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婚約に至らない交際での妊娠・中絶慰謝料20万円の支払を命じた判決紹介

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平成30年12月 5日(水):初稿
○婚姻・内縁・婚約に至っていない性的関係を伴う男女関係について一方的に解消を求められたときに、例えば金品の遣り取りがあった場合、その返還を求めることが出来るかとの相談を受けています。そこで婚約まで至らない男女関係解消での裁判事例を探しているのですが、なかなか見つかりません。婚約まで至らない場合、訴えまで出す事例は、余りないからと思われます。

○妊娠した場合について、「合意による性関係後妊娠・中絶した女性の保護程度1」で平成21年10月15日東京高裁判決(判時2108号57頁)を紹介していました。

○クラブにおいてホステスとして働いていた原告が、そのクラブに客として訪れた被告と男女関係になり被告の子を妊娠したところ、被告からは話し合いを拒絶され、その結果原告一人で堕胎の決断を下さざるを得なくなったと主張して、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として慰謝料200万円を含む約210万円の支払を求めた事案がありました。

○これに対し、原被告間は未だ婚約関係にあったものとはいえないから、被告が、原告の出産を希望せず、堕胎を求めたことや妊娠発覚を契機に交際を解消したこと自体は不法行為といえないが、条理上、女性からの話し合いの求めにできる限り速やかに真摯に応じる義務は存在し、被告はこの義務に反したとして、慰謝料20万円及び堕胎に要した医療費の半額の支払を命じた平成23年2月23日東京地裁判決(ウエストロー・ジャパン)を紹介します。慰謝料200万円の請求に対し認めたのは僅か20万円では女性に気の毒との感もします。

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主   文
1 被告は,原告に対し,25万5435円及びこれに対する平成22年10月1日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを10分し,その1を被告の負担とし,その余は原告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事   実
第1 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨

(1) 被告は,原告に対し,金210万6786円及びこれに対する平成22年10月1日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
(3) 仮執行宣言

2 請求の趣旨に対する答弁
(1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。

第2 当事者の主張
1 請求原因

(1) 原告は,六本木のクラブでホステスとして稼動していたところ,平成22年4月初め頃,原告の働いている店に客として来た被告と出会った。

(2) 原告と被告は,同年5月のゴールデンウィーク頃から,交際を始め,週に2,3回程度,原告が被告宅に遊びに行くなど,男女の恋愛関係にあった。

(3) 同年6月初め,原告が被告の子を妊娠していることが発覚した。

(4)
(ア) 原告は,被告に対し,電話で妊娠の事実を告げたところ,被告は,少し考えたいと述べて電話を切った。
(イ) 翌日,原告は,被告に再び電話し,自分は産みたいと述べたが,被告は,自分が父親になれる自信がないと述べたため,原告は,大事なことなので近いうちに時間を作ってもらいたいと伝えた。
(ウ) その後,原告からのメールに対し,被告からの返信はなく,同月13日に原告が被告に電話したところ,仕事中ということで話ができなかった。
(エ) 同月15日,原告は再び被告に電話したが,この日も時間がないということで話はできなかった。
 その後,被告から,原告と被告が2人で生活することは考えられても,そこに子供はいらない,3年後に子供をつくるならいいが,今は2人がいいという趣旨のメールが原告に届いた。原告は,このメールに対して,会って話して欲しいと伝えた。
(オ) この日以降,原告が被告に電話をしても被告は出ず,メールをしても返信がなくなった。同月23日にも,原告は被告と連絡を取ろうとしたが,連絡が取れず,翌日も,命の問題なので,責任をもって話がしたいし,原告の生活もあるので直接会って話をしたい旨メールしたが,それにも返信がなかった。
(カ) 同月27日,原告は,被告に「どのように考えているかわからない。」,「弁護士に相談して間に入ってもらうことになるかも知れないので連絡が欲しい。」とメールで伝えた。すると,同月29日,被告から原告に電話があり,原告は被告に,子供は日々育っているので,きちんと決めないと時間がないことを伝えたが,被告は,「自分には時間が経っているとは思えない。」,「産むなら勝手にしろ。何もしないし,何もできない。」と言った。それ以後,被告から原告への連絡は一切ない。
(キ) 同年7月2日,原告は,母親と相談し,堕胎することにし,堕胎にあたり,子の父親である被告の同意書が必要となるため,同意書を書いてもらうため被告に連絡をしたが,被告は応答しなかった。

(5) 同月10日,原告は,実家のある愛媛県松山市に戻り,同市内の病院で堕胎手術を行った。

(6) 恋愛関係にある男女間において,女性がその男性の子を妊娠した場合,社会通念に照らせば,その男性にも子をどうするか話し合う義務が生じるというべきであるのに,被告は,原告の妊娠後,子についてどうするか全く話し合おうとせず,不誠実な態度をとり,一方的に連絡を絶ち,上記義務に違反した。これにより,原告は,一人で堕胎するか否かの決断をさせられたものである。

(7)
(ア) 被告の上記対応により,原告は,一人で堕胎の決断をすることを余儀なくされ,精神的損害を被った。これを金銭的に評価すると200万円は下らない。
(イ) 堕胎のために要した費用の少なくとも半額を被告も負担するのが社会通念上公平であるが,被告が原告と話し合うことを放棄したことにより,原告が堕胎にかかる以下の費用を全額負担しなければならなかった。したがって,以下の費用の半額である10万6786円が損害である。
a 妊娠時点における検査費用等 1万2590円
b 妊娠診断,中絶手術前検査費用 8500円
c 中絶手術費用 8万5000円
d 手術後検診費用 4780円
e 交通費(松山までの飛行機代金) 6万8200円
f 入院中のペットホテルの費用 3万4503円

(8) よって,原告は,被告に対し,不法行為に基づき,損害額210万6786円の損害賠償及びこれに対する不法行為の後の日である平成21年10月1日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2 請求原因に対する認否及び反論
(1) 請求原因(1)ないし(5)(ただし,同(4)(キ)を除く。)は認める。同(4)(キ)は不知。

(2) 同(6)は争う。被告は原告に対し,子を産むことに肯定的でない旨を伝えていたのであるから,被告には,その後のことについて,原告と話し合う義務はない。したがって,被告が原告と話し合わなかったとしても,義務違反はなく,不法行為責任を負わない。

(3) 同(7)は否認ないし不知。

理  由

(1) 請求原因(1)ないし(5)
(ただし,同(4)(キ)を除く。)は当事者間に争いがなく,甲8によれば,同(4)キの事実が認められる。

(2) 請求原因(2)について
ア 当事者間に争いがない請求原因(1)ないし(3)の事実からすれば,原告と被告は,妊娠発覚当時,恋愛感情に基づき交際中であったものの,交際開始から未だ1か月しか経過しておらず,両者が婚約関係にあったといえないことはもとより,将来的に結婚することを前提に交際していたということもできない。そして,被告は,原告の妊娠を知り,原告に対し,原告の出産を望まないとの意向を示し,結局,妊娠発覚を契機に原告との交際を解消しているところ,両者が上記のような関係にある以上,原告としても,妊娠したからといって,必ずしも被告が出産を受け入れるとは限らないことや婚姻につながるとは限らないことを承知の上で,性交渉を行ったということとなり,かかる場合に,被告が,原告の出産を希望せず,堕胎を求めたことや妊娠発覚を契機に被告が原告との交際を解消したこと自体は不法行為とはいえない。

 そのことを前提に,原告の主張も,被告が原告から妊娠を告げられて以降,原告との話し合いに応じなかったことについて問題としているので,当該行為が不法行為に当たるか検討する。

イ そもそも,女性が交際相手の子を妊娠した場合には,男女が婚約関係に至っていなかった場合であっても,男女双方の問題として両者が協議して対応を決するべきものであるし,女性が出産するか否かを決定するためには,交際相手の男性が出産を希望しているのか否かのみならず,当該男性の婚姻意思を含む二人の将来についての考え,女性が出産を選択した場合の扶養や認知の意思の有無,堕胎する場合の金銭的精神的支援の意思の有無等が重要な判断要素となるところ,女性にとっては,出産するにしても,堕胎するにしても,経済的,肉体的,精神的負担を伴うことから,上記の点について相手の男性と話し合い,その真意を確かめた上でなければ,適切な選択はできないというべきである。

 しかも,一般に妊娠週数が経過すればするほど堕胎が母体に及ぼす肉体的負担は大きくなる上,妊娠4月以後の人工中絶手術は死産として,届出義務も発生するので(死産の届出に関する規程2条,3条),決断の時期をそう遅らせることはできないとの制約があるのであるから,男性と上記の話し合いができないまま放置された場合,女性としては判断要素となる事項が不確定なまま出産か堕胎かの決断を一人でせざるを得ず,精神的に大きな負担を受けることは明らかである。とすると,上記のような関係にある男女間においては,男性には,交際相手が自己の子を妊娠した場合に,条理上,女性からの話し合いの求めにできる限り速やかに真摯に応じる義務があるといえる。

ウ 本件においては,甲2,8によれば,原告の妊娠が判明したのが平成22年6月7日であるところ,被告は,原告から妊娠を告げられた当初は,原告と電話で話をしたものの,出産するか否かについては「よく分からない。」などと対応を明らかにせず,直接会った上での話し合いを求める原告に対し,自らは連絡することなく,原告からの連絡に対しても対応せず,メールで原告の出産に消極的である意向を示したきり,原告からの電話にも出ず,メールにも返信しないまま放置し,同月末ころ,原告からメールで強く話し合いを求められるや,逆に,電話で「俺が言えるのは,堕ろしてくれだけ。お前が産もうが堕ろそうが,俺には関係がないし,俺は何もしてやれない。」,「勝手にしてくれ。」などと突き放す発言をし,それ以降,連絡を絶ち,同年7月に入り,堕胎手術に必要な同意書の作成にも協力しなかったことが認められる。

 このように被告は,約1か月もの間,原告から話し合いを何度も求められているにもかかわらず,それに真摯に応じることもせず,原告の勝手にするよう言い放ち,原告との話し合いを拒絶したのであるから,前記イの義務に違反したことは明らかである。なお,被告は,最後の電話で原告に何らの協力もしないことを告げているものの,その発言は,上記のとおり暴言的に言い放って話し合いを拒絶する意思を示しているにすぎず,原告は冷静な話し合いの場でそれが真意であるのか否かを確かめることもできなかったのであるから,何ら原告の意思決定に資するものではなく,被告が話し合う義務を尽くしたということはできない。

 そして,被告の義務違反の結果,原告は,結局,被告と一度も会って話し合うことができないまま,一人で出産するか堕胎するかの決断をせざるを得なくなり,実際に,同年7月10日に,堕胎手術を受けたものである。

(3) 請求原因(3)について
ア 被告の義務違反により,原告は,約1か月間,被告と相談できないまま,一人で出産するか否かについて逡巡することとなり,最終的にも,被告との話し合いなしに堕胎手術を受けることを決断したのであるから,この間,精神的苦痛を受けたことが認められる。そして,被告の不法行為が,原告の意思決定過程における協力義務違反であることに照らせば,原告の精神的苦痛を慰謝するためには20万円が相当である。


(ア) 後掲各証拠によれば,原告は,堕胎に伴い,以下の費用を支払ったことが認められる。
a 妊娠時点における検査費用等 1万2590円(甲2)
b 妊娠診断,中絶手術前検査費用 8500円(甲3)
c 中絶手術費用 8万5000円(甲4)
d 手術後検診費用 4780円(甲5)
e 交通費(松山までの飛行機代金) 6万6200円(甲6)
f ペットホテルの費用 3万4503円(甲7)

(イ) 前記(ア)の各費用のうち,妊娠に伴う検査費用や堕胎手術に伴って通常かかる医療費は,交際中の性交渉により女性が妊娠し,堕胎することとした当事者間において,男女双方が折半して負担するのが公平であり,本訴においても被告が手術費用等の実費の約半額の5万円を支払う意思を示していることからしても,原告と被告間で話し合いが行われていれば,被告もその半額を負担していたであろうと考えられ,原告が全額負担することはなかったと認められる。したがって,前記aないしdの半額である5万5435円は,被告の不法行為と相当因果関係がある損害ということができる。

 これに対し,前記(ア)eの帰省費用については,原告が堕胎手術を受けるに当たって両親の精神的支援を必要として,実家に帰省したという事情は理解できるものの,それは被告に義務違反がなく,原告と被告が相談の上で堕胎を決めた場合であっても,同様であったとも推測される(前記(2)ウの経過からすれば,被告の義務違反の有無にかかわらず,被告が原告の堕胎手術に立ち会った可能性低いと推認されることから,いずれにしても原告が帰省して堕胎手術を受けたであろう蓋然性が高い。)。

また,上記帰省費用は,堕胎のために不可避な費用であったとまではいえないから,被告がその半額を負担するのが公平であるとか,被告の義務違反がなければ,被告が少なくともその半額を負担していたはずであるとはいえず,被告の不法行為と相当因果関係がある損害とは認められない。同様に,前記(ア)fのペットホテルの費用も,原告が松山から帰京した翌日に支払われている(甲6ないし8)ことから,帰省に伴い必要となったものと認められ,堕胎に不可避な費用及び被告が少なくとも半額を負担していたであろう費用とはいえず,被告の不法行為と相当因果関係がある損害とは認められない。

ウ 以上によれば,被告の不法行為と相当因果関係があると認められる損害は,25万5435円となる。

2 よって,原告の本訴請求は主文掲記の限度で理由があるから,これを認容することとし,その余は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
 (裁判官 中俣千珠)
以上:6,164文字

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