令和 1年 8月 8日(木):初稿 |
○「株式配当金は婚姻費用分担基礎収入にならないとした家裁審判紹介」の続きで、その抗告審である平成30年7月12日大阪高裁決定(判時2407号27頁)全文を紹介します。 ○大阪高裁決定は、 ①相手方の特有財産からの収入であっても、これが双方の婚姻中の生活費の原資となっているのであれば、婚姻費用分担額の算定に当たって基礎とすべき収入とみるべきである、 ②年金収入は、職業費を必要としておらず、職業費の割合は、給与収入(総収入)の2割程度であるから、上記年金収入を給与収入に換算した額は、上記年金額を0・8で除した160万円となる として、原審の認定を覆し、婚姻費用月額を原審認定8万5000円を月額13万円として、原審判を変更しました。 *************************************************** 主 文 一 原審判を次のとおり変更する。 二 相手方は、抗告人に対し、49万円を支払え。 三 相手方は、抗告人に対し、平成30年7月から当事者双方の別居解消又は離婚成立まで、毎月末日限り、月額13万円を支払え。 四 手続費用は、原審及び当審ともに各自の負担とする。 理 由 第一 抗告の趣旨及び理由 別紙一ないし七《略》のとおり 第二 当裁判所の判断 一 当裁判所は、原審判を上記のとおり変更するのが相当であると判断する。その理由は、次のとおり補正するほかは、原審判の「理由」欄に説示のとおりであるから、これを引用する。 (1)原審判1頁21行目の「夫婦である」の次に「(婚姻時抗告人××歳、相手方××歳)」を加える。 (2)同1頁23行目から末行までを次のとおり改める。 「(2)相手方は、一部上場企業を定年退職後、平成22年××月××日、前妻と離婚し、同年××月××日、中古建設機械の販売、輸出等を業とする株式会社A(以下「A」という。)を設立し、現在も同社を経営している。Aの本店は、相手方の肩書住所地《略》にあり、同社の役員は相手方一人である。 相手方の平成29年のAからの役員報酬は504万円(月額42万円)であり、Aからの配当金は200万円であったが、これらがAからいかなる名目で支払われるのかは、後記(3)のAから抗告人に対する給与(月額8万円)と同様、税理士と相談の上されたものである。相手方は、平成29年分の確定申告書を提出するように当裁判所から求められても(平成30年5月21日付け事務連絡)、これを提出せず、抗告人が相手方の課税証明書を取得できなくしたため、相手方の平成29年の収入状況や不動産所得の経費等は明らかになっていない。 他方、課税証明書によると、相手方の平成28年と平成27年の収入は、本決定別表《略》のとおりである。平成28年は、給与収入1128万円、公的年金128万8634円、配当所得180万円、不動産所得20万0847円、長期一般譲渡益176万5500円であり、平成27年は、給与収入1440万円、公的年金128万5063円であった。」 (3)同2頁1行目の「申立人は、」の次に「短大を卒業し、保育士、幼稚園教諭の資格を取得し、公務員の臨時職員の職歴を有している。抗告人は、相手方との」を加える。 (4)同6行目から7行目までを次のとおり改める。 「抗告人は、平成30年1月××日からパートとして稼働しており、同年4月の給与は約5万円(勤務日数12日)、同年5月の給与は約8万円(勤務日数13日)であった。 (4)相手方は、抗告人と同居中には、前記(3)のAからの給与月額8万円のほか、生活費月額7万円を渡し(合計15万円)、婚姻5か月後(平成28年3月)から平成29年6月までは、生活費を10万円に増額した(合計18万円)。しかし、相手方は、同年7月には、生活費を渡さず、同年8月と9月には、生活費各5万円しか渡さなかった上、前記(3)のとおり、同月30日付けで抗告人をAから退職させた。」 (5)同2頁8行目の「(4)」を「(5)」に改める。 (6)同2頁10行目の末尾に改行して次のとおり加える。 「(6)相手方は、前記(3)のとおり、抗告人に対し、平成29年10月から平成30年1月までの4か月間、月額8万円の婚姻費用を支払った(合計32万円)。 相手方は、抗告人に対し、婚姻費用として、平成30年2月××日に8万円、同年3月××日に6万5000円を支払い、同月から同年5月までの3か月間、各月8万5000円を支払った。この合計は、40万円である(8万円+6万5000円+8万5000円×3か月)。 そうすると、相手方が平成29年10月以降抗告人に支払った婚姻費用は72万円である。 (7)同2頁20行目の「そして、」から23行目末尾までを「したがって、上記期間については、標準的算定表に当てはめる抗告人の収入は0円とするのが相当である。他方、抗告人は、短大を卒業し、保育士等の資格を有し、相手方との婚姻前には公務員の臨時職員として稼働したこともあった。このような抗告人の資格や稼働歴に加え、抗告人が平成30年1月25日以降、パートとして稼働しており、収入は一定しないものの月額8万円を得たこともあることや抗告人の年齢(××歳)を併せ考慮して、平成30年2月以降の抗告人の収入については、年収100万円程度の給与収入と認めるのが相当である。」に改める。 (8)同2頁24行目の冒頭に「(3)ア」を、25行目から末行にかけての「報酬」の次に「あるいは給与収入」をそれぞれ加え、同3頁2行目の「申立人に対する報酬も」を「抗告人に対する給与収入も、自身の世帯に帰属する収入として」に、3行目の「総収入」を「給与収入」にそれぞれ改める。 (9)同3頁4行目から22行目までを次のとおり改める。 「イ また、相手方は、平成29年8月には、Aからの株式配当として200万円を得ている。これは、税理士と相談の上、相手方への配当金の名目で支払われたものにすぎないのであるから(引用の上補正した原審判一(2))、婚姻費用分担額の算定に当たっては、相手方に対する給与収入と同視し得るとみるべきである。 ウ さらに、相手方は、配当金以外に、平成27年と平成28年に、公的年金として各年約128万円を受け取っていたから、平成29年以降も同程度の公的年金を受給しているとみることができる。年金収入は、職業費を必要としておらず、職業費の割合は、給与収入(総収入)の2割程度であるから、上記年金収入を給与収入に換算した額は、上記年金額を0・8で除した160万円となる(128万円÷0・8)。 加えて、相手方は、平成28年に不動産所得約20万円を得ており、これを標準的算定表の給与収入に換算すると25万円程度となる。 エ 以上によれば、標準的算定表に当てはめる相手方の収入は給与収入985万円となる。 (計算式 600万円+200万円+160万円+25万円) (4)上記のとおりの双方の収入を標準的算定表の表10(婚姻費用・夫婦のみの表)に当てはめると、平成29年10月から平成30年1月までは、「14~16万円」の枠の下辺りとなるので月額14万円とし、同年2月以降は、「12~14万円」の枠の中辺りとなるから、月額13万円とするのが相当である。 (5)相手方は、相手方の配当金や不動産所得に関し、「抗告人との婚姻前から得ていた特有財産から生じた法定果実であり、共有財産ではない」から、婚姻費用分担額を定めるに当たって基礎とすべき相手方の収入を役員報酬に限るべきである旨主張する。 しかし、相手方の特有財産からの収入であっても、これが双方の婚姻中の生活費の原資となっているのであれば、婚姻費用分担額の算定に当たって基礎とすべき収入とみるべきである。 そして、相手方は、婚姻後、抗告人に対し、Aからの給与(月額8万円)のほか、更に、生活費として7万円を渡し(合計15万円)、その5か月後から別居3か月前までの1年4か月間、生活費を月額10万円に増額した(同18万円)。相手方が抗告人において食費(月2万円ないし3万円)の残りを使ったと述べていることからすると(相手方の平成30年1月31日付け陳述書1項(2))、同居中、月額約15万円が抗告人において費消し得た金額であったことになるが、この金額は、前記(4)の算定額に近似している。 そうすると,同居中の双方の生活費の原資が相手方の役員報酬に限られていたとみることはできず、婚姻費用分担額の算定に当たって基礎とすべき相手方の収入を役員報酬に限るのは相当ではない。相手方の上記主張は採用できない。 (6)そうすると、平成29年10月から平成30年6月までの婚姻費用の合計額は、平成29年10月から平成30年1月までの4か月分の月額14万円の合計56万円(14万円×4か月)と同年2月から同年6月までの5か月間の月額13万円の合計65万円(13万円×5か月)を合わせた121万円となる。 ここから、既払金72万円(引用の上補正した原審判一(6))を控除した金額は、49万円となる。 三 したがって、相手方は、抗告人に対し、平成30年6月までの未払いの婚姻費用49万円を即時に支払うとともに、平成30年7月以降当事者双方の別居解消又は離婚成立まで月額13万円を支払う義務を負う。」 二 よって、上記判断に抵触する限度で原審判を変更することとし、主文のとおり決定する。 (裁判長裁判官 松田亨 裁判官 上田日出子 高橋綾子) 別紙 1~7《略》 別表《略》 以上:3,895文字
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