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同居住居を一定地域内に定めることを条件に同居を命じた家裁判例紹介

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平成30年11月27日(火):初稿
○同居できる住居を一定地域内に定めることを条件としていますが、申立人夫の相手方妻に対する同居を命じた平成29年3月29日佐賀家裁審判(ウエストロー・ジャパン)を紹介します。抗告審である平成29年7月14日福岡高裁決定(判タ1453号121頁)で取り消されており、別コンテンツで紹介します。、

○妻の離婚要求を夫が拒否し、妻に対し、夫婦関係円満調整及び長女との面会交流を求める調停を申し立てて、いずれも不成立となり、妻が夫に対し離婚訴訟を提起し、第一審は離婚が認容されたところ、控訴審で取り消されています。夫は、一審の離婚認容判決が控訴審で覆ったことから、婚姻は維持され、妻に同居義務があるとして同居を求める審判を提起しました。

○平成29年3月29日佐賀家裁審判は、「相手方住所での同居を求めるようであるが,その住居が長女を含め相手方・申立人の3名で居住するに相応しいとの証拠がないばかりか,同居義務が強制履行を求めることのできないものである以上,申立人が相手方の承諾なく相手方住居に立ち入ることを許容するとは考え難く,そのような行為を許容するかの誤解を与えかねない相手方住所での同居という内容は相当とはいえない。」として、同居住居を「相手方が一般的な方法で通勤できる地域内に定めたとき」には同居せよと条件付で同居を命じています。

○同居命令は直接強制は勿論、間接強制による強制履行もできません。いくら同居命令を出しても相手方が応じない限り同居は実現できません。本件は、「相手方は,控訴審判決の前後を通じ,申立人に関することを見聞きすると,蕁麻疹,吐き気,めまい,咳き込みなどを発症するので,申立人と同居することは,相手方に対し健康を害する環境で生活することを強要することであり」と主張しています。

○同居を求められた相手方妻は、同居を求める申立人夫に関することを見聞きしただけで「蕁麻疹」が出て「吐き気がする」とまで極度に嫌っています。このような事案で、同居命令を出しても相手方妻が同居する可能性全くないことが明らかです。然るに、敢えて同居命令を出す理由が全く理解出来ません。

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主   文
1 相手方は,申立人が,相手方及び当事者双方の長女Cのみが申立人と同居できる住居を,相手方が一般的な方法で通勤できる地域内に定めたときは,その住居において申立人と同居せよ。 
2 本件手続費用は,各自の負担とする。 

理   由
1 申立ての趣旨
 
 相手方は,申立人と同居せよ。 

2 認定事実
 一件記録によれば,次の事実が認められる。 
(1) 婚姻以降の経過等 
ア 申立人と相手方は,平成21年●月●日婚姻し,申立人の実家でその両親を含めて生活し,当事者双方の間に,平成24年●月●日長女Cが出生した。 

イ 相手方は,平成25年●月●日から,申立人と別居し,当初は長女とともにその実家で生活していたが,後に肩書住所に長女とともに転居し,長女を監護養育している。 
 申立人は,実家でその両親とともに生活している。 

ウ 申立人は,平成25年●月●日,当裁判所に対し,相手方との夫婦関係円満調整及び長女との面会交流を求める調停を申し立て(平成25年(家イ)第●号外),相手方は,同年●月●日,当裁判所に対し,申立人との離婚を求める調停を申し立て(平成25年(家イ)第●号),いずれも平成26年●月●日不成立となった。 

 長女との面会交流を求める調停は審判に移行し(平成26年(家)第●号),平成26年●月●日,大要,申立人が長女と少なくとも1か月に2回,午前10時から午後1時までの間面会交流し,長女の受渡場所をそのころ相手方が居住していた相手方の実家付近のコンビニエンスストアとするという審判がされ,確定した。 

エ 相手方は,平成26年●月●日,当裁判所に対し,申立人との離婚訴訟を提起し(平成26年(家ホ)第●号),平成28年●月●日,離婚を認容する判決がされたが,申立人が,同月●日,福岡高等裁判所に対し,控訴を提起し(平成28年(ネ)第●号),同年●月●日,原判決を取り消して離婚請求を棄却する判決(以下「控訴審判決」という。)がされ,同年●月●日確定した。 

 控訴審判決では,大要,相手方と,同居していた申立人の両親とのコミュニケーションの不全による相手方のストレスはうかがわれるものの,申立人のそれへの対応をとらえて相手方への配慮に欠けたものとはいえず,別居後の申立人に離婚に積極的な言動があったとはいえず,申立人が相手方及び長女に対する愛情を有し共に生活を営んでいくことを切望しており,申立人と相手方との婚姻関係が破綻しているとまでは認められないとの理由が述べられている。 

オ 申立人は,平成28年●月●日,当裁判所に対し,相手方との同居を求める調停を申し立て(平成28年(家イ)第●号),同年●月●日不成立となった。 

(2) 当事者双方の生活状況等 
ア 申立人は,●に勤務している。 
イ 相手方は,●公立学校教員であり,●の教諭である。 
ウ 控訴審判決後も,相手方は,離婚意思は固いとして,申立人と直接接触せず,申立人と長女との面会交流も,代理人弁護士事務所を通じて打ち合わせ,相手方の両親を介して長女の受け渡しを行っている。
エ 申立人は,相手方に対し,月額5万円の婚姻費用を支払っている。 

3 検討 
(1) 一旦婚姻が成立すると,夫婦は同居し,互いに協力し扶助する義務が生じるところ(民法752条),夫婦の同居は夫婦共同生活における本質的な義務であり,夫婦関係の実を挙げるために欠くことのできないものであるから,同居を拒否する正当な事由がない限り,夫婦の一方は他方に対し,同居を求めることができる。 

(2) 相手方は,申立人との離婚訴訟を提起して第1審で勝訴したものの控訴審でその判決が取り消されて請求を棄却されたのであるから,申立人と同居する義務を負うことが確認され,控訴審の口頭弁論終結後に同居を拒否する正当な事由が生じたといえなければ,その義務は当然継続することになる。 
 上記2(2)ウのとおり,控訴審判決後も,相手方は,離婚意思が固いとして,申立人と直接接触せず,申立人と長女との面会交流も,代理人弁護士事務所を通じて打ち合わせ,相手方の両親を介して長女の受け渡しを行うというものであった。 

 相手方は,控訴審判決の前後を通じ,申立人に関することを見聞きすると,蕁麻疹,吐き気,めまい,咳き込みなどを発症するので,申立人と同居することは,相手方に対し健康を害する環境で生活することを強要することであり,同居したくないのではなく,できないのであるなどと主張し,申立人に対する嫌悪感や不信感があり,申立人からの文書や手紙を見るだけで気分が悪くなり,申立人との接触を考えただけで身体がかゆくなったり吐き気がしたりすると陳述し,ストレスなどによる慢性蕁麻疹と診断し,治療を必要とするとの内容の平成28年●月●日付け皮膚科医師作成の診断書に加え,適応障害(抑うつ状態)と診断し,ストレス因子は明確であり,治療には環境調整が必要と判断するとの内容の同年●月●日付けの診断書も提出する。 

 相手方は,相手方の申立人に対する嫌悪感の原因は,申立人が,相手方の説明や言い分を傾聴しないこと,存在しない事実を主張したり,事実を隠したり誇張して相手方を非難すること,相手方が主張してもいないことを勝手に想像し,その想像を前提に非難すること,自己の言動の矛盾を差し置いて相手方を非難することなどであると主張する。 

 相手方は,同主張にかかる具体的事実の例として,平成28年●月●日に実施された長女の通う保育園の芋ほり行事に申立人が参加を求めたことに関しての代理人弁護士事務所を通じてのやりとり,同年●月●日の長女との面会交流の際の長女の言動を巡っての代理人弁護士事務所を通じてのやりとりなどについての申立人の子細な発言内容を,存在しない事実を主張したり,事実を隠したり誇張しているものとして非難するが,その主張にかかる具体的事実の内容を見ても,総じていえば,相手方・申立人双方とも非常に批判的で疑心暗鬼であるうえ,代理人弁護士事務所を通じてやりとりをしているために,十分に意思疎通ができていないものであるということができる。そうすると,相手方が申立人に対して嫌悪感を抱く原因が,主として控訴審判決後の申立人の相手方に対する非難などの意図的な言動にあるとの相手方の主張は,たやすく採用することはできない。 

(3) 当裁判所としては,相手方の申立人に対する拒絶が激しいので,まずは,家庭裁判所調査官を同席させたうえ,両者を面会させようとしたが,相手方にその旨提案しただけで,手が震え呼吸が荒くなり嗚咽するという状況になったので,後日,家庭裁判所技官(医師)の受診をさせたところ,「元来健康,特記すべき家族歴や既往歴は無い方,現夫との物理的ないし心理的接近のたびに皮疹などの皮膚症状出現し,不安感も強まる。

 それ以外の際は,身体的な問題は起こらない状態である。精神医学的には『適応障害』と考えられる。ストレッサーと面会するためには抗不安薬の事前服用が必須と考えられ,その際でも精神症状の悪化は否定できない。」との診断がされた。これに対し,相手方は,投薬しても症状を回避できるかわからず,相手方が安心して健康に生きることを否定するとして,家庭裁判所調査官を同席させたうえ抗不安薬を服用して申立人と面会することは拒否した。 

(4) 相手方は,控訴審判決後,長女と申立人との面会交流には協力するものの,1度も申立人と面接しようとはしていない。控訴審判決により離婚請求を棄却された以上,原則として申立人と同居する義務を負うにもかかわらず,その義務が履行できないことについて,申立人に説明し謝罪する試みがされたとはうかがえない。直接行うことができないとしても,相手方には,代理人弁護士事務所を通じて連絡をする手段があるのに,それを利用しようとした形跡もない。 

 相手方が適応障害であるとの診断がされ,申立人との物理的ないし心理的接近のたびに皮膚症状や不安感が生じるとしても,奏効するかどうかはともかく,面会に先立ち抗不安薬を服用するという手段が示唆されているところである。 
 以上のとおり,相手方は,控訴審判決後,申立人との同居のための第1歩となる申立人との面会,そのきっかけとなるべき書面や手紙での申立人との交流なども一切試みようとしていないので,申立人との物理的ないし心理的接近をストレッサーとする適応障害であるとの診断があるだけでは,いまだ同居を拒否する正当な事由が生じているとはいえない。

 なお,相手方は,離婚請求を棄却する控訴審判決の「今後,婚姻関係を修復するにせよ,結局は離婚の合意に至るにせよ,夫婦関係がこのような状態に立ち至ったことについて,自己の正当性のみを主張し,相手方が自己の意に沿わない主張をすることをいたずらに非難するのではなく,互いの至らなかった点を真摯に反省しつつ,相互に納得し得る結論を導くよう真摯で継続的な努力をすることが望まれる。」との表現をとらえて,控訴審判決が,夫婦関係の修復を義務付けるものでも,同居を要求するものでもないとし,相手方に婚姻関係修復の意思はないから相手方は婚姻関係を修復するという結論を導くための真摯で継続的な努力はできないが,離婚の合意に至るという結論を導くための真摯で継続的な努力はしていきたいと考えて行動していると主張するが,控訴審判決の表現を曲解するものであり失当である。

(5) ところで,夫婦同居の審判は,その実体的権利義務自体を確定するというよりは,それがあることを前提として,その具体的内容を定めるものであるというべきである。 
 そこで,申立人と相手方の生活状況を検討すると,上記2(1)イのとおり,相手方は長女と肩書住所で生活し,申立人はその実家で両親と生活している。相手方が申立人との離婚を求める理由に,申立人の両親との不和を挙げており,控訴審判決でもその事情自体は一定程度認定されているから,相手方に申立人の実家での申立人との同居を命じるのは相当でない。

 申立人は,相手方住所での同居を求めるようであるが,その住居が長女を含め相手方・申立人の3名で居住するに相応しいとの証拠がないばかりか,同居義務が強制履行を求めることのできないものである以上,申立人が相手方の承諾なく相手方住居に立ち入ることを許容するとは考え難く,そのような行為を許容するかの誤解を与えかねない相手方住所での同居という内容は相当とはいえない。 

 現実に,相手方と申立人との同居が実現するためには,まずは,例えば,書面での交流などの間接的な方法から始めて,第三者を交えるなどして直接面会をする機会を作り,さらに当事者のみで面会する機会につなげていくなどの手順を踏むことが考えられるが,その過程を審判で定めることはできないので,結局は,抽象的であれ,そのような過程を経て考えられる同居形態を定めるしかない。 

(6) よって,申立人・相手方間の子の状況,申立人・相手方それぞれの稼働状況などを考慮すると,主文のとおり審判をするのが相当である。 
 佐賀家庭裁判所 (裁判官 ●)
以上:5,478文字

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