平成30年 7月20日(金):初稿 |
○原告が、原告の元妻であるCと同じ職場に勤務する同僚で上司であった被告が、不貞関係を結んだことにより損害を被ったと主張し、被告に対し、不法行為に基づいて慰謝料などの約364万円賠償金の支払等を求めた事案で、被告はCが宿泊するホテルに行ったことはあるが、性関係はないと不貞行為を強く否認しました。 ○これに対し、被告とCは、ソーシャル・ネットワーキング・サービスLINEを利用して頻繁に連絡を取り合い、同LINEの履歴によれば、午前0時近い時間に被告がCの宿泊先であるホテルの部屋を尋ねていたことやCが被告にホテルの部屋番号を教え、その部屋で待っている旨を伝えていること等のやりとりをしていたことから、被告とCとの間において、性交渉を伴う男女関係、つまり不貞行為があったことが推認できるとして、請求の一部を認容した平成28年8月30日東京地裁判決(TKC)を紹介します。 ******************************************* 主 文 1 被告は,原告に対し,143万円及びこれに対する平成27年9月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用はこれを100分し,その61を原告の,その余を被告の負担とする。 4 この判決は,第1項に限り仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 被告は,原告に対し,363万8140円及びこれに対する平成27年9月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は,被告が原告の元妻であるCとの間に不貞関係を結んだことから損害を被ったとして,原告が,被告に対し,不法行為に基づいて賠償金363万8140円(慰謝料300万円,引越費用30万7400円,弁護士費用33万0740円)及びこれに対する不法行為の後の日である平成27年9月12日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求めた事案である。 1 前提事実 (1)原告とC(以下「C」という。)は,平成23年6月21日に婚姻した(甲1)。 (2)原告,被告及びCは,同じ職場に勤務する同僚であり,被告とCは上司と部下の関係であった(弁論の全趣旨)。 (3)原告とCは,平成28年2月22日,離婚した(甲6)。 2 争点 (1)不貞行為の有無(争点1) (2)損害(争点2) 3 争点に対する当事者の主張 (1)争点1(不貞行為の有無)について (原告の主張) 被告は,平成24年ころから平成27年ころにかけて,Cが原告と婚姻していると知りながら肉体関係を結び,不貞行為を続けた。 少なくとも,平成26年6月27日,同年11月5日,同年12月13日,平成27年1月4日,同月21日,同年2月14日,同年3月1日,同月18日,同年8月3日の計9回にわたり,ホテルの部屋で二人で過ごし,肉体関係を結んだ。 (被告の主張) ア 否認する。 イ 被告とCとの間には不貞行為はなく,被告は上司として,Cの求めに応じて善意で相談に乗っていただけである。 Cからは,平成24年末ころより職場における人間関係について相談を持ちかけられるようになり,平成27年ころには原告との関係を中心とする家庭の問題についても相談されるようになった。 職場で込み入った話をしていると周囲から誤解されたり噂を立てられたりするおそれがあるため,東新宿駅近くで夕食を取りながら相談に応じたり,2度ほどCが宿泊しているホテルに行ったことはあるが,Cとは一度も同宿しておらず,不貞行為に及んだことも一切ない。 (2)争点2(損害)について (原告の主張) ア 慰謝料300万円 被告の上記不法行為によって,原告とCの婚姻関係は破綻し,さらにその後,不貞の事実を認めようとせずきわめて不誠実かつ無責任な対応をした。 上記被告の言動により,原告の受けた精神的苦痛を慰謝するには少なくとも300万円が相当である。 イ 引越費用30万7400円 原告は,被告の上記不法行為により,Cと別居することとなったが,従前居住していた住居は一人暮らしに適さなかったことから引越をせざるを得ず,引越費用として30万7400円を支出したのであるから,同金額も被告の不法行為と因果関係のある損害である。 ウ 弁護士費用33万0740円 原告は,本件訴訟を提起するために弁護士に依頼せざるを得ず,その弁護士費用は33万0740円を下らない。 (被告の主張) 争う。 第3 争点に対する判断 1 争点1(不貞行為の有無)について (1)証拠(甲2,3,証人C,被告本人)及び弁論の趣旨によれば,被告とCは,平成26年3月ころから平成27年8月ころまでの間,ソーシャル・ネットワーキング・サービスLINE(以下「ライン」という。)を利用して頻繁に連絡を取り合い,同ラインの履歴によれば,「遊ぶ」などと称して二人で会っていたこと,午前0時近い時間に被告がCの宿泊先であるホテルの部屋を尋ねていたこと,「ちょっと遊ぶ?」との被告の連絡に対してCは「いいんですけど,今はアノ期間なんですよね」「今は女の子の期間なので遊べませんよ」など返答したり,「寒くて人肌恋しいから遊びたいんだけど,今日は無理なの」などと応じたりしていること、被告がCに対して「明日も早番なので泊まれないけど」「ワシントン(ホテル)で待っててよ」などと伝えたり,Cが被告にホテルの部屋番号を教え,その部屋で待っている旨を伝えていること等のやりとりをしていたことが認められるところ,同事実からは,被告とCとの間において,性交渉を伴う男女関係があったことが推認できる。 (2)この点,被告及びCは,二人の関係はあくまで上司と部下であり,「遊ぶ」とは「相談する」との意味であって深刻にならないように「遊ぶ」と称していたこと,「アノ期間」などという表現はCの冗談であること,被告はCが宿泊していたホテルの部屋には行ったが終電の時間のため短時間で帰ったことなどを供述又は証言する。 しかしながら,Cは「アノ期間」とは女性の生理期間を意味する意図で使用しているところ(証人C),被告を恋愛対象とみていないので下品に思われても構わなかった旨証言するが,単なる上司と部下の関係であるならば,そもそも冗談でもこのような表現を通常使用することは考えられないし,相談に乗ってもらう上司に対して「寝てるかもしれないから来る前に連絡ください」などと連絡していることも不自然である。 また,Cは,ホテルに宿泊する理由について,家に原告がいるので一人になりたかった旨証言するが,原告が入院している日もホテルに宿泊するなど(甲8,証人C),その証言には合理性に欠け,直ちに信用することはできない。 加えて,被告もあくまでCからの求めに応じて上司として相談に応じていたなどと供述するが,ラインの履歴によれば,自ら「何してる?暇?」「遊ぶ?」などとCに連絡を取っていることからしても,被告の供述は不合理であり,直ちに信用することはできない。 2 争点2(損害)について (1)証拠(甲7,原告本人)によれば,原告は,被告及びCの不貞行為によって精神的苦痛を被ったことが認められるところ,本件に顕れた全事情を斟酌すれば,これに対する慰謝料の額は130万円が相当というべきである。 (2)また,原告は,被告及びCの不貞行為によって引越しをせざるを得なかったとして,引越費用30万7400円も相当因果関係ある損害として主張している。 しかしながら,被告及びCの不貞行為があったからといって必然的に原告が転居しなければならなくなるものとはいえず,被告及びCの不貞行為と原告の転居費用との間に相当因果関係があるとはいえない。 (3)そして,弁論の全趣旨によれば,原告は,被告及びCの不法行為によって被った精神的苦痛に対する賠償を求めるために原告代理人弁護士に委任して本訴提起を余儀なくされたところ,被告及びCの不貞行為と相当因果関係にある弁護士費用相当額の損害額は13万円と認めるのが相当である。 3 以上によれば,原告は,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償請求権として慰謝料130万円と弁護士費用相当額13万円の合計143万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成27年9月12日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求めることができるというべきである。 第4 結論 以上によれば,原告の被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求は,143万円及びこれに対する平成27年9月12日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する 東京地方裁判所民事第10部 裁判官 池田幸子 以上:3,616文字
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