の不貞行為の有無)について
(1) 原告は,前記第2の4(1)【原告の主張】のとおり,被告とAとの間でやりとりされたメールやBの陳述書から,被告とAとの間の不貞行為は明らかであると主張し,当事者尋問においても同旨の供述をした上で,本件利用明細書や本件手帳の記載からも,被告とAとの間の不貞行為が認められるという趣旨の供述をする。

 しかしながら,以下に説示するとおり,原告の上記主張及び供述は,いずれも採用できない。

(2)
ア すなわち,前記認定事実(3)アのメールからは,平成26年10月21日に被告とAが会う約束をしていたことや,被告とAが,「愛情」との語も用いながら,親密な内容のメールを交換していることが,同イのメールからは,同年11月16日に,被告とAが親密な内容のメールのやりとりをした上で,渋谷で会う約束をしていたことが,同ウのメールからは,同年12月17日に,被告とAが,予め待ち合わせをした上で,有楽町で会っていたことが,同エ及びオのメールからは,同年12月20日及び27日に,被告とAは,「心から愛しあって」,「愛おしく思っている」などの語を用いながら,非常に親密な内容のメールを交換していることが,同カのメールからは,Aの誕生日である○月○日に会いたかったと,被告とAが互いに思っていたことが,同キのメールからは,被告とAが,アメフトの試合を見に行く約束をしていたことが,それぞれ認められる。

 しかしながら,これらを併せても,被告とAが,非常に親密な関係にあり,また,会うことがあったことは認められるものの,それを超えて不貞行為を行っていたことまで推認できるとはいえない。

イ また,本件利用明細書や本件手帳の記載(前記認定事実(2),(6))について,原告は,これらから,被告とAがいわゆるラブホテルを利用したことや,Aが,被告が当時住んでいた国分寺を訪れたり,宿泊したりしていたことがわかるという趣旨の供述をする。

 しかしながら,本件利用明細書には,ホテルの利用日時が記載されているにすぎず,これをもって,Aが被告とともにホテルを利用したと認めることはできない。また,本件手帳には,「ホ渋」,「国分」,「国分寺」,「国分泊」との記載があり,Aが,渋谷のホテルを利用したことや,当時被告が住んでいた国分寺(被告本人(14,34・35頁))を訪れたり,国分寺に宿泊したりしたことは窺われるものの,そのことから被告とAが不貞行為に及んだと推認するのは,飛躍があるといわざるを得ない。

ウ さらに,原告は,Bの陳述書(甲10)を基に,Aは,平成25年10月頃,Bに対し,原告と離婚して,付き合っている彼女と一緒になりたいと相談し,デートの際のホテル代も彼女が支払っていると述べた,「彼女」は,Aの会社の同期であり,夫もかつてaに勤務し,平成25年10月頃ニューヨークにいて,2人の子供が学生であるというのだから,被告のことであるなどと主張する。

 しかしながら,Bの陳述書によっても,Aが交際相手の氏名をBに明かしたことは認められない上,被告は,平成25年10月頃に夫がニューヨークにいたことを否認しているのだから,Bが言うところのAの交際相手が被告であるとは断定できない。また,Bの陳述書によれば,AとBの会話は,原告と離婚して交際相手と再婚したいと述べるAに対し,Bは反対して離婚を思いとどまらせるといった流れであり,その中でデートの際のホテル代の負担などという話が突然出てくるというのは,違和感を禁じ得ない。

 以上に加え,Bは,別件訴訟においては,人証採用されたにもかかわらず尋問期日に出頭せず,本件訴訟においては,人証申出もされておらず,したがってBの陳述書は反対尋問にさらされていないのだから,これを基に上記事実を認めることはできないというべきである。

エ 以上のとおり,原告の前記主張及び供述は,いずれも採用できず,被告とAとの間に不貞行為があったと認めるに足りる証拠はないといわざるを得ないし,また,被告とAが非常に親密な関係にあったことをもって,不法行為に当たると解することが相当ともいえない。

(3) なお,付言すると,被告は,前記第2の4(1)【被告の主張】アのとおり,Aは入社同期の仲間にすぎないとした上で,前記認定事実(3)の各メールについて,
①Aが被告の父の弔問のためにメールを送信してきたが,その表現が不適切だったので,冷たく返信したものである(前記認定事実(3)アのメールについて),
②被告は,Aからの依頼で英文契約書の翻訳を手伝うことがあり,そのときの連絡のメールである(同イのメールについて),
③被告は,被告の父の葬儀に係る香典返しとして,Aから希望されたコム・デ・ギャルソンのTシャツを一緒に選ぶため,有楽町でAと待ち合わせてTシャツを購入し,Aに渡したことがあったが,そのときの連絡のメールである(同ウのメールについて),
④被告は,Aからの,会社の同期としての関係を超えた言葉に対し,Aを非難したまま放置していたところ,そのような状況は同期の仲間に対する態度として適切ではないと思い直して送ったメールである,「心から愛しあって」,「愛おしく大切に思ってきて」などの文言は,被告が帰国子女であり,「愛する」という言葉への感覚が欧米的であることによる(同エのメールについて),
⑤Aが,感情を制御できないでいるようなメールを送信してきたことから,「失楽園~!!私達のハッピーな様子は思い描く事ができますか(^^/」と返信して取り合わなかったものであり,その後のAのメールについても無視した(同オのメールについて),
⑥会社の同期として行き過ぎた言動をAがすることなく,同期にふさわしい関係が維持され,長い人生のなかで生起する様々な困難をともに乗り越えていけるという希望を持てる状況であれば,一緒にジムでトレーニングをしたかったという述懐である(同カのメールについて),
⑦被告は,アメフト観戦が趣味の1つであり,かつてアメフト選手だったAから解説してもらうのは,今後の観戦の勉強になるだろうと思って約束したのであり,Aの誕生日をお祝いしようというのは社交辞令である(同キのメールについて)
などと主張し,又は供述をするが,いずれも不自然不合理であって,到底採用できない。

 しかしながら,被告が,Aとの関係について,不自然不合理な主張及び供述をするからといって,被告とAが不貞行為を行っていたと推認できるものではなく,他に同人らが不貞行為を行っていたことを認めるに足りる証拠がないのは,前記説示のとおりである。

3 争点2(原告の損害)及び争点3(消滅時効の成否)について
 前記説示のとおり,被告とAとの間の不貞行為が認められないのであるから,争点2(原告の損害)及び争点3(消滅時効の成否)については,判断の要を認めない。

第4 結論
 よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
 東京地方裁判所民事第49部 (裁判官 滝澤英治)
以上:6,599文字

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