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不貞行為者慰謝料に配偶者慰謝料補填を認め請求棄却した地裁判決紹介

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令和 2年 8月10日(月):初稿
○「配偶者慰謝料に不貞行為者慰謝料補填を認め請求棄却した地裁判決紹介2」の続きで、不貞行為第三者が支払った慰謝料が、不貞行為をした配偶者の慰謝料への充当を認めて、原告夫から被告妻への不貞行為による慰謝料請求を棄却した平成26年3月25日東京地裁判決(ウエストロー・ジャパン)を紹介します。

○原告夫は、妻の不貞行為相手Aに対し、慰謝料請求の訴えを提起し、Aが原告に対し金300万円を支払い、他に一切債権債務がないことを認めるとの内容の裁判上の和解をし、Aは原告に300万円を支払っていました。

○その後、原告夫は被告妻に対し、不貞行為をして一方的に別居したことについて不法行為に基づき、慰謝料、調査会社費用、カウンセリング費用及び弁護士費用合計約910万円も請求しました。判決は、妻の不貞行為による慰謝料支払義務は200万円と認めましたが、Aが300万円支払ったことにより消滅したとして、原告の請求を棄却しました。

○原告夫は、妻の不貞行為調査のため興信所を依頼して、約327万円も支払っていました。結局、Aから受領した慰謝料300万円は興信所費用全額にも満たないものでした。不貞行為に慰謝料を認める制度は、興信所と弁護士業界の需要を起こしています。

○日本以外の文明国の殆どは、こんな慰謝料を認める制度は廃止しているのですが、日本では、止めた方が良いとの声が強くならないのが不思議です。それどころか不倫実行者を、関係ない第三者(マスコミ等)が叩く傾向が益々強くなっているのが益々不思議です。

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主   文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
 
事実及び理由
第1 請求

 被告は、原告に対し、909万8230円及びこれに対する平成23年1月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要等
1 本件は、原告が、妻である被告に対し、同人が不貞行為をした上、原告の承諾を得ずに一方的に同居を解消して家を出て行き、悪意の遺棄をしたなどと主張し、不法行為に基づき、慰謝料、調査会社費用、カウンセリング費用及び弁護士費用の損害賠償を求める事案である。

2 前提となる事実(争いのない事実以外の事実は括弧内に記載の証拠等によって認める。)
(1) 原告と被告は、平成5年12月16日婚姻し、同居を開始した。原告と被告との間に子供はいない。

(2) 被告とA(以下「A」という。)は、会社の同僚である。被告とAは、遅くとも平成22年12月ころまでには、交際を開始し、遅くとも平成23年2月ころには性的関係を持った(甲2、3、弁論の全趣旨)。

(3) 原告と被告は、平成23年2月20日までに、別居した。

(4) 原告は、Aに対し、被告とAの不貞行為について、不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起したが、原告とAは、平成24年7月6日、①Aが原告に対し、慰謝料として300万円を支払う、②原告とAは、原告とAとの間には、本和解条項において定めるもののほかに何らの債権債務がないことを相互に確認することなどを内容とする裁判上の和解(以下「本件和解」という。)をした。Aは、本件和解に基づき、原告に対し、平成24年7月24日、300万円を支払った。

3 争点及び当事者の主張
(1) 被告とAが不貞行為に及んだのは、原告と被告の婚姻関係が破綻した後か

(被告の主張)
 婚姻当初より、原告と被告との間の性的関係は希薄で、被告は原告に不満を抱いていた。また、原告と被告は、平成8年に二世帯住宅を建て、被告の両親と同住宅に居住するようになったが、原告は、被告の両親と些細なことから不和となった。さらに、原告から被告への会話は、婚姻当初から多い方ではなかったが、徐々に少なくなり、しかも、仕事や人間関係の愚痴が多かった。加えて、原告は物を捨てない性格で、リビング等の共同生活の場にも原告の書類が散乱しており、被告が整理すると、原告は激怒した。そして、平成22年、被告は勤務先での米国への赴任を辞退することを原告に相談したが、原告は親身に話を聞くことはなかった。このようなことが積み重なり、被告は、原告に対する不信感を募らせるに至っており、被告とAの不貞行為開始前に原告と被告の婚姻関係は既に破綻していた。

(原告の主張)
 原告と被告とも残業で帰宅が遅かったことを考慮すれば、原告と被告との間の性的関係が希薄であったとはいえない。原告と被告の両親が不和であったということはない。原告と被告は、会話が少ないということはなく、お互いに職場での悩み事を打ち明けて相談していた。さらに、床に散乱していた書類等には被告のものも含まれており、お互い様である。原告と被告は、被告が自宅を出るまで夫婦として仲良く暮らしていた。
 被告とAの不貞行為開始前に原告と被告との婚姻関係が破綻していたといえるような事情はない。

(2) 被告は、原告に対し、悪意の遺棄をしたか
(原告の主張)
 被告は、平成23年2月8日は、原告の承諾を得ずに一方的に同居を解消して自宅を出ており、これは悪意の遺棄に該当する。

(被告の主張)
 被告は、一方的に別居を開始したわけではない。被告は、夫婦の不和から、別居前に何度か「別れて暮らしたい。」と原告に伝えていたものの、原告から回答は得られなかった。原告自身、別居後に自宅に戻った被告に対し、「顔も見たくないから出て行ってくれ。」と述べたことさえある。このように、かねてより被告が原告に対し別居の希望を述べていたこと、原告は反対の意思を示さなかったこと、原告自身が別居を追認する発言をしたことに照らせば、別居について被告が専ら非難されるべきではなく、被告が悪意の遺棄をしたとはいえない。
 なお、被告と原告が別居したのは、平成23年2月20日である。

(3) 原告の請求可能額
(原告の主張)
ア 慰謝料
 被告の不貞行為及び悪意の遺棄により原告の受けた精神的苦痛を金額に換算すると、1000万円を下らない。本件訴訟においては、本件和解に基づき、Aから支払を受けた300万円を控除した残額700万円のうち、500万円を請求する。

イ 調査費用
 被告が不貞行為をしているかどうかを素人である原告が調査するのは困難であり、事実の有無等を把握するためには調査会社等の専門機関に依頼することが不可欠である。原告は、被告が不貞行為をしているかどうかを調査するため、調査会社に依頼し、326万7480円を支出しているところ、これも被告の不法行為と相当因果関係のある損害である。

ウ カウンセリング費用
 原告は、平成23年1月2日の被告とAの行動について調査会社から同日に報告を受け、被告の不貞行為について初めて知り、精神的に苦しみ、同月6日、NPO法人のカウンセリングを受けた。被告が不貞行為をしていなければ、原告はこのような苦しみを受けず、この苦しみを少しでも軽減すべく原告はカウンセリングを受けたから、その費用33万0750円も被告の不法行為と相当因果関係のある損害となる。

エ 弁護士費用 50万円

(被告の主張)
 争う。
 慰謝料は不真正連帯債務であり、本件和解に基づき、Aが原告に対し、300万円を支払ったことにより、被告は給付義務を免れる。なお、本件和解の精算条項からも、Aの慰謝料300万円の支払は一部支払ではなく、全額の支払であることは明らかである。
 調査費用及びカウンセリング費用は被告の不法行為と相当因果関係のある損害とはいえない。また、原告は、本件和解において、調査費用及びカウンセリング費用も含めて請求を既に放棄している。

第3 当裁判所の判断
1 被告とAが不貞行為に及んだのは、原告と被告の婚姻関係が破綻した後か被告は、被告とAが不貞行為に及んだのは、原告と被告の婚姻関係が破綻した後であるとする事情について、具体的な立証をしていない。したがって、被告とAが不貞行為に及んだのは、原告と被告の婚姻関係が破綻した後であると認めることはできない。

2 被告は、原告に対し、悪意の遺棄をしたか
 被告は、平成23年2月中旬ころ、自宅を出て原告と別居している。そして、証拠(甲6)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、原告に対し、それ以前から別居を希望する意思を示していたことは認められるものの、原告がこれを承諾したことはなく、別居することについて、正当な理由は見当たらないから、被告は、一方的に原告と別居したと言わざるを得ない。

 したがって、被告は、平成23年2月中旬ころ、原告に対し、悪意の遺棄をしたと認められる(なお、別居後、原告が自宅に戻った被告に対し、「顔も見たくないから出て行ってくれ。」と言ったとしても、これだけで原告が被告による悪意の遺棄を許したとみることはできないから、被告が悪意の遺棄をしたことについて、責任を負わないことになるわけではない。)。

3 原告の請求可能額
(1) 慰謝料
 被告のAとの不貞行為及び原告に対する悪意の遺棄という一連の不法行為(以下「本件不法行為」という。)により、別居まで17年余り続いていた原告と被告の婚姻関係が破綻に至っていること、被告とAは、原告と被告の別居後も交際を継続していること(甲4)、原告は、被告の不貞行為の有無の調査のために被告の行動調査を調査会社に依頼し、調査費用として合計326万7480円を支出していること(甲7から10)、原告は、33万0750円のカウンセリング費用を支出してNPO日本家族問題相談連盟のカウンセリングを受けていること(甲11)からすると、原告の受けた精神的苦痛は大きなものがあるということができる。そして、原告と被告の婚姻関係が破綻に至ったことについて、原告にさしたる落ち度は見当たらないことを考慮すると、本件不法行為により原告に生じた精神的苦痛を慰謝するには、200万円が相当である。

 もっとも、被告の本件不法行為はAとの共同不法行為であり、Aが原告に対し、本件和解に基づき、被告と不貞行為に及んだ慰謝料として300万円を支払ったことにより、原告は本件不法行為に関する慰謝料の填補を受けたことになるから、被告に対し、さらに慰謝料の支払を請求することはできない

(2) 調査費用
 被告の不貞行為の有無を調査するための調査費用の支出は、原告が被告の不貞行為を立証するための証拠方法の一つを収集するためのものにすぎず、慰謝料の算定に当たって考慮することができるに留まるもので、本件不法行為と相当因果関係のある損害とはいえない。

(3) カウンセリング費用
 前記のとおり、原告がカウンセリング費用として33万0750円を支出したことは認められるものの、これは本件不法行為により受けた精神的苦痛を和らげるためのものであり、慰謝料の算定において評価し尽くされており、慰謝料と独立して損害として計上すべきものではなく、本件不法行為と相当因果関係のある損害であるとはいえない。

(4) 弁護士費用
 原告は、被告に対し、慰謝料、調査費用及びカウンセリング費用の損害賠償を請求することはできないから、その賠償を請求するための弁護士費用は本件不法行為と相当因果関係のある損害とはいえない。

4 結論
 以上の次第で、原告が被告に対し、本件不法行為に基づき、賠償を求めている損害は、既に填補済みか本件不法行為と相当因果関係があるとは認められないものであるから、原告は、被告に対し損害賠償を請求することができない。
 よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
 (裁判官 小川弘持)
以上:4,739文字

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