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婚約に至らない交際で妊娠した場合の男の責任を認めた高裁判例紹介

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令和 1年 9月25日(水):初稿
○「婚約に至らない交際で妊娠した場合の男の責任を認めた地裁判例紹介」の続きで、その控訴審平成21年10月15日東京高裁判決(判時2108号57頁)全文を紹介します。

○この平成21年10月15日東京高裁判決(判時2108号57頁)については、「合意による性関係後妊娠・中絶した女性の保護程度1」以下3コンテンツに分けて私なりの説明をしています。このような争いに至らないためには「かような事態に陥ったら、女を怒らせたら怖いということを肝に銘じて誠意を持って対処すべきでしょう。」との姿勢に尽きます。

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主   文
一 本件控訴及び本件附帯控訴をいずれも棄却する。
二 控訴費用は控訴人兼附帯被控訴人の負担とし、附帯控訴費用は被控訴人兼附帯控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人兼附帯被控訴人(以下「控訴人」という。)

(控訴の趣旨)
(1) 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
(2) 上記取消部分に係る被控訴人兼附帯控訴人(以下「被控訴人」という。)の請求を棄却する。
(3) 訴訟費用は、第1、2審を通じ、被控訴人の負担とする。

(附帯控訴の趣旨に対する答弁)
(1) 本件附帯控訴を棄却する。
(2) 附帯控訴費用は被控訴人の負担とする。

二 被控訴人
(控訴の趣旨に対する答弁)
(1) 本件控訴を棄却する。
(2) 控訴費用は控訴人の負担とする。

(附帯控訴の趣旨)
(1) 原判決を次のとおり変更する。
(2) 控訴人は、被控訴人に対し、905万9839円及びこれに対する平成20年3月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 訴訟費用は、第1、2審を通じ、控訴人の負担とする。
(4) 仮執行宣言

第二 事案の概要
一 本件は、被控訴人は、結婚相談会社を通じて交際を始めた控訴人と性行為をし、控訴人の子を妊娠して手術による人工妊娠中絶(以下「中絶」という。)をしたが、控訴人は妊娠及び中絶に関して被控訴人に生じた費用を負担する条理上の責任を負い、妊娠及び中絶に関して被控訴人と真摯に協議する条理上の義務を負うところその義務に違反して被控訴人に損害を与えた、又は避妊をしないで被控訴人と性行為をして被控訴人に望まない妊娠を強いる不法行為により被控訴人に損害を与えたと主張し(選択的請求)、控訴人に対し、被控訴人に生じた費用の分担又は損害の賠償として、905万9839円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成20年3月4日から支払済みまでの遅延損害金の支払を請求する事案である。

 原判決は、被控訴人の請求は、控訴人に対し、不法行為責任に基づく損害賠償として114万2302円及びこれに対する平成20年3月4日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求める限度で理由があるとしてその限度でこれを認容し、その余の請求は理由がないとしてこれを棄却した。控訴人は、原判決中控訴人敗訴部分を不服として控訴した。被控訴人は、原判決中被控訴人敗訴部分を不服として控訴人の控訴に附帯して控訴した。

二 前提事実及び当事者の主張は、原判決「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要」の一及び二(2頁3行目から9頁19行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、8頁9行目の「イ~カ」を「(イ~カ)」に、9頁25行目の「除くむ」を「除く」に改める。)。

第三 当裁判所の判断
一 当裁判所も、被控訴人の請求は、控訴人に対して114万2302円及びこれに対する平成20年3月4日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからその限度でこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり補正するほかは、原判決が「事実及び理由」欄の「第三 当裁判所の判断」の一から五まで(原判決9頁21行目から17頁7行目まで)に説示するところと同一であるから、これをここに引用する。

(1) 原判決10頁6行目から7行目にかけての「双方が希望したときは」を「双方が結婚に向かってのお付き合いを希望したときは」に改める。

(2) 原判決10頁12行目から21行目までを次のとおり改める。
「控訴人は被控訴人とのお見合いをした翌日、相談所に対し被控訴人との交際に進むことを希望する旨連絡した。被控訴人は、相談所から連絡を受けて控訴人との交際を承諾した。控訴人も被控訴人も、この交際が結婚を前提とした交際の意味を持つと認識していた。

 被控訴人は、バレンタインデーを2日後に控えた2月12日の②のデートの際、これまでに買ったこともない高価な「メゾン・ド・ショコラ」の高級チョコレートを贈った(もっとも、これは、時間が制約されていたことと、店内がひどく混雑していて選ぶ余裕がなかったことも一因であった。)。控訴人は、一緒にこのチョコレートを食べようと言って被控訴人を自宅に誘い、被控訴人も渋々ながらこれに応じて控訴人宅を訪問した。

 控訴人は、自宅の各部屋をひととおり案内した。被控訴人は、日付の変わるころにはタクシーで帰宅したが、控訴人は外まで見送った。被控訴人は、手を振って送ってくれる控訴人の表情が寂しげであったことから、この様子では次の機会は帰してもらえないかもしれないとの予感を抱き、信頼のおける相手だろうかと心配になってしまった。被控訴人は、その後、相談所に「他に交際している人はいないか」などと控訴人が信頼のおける人物かどうか何度となく問い合わせたところ、相談所からは、控訴人には他に交際している相手はおらず、被控訴人だけとの付き合いである旨の回答が繰り返された。そのようなことから、被控訴人は、控訴人との性的関係を受け入れる心の用意もし始めることとなった。

 控訴人と被控訴人はデートの日を打ち合わせ、③の2月16日夜にデートをした。控訴人は、食事をした後、被控訴人を自宅に誘った。被控訴人は、意を決してこれに応じることとし、タクシーで共に控訴人宅に向かったが、道すがら、食事の際に控訴人が料理屋の板前や店主との会話や応対から垣間見せた控訴人の人間性の一端に、自分の価値観との違いを感じたが、この程度の違いであれば、そのうちに調整できるだろうと前向きに考えていた。控訴人は、自宅に入るなり、被控訴人に泊まっていくように話した。被控訴人はこれを承諾し、控訴人に渡された部屋着に着替えた。両名は、同夜、初めて性行為をした。この際、両者は避妊のことを話題にすることもなく、控訴人は膣外射精をした。

 控訴人と被控訴人は、同月23日にもデートをし、控訴人の誘いにより被控訴人は控訴人宅に泊まり、性行為をした。このときも、両者は避妊のことを話題にすることはなく、控訴人は膣外射精をした。」

(3) 原判決11頁18行目の「原告は、」から22行目の「退院した。」までを次のとおり改める。
「被控訴人は、同月25日午後4時半過ぎにa医院を受診し、妊娠16週4日と診断され、経腹エコー検査で児頭大横径(BPD)35・4mmと計測され、胎児心拍(FHB)も確認され、胎児に異常所見がないと診断された。被控訴人は、A医師に対し、妊娠継続か中絶か迷っていると述べた。被控訴人は、中絶手術を受けることを決心して、同月29日にa医院に入院し、A医師は、被控訴人が妊娠中期であることから、治療的流産の方法による人工妊娠中絶の手術を行うこととし、被控訴人は、この手術を受けることを承諾した。

A医師は、同日午前9時25分に予宮頸管を拡張するための用具ラミセル(5mm)を挿入し、一度入れ替えた後、午後5時40分にラミセルを抜去し、ラミナリア太太4本、太1本、中1本、細1本の合計7本の用具を挿入した。翌30日午前7時05分及び午前10時15分に予宮筋の収縮と子宮頸管開大作用があるプレグランディン膣坐剤(副作用として、子宮破裂などの損傷、血圧変動、心悸亢進、悪寒、過敏症などがあるため、母体保護法指定医のみにより処方される薬剤である。)各1錠を挿入する措置を行った。被控訴人は、同日午後1時に破水し、同09分に男児を、同15分に胎盤を娩出し、後措置を受けた。被控訴人は、午後2時55分に「かわいそう、顔も見ていいですか。かわいそう。」と言い、涙ぐみながら児と面会した。その後、被控訴人は、A医師から退院指導を受け、午後4時35分に退院した。」

(4) 原判決13頁21行目から14頁8行目までを次のとおり改める。
「条理の裁判規範性については、明治8年太政官布告第103号裁判事務心得第3条は「民事裁判ニ於イテハ成文アルモノハ成文ニ依リ成文ナキトキハ慣習ニ依リ成文慣習共ニ存セサルトキハ条理ヲ推考シテ裁判スヘシ」と規定しており、条理が裁判規範性を有することを定めているものである。

 そして、本件においては、相談所の規約に基づいて控訴人と被控訴人が結婚を前提とした交際を開始し、控訴人が被控訴人とのデートの後で控訴人宅に誘い、双方合意の上で性行為を行い、その結果被控訴人が控訴人との間の子を身籠もったが、被控訴人と控訴人との交際が結婚に至らなかった等の事情から子を中絶することに被控訴人と控訴人は合意して被控訴人は人工妊娠中絶手術を受けたとの上記認定の事実及び判断のもとでは、控訴人は、条理上の義務に基づき、被控訴人に係る人工妊娠中絶に要した費用に関して、一定の範囲でその費用を負担すべき義務を負うものと考える余地はある。

 しかしながら、本件では、被控訴人が費用として計上する費目は選択的請求に立つ不法行為による損害賠償請求における損害を構成するものとしてもすべて計上されており、当裁判所は、後記のとおり控訴人に対して不法行為責任を認めるものであるから、条理上の費用負担責任の主張についてはこれ以上の検討をしない。

 被控訴人が主張する条理上の義務違反については、次の不法行為に基づく損害賠償責任に対する判断において検討する。」

(5) 原判決15頁3行目から17行目までを次のとおり改める。
「しかし、控訴人と被控訴人が行った性行為は、生殖行為にほかならないのであって、それによって芽生えた生命を育んで新たな生命の誕生を迎えることができるのであれば慶ばしいことではあるが、そうではなく、胎児が母体外において生命を保持することができない時期に、人工的に胎児等を母体外に排出する道を選択せざるを得ない場合においては、母体は、選択決定をしなければならない事態に立ち至った時点から、直接的に身体的及び精神的苦痛にさらされるとともに、その結果から生ずる経済的負担をせざるを得ないのであるが、それらの苦痛や負担は、控訴人と被控訴人が共同で行った性行為に由来するものであって、その行為に源を発しその結果として生ずるものであるから、控訴人と被控訴人とが等しくそれらによる不利益を分担すべき筋合いのものである。

 しかして、直接的に身体的及び精神的苦痛を受け、経済的負担を負う被控訴人としては、性行為という共同行為の結果として、母体外に排出させられる胎児の父となった控訴人から、それらの不利益を軽減し、解消するための行為の提供を受け、あるいは、被控訴人と等しく不利益を分担する行為の提供を受ける法的利益を有し、この利益は生殖の場において母性たる被控訴人の父性たる控訴人に対して有する法律上保護される利益といって妨げなく、控訴人は母性に対して上記の行為を行う父性としての義務を負うものというべきであり、それらの不利益を軽減し、解消するための行為をせず、あるいは、被控訴人と等しく不利益を分担することをしないという行為は、上記法律上保護される利益を違法に害するものとして、被控訴人に対する不法行為としての評価を受けるものというべきであり、これによる損害賠償責任を免れないものと解するのが相当である(被控訴人が、条理上の義務違反に基づく損害賠償責任というところの趣旨は上記趣旨をいうものと解される。)。

 しかるに、控訴人は、前記認定のとおり、どうすればよいのか分からず、父性としての上記責任に思いを致すことなく、被控訴人と具体的な話し合いをしようともせず、ただ被控訴人に子を産むかそれとも中絶手術を受けるかどうかの選択をゆだねるのみであったのであり、被控訴人との共同による先行行為により負担した父性としての上記行為義務を履行しなかったものであって、これは、とりもなおさず、上記認定に係る法律上保護される被控訴人の法的利益を違法に侵害したものといわざるを得ず、これによって、被控訴人に生じた損害を賠償する義務があるというべきである(なお、その損害賠償義務の発生原因及び性質からすると、損害賠償義務の範囲は、生じた損害の2分の1とすべきである。)。」

(6) 原判決16頁19行目の「別紙二期」を「別紙二記載」に改め、17頁4行目から7行目までを削る。

二 結論
 そうすると、当裁判所の上記判断と同旨の原判決は相当であって、本件控訴及び本件附帯控訴は理由がないからこれをいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 渡邉等 裁判官 橋本昌純 山口信恭)

以上:5,408文字

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