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住宅ローン支払合意付養育費額は不可分一体とした高裁決定紹介

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令和 2年 7月22日(水):初稿
○「減収・再婚等による事情変更による養育費減額を認めた家裁審判紹介」の続きでその控訴審令和1年8月19日東京高等裁判所決定(判例時報2443号18頁)を紹介します。

○東京高裁決定は、協議離婚時に公正証書で定めた養育費の額(合計月額15万円)が住宅ローンの支払に関する合意と不可分一体のものとなっており、合意の真の意味は、未成年者らの養育監護に使用される実際の養育費としては、住宅ローン月額支払額10万円相当額を除いた、月額合計5万円を抗告人に支払うことを約するものであるとして、前記公正証書で定めた養育費の減額請求につき、住宅ローンに関する合意と切り離して養育費のみを減額することは相当でないとし、これを認めた原審判を取り消して、申立てを却下しました。

○しかし、養育費支払者の父は、収入の大幅減額により、子ども達のために月額10万円の住宅ローンと養育費5万円の合計15万円を支払うことが厳しくなってきたため養育費減額申立をしたのであり、この決定のままでは住宅ローン支払が遅滞する可能性があります。

○そこで、決定では「本件住居につき抗告人及び未成年者らが無償で居住すること及びその最終的な取得者が抗告人となることが本件公正証書において定められている点に鑑みると、本件における問題の解決のためには、抗告人の父を含めた関係当事者において、住宅ローンの支払や本件差引条項等を含めた本件公正証書による合意の見直しを協議することが有益であることは当然であるから、その旨念のため注意喚起する」としています。

○この「本件公正証書による合意の見直し」の協議をいかなる手続で行うかはちと難しいところです。

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主   文
1 原審判を取り消す。
2 相手方の申立てを却下する。
3 手続費用は、第1、2審を通じ各自の負担とする。

理   由
(以下において略称を用いるときは、別途定めるほか、原審判に同じ。)

第1 事案の概要
 本件は、相手方(原審申立人)が抗告人(原審相手方)に対し、平成28年7月8日に作成された離婚給付等契約公正証書の2条1項により相手方が抗告人に支払うべきものとされた未成年者らの養育費の額(一人につき月額5万円)を未成年者一人につき月額3万円に変更することを求める申立てをした事案である。

 原審裁判所は、平成31年3月26日、上記養育費の額を未成年者1人につき月額2万6000円に変更する旨の審判をしたところ、抗告人は、これを不服として、抗告を申し立てた。

第2 抗告の趣旨及び理由
 抗告の趣旨及び理由は、別紙即時抗告申立書《略》に記載のとおりである。
 抗告理由の要旨は、本件公正証書における養育費に関する合意内容は単に養育費の額を定めるのにとどまらず、本件住居に係る住宅ローンの支払状況と関連付けられたものであり、相手方が住宅ローン月額10万円を支払っている場合には,その支払額を養育費から差し引く旨の条項(以下「本件差引条項」という。)が合意されているところ、本件差引条項を変更することなく、養育費の額のみを変更すると、実質的に受領できる養育費の額は0円となってしまい、不当であるというものである。

第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は、相手方による養育費減額の申立ては理由がなく、却下されるべきものと考える。その理由は、以下のとおりである。 

2 判断に際して前提とすべき事実関係については、以下のとおり補正するほかは、原審判の「理由」第2の1のとおりであるから、これを引用する。
(1)2頁22行目の「1人につき」の次に「月額」を加える。
(2)3頁22行目の「申立人」を「相手方」と改める。

3 本件公正証書は、抗告人が主張するとおり、単に養育費の額を定めるのにとどまらず、離婚に伴う様々な事項に関する取決めをした複雑なものである(そもそも、上記養育費の額は、原審判がその「理由」第2の2において採用している標準的な養育費の算定方式に基づき定められているわけではない。)。確かに、その2条1項において、未成年者らの養育費を月額5万円ずつ(3人分合計で月額15万円)と定めているものの、同条2項において本件差引条項が定められ、相手方が住宅ローン月額10万円を支払っている場合には、その支払額を養育費から差し引くものとされているのであり、これらの条項は不可分一体のものとなっていると解するのが相当である。

また、本件公正証書が作成された当時から現在に至るまで、上記住宅ローン月額10万円は、実際に支払われるものと考えられ、現に支払われてきているというべきであるから(相手方は、株式会社Fに対して連帯債務を負っているし、本件公正証書3条2項において、相手方は、抗告人に対し、住宅ローン月額10万円を完済まで支払う旨約している。)、本件公正証書による合意の真の意味は、未成年者らの養育監護に使用される実際の養育費としては、上記住宅ローン月額10万円相当額を除いた、月額5万円を抗告人に支払うことを約するものと解するのが相当である。

 そうすると、不可分一体というべき上記各条項につき、住宅ローンの支払に関係する条項については、本来、家事審判事項とはいえず、本件において変更することは許されないというべきであるから、養育費の月額のみを一方的に変更することは不当な結果を導くことになり、相当でない。また、上記のとおり、本件公正証書において合意された実際の養育費は、未成年者3名で合計月額5万円であったと解した場合でも、相手方の主張する事情の変更を前提にして前記標準的な養育費の算定方式に基づき試算した養育費の額は、未成年者3名で合計月額7万8000円となるのであるから(原審判の「理由」第2の2参照)、養育費の減額が認められる余地はない。

 これら本件特有の事情を総合考慮すると、本件においては、本件公正証書において定められた養育費の額を変更し、減額するに足りる事情を認めることはできないというべきである。

 なお、本件住居につき抗告人及び未成年者らが無償で居住すること及びその最終的な取得者が抗告人となることが本件公正証書において定められている点に鑑みると、本件における問題の解決のためには、抗告人の父を含めた関係当事者において、住宅ローンの支払や本件差引条項等を含めた本件公正証書による合意の見直しを協議することが有益であることは当然であるから、その旨念のため注意喚起する(相手方において住宅ローンの支払が困難な事態に陥ると、抗告人らにも不都合が生じることが懸念される。)。

4 以上によれば、相手方による養育費減額の申立てを認めた原審判は失当であって、本件抗告は理由があるから、原審判を取消し、上記申立てを却下することとして、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 菅野雅之 裁判官 甲良充一郎 橋爪信)

別紙 即時抗告申立書《略》
以上:2,833文字

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