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不貞行為につき名誉侵害による慰藉料支払義務を認めた地裁判決紹介2

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令和 3年 8月12日(木):初稿
○「不貞行為につき名誉侵害による慰藉料支払義務を認めた地裁判決紹介1」を続けます。500万円の請求について30万円の支払を命じた昭和49年12月25日千葉地裁判決(判時782号69頁)の慰謝料金額認定理由部分です。

○この判決を知ったのは、北口雅章弁護士のブログ「江田五月先生のご逝去を悼む」でした。元参議院議長江田五月氏が令和3年7月28日死去したとのニュースは知っていましたが、北口弁護士と違い私は江田氏には余り良い感情を持っていませんでした。江田氏は、東大法学部首席卒業・司法試験は昭和40年、大学4年に席次10番で一発合格した典型的エリート裁判官ですが、その裁判官時代に、受験雑誌に司法試験を3回落ちるような人間は受験を止めよと述べていたからです。

○当時、受験生で3回ほど司法試験を落ちていた私は、お前のような出来の悪い人間は司法試験受験なんて止めよと言われた気がして、強く反発を感じ、江田氏は、正にエリートですが、エリート意識の強い高慢な方と認識しました。当時、司法試験は最難関国家試験で、10年20年受験勉強をして結局合格せず人生を無駄にした方も多く、そんな無駄なことは止めよと江田氏は言っていたと記憶しています。

○確かに江田氏の言うことは合理性があります。しかし、一発合格したエリートにそのようなことを言われたら、私のようななかなか受からない出来の悪い受験生はどう感じるかを全く思い至らない方と思いました。私は反発を感じたこともあり、4回目で何とか合格できました。その意味では、江田氏に感謝です(^^;)。

○北口弁護士は、その江田氏を高く評価し、裁判官時代の判決を全て集めて印刷して熟読玩味し、「江田五月先生の頭が切れることは,判決文を読めば,その論旨の明快さ,表現の的確さに加え,結論の妥当性から納得できる。若い法曹の方々,特に裁判官の方々には,是非とも読んでもらいたいものだ。」と述べています。

○その優秀な判決の一例として挙げたのが昭和49年12月25日千葉地裁判決です。私もこの判決だけ熟読玩味しましたが、確かに素晴らしい判決で、結論を導く論旨は大変説得力があり、江田氏の優秀さが判ります。昭和49年でこのような発想を持たれていた方であれば、現在なら請求棄却と結論付けるのではと感じて紹介しました。

○「原告の受けた屈辱感は計り知れない」としながら、「被告は、23才のまだ異性関係の経験のない青年の時、既に結婚生活7年以上で36才のAから誘われ、またAへの同情もあって、勢いのおもむくままAと深い関係に入ったのであり、被告に節度を期待できないわけではないが、Aに節度と思慮を期待する方が常識に合致し、Aの節度と思慮のないことを被告の責に帰することはできない。さらに、被告は、自ら進んでAとの関係を清算している。」として500万円の請求に対し、30万円の支払を認めています。

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第四 精神的損害―慰藉料の額
一 原告は、原告の蒙った精神的損害に対する慰藉料につき特に斟酌すべき事情としてAの死亡、被告の原告に対するAとの夫婦然とした振舞い、原告とAとの家庭生活の破壊及び長女花子の性格への影響を主張するので、これらの点につき順次判断する。

二 Aが心臓に疾患を有していた事実は前記認定のとおりである。又、Aの死が右心臓疾患に起因するものであることは、その疾患の事実及び前記認定のとおりの死の態様に照らせば、容易に推認できる。さらに、≪証拠省略≫によれば、前記認定のとおりの被告とAとの性的交渉等の異性関係並びにAの外出と外泊及び精神的苦悩が、Aの右心臓疾患に悪影響を及ぼす種類のものである事実を認めることができる。

しかし、前記認定のとおり、Aは被告と行動を共にしている間特に心臓疾患による異常を来たすことはなく、Aと被告との性的交渉はAの死亡の約4か月前が最後であり、さらにAは死亡前2か月間は体調に異常がなかったのであり、これらの事実に照らせば、前記各事実によっても本件において具体的に右の諸点がAの死亡又はその早期到来と因果関係を有していると推認することはできない。≪証拠省略≫によっても右因果関係を認めるには足りない。他に右因果関係を認めるに足りる証拠はない。そうすると、本件慰藉料の算定につき、Aの死亡を特に斟酌することはできない。

三 原告が昭和47年3月10日申立てた離婚調停の調停期日に、被告が、Aを千葉家庭裁判所佐倉支部まで自動車で送り迎えした事実は当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によれば、右調停の間被告が待機していた事実を認めることができる。しかし、その際被告とAが夫婦然としていた事実を認めるに足りる証拠はなく、逆に、≪証拠省略≫によれば、被告は、単にAに依頼されて送迎の役を果したのみである事実を認めることができ、≪証拠省略≫によれば、原告は、Aの死後メモ等を発見するまで、Aが被告に送迎された事実を知らなかった事実を認めることができる。

又、原告が被告とAの関係をメモ等の発見まで知らなかった事実は前記認定のとおりであるから、右事実に照らせば、被告とAは原告の面前で夫婦然と振舞ったことはないと推認できる。他に、被告とAが、原告、被告又はAの知人に対し夫婦然と振舞った事実については主張・立証がない。そうすると、本件慰藉料の算定につき、被告とAの夫婦然とした振舞いを特に斟酌することはできない。

四 Aが、昭和45年暮ころから原告の注意と指示を無視して外出し外泊する度合が増し家庭を顧みなくなった事実は前記認定のとおりである。又、Aが昭和47年10月末に家庭に落着いた事実も前記認定のとおりである。さらに、前記認定の事実に照らせば、被告とAとの異性関係は最も長期をとると最初のドライブである昭和45年8月からAが被告に別離の手紙を書いた昭和47年10月ころまで継続したと考えられる。

そうすると、Aの原告に背き家庭を顧みなくなった時期と被告とAの異性関係の継続した時期とは、ほぼ符合しており、この事実は、被告とAの異性関係の継続とAが原告に背き家庭を顧みなくなったこととの因果関係を推認させるべき事実といいうる。しかし、反面、前記認定のとおり、Aは、昭和45年3月に千葉へ移転してから、家事と治療のみの生活に倦み、これに不満を持っており、又、被告に対する最初の手紙で、被告に対し、原告に対する強い憎しみを告白している。

さらに、≪証拠省略≫によれば、Aは、昭和45年10月12日に被告に対して書いた手紙で、被告に対し、原告との関係を形式を装った夫婦で針のむしろであると形容して、原告に対する憤懣を述べている事実を認めることができる。右のAの被告に対する言動は、被告の同情を買うために事実を誇張していると考えられない訳ではないが、その点を割引いても、Aが、被告との異性関係の初期の段階で、性的交渉を持つ以前に、被告に対し右のような言動をしている事実に照らせば、Aは、被告との異性関係の始まる前から、原告に対し、不満と憤懣を有していた事実を推認することができる。

 また、≪証拠省略≫によれば、Aの生年月日が昭和9年11月14日である事実を認めることができ、被告の生年月日が昭和22年6月13日である事実は前記認定のとおりであるから、被告とAとの異性関係の始まったころ、被告は23才、Aは36才であったことになり、前記認定のとおりの被告とAとの異性関係の始まりの状況を考えると、Aは、13才も年下の顔見知り程度に過ぎない若者を誘ったのであり、この事実も、右推認を裏付けるものといえよう。前認定のとおり原告とAの夫婦生活に○○市に移転するまで格別の波瀾がなかった事実によっても、右推認を覆えすに足りない。他に右推認を覆えすに足りる事実の主張・立証はない。

以上の事実に照らせば前記期間の符合の事実によっても、被告とAの異性関係の継続とAが原告に背き家庭を顧みなくなったこととの間の因果関係を推認することはできず、むしろ、Aの原告に対する不満や憤懣が正当なものであるかどうかは別として、そのような不満と憤懣があったからこそ、Aは原告に背き家庭を顧みなくなり、又被告と異性関係を継続したというべきであって、被告との異性関係の継続は、Aが原告に背き家庭を顧みなくなるのを助長したことはあっても、これの原因であるというべきものではない。

右の助長の点については、逆に原告に対する不満と憤懣が、Aを原告と家庭から離反させ、それがAの被告に対する慕情を募らせて異性関係の継続を助長したともいいうるのであって、どちらが因でどちらが果であるかを決するに足りる証拠はない。前記のとおり、原告は、Aのメモ等を発見するまで、被告とAとの異性関係を知らなかったのであるから、被告とAとの異性関係が原告を家庭生活の破壊へと導いたということはできない。

また、被告とAの異性関係の継続がAの原告に背き家庭を顧みなくなったことに寄与した度合いを確定するに足りる証拠もない。また、Aが原告に背き家庭を顧みなくなった事実以外に、被告とAとの異性関係の継続と因果関係を有する家庭破壊の行動をAがとった事実については、主張・立証がない。そうすると、本件慰藉料の算定につき、原告とAとの家庭生活の破壊を特に斟酌することはできない。

五 原告とAとの長女花子の性格への影響については、前記のとおり被告とAとの異性関係の継続が原告とAと家庭生活の破壊と因果関係を有することが認められない以上、前提を欠き、本件慰藉料の算定につき、右の点を特に斟酌することはできない。

六 当裁判所が、本件慰藉料の算定にあたって特に斟酌した事情は、左記のとおりである。左記事情は、いずれも前記認定のとおりの事実である。

 原告は、Aの心臓疾患への影響を配慮し、Aとの性的交渉を極力抑制し、Aを慈しみ十分保護してきたのに、そのAの貞操を害され、しかもそれをAの死亡まで知らなかった点において、原告の受けた屈辱感は計り知れない。

しかし、被告は、23才のまだ異性関係の経験のない青年の時、既に結婚生活7年以上で36才のAから誘われ、またAへの同情もあって、勢いのおもむくままAと深い関係に入ったのであり、被告に節度を期待できないわけではないが、Aに節度と思慮を期待する方が常識に合致し、Aの節度と思慮のないことを被告の責に帰することはできない。さらに、被告は、自ら進んでAとの関係を清算している。

 以上の事実のほか、前記認定の各事実に照らせば、被告の本件不法行為により原告の蒙った精神的苦痛につき、原告が被告に対して求めうる慰藉料としては、金30万円が相当である。


第五 よって、原告の本訴請求については、被告に対し、慰藉料として右金30万円の支払いを求める部分は正当であるから、これを認容し、その余は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法89条、92条、仮執行の宣言につき同法196条をそれぞれ適用し、主文のとおり判決する。
 (裁判官 江田五月)
以上:4,537文字

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