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前妻から前夫に対する子の親権者変更申立を認めた家裁審判紹介

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令和 1年 6月10日(月):初稿
○協議離婚の際、前夫を親権者と定めて前夫が子を引き取り、その父母と共に監護養育していたところ、前妻が親権者変更の申立をして、その申立が認められた平成30年1月31日千葉家裁市川出張所審判(判タ1458号190頁<参考収録>)検討部分を紹介します。

○この審判は、平成30年5月29日東京高裁決定(判タ1458号186頁)で取り消されており、別コンテンツで紹介します。

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主   文
1 未成年者の親権者を相手方から申立人に変更する。
2 手続費用は各自の負担とする。

理   由
第1 申立ての趣旨

 主文同旨

第2 当裁判所の判断
1 認定事実

 本件の記録,審問の結果及び手続きの全趣旨により認められる事実
(1) 当事者等
 申立人及び相手方は,平成21年7月17日に婚姻の届出をし,平成23年○○月○○日に未成年者をもうけた。申立人と相手方の婚姻中,申立人が主として未成年者の監護養育及び家事を行っていた。申立人は,未成年者の監護養育にあたり,未成年者の生活習慣,衣食住,心身の成長等を細やかに気遣かってきた。相手方は,勤務日は,未成年者の起床前に出勤し,就寝後に帰宅しており,未成年者の監護養育に割ける時間が多くなかったものの,申立人が家事やパートで未成年者に手がかけられない際に,おむつ交換,歯磨き,幼稚園の送迎等をするほか,平成28年4月頃からは,月に1回,未成年者を連れて実家で過ごすなどして,可能な範囲で未成年者の監護養育に協力した。未成年者は,平成26年4月から約1年,幼稚園のプレ保育に通い,平成27年4月からは他の幼稚園に入園した。申立人は,相手方との婚姻後は,同年9月からパート勤務を始めるまでは職に就かず,家事及び育児に専念していた。(甲6,16,乙4,5,戸籍全部事項証明書,調査報告書)

(2) 親権者指定に至る経緯
 申立人は,平成27年12月,健康診断により子宮頸がんの疑いがあると指摘され,精密検査が必要となった。相手方は,かかる事態を深刻に受け止めなかった。申立人は,相手方が仕事を優先させ,未成年者の幼稚園の送迎にも協力せず,子宮頸がんの再検査の予約をとるのに苦労したことなどから,相手方が家族を大切にしていないと感じ,相手方との離婚を考えるようになった。

 申立人は,平成28年10月には子宮頸がんの前段階の可能性の高い疾患があることも発覚し,自身が子宮頸がんに罹患する可能性が高いと思い詰めるようになった。同年齢の友人をがんで亡くしたばかりであり,また,胃がんの手術の予後に苦しむ申立人の父の様子も見ていた申立人は,過酷な闘病の姿をとても未成年者に見せられないと思った。申立人は,胃がんの手術の予後に苦しむ申立人の父や同人を支える申立人の母には,相手方と離婚して申立人が未成年者を引き取った場合の未成年者の監護養育について相談できず,申立人の父母が承知していないことを他の親族に相談することもできなかった。

 そのため,申立人は,自分1人で,闘病生活をしながら,パート勤務を続けて未成年者を養育することとなると,母子で路頭に迷い,未成年者に悲惨な思いをさせることになると考え,相手方と離婚する場合,未成年者のためには,相手方や相手方の父母に未成年者の養育を託したほうが良いと考えた。そこで,申立人は,平成28年11月下旬に相手方と離婚することが決まった際,自らのつらい気持ちを抑え,未成年者の幸福を願い,致し方なく,未成年者を相手方の実家で育てて欲しい旨を相手方に伝えた。

 相手方は,申立人が未成年者の親権を主張し,親権者になるだろうと思っていたので,申立人の同申出に非常に驚いた。しかし,相手方は,申立人は断腸の思いで未成年者を手放すのであろうから,相手方も覚悟を決めて未成年者を引き取ろうと考えた。

 同年12月中旬,申立人が未成年者に「ママとは別々に住むんだよ。」と伝えると,未成年者は大泣きしたが,一週間後に申立人が同じ話をすると,未成年者は,「分かった。」と述べた。この頃,未成年者は,申立人と離れることを仕方がないとあきらめた様子だった。相手方からは,未成年者に対し,申立人が病気だから未成年者と一緒に住めなくなった旨説明した。

 申立人と相手方は,同月28日,未成年者の親権者を相手方と定めて(以下「本件親権者指定」という。),離婚の届出をした。この際,申立人と未成年者との面会交流について,月1回程度と定める協議書(乙1)を作成した。
 その後,未成年者は,申立人と共に年末年始を,申立人の父母の住むH県所在の申立人の実家(以下「申立人実家」という。)で過ごした後,家族3人で同居していた家で当事者双方と3人で過ごした。未成年者は,平成29年1月10日の申立人との別居当日,申立人と別れて一度は車に乗ったものの,申立人と離れるのを嫌がって泣いた。相手方は,3人で過ごした家にいる申立人の所まで戻って未成年者を申立人に会わせ,さらに泣く未成年者をなだめて,相手方の父母の住むD市所在の相手方の実家(以下「相手方実家」という。)に連れて行った。(甲12,13,16,乙1,8,申立人主張書面(4),調査報告書)


         (中略)


2 検討
 民法819条6項は,「子の利益のため必要があると認めるとき」に親権者の変更を認める旨規定しており,規定上,親権者指定後の事情の変更が要求されていない。そこで,親権者変更の必要性は,親権者を指定した経緯,その後の事情の変更の有無程度と共に,当事者双方の監護能力,監護の安定性,未成年者の状況及びその他諸般の事情を具体的に考慮して,最終的には,未成年者の利益及び福祉の観点から決せられるべきである。なお,監護の安定性は,現在の監護の状況のみならず,出生から現在に至るまでの全体から検討するのが相当である。

 そこで検討するに,本件親権者指定当時,申立人はパート勤務で,子宮頸がんの疑いがあり,未成年者の監護養育について申立人の父母や親族に相談できる状況になかったことなどから,申立人1人で闘病生活をしながらパート収入により,未成年者を養育するには,健康面,経済面での不安は大きく,未成年者の幸福を願い,やむを得ず未成年者の親権を相手方に託した経緯がある(認定事実(2))。

 しかし,本件親権者指定時,これらの申立人の事情を前提として,未成年者の利益及び福祉の観点から,申立人と相手方のいずれを親権者にするのが妥当かについて十分に話し合われた形跡はない(当事者双方の審問の結果,手続の全趣旨)。そして,申立人は,本件親権者指定後,未成年者の監護養育に理解のある会社において正社員の地位を得,子宮頸がんに罹患するおそれがなくなった。

 また,申立人の父母や,従前から申立人と親密な関係にあり,未成年者も懐いている,申立人宅と同一マンション内に居住する親族らからの監護補助を得られる見通しとなり,未成年者を受け入れる十分な監護態勢を整えることができたのであり(認定事実(3)ア),未成年者の親権者を決めた際に前提とした事情から大きな事情の変更があったといえる。

 本件親権者指定後の相手方による未成年者の監護養育は適切に行われており,相手方は,未成年者を引き取って以降自らの勤務時間を調整してできるだけ未成年者との時間を作り,未成年者の監護養育に愛情と責任を持って関わっている(認定事実(3),(4))。監護補助者である相手方の父母も,未成年者の監護養育に意欲的で,積極的に関わっている(認定事実(4))。

 未成年者は,現在の相手方及び相手方の父母との生活や現在の幼稚園での生活に適応してきており(認定事実(3),(4)),これは,相手方及び相手方の父母が,申立人との面会交流なども含め,申立人を求める未成年者の深い思いを抑制することなく受け止め,愛情をもって未成年者に接してきたことによる部分も大きい(調査報告書)。

 しかし,未成年者の出生から現在に至るまでの監護状況を全体的に検討すると,相手方が未成年者を監護養育してきたのは,本件親権者指定からの約1年の間であり,現在は相手方の母に未成年者の監護を委ねる側面も少なくない(認定事実(4))。一方,申立人は,未成年者の出生後,本件親権者指定までの約5年3か月の間,主たる監護者として,特段の問題もなく,未成年者をきめ細やかに監護養育してきており,本件親権者指定後も,面会交流を通じて未成年者に愛情を注いできた(認定事実(1)ないし(3),調査報告書)。

 申立人は,前述したとおり未成年者を受け入れる十分な監護態勢を整えており,かつ,申立人自身が未成年者の監護養育を基本的に担う予定である(認定事実(5))。また,面会交流の経過や幼稚園での状況,調査官との面接時の未成年者の発言などから,未成年者が申立人を求める深い思いが認められるところ,未成年者の心情が申立人との別居後,安定に向かったのは,未成年者が申立人との生活を諦めたためということではなく,申立人との継続的な面会交流を通じて,未成年者が申立人との繋がりが保たれているという安心感を得られたことが大きく寄与しているといえる(調査報告書)。また,その背景には,上述したような相手方及び相手方の父母らの努力のみならず,後悔や寂しさに耐えながら未成年者に変わらぬ愛情を注いできた申立人の努力がある(調査報告書)。

 未成年者の親権者を申立人に変更した場合,未成年者は,現在の生活圏内を離れることになる。しかし,未成年者は,発達検査において社会性の領域で高得点であり(認定事実(3)ケ),現在通園する幼稚園においても,入園してから5か月経過しないうちに仲の良い友達ができ(平成29年5月29日付相手方意見書において,同意見書作成時点においてすでに仲の良い友達ができている旨の記載がある),現在の幼稚園でも,転入後約10か月で明るく,友達が多く,活動的であると担当教諭から評価されるなど(認定事実(3)カ),社会生活において,相応の適応力があるものと推認される。

 そして,申立人は,未成年者が現在通っている幼稚園を卒園させた上で小学校に入学させるつもりであることから(認定事実(5)),小学校入学に伴う未成年者の環境の変化は親権者の変更の有無に関わらず避けられないものではあるが,未成年者が現在の生活圏内を離れることのみに起因する未成年者への負担は必ずしも大きくないものと推認され,また,上述した未成年者の適応能力に鑑みれば,十分適応可能であると推認される。

 親権者が申立人に変更になった場合には,未成年者は,約1年間生活を送ってきた相手方及び相手方父母との離別を伴うこととなる。しかし,申立人は,親権者となった場合,相手方が申立人に認めてきたのと同程度の面会交流を認めていること(認定事実(5)),相手方が親権者となって以降,当事者双方とも未成年者の気持ちに配慮し,愛情を持って接してきた経緯(認定事実(3),(4),調査報告書)に鑑みれば,親権者を申立人に変更した場合の未成年者の引き渡しや,相手方と未成年者との面会交流を,当事者双方が,当事者双方の間で板挟みになっている未成年者の心情(認定事実(3)キ)に配慮し,未成年者自身が親権者となる者を選択したといった様な印象を与えることなく実施することが期待できることなどから,未成年者の生活環境の変化や相手方及び相手方の父母との離別に伴う負担を相当程度軽減できるものと思われる。

 また,未成年者の出生後,約5年3か月間,主たる監護者として未成年者を細やかに監護養育し,別居後も,未成年者に変わらぬ愛情を注いできた申立人の実績(認定事実(1)ないし(3),調査報告書,手続の全趣旨),申立人を求める未成年者の深い思い(調査報告書,手続の全趣旨)に鑑みれば,申立人が未成年者と共に生活すれば,相手方及び相手方父母との離別に伴う未成年者の心情を受け止めることが期待でき,そうすることで,相手方及び相手方の父母との離別を経験した未成年者の心情は安定に向かうものと推認される。


 以上のとおり検討し,本件に顕れた一切の事情を総合すると,本件親権者指定以降,相手方が,未成年者の監護養育を愛情と責任を持って十分に行っていたことを考慮しても,未成年者の親権者を相手方から申立人に変更することが未成年者の利益及び福祉に合致すると認められる。

 なお,未成年者は,平成29年8月頃,相手方よりも申立人と住みたい旨の手紙を書き(甲7,8),同年12月頃には申立人とは現状でよく,相手方と一緒にいたい旨の手紙を書いた(乙9)。確かに,未成年者の書いた手紙は,書いた際の未成年者の心情を推し量る一助にはなり得るものである。しかし,現在6歳の未成年者の手紙は,誰の助けを得て書いたか,手紙を書く際の未成年者に対する問いかけ,状況に関する未成年者の誤解等の事情に応じて変化するものであり,未成年者が書いた手紙やその際の未成年者の言動のみで親権者の変更をすべきか否かを決めるのは相当ではない。

3 相手方の主張について
 相手方は,申立人が,本件親権者指定前に未成年者を叩くことがあり,本件親権者指定時に未成年者を叩いて育てたくない旨話したことなどから,申立人が親権者となると,未成年者を虐待するおそれがあり,申立人には親権者としての適格性がない旨主張する。
 しかし,申立人が未成年者を叩いたことを認めるに足りる資料はなく,申立人が,親権者を決める際に,未成年者を叩いて育てたくない旨言ったこと(当事者双方の審問の結果)のみをもって,未成年者出生後から約5年3か月の間,主たる監護者として特段の問題なく未成年者を監護養育してきた申立人が,実際に未成年者を虐待するおそれがあるとはいえない。

 相手方は,①未成年者が怪我をした際の対応,②未成年者の心情に配慮せずに面会交流を求める態度,③自ら相手方に未成年者の親権を委ねたにも関わらず,自分の都合のみで本件申立てにより変更しようとする態度,などから申立人は自分本位で,親権者としての適格性がない旨主張する。
 しかし,①申立人は,未成年者出生後本件親権者指定までの約5年3か月,特段問題なく主たる監護者として未成年者を監護養育してきていること,②未成年者は,申立人との面会交流を通じて安定を取り戻したこと,③申立人は,本件親権者指定時,未成年者のためにやむを得ず,未成年者の親権を相手方に委ねたが,本件申立時には相手方に親権を委ねざるを得ない事情が解消されたことなどの事情に鑑みれば,相手方の指摘する点をもって,申立人が自分本位で,未成年者の親権者としての適格性がないとはいえない。

 相手方は,従前の経緯からすると,申立人が自分の都合で未成年者の親権を放棄する可能性があるから,親権者の変更は未成年者の福祉に反する旨主張する。
 しかし,申立人が未成年の出生後本件親権者指定までの約5年3か月,放棄することなく未成年者を適切に監護養育してきたこと,本件親権者指定時に未成年者の親権を相手方に委ねざるを得なかった申立人の事情が解消されたことなどからすると,相手方の主張は,抽象的な不安を指摘するにすぎない。

 相手方は,一度親権者を決めた以上,これを容易に変更することは,未成年者の福祉に反するから,相手方の監護態勢に問題がなく,未成年者が現在の生活に順応してきている本件においては,親権者を変更すべきでない旨主張する。確かに,法的安定性の観点から,親権者指定時の事情に変更があったか否かは,親権者を変更するか否かの判断の考慮要素とすべきではあるが,親権者を変更すべきであるかは,上述したとおり,最終的には,未成年者の利益及び福祉の観点から決すべきであり,この点についてはすでに上記2で検討済みである。
 以上のとおりであるから,相手方の主張は上記2の結論を覆すに足りない。

4 結論
 以上のとおりであるから,主文のとおり審判する。

以上:6,552文字

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