平成30年 6月11日(月):初稿 |
○「債務超過状態での財産分与が詐害行為に当たらないとした判例紹介」の続きです。 債務超過状態での財産分与が詐害行為に当たらないのであれば、破産の場合においても、財産分与の優先性を肯定され、破産管財人に対して財産分与金を取戻権として行使を認めても良さそうです。 ○しかし、平成2年9月27日最高裁判決(判タ741号100頁、判時1363号89頁)は、財産分与の分与者が破産した場合において、その相手方は、破産管財人に対し、取戻権の行使として、財産分与金の支払を目的とする債権の履行を請求することはできないとしました。 事案概要は以下の通りです。 ・XとAの婚姻関係が破錠したことから、Xは、Aに対する離婚の訴えに付随する財産分与請求権1000万円及び慰謝料2000万円を本案としてA所有の不動産に対する仮差押えの執行 ・Aは仮差押解放金3000万円を供託し、仮差押えは取消しとなり、その後、Aは、自己破産を申立て、Yが破産管財人就任 ・Xは、XとAとの離婚並びに500万円の慰謝料の支払及び1000万円を分与する旨の確定判決に基づき、供託金に差押・転付命令の申請 ・この命令がAへの送達ができず確定しない間に、Aの破産管財人Yが供託金を払戻し ・Xは、供託金のうち1000万円は財産分与によりXに帰属したとして、取戻権の行使として、Yに対して、その支払を求めた ・1、2審とも請求棄却。Xから上告 ○財産分与の意味を分与の相手方に帰属する財産の返還請求とすれば、財産分与を破産法上の取戻権と構成する考え方もできますが、前記最高裁判決は、「離婚における財産分与は、分与者に属する財産を相手方へ給付するものであるから、金銭の支払を内容とする財産分与を命ずる裁判が確定したとしても、分与の相手方は当該金銭の支払を求める債権を取得するにすぎず、右債権の額に相当する金員が分与の相手方に当然帰属するものではない」として、破産管財人への取戻権行使はできないとしました。 ************************************* 主 文 本件上告を棄却する。 上告費用は上告人の負担とする。 理 由 上告代理人○○○○、同○○○○の上告理由について 離婚における財産分与として金銭の支払を命ずる裁判が確定し、その後に分与者が破産した場合において、右財産分与金の支払を目的とする債権は破産債権であって、分与の相手方は、右債権の履行を取戻権の行使として破産管財人に請求することはできないと解するのが相当である。けだし、離婚における財産分与は、分与者に属する財産を相手方へ給付するものであるから、金銭の支払を内容とする財産分与を命ずる裁判が確定したとしても、分与の相手方は当該金銭の支払を求める債権を取得するにすぎず、右債権の額に相当する金員が分与の相手方に当然帰属するものではないからである。 そうすると、右と同旨の見解に基づいて、上告人の破産管財人に対する財産分与金の支払請求を棄却した原審の判断は、正当として是認することができ、右判断に所論の違法はない。右違法のあることを前提とする所論違憲の主張は、その前提を欠く。論旨は、ひっきょう、独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。 よって、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官 大内恒夫 裁判官 角田禮次郎 裁判官 四ッ谷巖 裁判官 大堀誠一 裁判官 橋元四郎平) 以上:1,431文字
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