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長男の首を絞める等で別居した妻の婚姻費用分担請求認容家裁審判紹介

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令和 2年 6月23日(火):初稿
○妻である申立人が、夫である相手方に対し、婚姻費用分担の調停を申し立てたが、不成立となり、審判に移行した事案で、申立人妻が長男の首を絞めたり、相手方に包丁で切りつけるなどしたことが別居の原因で、申立人は有責配偶者であるから、婚姻費用を請求するのは信義則違反又は権利濫用として却下されるべきであると相手方夫が主張しました。

○これについて、長男に対する申立人妻の行為が別居の直接の端緒であるとしても、家庭不和に陥った原因は申立人妻が専ら又は主として有責であるとまでいうことはできず、申立人が相手方に対して婚姻費用分担を求めるのが信義則違反であるとか権利濫用であるとまで断ずるのは相当でないとして、相手方に対し、15万6454円を即時に支払い、当事者の離婚又は別居状態の解消までの間、毎月末日限り、1か月当たり1万6000円を支払うことを命じた平成30年10月11日東京家裁立川支部審判(判例タイムズ1471号35頁)判断部分を紹介します。

○長男は,申立人妻(母)から首を絞められたことがあり、以前から申立人妻が酔っていると,長男は身の危険を感じることがあり、申立人妻とは暮らしたくないことなどを述べ、相手方夫が,子の監護者の指定を求めて審判事件及び保全処分事件を申し立て、長男は相手方夫(父)のもとで暮らすようになっている事情があり、抗告審では覆されています。抗告審決定は別コンテンツで紹介します。

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主   文
1 相手方は,申立人に対し,15万6454円を支払え。
2 相手方は,申立人に対し,平成30年10月から離婚又は別居解消までの間,毎月末日限り,1万6000円を支払え。
3 手続費用は,各自の負担とする。


理   由
第1 申立ての趣旨

 相手方は,申立人に対し,婚姻費用として,毎月相当額を支払え。

第2 認定事実
 本件記録及び手続の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
1 申立人(昭和47年○月生)と相手方(昭和36年○月生)は,平成17年5月に婚姻し,長男(平成18年○月生)をもうけた。

2 平成25年3月,当事者双方は,E市内に住宅を購入して転居し,同年4月,長男は,私立のF小学校へ電車通学を始めた。
 長男の通う小学校では中学受験を目指す者が多かった。長男も,中学受験のために,小学校4年生に進級する前の平成28年3月ころから,週に3,4日は学習塾に通った。平成29年4月にはその学習塾を辞め,同年6月1日から,申立人が探したGという学習塾に通い始めた。

3 申立人は,長男の出生後は専業主婦で,育児・家事に従事していたが,長男の成長とともに,少しずつ働き始め,平成27年ころから,栄養士及び調理師として保育園に勤務するようになった。平成28年の給与収入は334万7796円で,平成29年の給与収入は333万7483円である。
 当事者双方の同居中は,申立人は,自己の収入を管理していたほか,相手方から月額25万円の生活費を受け取って,諸費用に充てていた。

4 相手方は,平成21年11月に1社,平成23年11月にもう1社を創業し,代表取締役を務めている。両社とも複数の収益不動産の管理・運用をその業務としている。
 相手方の確定申告書に基づく相手方の収入等は,次のとおりである。
                  平成28年分    平成29年分
収入金額 営業等        105万6056  211万1916
     不動産       2919万2183 2880万5622
     給与          55万0000   60万0000
所得金額 営業等       -407万5969  -46万2507
     不動産        828万3113  752万6951
     給与                0         0
     合計         420万7144  706万4444
社会保険料控除          20万4638   13万6365
課税される所得金額       297万9000  597万8000
専従者給与(控除)額の合計額  102万0000  102万0000
青色申告特別控除額        65万0000   65万0000

5 別居に関わる事情
(1)長男は,小学校生活への適応状況も概ね良好であったが,小学校に入学するころから,問題行動,例えば,大人に嘘をつく,友人の物を取って隠す,図書館の本を捨ててくる,学校からの連絡物などを外に放置して帰宅する,自宅から金を持ち出して菓子等を買うなどが見られるようになった。

 申立人は,長男に注意したり,担任教諭らに相談して,配布物や提出物を申立人が管理できるようにする方法を試みるなどしていたが,長男の問題行動は一向に治まらなかった。申立人は,長男に冷静に言い聞かせるように努めたが,根気が続かなくなると,長男を叩いたり蹴ったりしてしまうようになった。


         (中略)


(5)平成29年6月11日,E警察署生活安全課から相手方に電話があり,申立人が自宅に戻らない相手方や長男を心配している旨を伝え,長男の所在を尋ねてきた。相手方は,長男と一緒にいること,翌12日からはホテルから小学校に通わせること,12日にはE警察署に相談に行くことを伝えた。
 同月12日,申立人は,E警察署で事情聴取を受けた。

(6)平成29年6月12日,相手方は,E警察署生活安全課に相談に行き,児童相談所を紹介された。警察官が小学校を訪れ,長男に事情を聞いた。長男は,同月10日に申立人から首を絞められたこと,そのときの傷は,相手方が写真を撮っていること,申立人から首を絞められたのは初めてであるが,以前から申立人が酔っていると,長男は身の危険を感じることがあったこと,申立人とは暮らしたくないことなどを述べた。同日,D児童相談所(以下「児童相談所」という。)は,長男を一時保護した。

(7)平成29年7月3日,相手方は,子の監護者の指定を求めて審判事件及び保全処分事件を申し立てた。申立人は,一貫して,長男の首を締めたことは覚えていないと述べ,むしろ,相手方から何か分からない物で叩かれるなど暴力を振るわれたため,生命の危険を感じて,包丁を持ち出したと述べている。
 児童相談所は,同年8月25日付けで一時保護措置を解除し,長男は相手方のもとで暮らすようになった。
 同年11月17日付で,相手方を長男の監護者と指定する審判がされ,その後確定した。

6 相手方は,別居後,F小学校から徒歩15分程度の所に住まいを借りて,賃料を支払っているほか,自宅の住宅ローン(月額24万6675円)も支払を続けている。
 長男は,従前と同じ私立小学校に通っている。平成30年度の授業料等は,91万9700円(乙9)である。平成29年度の授業料等も同水準である。
 長男は,自宅に戻った後は学習塾のGは中断したままであったが,平成30年3月から,新たにGに通い始めた。相手方は,同年4月2日にスタート月謝として5184円を支払い,同年5月からの月謝として4万1472円(前月27日支払)を支払っている(乙10)。

7 申立人は,平成29年7月29日,本件審判に移行する前の調停事件(当庁平成29年(家イ)第2372号,以下「本件調停」という。)を申し立てた。本件調停は,平成30年3月23日,不成立で終了し,本件審判に移行した。

8 相手方は,申立人が単独で自宅に居住している一方で,相手方が住宅ローンを支払っていることから,申立人に対し,立入妨害禁止等仮処分命令事件(東京地方裁判所立川支部平成30年(ヨ)第50号)を申し立てた。当事者双方は,平成30年7月18日,相手方が一定の条件のもとで自宅に立ち入ることを認める和解を成立させ,相手方は上記申立てを取り下げた。
 申立人は,離婚訴訟(当庁平成30年(家ホ)第182号)を提起した。

9 本件調停申立時の平成29年7月以降,申立人が居住する自宅の光熱費で,相手方が負担したのは,別紙のとおりである(概算額の部分を含め,当事者双方が合意済みの金額である。)。

第3 判断
1 夫婦は,互いに協力し扶助しなければならないところ(民法752条),別居した場合でも,自己と同程度の生活を保障するいわゆる生活保持義務を負う。
 相手方は,申立人が長男の首を絞めたり,相手方に包丁で切りつけるなどしたことが別居の原因で,申立人は有責配偶者であるから,婚姻費用を請求するのは信義則違反又は権利濫用として却下されるべきであると主張する。

 確かに,平成29年6月10日の出来事の発端は,申立人が酔って帰宅し,長男の首を絞めるなど暴力を振るったことであると認められる。同年3月31日に相手方が申立人,相手方及び長男を被共済者とする保険契約を解約していたこと(甲21の1ないし3,22,乙18,19)や,同年6月16日付で相手方の依頼した弁護士が受任通知を送付して,子の監護者指定の審判事件や保全事件を申し立てる旨を知らせたこと(甲14)が認められるが,それだけの事情によって,相手方が平成29年6月10日以前から計画的に別居を準備していたとまで認めることはできない。

 長男の首を絞めること自体が,いくら酔っていたとはいえ,生命に危険を及ぼしかねない重大な行為であることは否定できず,申立人の責任は軽視できない。しかしながら,申立人がそのような行為に至るについては,長男の問題行動に悩み,相手方に相談もできない状態で,一人鬱屈した精神状態であったことがうかがわれ,平成29年6月10日以前から,当事者双方の間で円満を欠く状態であったものと推察される。したがって,長男に対する申立人の行為が別居の直接の端緒であるとしても,家庭不和に陥った原因は申立人が専ら又は主として有責であるとまでいうことはできず,申立人が相手方に対して婚姻費用分担を求めるのが信義則違反であるとか権利濫用であるとまで断ずるのは相当でない。

2 そこで,本件調停の申し立てられた平成29年7月以降の婚姻費用について検討することとする。婚姻費用の分担額は,義務者世帯及び権利者世帯が同居していると仮定して,義務者及び権利者の各総収入から税法等に基づく標準的な割合による公租公課並びに統計資料に基づいて推計された標準的な割合による職業費及び特別経費を控除して得られた各基礎収入の合計額を世帯収入とみなし,これを,生活保護基準及び教育費に関する統計から導き出される標準的な生活費指数によって推計された権利者世帯及び義務者世帯の各生活費で按分して権利者世帯に割り振られる婚姻費用から,権利者の上記基礎収入を控除して,義務者が負担すべき婚姻費用の額を算定するとの方式(判例タイムズ1111号285ページ以下参照。以下「標準算定方式」という。)に基づいて検討するのが相当である。

3 相手方の収入について
(1)申立人は,相手方が別件の子の監護者指定の事件において提出した陳述書(甲1ないし3)を総合すると,相手方は,経営する会社からの収入や家賃収入等で2000万円程度はあると述べているにもかかわらず,確定申告書の所得金額では,平成28年は420万7144円,平成29年は706万4444円と記載されていて,生活実態と著しく異なっているので,相手方の申述に基づく収入が根拠とされるべきであると主張する。

 しかしながら,自営業者等が収入という場合には,一般的には粗利益を指し,営業用の種々の経費などを考慮していない数値のことが多いので,陳述書の収入の説明と確定申告書が大きく異なるとしても,確定申告書の記載が信用できないと断定することはできない。

(2)相手方の収入は,平成29年分の確定申告書の所得金額597万8000円に,生命保険料控除(9万円),扶養控除(48万円),基礎控除(38万円),専従者給与(控除)102万円及び青色申告特別控除65万円を加算した859万8000円に,さらに,相手方の給与収入60万円を事業収入に換算した47万円を加算した906万8000円と把握するのが相当である。

4 申立人の収入は,平成29年の給与収入である333万7483円を用いることとする。生活費指数は,申立人と相手方は各100,長男は55とする。基礎収入割合は,給与所得者の場合,総収入の34パーセントないし42パーセントで,収入が多いほどその割合が低くなるので,申立人の場合,38パーセントとするのが相当である。自営業者の場合,基礎収入は総収入の47パーセントから52パーセントで,収入が多いほどその割合が低くなるので,相手方の場合,49パーセントとするのが相当である。そうすると,次のとおり,相手方が負担すべき婚姻費用額は,8万0965円と算定される。
333万7483×0.38=126万8243(1円未満切捨て。以下同様。)・・・ア
906万8000×0.49=444万3320・・・イ
(126万8243+444万3320)×100/(100+100+55)
=571万1563×100/255
=223万9828
223万9828-126万8243=97万1585(年額)・・・月額8万0965

5 算定結果を修正すべき事情の有無
(1)長男の私立小学校の学費
 標準算定方式では,公立の学校の教育費だけを考慮しているところ、本件では,別居の前後を通じて長男を私立小学校に通わせているから,その学費分は,別途考慮しなければならない。私立小学校の学費等(91万9700円)から標準算定方式において織り込み済みの公立小学校の学校教育費5万9153円を差し引いた86万0547円を,申立人と相手方の基礎収入(前記4のア・イ)の比率に応じて負担することとするのが相当であり,申立人の負担分は,次のとおり,月額1万5920円と算出される。
126万8244:444万3320=約22.2:77.8
86万0547×0.222=19万1041(年額)・・・月額1万5920

(2)長男の学習塾の費用
 長男の通う小学校の多くの者が中学受験をする中で,長男も,別居前から学習塾に通っていたのであるから,通塾再開について申立人の同意を得ていないとしても,その費用について,学費と同様に,申立人と相手方の基礎収入(前記4のア・イ)の比率に応じて負担することとするのが相当である。平成30年4月の支払分は4万6656円,同年5月以降は月額4万1472円であるから,申立人が負担すべき分は,同年4月については1万0357円,同年5月以降は9206円と算出される。 
4万6656×0.222=1万0357
4万1472×0.222=9206

(3)相手方による住宅ローンの支払
 相手方は,自己の住居の家賃のほかに,申立人が居住する自宅の住宅ローンを負担しているので,住居関係費用が加重になっている。住宅ローンは,資産形成の性格も有するので,その全額を婚姻費用額から差し引くのは相当ではないが,一定の範囲で申立人も居住関係費用を負担すべきである。

 申立人の負担額について,申立人は,申立人の収入に応じて標準算定方式で住居費用として組み込まれた金額(月額3万2590円,判例タイムズ1111号294ページ)を差し引くことを主張するが,相手方の住宅ローンの負担が月額24万6675円と多額であるから,そのうち4万円を申立人が負担することとするのが相当である。

(4)なお,相手方は,申立人が使用している自動車の任意保険料(年額5万7620円)を支払っているが,これは財産分与において検討すべきものとして,婚姻費用の算定では考慮しない。

6 前記3ないし5をまとめると,相手方の負担すべき婚姻費用は次のとおりである。
(1)平成29年7月から平成30年3月までは,2万5000円と定めるのが相当である。
8万0965-1万5920-4万0000=2万5045
(2)平成30年4月は,1万5000円と定めるのが相当である。
8万0965-1万5920-1万0357-4万0000=1万4688
(3)平成30年5月から離婚又は別居解消までは,1万6000円と定めるのが相当である。
8万0965-1万5920-9206-4万0000=1万5839

7 そうすると,相手方は,別紙のとおりの既払分があることから,平成29年7月から平成30年9月までの婚姻費用合計32万円から既払分合計16万3546円を差し引いた15万6454円を即座に支払い,同年10月から離婚又は別居解消までは,毎月1万6000円を支払うべきである。
 よって,主文のとおり審判する。

別紙〈省略〉
以上:6,848文字

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