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不貞行為第三者勤務先の使用者責任を否定した地裁判例紹介1

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平成31年 4月 9日(火):初稿
○不貞行為第三者責任追及の事件では、不貞行為をした第三者だけでなく、その勤務先まで使用者責任として損害賠償を求める事案が良くあります。しかし、不貞行為はあくまで個人間の問題であり、その勤務先に使用者責任が認められることは先ずありません。

○原告が、同人の妻Bと警備会社である被告会社の従業員である被告Y2との不貞行為を原因として、被告Y1に対しては不法行為による損害賠償請求権に基づき、被告会社に対しては使用者責任による損害賠償請求権に基づき、慰謝料及び弁護士費用の合計の一部として2000万円とその遅延損害金の連帯支払を求めました。

○これに対し、平成25年12月25日東京地裁判決(ウエストロージャパン)は、原告とBとの約15年間の婚姻生活は、被告Y2とBとの不貞行為を原因として離婚に至り、原告は、多大な精神的苦痛を受けたと認められるなどとして、被告Y2の損害賠償額を275万円と認定しました。

○しかし、被告Y2の勤務先会社については、被告Y2の不法行為の原因である不貞行為が外形的にみて被告会社の職務の範囲内の行為であると認めることができず、被告Y2とBとの不貞行為は、被告会社の事業とは離れた被告Y2とBの自由な意思に基づくものと認められることから、被告会社の事業と密接関連性を有するとも認められず、被告会社の使用者責任を認めることはできないとしました。判例の一部を紹介します。

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主   文
1 被告Y2は,原告に対し,275万円及びこれに対する平成24年3月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを20分し,その3を被告Y2の負担とし,その余を原告の負担とする。
4 この判決の第1項は,仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

 被告らは,原告に対し,連帯して2000万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日(平成24年3月17日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は,原告が,同人の妻と被告Y1株式会社(以下「被告Y1社」という。)の従業員である被告Y2(以下「被告Y2」という。)との不貞行為を原因として,被告Y2に対しては不法行為による損害賠償請求権に基づき,被告Y1社に対しては使用者責任による損害賠償請求権に基づき,慰謝料2億円及び弁護士費用2000万円の合計2億2000万円の一部である2000万円並びにこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成24年3月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。

1 前提事実(証拠を掲記した以外の事実は当事者間に争いのない事実である。)

         (中略)

2 争点
(1) 被告Y2の損害賠償額
(2) 被告Y1社の使用者責任の有無

3 当事者の主張

         (中略)

第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(被告Y2の損害賠償額)について

(1)
ア 前記第2の1の前提事実に加え,証拠(甲1,5,8,乙A2,3,乙B1~5,原告本人及び被告Y2の各本人尋問の結果。ただし,甲1[Bの陳述書],乙B3[被告Y2の陳述書]及び被告Y2の陳述のうち下記認定に反する部分を除く。)及び弁論の全趣旨によれば,
①被告Y2とBは,少なくとも平成20年3月頃から同年9月11日までの間,月に1回程度,肉体関係を有していたこと(被告Y2),
②Bが被告Y2にネクタイを贈ったのに対し,被告Y2がBに香水を贈るなど相互に贈り物を交換していたこと(乙B1,被告Y2),
③被告Y2は,同年8月中旬頃,Bの帰省先である北海道まで赴き,Bと同じホテルに宿泊し,後にBから旅費相当額の金員を受け取ったこと(乙B3,被告Y2),
④被告Y2とBは,○月○日の被告Y2の誕生日に箱根に泊まり掛けで旅行に行き,Bは被告Y2にネクタイ及びカフスを贈ったこと(乙B3,被告Y2),
⑤Bは,平成20年春頃から携帯電話のメールのやり取りに没頭するようになり,同年6月頃から原告との夫婦関係を拒絶するようになり,深夜に出掛けて明け方に帰宅することもあったこと(甲5,原告本人),
⑥Bは,Cに対し,被告Y2が精神科に入院した後の同年9月初旬頃,同人に対し申し訳ないことをしていることはわかっているが,被告Y2の様子を教えてもらいたい旨のメールを送り,その後も被告Y2の様子を教えてもらいたい,会わせてほしいなどの内容のメールを送ったこと(乙B2),
⑦被告Y2は,休暇中の同月11日,本件原告宅を訪れ,Bと寝室に居たところを原告に発見され,同人から暴力を振るわれたこと,
⑧Bは,原告に対し,前記⑦の後も同年12月末頃まで,被告Y2についてテニススクールの知り合いと偽り,同人が被告Y1社の従業員であることなどを隠していたこと(原告本人),
⑨被告Y2とBは,原告に秘して,前記⑦の後も少なくとも二度はホテルで会い,被告Y2は,平成22年4月から同年8月までの間に合計140万円をBから受領したこと(乙B3,被告Y2),
⑩原告とBは,約15年の婚姻生活において3人の子をもうけたが,被告Y2とBとの不貞行為が原因で平成24年5月に離婚したこと
が認められる。

イ なお,Bは,陳述書(甲1)において,平成20年1月,被告Y2から「会わなければ,それまでメールや電話でやり取りした内容を夫にばらして家庭をめちゃくちゃにしてやる」と言われ,やむを得ず被告Y2と外で会い,ホテルに連れて行かれ,「家庭を壊してやる」という脅しに屈して,肉体関係を持った,被告Y2から「俺はY1社だから,夫のことも子供のことも家の中の隅々までよく知っている。別れるというのであれば,家庭を壊してやる。」などと脅され,被告Y2と別れることができなかった,被告Y2から半ば強制的に不倫旅行をさせられた,平成20年9月11日は被告Y2が突然本件原告宅に押し掛け,強姦といってもよい状態で性交渉をさせられたなどと供述をしているが,Bの意思に反して不貞行為を強要されたかのような供述内容は,証拠及び弁論の全趣旨から認定できる前記ア②から⑥,⑧,⑨の認定事実と整合せず,直ちに信用はできない。そして,原告から非を追及される立場にあったBが原告に真実を述べたとも限らず,Bの前記供述内容を裏付ける客観的な証拠もないことから,前記供述内容を事実として認めることはできない。

ウ 一方で,被告Y2は,Bから積極的に誘われて不貞行為が始まり,終始,Bが主導的であった,Bとの関係を絶つことができずに精神的に追い込まれた旨の主張をし,本人尋問においても同趣旨の供述をしているが,そもそも被告Y2とBが不貞関係を継続していたのは,被告Y2が本件原告宅を管轄するa営業所から管轄外のb営業所に異動した後であり(前提事実),被告Y2は,被告Y1社の営業に関してBと接触する必要性がなかったにもかかわらず,被告Y1社に報告することなく本件原告宅を訪問し,少なくとも平成20年3月頃から同年9月11日までの間,月に一回程度,Bと肉体関係を持ち,贈り物をしたり,同人の帰省中の北海道まで赴いたり,被告Y2の誕生日に箱根旅行をしたりするなどし(前記ア①~④),被告Y2も積極的に行動していることから,被告Y2の前記供述内容を信用することはできない。また,被告Y2は,平成20年8月26日から体調不良を理由に休暇を取得し,同年9月5日,医師により不安・抑うつ状態との診断を受けているが(前提事実),同年○月○日にBとともに泊まり掛けで箱根旅行に行っていること(前記ア④),休暇中の同年9月11日に本件原告宅を訪れ,Bと二人で寝室にいたこと(前記ア⑦),同日以後もBとホテルで会ったり,合計140万円を受領したりしたこと(前記ア⑨)などからすると,被告Y2が主張するようにBとの関係を絶つことができなかったために精神的に追い込まれ,体調不良に陥ったと認めることもできない。

(2) 損害賠償額の算定
 原告とBとの約15年間の婚姻生活は,被告Y2とBとの不貞行為を原因として離婚に至り,原告は,多大な精神的苦痛を受けたと認められる。これに,前記(1)アで認定した被告Y2とBとの間の不貞行為の期間,態様,発覚時及びその後の経緯等を加味すると,被告Y2が原告に対し支払うべき慰謝料額は250万円とするのが相当である。

 また,前記慰謝料額の1割に相当する25万円は,本件訴訟の弁護士費用として,被告Y2の不貞行為と相当因果関係を認めることができる。
 したがって,原告に対する被告Y2の損害賠償額は,275万円と認められる。

2 争点(2)(被告Y1社の使用者責任の有無)について
 使用者責任(民法715条1項)における「事業の執行につき」には,被用者の職務執行行為そのものには属さないが,その行為の外形から観察して,あたかも被用者の職務の範囲内の行為に属すると見られる場合も含まれ,被用者の事業の執行行為を契機とし,これと密接な関連を有すると認められる行為もこれに含まれるものと解する。

 本件において,被告Y2の不法行為の原因である不貞行為が外形的にみて被告Y1社の職務の範囲内の行為であると認めることができないことは当然である。また,警備機器の設置や点検等のために顧客の自宅を訪問することは被告Y1社の事業の一環であるとしても,被告Y2は,被告Y1社の職務として本来的に本件原告宅の警備等を担当していた期間において,警備機器の点検等の職務遂行のために本件原告宅を訪問した機会に,Bと不貞行為に至ったと認めるに足りる証拠はなく,仮に本件原告宅において不貞行為がなされたとしても,前記1(1)アによれば,そもそも被告Y2とBとの不貞行為は,被告Y1社の事業とは離れた被告Y2とBの自由な意思に基づくものと認められることから,被告Y1社の事業と密接関連性を有するとも認められない。

 なお,原告は,ステッカーの貼付を名目として被告Y2が頻繁にBと接触していたとか,不貞行為の発覚を防ぐためにセキュリティカメラを設置させたなどとも主張するが,これを認めるに足る証拠はない。
 したがって,家庭の安全や安心を守ることを標榜する警備会社の従業員が顧客の妻と不貞行為に及んだという本件事案において,被告Y1社に対する原告の心情を理解できないわけではないが,被告Y1社の使用者責任を認めることはできない。

3 結論
 以上によれば,原告の請求は,被告Y2に対する275万円及びこれに対する平成24年3月17日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却し,よって,主文のとおり判決する。
 (裁判官 樋口真貴子)
以上:4,446文字

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