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不貞行為第三者勤務先の使用者責任を否定した地裁判例紹介2

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平成31年 4月10日(水):初稿
○「不貞行為第三者勤務先の使用者責任を否定した地裁判例紹介1」の続きで、不貞行為第三者の勤務先に対する損害賠償請求について判断した平成28年2月12日東京地裁判決(ウエストロー・ジャパン)を紹介します。

○事案は、被告の被用者Bとその部下である原告の妻Cは不貞関係にあるところ、Bによる不貞行為は被告の事業の執行又はこれに準ずるものとして行われたもので、これにより第三者である原告に損害を与えたものであるとして、原告が、Bの使用者である被告に対し民法715条1項に基づき慰謝料3000万円の支払を求めたものです。

○平成28年2月12日東京地裁判決は、BとCは、原告とCの婚姻前から性的関係を伴う親密な交際をしていたと認められ、両者間で交わされた電子メールの内容によれば両者は自由な意思に基づいて性的接触を伴う交際を開始、継続したと考えるのが自然であって、Bが被告の本部長、子会社の代表取締役という肩書き・地位、権威等を利用しCをしてBの依頼を拒み難い状況にあったことに乗じて不貞関係を強要したものとは認められないなどとして、被告の使用者責任を否定しました。

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主   文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

1 被告は,原告に対し,3000万円及びこれに対する平成27年7月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言

第2 事案の概要
1 本件は,被告の被用者であるB(以下「B」という。)が原告の妻であるC(以下「C」という。)と不貞関係にあり,被用者であるBが被告の事業の執行について第三者である原告に損害を与えたと主張して,原告が,Bの使用者である被告に対し,民法715条1項に基づき慰謝料3000万円及び訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成27年7月3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

2 前提となる事実(争いのない事実及び後掲証拠により容易に認めることのできる事実)
(1) 原告とCは,平成26年4月15日に婚姻(以下「本件婚姻」という。)の届出をした夫婦である(甲5)。
(2) 被告は,電気通信機械器具等の製造等を目的とする株式会社である。
(3) Bは,被告の技術・知的財産統括本部長であり,かつ,被告の子会社である訴外株式会社aの代表者である。
(4) Cは,平成5年頃から被告の筑波研究所において事務員として勤務していたが,平成23年7月頃,被告の本社(田町)に転勤となり,同所でBの部下として勤務していた。

3 争点及び争点に関する当事者の主張
(1) Bが被告の事業の執行又はこれに準ずるものとしてCと不貞関係をもったか否か。

(原告の主張)
ア 原告は,平成18年2月頃,Cと交際を開始し,その後,平成23年4月頃から内縁関係に入り,平成26年4月15日に婚姻した。Bは,遅くとも平成24年2月頃から,Cに対し積極的に働きかけて自身と交際することを強要し同女と肉体関係をもち,原告とCが内縁関係,婚姻関係に入った後も不貞関係を継続した。

イ すなわち,Bは,被告の本部長,子会社の代表取締役という肩書き・地位,権威等を利用し,CをしてBの依頼を拒みがたい状況にあったことに乗じて不貞関係を強要し,業務上の出張にCを同行したり,勤務時間内に色恋沙汰のきわどいメールを送り続けたり,Cを早退させてBのいるホテルに呼び出したりするなどして不貞関係を継続したものであり,Bによる不貞行為が被告の事業の執行又はこれに準ずるものとして行われたことは明らかである。

ウ したがって,Bの使用者である被告は,被用者であるBが事業の執行について原告に与えた損害について,民法715条1項に基づき,賠償する義務を負う。
 なお,BがCに対し前記のとおり不貞関係を強要したことは,配偶者である原告に対する不法行為を構成することは明らかである。

(被告の主張)
 否認又は争う。
 原告の主張するBとCの不貞関係は,被告の事業及びBの被告における業務と何ら関係のないものであるから,これにつき被告が使用者責任を負う余地はない。
 また,BがCに対し不貞関係を強要しこれが「セクハラ行為」にあたるかのような主張についても,それによる不法行為に基づく請求権は,Cに帰属するというべきであり,原告の主張は失当である。

(2) 損害額
(原告の主張)
 原告は,Bの前記不貞行為により,妻であるCとの本件婚姻関係が破綻し早晩離婚に至ること必至の状況に追い込まれたものであり,これにより精神的に強い衝撃を受け,自身の仕事にも打ち込めないほどの打撃を被ったのであり,この精神的苦痛に対する慰謝料は3000万円を下ることはない。

 (被告の主張)
 否認又は争う。

第3 判断
1 争点1(Bが被告の事業の執行又はこれに準ずるものとしてCと不貞関係をもったか否か。)について

(1) 民法715条1項は,被用者が使用者の事業の執行につい第三者に加えた損害を賠償する責任を負う旨規定しているところ,事業の執行についてとは,損害発生の原因となる被用者の行為を外形から客観的に観察して,使用者の業務執行の一部あるいはその延長と認められるか,これらと密接な関係がある場合をいうものと解するのが相当である。

(2) これを本件についてみると,証拠(甲1,2,3の1,5,乙1)及び弁論の全趣旨によれば,CがBとの性的関係を伴う交際を認めていた旨の原告の陳述に沿うように,BとCの間で「愛している」などと記載した電子メールが頻回にやり取りされ,BがCに対し,本件婚姻前に「愛しているから今までのようにお付き合いしたい」,「僕の強い意思は抱きたいし,旅行したい」などの内容の電子メールを送信していることなどの事情が認められ,これらの事情からすると,BとCは,本件婚姻前から性的関係を伴う親密な交際をしていたと認めることができる。そして,両者の間で交わされた電子メールの内容に照らせば,BとCは,両者の自由な意思に基づき性的接触を伴う交際を開始しこれを継続したと考えるのが自然である。

 これに対し,原告は,Bが被告の本部長,子会社の代表取締役という肩書き・地位,権威等を利用し,CをしてBの依頼を拒みがたい状況にあったことに乗じて不貞関係を強要したと主張し,これを裏付けるものとしてC名義のB宛の電子メール(甲2)を提出するが,同メールの文面は原告が作成しBに送信したものであり,送信後,CがBに対し同メールが自己の意思に基づかずに送信されたものである旨弁解していること(乙1)に照らすとその信用性は低いというべきであり,原告の主張を採用することはできない。

(3) 次に,原告は,BとCの前記性的関係を伴う交際は,原告とCが内縁関係に入った後又は本件婚姻後にも継続して行われ,その態様もBがCを業務上の出張に同行したり,勤務時間内に色恋沙汰の電子メールを送信したりするなどして不貞関係を継続したと主張するが,具体的に不貞行為の内容を特定して主張していない上にこれを裏付ける的確な証拠はないし,仮に,原告主張のような事情があったとしても,BとCは,前記のとおり両者の自由な意思に基づき交際を継続していたに過ぎないことに鑑みれば,外形から客観的に観察して,被告の事業の内容である電気通信機械器具等の製造等や,Bの被告の技術・知的財産統括本部長等としての職務執行の一部あるいはその延長として前記交際がされたと評価することはできないし,これらと密接に関係があるものとして前記交際がされたということもできない。
 よって,原告の前記主張は採用することはできない。

(4) なお,原告は,BがCに対し前記のとおり不貞関係を強要したことは,配偶者である原告に対する不法行為を構成するなどと主張するが,前記認定説示したとおり,BとCの交際は両者の自由な意思に基づくものと認めるのが自然であり,原告の主張とは前提を異にするというべきであり採用することはできない。

2 結論
 よって,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
 (裁判官 小西圭一)
以上:3,417文字

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