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準強姦を理由とする損害賠償請求を一部認めた地裁判例紹介

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令和 1年12月22日(日):初稿
○「準強姦逮捕不起訴処分者に対する損害賠償請求棄却地裁判例紹介」の続きで、準強姦と主張して損害賠償請求を求めた事案に一部認容した平成25年9月11日東京地裁判決(ウエストロージャパン)の判断部分を紹介します。

○原告が被告に対し、被告が原告の就寝中に原告の承諾なく性交し、原告の身体を傷つけるような性行為を行い、原告の性的自由を侵害した等とし、被告の準強姦行為によりフラッシュバックに見舞われ日常生活が困難な状態となり,事件後1年が経ってもカウンセリングが必要な精神状態になるなど甚大な精神的損害を被ったとして、被告に対し、不法行為に基づき、約123万円の損害賠償を請求しました。

○判決は、原告が寝入った後に被告が原告に性行為を行ったことは、被告が原告の同意を得られる、あるいは既に得られていたと考えてした行為であると認めることはできるが、原告と被告が性交渉をすることは初めてのことであり、妊娠の可能性がある女性に対して、性行為を行うことについての明確な同意を得ず、避妊具を使用しないまま性行為をしたことには、被告の原告に対する過失による不法行為を認めることができるとして、被告に対し慰謝料・治療費等約36万円の支払を命じました。

○「性行為を行うことについての明確な同意を得ず」性行為を行うことについて、「過失による不法行為」とした点が重要です。

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主   文
1 被告は,原告に対し,金35万8824円及びこれに対する平成21年12月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを10分し,その3を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。
4 この判決の第1項は仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

 被告は,原告に対し,金123万6206円及びこれに対する平成21年12月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
1 本件は,原告が被告に対し,被告が原告の就寝中に原告の承諾なく性交し,原告の身体を傷つけるような性行為を行い,原告の性的自由を侵害したなどとして,不法行為に基づき,性器の裂傷に対する治療費7930円,診断書文書料3150円,エイズの検査費用2744円,慰謝料100万円,その他費用11万円,弁護士費用11万2382円の合計123万6206円とこれに対する不法行為の日である平成21年12月29日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である

         (中略)

(2) 原告の被った損害
ア 原告の主張
(ア) 慰謝料 100万円
 原告は,被告の準強姦行為によりフラッシュバックに見舞われ日常生活が困難な状態となり,事件後1年が経ってもカウンセリングが必要な精神状態になるなど甚大な精神的損害を被った。
 始発まで待たせて欲しいと述べた被告をホテルの客室に入室させたこと自体原告の落ち度ではないし,被告のそばで裸で眠ってしまったからといって,原告の落ち度とは言えない。
 被告は,原告との性行為を企図し,原告の親切心につけ込んで原告の部屋に入室し,当初の企図どおり,原告に性行為を行い,さらには寝落ちし意識のない原告を卑劣にも姦淫したのであり,その動機,行為態様とも悪質である。

 被告は,原告が性行為についてトラウマを有していることを知りながら本件準強姦行為を行い,本件訴訟提起前に早期解決を図ろうとした原告の要求にも自己の責任を否認して応じなかったため,原告は本訴の提起を余儀なくされた。
 かかる事情に鑑みれば,原告の慰謝料額としては,少なくとも100万円を下ることはない。

(イ) 治療費 1万3824円
 原告は,本件準強姦行為により,被告によって性器の2か所に裂傷の傷害を負わされ,治療費7930円,診断書文書料3150円を要した。
 さらに,平成22年5月11日,ミュンヘン市にてHIV検査を受け,検査費用として25.21ユーロを同年7月22日に支払った。同日時点で1ユーロは108.87円であるから,日本円に換算すると2744円となる。
 以上の治療関係費の合計は,1万3824円である。

(ウ) その他費用 11万円
 原告は,被告がホテルに忘れていった財布等の返却,本件準強姦行為の調査等を日本での財産管理を依頼しているBに依頼し,原告は,平成22年1月11日,財布等返却のための面談料として1万5000円を支払い,調査等の報酬として9万5000円を平成23年8月11日にBに支払った。

(エ) 弁護士費用 11万2382円
 原告が被った損害の少なくとも1割に当たる11万2382円は,本件不法行為と相当因果関係のある損害に当たる。

イ 被告の主張
(ア) 慰謝料
 被告に違法行為はないから,損害もない。

(イ) 治療費
 原告が被告との性行為によって性器に傷害を負ったのであれば,直ちに病院に行かないのは不自然である。当該傷害は被告との性行為によるものではないと考えられる。仮に被告との性交渉が原因だとしても,何ら違法な行為ではないのであるから,それによって被告が損害賠償を請求される理由はない。

(ウ) その他費用
 本件とは関係がない費用である。

第3 当裁判所の判断
1 被告の不法行為について

(1) 平成21年12月28日までの経緯
 甲9(被告から原告に対するメール送信記録一覧表)によれば,平成21年6月30日から同年12月24日までに,被告が原告に送信したメールの総数は209通であり,その中には,被告が原告に対し,「友人以上,恋人未満な関係を個人的には希望している」「恋心はだいています」(甲11の5),「思慕の念はありました」(甲11の6)などと記載されたメールがあり,当時,被告が原告に対して好意を抱いてメールを送信していることは,原告にとって容易に認識できたということができる。また,乙13の1,13の2,14,16ないし37によれば,原告は,被告からのメールに対し,チャットで会話をすることを提案するなどの応答をしている事実を認めることができる。

(2) 平成21年12月28日から同月29日にかけての原告の記憶
 甲14,原告本人尋問の結果によれば,原告は,同日に行われたオフ会の1次会終了後からの記憶をなくし,2次会については記憶が全くない。当日相当量の飲酒をしていたことは,原告自身認めている(原告本人23頁)。
 また,原告は,3次会の店に行くまでにバラの花を買ったことを平成24年10月1日付け準備書面(2)では否認しながら,甲14(陳述書)ではこれを認めるなど,原告にとって平成21年12月28日から同月29日当時の記憶内容は曖昧となっている。

(3) 原告と被告がホテルの部屋に入室した経緯
 原告は,4次会後に被告が原告をタクシーで送り,被告が新橋のホテルの原告の部屋に入室したのは,被告が始発電車まで待たせてもらいたいと言ったからであると陳述書(甲14)に記載している。原告の部屋に入室したことに関し,被告は,原告から,「私をお姫様だっこするか始発で帰るかだろうね。」と言われ,原告に誘われたかなと思ったから入室したのであって,原告から入室を拒絶されたことは一切ないし,始発まで部屋にいさせてくれと頼んだこともないと陳述書(乙15)に記載している。

 被告は,甲10の④(平成22年1月17日に被告から原告に送信したメール)において,「あたまのなかでは,理性と悪魔が,あなたを ホテルのおくって,新橋の始発で かえろうと 思っていたが」などと記載している。原告と被告は,平成21年6月ころに明け方まで一緒に飲んだことはあるものの,これまで性交渉を伴う交際をしたことはなく,被告が原告の部屋に入室したのが午前5時ころという年末の明け方で始発電車が出るころの時刻であったことも考えると,原告が被告をホテルの部屋に入室させたのは,被告が始発電車まで待たせてもらいたいと言ったからであるとの原告の陳述書の記載及び原告本人尋問の結果を採用することができる。これに反する被告の陳述書の記載及び被告本人尋問の結果を採用することはできない。

(4) 原告と被告の性交渉
 被告が原告の体に触り,衣服を脱がすなどの性行為を求めたのに対し,原告が被告に手淫行為をしたことに争いはなく,甲14,乙15によれば,原告と被告は,同日午前5時25,6分ころ,原告が○○に書き込みをした後,被告が原告に対して,性交渉を持とうとしたため,原告が被告に手淫行為等をしているが,被告の陰茎が萎えたために性行為までには至らず,原告は寝入ってしまい,その後,被告が寝入った原告に対して性行為を行ったと認めることができる。

 被告は,原告が性行為を拒絶したことは全くなく,眠ってしまった原告に対し一方的に性行為をしたものではないと陳述書に記載し,本人尋問においてもこれに沿う供述をする。ところで,甲8(平成22年1月14日に被告からBに送信したメール)には,「Xさんが 性的被害,精神的被害として 刑事,民事を おこせば その事実をみとめます。」との記載があり,甲10の⑥(平成22年1月18日に被告から原告に送信したメール)には,「たびかさなる謝罪」と題して「あなたに 性的暴力をふるってしまった と 思っています。」などの記載があって,被告が原告に謝罪している。また,甲12,被告本人尋問の結果によれば,被告は,Bに対し,「好意を持ってくれていると思ってことに及んだけれど,それは僕の思い込みだったみたい。」,「送って行って,結果,そういうことになってしまった。どうしよう。謝っても受け入れてくれないよね。」などと発言していて,これらの事実からすると,被告が原告の明確な同意を得ないまま性行為を行った事実を推認させるのであり,上記被告の陳述書の記載,被告本人尋問の結果を採用することができない。

(5) 原告が寝入った後に被告が原告に性行為を行ったことは,上記認定の当時の状況からすると,被告が原告の同意を得られる,あるいは既に得られていたと考えてした行為であると認めることはできるが,原告と被告が性交渉をすることは初めてのことであり,妊娠の可能性がある女性に対して,性行為を行うことについての明確な同意を得ず,避妊具を使用しないまま性行為をしたことには,被告の原告に対する過失による不法行為を認めることができる

2 原告の損害
(1) 慰謝料 30万円
 被告が原告に対して,原告の明確な同意を得ないまま,避妊具を使用しないで性行為に及んだことは上記認定のとおりであるが,原告は,被告と2人きりになってからも長時間に及ぶ飲酒をした後,明け方の時間帯にビジネスホテルの狭い自室(乙5,12)に自らに好意を抱いている男性と2人きりになることを承知で入室させ,原告が望まない性行為を防ぐためとはいえ,ベッドに同衾し,被告に対して手淫行為までしているなどの諸事情を総合考慮すると,原告の被った精神的損害を慰謝するには30万円をもって相当と認める。

(2) 治療費 1万3824円
 甲1ないし3によれば,原告は,被告の性行為によって,膣入口部に裂傷を負い,治療費7930円,診断書料3150円を要した事実を認めることができる。また,甲4の1,4の2,5,13の1,13の2によれば,原告は,被告が避妊具を使用せずに性行為をしたことにより,HIV検査を余儀なくされ,検査費用として25.21ユーロ(当時の日本円に換算して2744円)を要した事実を認めることができる。これらの費用はいずれも被告の不法行為と相当因果関係のある損害と認める。

(3) その他費用 1万5000円
 甲6,7,12,14,原告本人尋問の結果によれば,被告は,原告との性行為後,部屋に財布等を置き忘れ,原告はこれを返還することをBに依頼し,そのための費用として1万5000円を支払った事実を認めることができ,被告の不法行為と相当因果関係のある損害と認める。
 原告は,Bに対して支払った調査費用等9万5000円を請求するが,甲12によっても本件に関する相談費用とあるのみで,Bが行った行為の具体的内容は不明であり,被告の不法行為と相当因果関係のある損害であると認めることができない。

(4) 弁護士費用 3万円
 本件事案の内容,認容額等の諸事情を考慮し,被告の不法行為と相当因果関係のある損害としての弁護士費用として3万円を認める。

第4 結論
 原告の本訴請求は,主文の限度で理由がある。よって,主文のとおり判決する。(裁判官 小野洋一)
以上:5,185文字

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