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多数回ラブホテルに滞在するも不貞行為を否認した地裁判決紹介

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令和 4年 2月15日(火):初稿
○「ホテルへ行ったが一線は越えていないとの言い訳が通用した判例紹介」で、「被告とCとの間に単なる職場の部下と上司の関係を越えた男女関係があったことが疑われ,ホテルに入った経緯については,陳述内容に変遷が認められるものの,不貞行為そのものについて,本件証拠上も認定するには至らない」との判断をした平成25年1月30日東京地裁判決(TKC)全文を紹介していました。

○同種事案で、既婚男性と独身女性が,多数回,一緒に,宿泊したり,ラブホテルに滞在したりした事実があるにもかかわらず,両者の間でやり取りされたLINEの内容等に鑑みて,両者が不貞行為に及んだ事実は認定できないとした令和2年12月23日福岡地裁判決(判タ1491号195頁)判断部分を紹介します。

○事実関係として、原告の夫乙(警察官)と被告(看護師)が,多数回,一緒に旅行して同室に宿泊し,しかも,ダブルベッドの設置された部屋やラブホテルに宿泊することも少なくなかったことは争いが無く、争いは、性行為まで至ったかどうか、即ち一線を越えたかどうかの争いで、判決は、これを極めて強く推認させる事情があるが、他方,この推認に重大な疑問を差し挟む事情があり、結論として,本件不貞行為の存在については,証明不十分として請求を棄却しました。

○乙は原告との離婚に際し、慰謝料として150万円を支払っており、原告はこの支払をもって乙が不貞行為を認めたと主張しているようですが、乙は否認し、判決は、合理性のない弁解ということはできず,その信用性を否定することはできないと、不貞行為を認めたとは認定していません。

○一線を越えていなくても、ラブホテル等への同行自体に不法行為を認めて数十万円の慰謝料支払を認めた事案はありますが、本件で原告の請求を全て棄却したのは、乙が150万円を支払済みであることも考慮されたのかも知れません。日本以外の文明国のようにこの種事案では金銭請求はできないとした方が、余計な争いはなくなると思うのですが、日本では金銭請求を認めているため、この種争いが絶えず、却って増えているようにも感じます。それが弁護士の仕事のタネになっていることが複雑な心境です(^^;)。

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主   文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請

 被告は,原告に対し,500万円及びこれに対する令和元年12月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事実関係
1 事案の概要

 本件は,原告(女性)が,被告(女性)は,原告とZ(男性。以下「Z」という。)が婚姻関係にあることを知りながら,Zと不貞行為に及んだと主張して,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償請求として,慰謝料500万円及びこれに対する不法行為の日以後の日である令和元年12月27日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法(ただし,平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

2 前提事実
 以下の事実は,当事者間に争いがないか,又は,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる。
(1)当事者
ア 原告は,昭和42年9月*日生まれの女性であり,本件当時はパート勤務をしていた(甲1,乙14)。
 Zは,昭和40年9月*日生まれの男性であり,福岡県A警察署に勤務する警察官である(乙7)。
 原告とZは,平成4年2月*日,婚姻し,3人の子をもうけたが,令和元年9月*日,調停(福岡家庭裁判所令和元年(家イ)第1543号)により離婚した(甲1,乙3の1,2)。

イ 被告は,昭和43年8月*日生まれの女性である。
 被告は,平成15年に夫と死別しているが,3人の子を有する。
 被告は,平成27年12月から,医療法人B会C病院(以下「C病院」という。)で看護師として勤務していたが,令和元年7月,退職した。

(2)被告とZの交際
ア 被告とZは,平成29年8月に知り合った。
イ 被告とZは,平成30年10月以降,一緒に,東京,沖縄県石垣島,北海道等を訪問して宿泊し,また,福岡市内のラブホテルに相当回数宿泊した。

3 争点
(1)被告がZと不貞行為に及んだか否か(不貞行為の有無)


         (中略)

第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(不貞行為の有無)について
(1)認定事実

前記前提事実,証拠(甲13,乙5~12,証人Z,原告及び被告各本人のほかは,掲記のとおり)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 被告とZの出会い等
(ア)Zは,自分の両親の夫婦生活は悲惨なものであったと考えており,人間関係等において生き辛さを感じていた(乙3の3)。
 Zは,平成11年頃から,心理学の講座を受講し,その勉強を開始した(乙3の2)。
 Zは,双極性障害という診断を受け,平成19年,反復性うつ病により3か月間入院した(乙3の2,3)。

         (中略)


(2)争点についての判断
ア 原告は,被告は,原告とZが婚姻関係にあることを知りながら,遅くとも平成30年1月頃から,本件不貞行為に及んだと主張するが,被告は,本件不貞行為の存在を一貫して否認する。

 前記認定のとおり,成人の男女である被告とZは,多数回,一緒に旅行して同室に宿泊し,しかも,ダブルベッドの設置された部屋やラブホテルに宿泊することも少なくなかった。
 また,一般に,「不倫」とは,既婚者が配偶者以外の相手と性行為に及ぶことを意味する言葉であるが,被告は,Zに対し,「やっぱり悪いことは出来ないです。不倫でしかないと思いました。」などのメールを送り,Zは,被告に対し,「神の前で 俺たちは不純なのかな あなたが不倫という言葉を使う限り,きっとそうなのでしょう。」などのメールを送っている。

 これらの事実に照らせば,被告とZが性行為に及んだ事実が極めて強く推認される。

イ ところで,被告とZのメールのやり取りは,前記認定のとおり,いずれもアダルト・チルドレンかつ共依存症であると自覚する両者が,精神世界の理論についてマンツーマンで相互学習するという精神的に緊密なつながりのある師弟関係にある上,第三者の介在を排除した2人だけの閉じられた世界で行ったものであるため,その表現は,ときに,妄想的,夢想的あるいは宗教的であったり,比喩的あるいは誇張的であったりし,また,言葉遊びの要素や,自己陶酔的あるいは自意識過剰な部分も見受けられることから,その内容を正確に理解することは必ずしも容易ではない。

 そこで,上記のような被告とZの特殊な関係等を踏まえ,両者の間に性行為があったか否かという観点から,両者のメールのやり取りを再度精査することとする。
 まず,Zのメールのうち「肉体関係は諦めたとしても あなたとの楽しみや喜びは失っていないと信じています。」,「俺が今抱えている衝動は すぐにでも あなたに触れていたい←肉体的にね。そして,俺が勝手に我慢しているだけなのだろうけどね。」及び「欲望のままに逢いたい,セックスしたいなんて言えない,言えない。そうなったら,俺自身や二人の関係は終わるだろうなと思っています。」などのメールは,被告に対して性的な欲望を抱き性行為を望みながらも,それが実現したときには両者の関係が終了すると予想されるため,そのような事態に至らないように,性的な欲望を抑え性行為を諦める心情を示すものであり,同じく「俺は 俺の性欲と闘っているのさ。中学生ではないけれど,二人の関係を汚してはいけないと思いこんでいます。」及び「結婚を解消していない俺があなたの体を求めることはいけないことだ。と思っているのは,俺のひとりよがりなの?」などのメールも,既婚者である自分が被告に性行為を求めることは倫理的に許されないという判断の下,葛藤しながらも,性的な欲望を抑え,被告に性行為を求めることを自制しているという認識を示すものであって,いずれも本件不貞行為の存在を前提にするものとは考え難い。

 次に,被告のメールのうち「私は恋人でも彼女でもない。シアリングパートナーだから。」及び「シアリングパートナーを貫いたほうが良いと思います。なので,学習以外は会いません。愛してるとかも言いません。誤解を招くような事もしません。」などのメールは,自分は,Zと性的な関係にはなく,あくまで相互学習における分かち合いの相手(シェアリングパートナー)という立場であって,それに徹するべきという認識を示すものであり,また,Zの前記「欲望のままに逢いたい,セックスしたいなんて言えない,言えない。」などというメールに対し,被告は「境界線引いて伺っています」と返信しているが,これは,Zが反語的な表現を用いて性行為を求めるのに対し,その土俵に乗ることなく受け流しているものと理解され,これらも本件不貞行為の存在を前提にするものとは考え難い。

 このような被告とZのメールのやり取りに鑑みると,前記アで述べた推認には重大な疑問を差し挟む余地があるといわざるを得ない。

ウ 被告は,メールの中で「不倫」という言葉を使用したことについて,学習のために2人が密かにラブホテルに出入りすること自体を指し,あるいは,Zが被告を性的な関係に誘う言動に及んだときにこれを諫めるために使用したものであると主張するが,上記のようなメールのやり取りを両者の特殊な関係等を踏まえて解釈し直せば,被告の上記主張は必ずしも理解できないものではなく,被告が両者の関係について「不倫」という言葉を使用したからといって,直ちに本件不貞行為の存在を認めることはできない。

 また,被告は,Zと一緒に旅行して同室に宿泊し,しかも,ダブルベッドの設置された部屋やラブホテルに宿泊することもあったことについて,その理由として,学習に関するDVDの視聴,書物の読み合わせ,ロールプレーや分かち合いを行うために,プライバシーが保障される空間や設備が必要であることや,同室にする方が料金が一室分で済むし,ラブホテルは一日単位ではなく時間単位での料金制であるため,料金を低額に抑えられることを挙げるが,Zと同室に宿泊したりラブホテルを利用したりした理由として相応のものといえるから,被告の上記主張をおよそ合理性のない弁解と断定して直ちに排斥することはできない。

 さらに,被告は,Zと行動をともにした目的について,平成30年1月14日の熊本行きはギャマノン九州エリア合同オープンミーティングへの参加であり(乙5),同年10月1日から同月4日にかけての東京行きはASKで開催されたグリーフワークの受講等であり(乙11),同月18日から同月19日にかけての福岡市立今宿野外活動センターにおける宿泊は境界線に関する学習であり,平成31年1月23日から同月25日にかけての石垣島行きは「自分軸」の実践及び自分の人生の責任は自分で負うという内容のDVD「I AM」の視聴等であり,令和元年5月18日から同月21日にかけての東京行きはASKで開催されたトゥルーカラーズ(対人関係とコミュニケーションの講座)の入門及び実践講座の受講等であり,同年7月18日から同月20日にかけての北海道行きは「第16回当事者研究全国交流集会IN浦河」への参加であったと説明し(乙6),Zとラブホテルに宿泊した目的についても,AHのファシリテーター・トレーニング(乙9)等のDVDの視聴や学習に関する書物の読み合わせ等であったと説明しているが(乙6),これらは,本件契約書の「3 具体的な進め方」の内容とも符合していて両者による相互学習の一環と捉えることができ,逆に,これを離れて両者が行動をともにした場面は特に見当たらない。

 加えて、被告は,令和元年6月22日午前6時36分頃,被告とZがラブホテルを出る際に手をつないでいたことについて,自分が羞恥心が強いため,いかがわしい場所であるラブホテルを出る姿を知合いに見られることを怖れて,出るのを躊躇しているときに,前方にいたZが被告を促す目的でその手を取って引っ張った瞬間を撮影されたものにすぎず,性的な意味合いを含む親密な接触ではない旨主張するが,甲第2号証14頁の写真等における両者の態勢や表情等からすれば,被告の上記主張をおよそ合理性のない弁解と断定して直ちに排斥することはできない。
 
 なお,Zは,原告と離婚するに際し,原告に対し慰謝料として150万円を支払っており,これについて,Zは,離婚を早期に成立させるために名目については異議を述べなかったにすぎず,本件不貞行為を認めたものではないと供述するが,Zの上記供述をおよそ合理性のない弁解ということはできず,その信用性を否定することはできない。

エ このように,本件不貞行為の存在について,一方で,前記アのとおり,これを極めて強く推認させる事情があるものの,他方で,前記イのとおり,上記推認に重大な疑問を差し挟む事情があるため上記推認は動揺することとなり,これに前記ウの事情を併せ考慮しても,その疑問は払拭されず,未だ真実性の確信を抱くには至らないから,結論として,本件不貞行為の存在については,証明不十分といわざるを得ない。

3 まとめ
 以上のとおり,被告が本件不貞行為に及んだ事実を認めることはできず,不法行為の存在が認められないから,原告の請求はその成立要件を欠くものである。

第4 結論
 よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。(裁判官 中園浩一郎)


以上:5,564文字

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