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妻の再婚相手の養父が居る場合の実父養育義務の額を判断した判例紹介

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平成30年 6月23日(土):初稿
○前妻(看護師)が再婚し、その再婚相手と未成年者らとが養子縁組したことを理由として、前夫(医師)が前妻に対し、離婚時の和解において合意された前夫が前妻に対して支払うべき未成年者らの養育費月額10万円を、養子縁組時翌月以降免除ないし相当額に減額することを求め、第一審平成29年3月10日熊本家裁審判は、月額7734円まで減額し、前妻はこれを不服として抗告しました。

○これに対し、親権者である母親が再婚し、再婚相手が子らと養子縁組したことは、養育費を見直すべき事情に該当するが、養親らだけでは子らについて十分に扶養義務を履行することができないときは、非親権者である実親は、その不足分を補う養育費を支払う義務を負い、その額は、生活保護法による保護の基準が一つの目安となるが、それだけでなく、子の需要、非親権者の意思等諸般の事情を総合的に勘案すべきとして月額3万円とした平成29年9月20日福岡高裁決定(判時2366号25頁)全文を紹介します。

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主   文
一 原審判を次のとおり変更する。
(1)当事者間の東京家庭裁判所立川支部平成25年(家ホ)第13号事件について平成25年10月23日に成立した和解の和解条項第2項に基づき相手方が抗告人に対して支払うべき未成年者Aの養育費額について同項に「月額10万円」とある部分を、平成28年3月1日から「月額3万円」(ただし、平成28年3月分及び平成29年1月分から平成30年3月分までは「月額4万円」)と変更する。
(2)当事者間の東京家庭裁判所立川支部平成25年(家ホ)第13号事件について平成25年10月23日に成立した和解の和解条項第3項に基づき相手方が抗告人に対して支払うべき未成年者Bの養育費額について同項に「月額10万円」とある部分を、平成28年3月1日から「月額3万円」(ただし、平成28年3月分及び平成29年1月分から平成30年3月分までは「月額4万円」)と変更する。
二 手続費用は、原審及び当審とも、各自の負担とする。

理   由
第一 本件抗告の趣旨及び理由

 本件抗告の趣旨及び理由は、別紙「訂正申立書」《略》及び同「即時抗告理由書」《略》に各記載のとおりである。

第二 事案の概要
一 抗告人と相手方は、元夫婦であるが、平成25年10月××日、両者間の子である未成年者らの親権者を抗告人と定めて、訴訟上の和解合意に基づき協議離婚した。
 本件は、抗告人が再婚し、その再婚相手と未成年者らとが平成27年2月××日に養子縁組したことを理由として、相手方が抗告人に対し、上記和解において合意された相手方が抗告人に対して支払うべき未成年者らの養育費を同年3月以降免除ないし相当額に減額することを求める事案である。

二 原審判は、相手方が抗告人に支払うべき平成28年3月分以降の未成年者らの養育費を1人当たり月額7734円と変更したところ、抗告人がその金額を不服として抗告したものである。

第三 当裁判所の判断
一 認定事実は、原審判の「理由」欄の「第二 当裁判所の判断」の一項(原審判2頁15行目から3頁末行まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、原審判2頁18行目の「審理終結時」の次に「(平成29年2月24日)」を加え、原審判3頁15行目の「申立人の」とあるのを「相手方は医師であり、その」と改める。

二 両親の離婚後、親権者である一方の親が再婚したことに伴い、その親権に服する子が親権者の再婚相手と養子縁組をした場合、当該子の扶養義務は第一次的には親権者及び養親となったその再婚相手が負うべきものであるから、かかる事情は、非親権者が親権者に対して支払うべき子の養育費を見直すべき事情に当たり,親権者及びその再婚相手(以下「養親ら」という。)の資力が十分でなく、養親らだけでは子について十分に扶養義務を履行することができないときは、第二次的に非親権者は親権者に対して、その不足分を補う養育費を支払う義務を負うものと解すべきである。

 そして、何をもって十分に扶養義務を履行することができないとするかは、生活保護法による保護の基準が一つの目安となるが、それだけでなく、子の需要、非親権者の意思等諸般の事情を総合的に勘案すべきである。


 これに対し、抗告人は、実親が子に対して負う扶養義務は、生活保持義務、すなわち、自分の生活を保持するのと同程度の生活をさせる義務であり、その実親が子に対して負う生活保持義務を、養親が実親に優先して第一順位としてまず負担し、養親の負担によりその全額が賄えないときには、第二順位として不足分を実親が負担すべきであると主張する。

 しかし、養子縁組の制度は、未成年者の監護養育を主たる目的としており、養子縁組は、子の福祉と利益のために、その扶養も含めて養育を全面的に引受けるという意思のもとにしたというのが相当であり、このような当事者の意思及び養子制度の本質からして、子に対する扶養義務は、第一次的に養親にあり、実親は、養親に資力がないなど、養親において十分に扶養の義務を履行することができない場合に限って、扶養義務を負うものと解すべきである。非親権者である実親の資力が養親らのそれよりも高いからといって、非親権者である実親に対して、その差を埋め合わせるだけの金額を請求することはできない。
 したがって、上記抗告人の主張を採用することはできない。

三 以上を前提に、非親権者の実親である相手方の扶養義務の有無の判断及びその額の算定をする。
 まず、生活保護制度の保護の基準に照らし、抗告人及び養親であるその再婚相手(以下、上記両名を「抗告人ら」という。)において未成年者らに対し十分に扶養の義務を履行することができないか検討する。
 抗告人世帯、すなわち、抗告人ら、未成年者ら、抗告人らの子であるC(平成27年××月××日生)及びD(平成28年××月××日生)の生活保護制度における最低生活費のうち生活扶助の額を算定すると、207万4020円となる。その理由は、原審判の「理由」欄の「第二 当裁判所の判断」の2項(2)の二段落目(原審判5頁5行目から6頁14行目まで)の記載を引用するが、原審判5頁16行目から同17行目にかけての「相手方世帯の年額の最低生活費は、次の計算式三のとおり278万3710円となる」とあるのを「抗告人世帯の生活扶助費相当額は次の計算式三のとおり207万4020円となる」に改め、原審判六頁四行目から同14行目までを以下のとおり改める。
 「(計算式三)
 基本的な最低生活費年額202万5360円(計算式:基本的な最低生活費月額16万8780円×12か月)+地区別冬季加算額2万4550円(計算式:4910円×11月から3月までの5か月)+期末一時扶助費2万4110円=207万4020円

 なお、児童養育加算は、児童手当が生活保護世帯にも支給される一方、これが収入認定され、生活保護費から差し引かれることから、児童手当の効果が生活保護受給世帯の子どもにも等しく及ぶよう、その額及び支給対象者を児童手当と同一となるように定められてきたものである。本件の最低生活費の算定にあたっては、児童手当を収入として差し引くことはしないから、児童養育加算をすべきではない。

 また、妊婦加算及び産婦加算は、生活保護制度における生活扶助の一部をなすものであるが、将来にわたる継続的な養育費を算定するにあたっての最低生活費の計算において、生活保護制度における一時的な扶助である妊婦加算や産婦加算を考慮することは相当ではないので、これを除くべきである。

 さらに、本件で相手方が減額を求める養育費は、D誕生前の期間のものを含むが、ここでの最低生活費の試算は、将来にわたる継続的な養育費を算定するにあたって、抗告人らが未成年者らについて十分に扶養義務を履行することができないか及び履行するために必要な金額について判断する一事情として参酌するためのものであるから、ここではDが誕生したものとして、試算をするものとする。」

四 これに対し、抗告人の平成28年の給与収入額は、育児休業及び産前産後の休業の期間を除き、約5か月間稼働して52万6414円であったから、これを年額に換算すると126万3393円となる(計算式:52万6414円÷5か月×12か月。一円未満切り捨て。以下同じ。)。また、抗告人の再婚相手の平成28年の給与収入額は360万8355円であるから、抗告人世帯の年間総収入額は487万1748円となる。

 そして、最低生活費と比較すべき基礎収入額を算定するにあたっては、生活保護制度の保護の基準により支給される生活扶助は、衣食等の日常的な消費生活のために必要な経常的な費用の一か月当たりの最低必要水準を定めたものであり、住居費、医療費等のいわゆる特別経費や公租公課、職業費(以下「特別経費等」という。)が含まれていないこと(これらは、住居扶助として一定の範囲内で実費が支給され、医療扶助により本人負担はなく、また、住民税、所得税等は免除が受けられ、国民健康保険からは脱退し、勤労に伴う必要経費には勤労控除がある。)から、総収入額から特別経費等を控除して、基礎収入額を算定すべきである。

 本件においては、総収入額は487万1748円であるから、その多寡に照らし、特別経費等を控除した残額である基礎収入の割合は0・38が相当というべきであり、最低生活費と比較対照すべき基礎収入額は185万1264円となる(計算式:487万1748円×0・38)。
 そうすると、抗告人世帯の年額の最低生活費(ただし、生活扶助費分)207万4020円から、年額の基礎収入額185万1264円を差し引くと、年間22万2756円が不足することになる。

 したがって、抗告人らだけでは、未成年者らについて十分に扶養の義務を履行することができないのであり、非親権者である相手方は、親権者である抗告人に対して、その不足分を補う養育費を支払う義務がある。

 なお、前記不足額22万2756円は、未成年者らの不足額だけではなく、抗告人ら及びC、Dの生活費も含んでいるので、これを控除する必要がある。生活扶助費については個人的経費である第一類費と世帯共通経費である第二類費を合算等して算定されるところ、個人的経費である第一類費を用いて、抗告人世帯において占める未成年者らの生活費の割合を算定すると0・34となる(計算式:(2万7790円+2万7790円)÷(3万1060円+3万1060円+2万7790円+2万7790円+2万1550円+2万1550円)。これに不足額22万2756円を乗じた結果である7万5737円が未成年者らの生活費の不足分というのが相当である。これを月額に引き直すと、未成年者1人当たりの不足額は、3155円となる(計算式:22万2756円×0・34÷12か月÷2人)。

 そして、かかる不足額には、未成年者らの教育費(生活保護制度においては教育扶助等)が含まれていないところ、統計資料によれば、学校種別の学習費総額(学校外活動費を含む。)は、平成26年では公立小学校32万1708円(月額2万6809円)である(文部科学省ホームページ。子どもの学習費調査参照)。

 なお、生活保護制度の保護の基準では、学校外活動費は教育扶助の対象となっていないが、養親らだけでは子について十分に扶養義務を履行することができないかを判断するにあたっては、養親の扶養義務の根拠の一つが養子縁組をする当事者の意思にあることに照らせば、非親権者である実親について合理的に推認される意思をも参酌すべきであり、相手方の学歴、職業、収入等のほか、相手方は離婚後毎月1回程度、東京からE市まで出向いて未成年者らとの面会交流を継続していることなどに鑑みると、相手方には、未成年者らに人並みの学校外教育等を施すことができる程度の水準の生活をさせる意思はあるものと推認することができる。

 その他、これまでの未成年者らの生活水準との連続性など、諸般の事情を考慮すれば、相手方の支払うべき養育費は、未成年者1人当たり月額3万円とするのが相当である。


五 なお、抗告人は、現在育児休業中であり、育児休業期間は2年に及ぶ可能性があるところ、一件記録によれば、抗告人は看護師であり、再婚相手との間の子であるCを出産したとき(平成27年××月××日)は、1年を経過した後の××月(平成28年××月)に復職したことが認められ、そうすると、Dの育児休業についても出産(平成28年××月)から1年経過した後の××月まで(平成30年××月まで)とする蓋然性が高い。

 そして、その間の抗告人世帯の収入は、抗告人の再婚相手の収入のみとなるから、360万8355円である。特別経費等を除いた基礎収入の割合は、その金額の多寡に照らし、0・38が相当というべきであるから、これをもとに生活保護制度における最低生活費と比較すべき基礎収入額を算定すると、137万1174円となる(計算式:360万8355円×0・38)。

 そして、抗告人世帯の年額の最低生活費(ただし、生活扶助費分)207万4020円から、上記基礎収入額137万1174円を差し引くと、年間70万2846円が不足することになる。
 そして、これは、抗告人ら、C、Dの生活費も含んでいるので、前記のとおり算定した抗告人ら世帯において占める未成年者らの生活費の割合である0・34を上記不足額70万2846円に乗じると、23万8967円となり、これを月額に引き直すと、未成年者一人当たり9956円となる(計算式:70万2846円×0・34÷12か月÷二人)。

 前記と同様、かかる不足額には、未成年者らの教育費が含まれていないところ、統計資料によれば、学校種別の学習費総額は、平成26年では公立小学校32万1708円(月額2万6809円)である。
 その他、前記四に挙げた諸般の事情を考慮すれば、抗告人の育児休業期間中に、相手方の支払うべき養育費は、1人当たり月額4万円とするのが相当である。

六 そして、相手方の支払うべき養育費の減額の始期は、本件調停が申し立てられた平成28年2月18日の後である同年3月1日とするのが相当である。また、養育費の支払の終期は、前記四に挙げた諸般の事情を考慮すれば、変更する理由があるということはできない。

七 以上のとおり、相手方が支払うべき養育費は、平成28年3月1日から未成年者1人当たり3万円、ただし、抗告人が育児のため休業する平成28年3月及び平成29年1月から平成30年3月までは未成年者1人当たり4万円とするのが相当であり、これと異なる、原審判はその限度で失当であるから、これを変更することとして、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 岸和田羊一 裁判官 小田島靖人 松葉佐隆之)

別紙 訂正申立書《略》
別紙 即時抗告理由書《略》


以上:6,138文字

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