令和 2年 6月 3日(水):初稿 |
○夫が、妻に対する離婚請求をしたのに対し、妻が、本件訴えは有責配偶者からの離婚請求であり許されないと主張し、また、仮に離婚が認められたとしても、夫は慰謝料・財産分与等の内金として5000万円の支払をすべきであるなどとする予備的反訴をしました。 ○これについて、夫婦間の婚姻関係には継続し難い重大な事由があるとして離婚原因事実の存在を認めた上で、夫を有責配偶者と認定し、子はいずれも成人し、離婚が直接子の福祉に影響しないこと、別居期間が13年近いこと、離婚しても経済的に妻が過酷な状況になるわけではないことなどから夫の離婚請求を認め、予備的反訴につき、有責の事情を考慮して精神的損害に対する慰謝料500万円、妻の経済事情等を考慮して財産分与のうち扶養的な部分504万円の分与を認めた平成19年8月31日東京家裁判決(家月61巻5号55頁)関連部分を紹介します。 **************************************** 主 文 1 原告と被告とを離婚する。 2 原告は,被告に対し,金1004万円及びこれに対する判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告のその余の請求を棄却する。 4 訴訟費用はこれを5分し,その1を原告の,その余を被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 原告 主文第1項と同旨。 2 被告(予備的反訴) 原告は,被告に対し,慰謝料4000万円及び財産分与2848万円の合計6848万円の内金5000万円及びこれに対する判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 前提となる事実 (1) 原告(昭和○年○月○日生)と被告(昭和○年○月○日生)とは,昭和53年×月×日に婚姻し,昭和○年○月○日に長女Eを,昭和○年○月○日に長男Cを,昭和○年○月○日に二男Fをもうけた。 (2) 平成6年×月×日,被告は家を出て,以後原告と被告とは別居している。 (3) 原告は,平成17年×月に当庁に離婚を求める調停を申し立てたが,同年×月×日,不成立で終了した。 2 原告の主張 (1) 離婚原因及び有責配偶者の主張について (中略) 4 争点 (1) 原告の離婚請求は有責配偶者からの離婚請求として認められないかどうか。 (2) 慰謝料 (3) 財産分与 第3 当裁判所の判断 1 証拠(甲1~3,5~8,31,32,乙3~10,証人E,原告本人,被告本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 原告と被告とは,□△△△勤務時代に知り合い,交際を始め,昭和51,2年ころからは同居していたが,原告の母は原告と被告との結婚には反対であった。被告が長女を妊娠したことから,原告と被告とは入籍することを認められ,昭和53年×月×日に婚姻し,昭和○年○月○日に長女Eをもうけた。 (2) 原告は,□△△△に勤務していたが,昭和56年×月,同社を退職し,同年×月から昭和57年×月まで□□△△に,同年×月から平成10年×月まで△△△△に勤務し,同年×月から○○△△株式会社に勤務している。また,平成15年×月に相続した土地で駐車場を経営するために有限会社○○○○を設立し,同社からも給与所得を得ている。平成16年の収入は,両社からの給与所得が合計1193万6900円であり,そのほかに,○○○○に対する土地の賃貸料として237万6650円(所得金額)を得ている。 被告は,□△△△に勤務していたが,婚姻前に同社を退職した。その後,平成6年初めころから平成13年×月ころまで□□□に勤務し,退職するころは月収約20万円(手取り)とボーナス約20万円を得ていた。また,平成15年から平成16年までは介護ヘルパーのパート勤務をしていたが,現在は働いていない。 (3) 原告と被告とは,婚姻後,原告の実家に原告の両親と同居して生活を始めたが,原告の母は,被告に対し,事ある毎に,「家柄が違う。被告は財産目当てで原告をたぶらかした。○○家の嫁として相応しくない。」などと言い,また,家事をすべて被告にさせるほか,○○家の嫁として相応しいように,生け花や洋裁といった習い事をさせた。そして,長女出産後も,被告は,原告の母から嫌がらせをされたり,小言を言われたため,ストレスで母乳が止まるような状態になったため,同年×月に長女を連れて実家に帰った。原告と原告の母とは,被告に対し謝罪し,台所と風呂を原告の両親と別にするように原告方を改築し,被告は,原告方に戻った。 (4) 昭和○年○月○日,長男Cが生まれたが,口蓋破裂等の障害を持って生まれたため,原告の母は「○○家はそんな家系ではない。」などと露骨に嫌がり,被告を責めるとともに,原告も,長男を一切寄せ付けず,だっこしたり膝の上に乗せたりして触れ合うことをしないなど,邪険に扱った。 原告と被告とは,原告の両親と別れて暮らすべく,同年×月,□△○のマンションに引っ越し,また,昭和59年×月,○×に引っ越した。しかしながら,原告の母から家賃の援助を受けており,週1回は実家を訪れることにされていたことから,このような生活も面倒になり,昭和61年×月,原告の実家に戻り,従前のように2世帯住宅で暮らすようになった。 長男は障害のため,ミルクを飲むのも大変であったが,被告は,通院や度重なる手術等も含め苦労して長男を育てていた。それにもかかわらず,原告や原告の母は,同年×月×日に二男Fが生まれると,健常者である二男だけをかわいがり,長男とあからさまに差別した扱いをするようになった。 (5) 平成5年×月,被告は,原告らの態度に耐えかね,子らを連れて別居するため,離婚を求める調停を申し立てたが,原告は養育費の支払を拒否し,また,「自分の悪いところは直す。長男への態度も改める。」と謝罪したため,調停は不成立で終了した。 ところが,その後も原告の態度は変わらなかったため,同年×月,被告は原告に対し,別居を申し出た。原告は,「1人で出て行け。」と言うので,原告は,子らは原告の元にいた方が経済的に不自由ないと考え,自分だけ近くにアパートを借りて,出て行った。被告は,当時まだ,中学3年,小学6年及び2年であった子らの世話をするために,原告方に通う約束であったが,原告の母が,「子のことは私がすべてやる。別居するならしていいが,この家には来るな。」と言うので,原告との約束に反して,原告方に出入りできなくなった。 (6) その後,原告は,原告の母の助力も受けながら,学費や生活費のすべてを負担して3人の子を監護養育した。 被告は,原告方の近くにアパートを借り,□□□で働いて生活し,長女や長男は時々被告に会いに来ていた。また,原告が長女や長男に与える小遣いが少なかったので,被告が長女らのために弁当を作ったり,長女の自動車運転免許取得の費用を出すなどしていた。 (7) 平成11年,長男は高校を中退し,その後万引き等を繰り返すようになり,その都度原告が警察へ迎えに行く等していたが,平成12年×月,長男は医療少年院に収容された。原告は,少年院に面会には行かず,手紙も出さなかった。 平成14年×月,長男は少年院を退院することになったが,原告は,自分で責任を取るべきであると考え,長男を引き取らなかった。被告は,やむなく,□□□の仕事を辞め,長男を引き取って□□で一緒に暮らすことにした。ところが,被告は収入がなく生活が苦しくなり,原告に生活費を求めたが支払ってくれないため,同年×月ころ,やむなく長男を○□の会社に就職させてその寮に住まわせ,自らは△△の実家に世話になることにし,介護ヘルパーの仕事をパートでするようになった。 長男は,仕事が長続きせず,原告方に来て金を持ち出したり,原告が知人に頼んで就職させてもらってもすぐに辞めてしまう状態であった。そして,平成16年×月,長男は車上狙いをしたことにより逮捕された。 被告は,同年×月から,長女方で世話になるようになった。現在は,腰痛等の持病があるほか,ホルモンバランスの乱れ等により体調がすぐれず,仕事はしていない。 (8) 長女は,短大を卒業した後,平成13年×月に結婚した。二男は,平成17年×月に○○大学に入学し,現在2年生である。 長男は,時々原告や被告に会うことはあり,被告が金を与えることもあったが,最近は所在も明らかではない状態である。 (9) 平成17年×月,被告は,原告に対し,婚姻費用の支払を求める調停を申し立て,同年×月,原告は,被告に対し,離婚を求める調停を申し立てたが,同年×月×日,離婚調停は不成立で終了し(甲2),同日,原告が被告に婚姻費用として月額14万円を支払うことなどを内容とする調停が成立した(甲5)。 2 (1) 以上の事実に基づいて検討するに,原告と被告とは,別居してすでに12年以上が経過しており,原告と被告との婚姻関係はもはや修復不可能な状態にあるものと認められる。 (2) そして,前記認定のとおりの別居に至る経過によれば,被告は婚姻当初から原告の母からの嫌がらせに悩まされ,昭和54年×月ころに家を出たが原告らの謝罪により帰ったものの,その後も同様の状態は続き,昭和58年×月に長男が障害を持って出生した後は,原告及び原告の母の長男に対する冷たい姿勢に悩まされた末に,平成6年×月に家を出たものであって,さらにその後も原告らは被告の自宅への出入りを許さないなどしていたことから,両者の関係は修復することなく,破綻したものである。したがって,原告と被告との婚姻関係破綻の原因は,主として,このような原告の被告や長男に対する姿勢にあったものであり,原告は有責配偶者であるというべきである。 (3) そこで,原告の離婚請求が認められないかどうかについて検討する。 原告は,有責配偶者と認められるものの,不貞行為をしたとか,暴力を振るったということではなく,原告の母からの言葉等による嫌がらせや原告の長男に対する冷たい姿勢等に被告が悩んで家を出たものである。 また,経済的な事情からとはいえ被告は長男らを置いて家を出ていったものであり,別居後の原告の監護態勢には,長女からすると小遣いをくれないとか,長男に対する態度が相変わらず冷たいものであった等の問題点はあるものの,原告は,母の助力も得ながら,学費,生活費等をすべて負担しながら,3人の子を成人するまで監護養育してきた。そして,現在では,いずれも成人し,長男は問題があるものの,長女は結婚し,二男は大学に在学しているのであって,離婚が直接子らの福祉に影響するという問題もない。 原告と被告との別居期間は,すでに13年近くなっており,それまでの同居期間(約16年間)に比べると短いものの,相当の長期間に及んでいる。 被告は,今離婚となると,被告が経済的に苛酷な状況に置かれると主張しているけれども,後記のとおりの経済的な給付が行われれば,必ずしも被告が苛酷な状況になるわけではなく,原告の経済的能力からすると,支払確保の可能性も高い。 これらの諸事情を総合して判断すると,原告が有責配偶者であるからといって,その離婚請求を認めることが,信義誠実の原則に反するとまではいえない。 (4) したがって,原告と被告との婚姻関係は継続し難い重大な事由があるものと認められ,原告の本件離婚請求は理由がある。 3 そこで,被告の予備的反訴に基づき,まず慰謝料について検討する。 前記のとおり,原告と被告との婚姻関係が破綻した主たる責任は原告にあり,離婚に伴う被告の精神的損害を賠償する責任がある。原告は,被告が婚姻当初から原告の母より受けていた嫌がらせに対し夫として十分な対応をとらず,また,障害を持って生まれた長男について,父としての責任を果たすどころか邪険に扱うなどし,被告を悩ませて別居に至らしめた。 そして,別居後も3人の子らを育てたが,二男はかわいがるものの長女や長男にはつらい思いをさせ,特に長男に対しては,少年院に入って以降は,面会もせず手紙も出さず,退院の際に引き取りもしなかった。原告は,自分で責任を取らすべきだと考えたと述べているが,親としてあまりに冷たい仕打ちであって,結局長男を引き取ることになった被告にはその後非常につらい思いをさせたものである。 また,前記認定のとおり,被告は腰痛等の持病があることなどから現在働いておらず,長女方で世話になっているのに対し,原告は相続した遺産のほか相当額の収入があり,両者の経済的状況の差は著しい。 このような事情を踏まえ,原告が別居後も3人の子らを監護養育してきたことなど原告において酌むべき事情,婚姻期間の長さ等本件審理に現れた一切の事情を総合して判断すると,被告の精神的損害に対する慰謝料として,原告に対し,金500万円の支払を命じるのが相当である。 4 次に,離婚に伴う財産分与について検討する。 カ まとめ 以上によれば,ア以外の積極財産としては,約10万円となるが(333,900+700,000+1,350,000-2,283,624=100,276),アの評価の点も考え合わせると,財産分与の対象とすべき夫婦共有の積極財産を認めることはできない。 (2) 被告は,別居期間中の未払い婚姻費用の清算を求めているところ,確かに,原告は被告に対し別居後平成17年×月分までの婚姻費用の支払はないが(甲5),前記認定のとおり,原告は,3人の子を監護養育し,その学費,生活費のすべてを負担しており,現在も二男と同居して生活し,その学費,生活費等を負担しているのであって,平成16年までは被告にも収入があったこと,△△の実家や××の長女方に住み住居費はかかっていないこと,(1)のとおり清算対象となる夫婦共有財産は認められないことなども考え併せると,未払婚姻費用の清算として財産分与を考えることはできない。 (3) 以上のとおり,清算的な財産分与を考えることは困難であるが,前記認定のとおりの両者の現在の経済的状況の格差や就労能力等に照らし,本件では扶養的な財産分与を考える必要がある。 そして,平成17年×月×日に成立した調停により,原告は被告に月額14万円の婚姻費用を支払うことが合意されていることを踏まえ,離婚成立後もなお3年間は同等の経済的給付を保障することが相当である。原告は,3年後には定年となることや定年後の収入は必ずしも多くないことなどを考慮すべきであると主張しているが,そのような事情を考慮しても,この程度の支払いは十分可能と考えられるのであって,原告の主張は採用できない。 したがって,扶養的な財産分与として,原告に対し,3年間分の婚姻費用額に相当する金504万円の支払を命ずることとする。 5 よって,主文のとおり判決する。 以上:6,030文字
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