平成30年 4月 5日(木):初稿 |
○一審平成29年1月27日大阪家裁が面会交流拒否1回30万円の間接強制金支払を命じた決定とこれを取り消した平成29年4月28日大阪高裁決定を紹介します。字数の関係で説明は別コンテンツで行います。 ******************************************** 平成29年4月28日大阪高裁決定(判時2355号52頁) 主 文 一 原決定を取り消す。 二 相手方の間接強制の申立てを却下する。 三 手続費用は、原審及び抗告審とも各自の負担とする。 理 由 第一 執行抗告の趣旨及び理由 一 執行抗告の趣旨 主文1、2項と同旨 二 執行抗告の理由 別紙抗告理由書(写し)《略》のとおり 第二 当裁判所の判断 一 前提となる事実関係は、次のとおり補正するほかは、原決定の「事実及び理由」欄の「第二 認定事実」のとおりであるからこれを引用する。 (1)原決定三頁21行目末尾に「以後、抗告人らは、隔月(偶数月)一回の相手方と未成年者との面会交流を実施せず、相手方に対し、一回当たり10万円の間接強制金を支払ってきた。」を加える。 (2)同四頁13行目末尾に改行の上、次のとおり加える。 「(5)相手方は、抗告人らが抗告審決定一及び同二に基づく相手方を未成年者と面会交流させる義務を履行しなかったことから、平成28年××月××日、大阪家庭裁判所に間接強制の申立てをした。 (6)抗告人らは、同年××月××日、相手方に対し、相手方と未成年者の面会交流を拒否する旨の調停を大阪家庭裁判所に申し立てた(同裁判所平成28年(家イ)第××号子の監護に関する処分(面会交流)事件)。 (7)大阪家庭裁判所は,平成29年××月××日、上記(5)の相手方の間接強制の申立てを認容し、抗告人らに対し、相手方を未成年者と面会交流させる義務の不履行一回につき30万円の連帯支払を命じる旨の決定をした。抗告人らは、同年××月××日、同決定を不服として即時抗告した。 (8)上記(6)の調停事件において、同年××月××日、家庭裁判所調査官による未成年者の意向調査が行われ、未成年者は、同調査官に対し、相手方との面会交流を拒否する旨の意向を述べた。」 二 上記認定事実に基づき、相手方の間接強制の申立てについて検討する。 (1)面会交流を命じる審判に基づき監護親に間接強制決定をすることができるためには、審判において、面会交流の日時又は頻度、各回の面会交流時間の長さ、子の引渡しの方法等が具体的に定められているなど監護親がすべき給付が特定されている必要があるが(最高裁判所平成24年(許)第48号同25年3月28日第一小法廷決定・民集67巻三号864頁参照)、抗告審決定二により変更された抗告審決定一に定められた相手方を未成年者と面会交流させる抗告人らの義務(以下「本件債務」という。)については、抗告人らが履行すべき給付の特定に欠けるところはない。しかるに、抗告人らは、未成年者が相手方との面会交流を拒否していることから、本件債務については履行不能の状態にあり、間接強制をすることは許されない旨主張する。 (2)そこで、検討するに、上記決定の事案においては、離婚した夫婦間で月一回の子との面会交流を認めた審判に基づく間接強制について、義務者である母親において、子が面会交流を拒絶する意思を示しているとして間接強制決定が許されないと主張したのに対し、上記決定は、「子の面会交流に関する審判は、子の心情等を踏まえた上でされているといえる。 したがって、監護親に対し非監護親が子と面会交流をすることを許さなければならないと命ずる審判がされた場合、子が非監護親との面会交流を拒絶する意思を示していることは、これをもって、上記審判時とは異なる状況が生じたといえるときは上記審判に係る面会交流を禁止し、又は面会交流についての新たな条項を定めるための調停や審判を申し立てる理由となり得ることなどは格別、上記審判に基づく間接強制決定をすることを妨げる理由となるものではない。」と説示した。 しかし、上記事案における子は平成18年××月生まれであり、上記決定当時は満7歳に達していないのに対し、本件の未成年者は平成13年××月××日生まれであり、平成29年××月××日(当時満15歳3か月)に行われた前記家庭裁判所調査官による意向調査において、相手方との面会交流を拒否する意思を明確に表明し、その拒否の程度も強固である。そして、そのような意思は未成年者自身の体験に基づいて形成されたもので、素直な心情の吐露と認められるから、その意思は尊重すべきである。 (なお、相手方は、未成年者の意思は、頑なに面会交流を拒否する抗告人らの影響を受けており、本心とは評価できないと主張する。しかし、仮に未成年者が面会交流に消極的な抗告人らの意向を聞いているとしても、上記意向調査の結果によれば、未成年者はそれも踏まえて自らの意思で面会交流を拒否していると認められるから、未成年者の意思を本心でないとか、抗告人らの影響を受けたものとしてこれを軽視することは相当でない。)。 また、間接強制をするためには、債務者の意思のみによって債務を履行することができる場合であることが必要であるが、幼児のような場合であれば、子を面会交流場所に連れて行き非監護親に引き渡すことは監護親の意思のみでできるが、未成年者のような年齢の場合は子の協力が不可欠である上、未成年者は相手方との面会交流を拒否する意思を強固に形成しているところ、未成年者は平成29年××月より高等学校に進学しており、その精神的成熟度を考慮すれば、抗告人らにおいて未成年者に相手方との面会交流を強いることは未成年者の判断能力ひいてはその人格を否定することになり、却って未成年者の福祉に反するということができる。したがって、本件債務は債務者らの意思のみによって履行することはできず履行不能というべきである。 加えて、前記認定のとおり、抗告人らは相手方と未成年者の面会交流の拒否を求めて調停申立てをしているところ、その帰趨を待つ余裕がないほど喫緊に面会交流を実施しなければ未成年者の福祉に反するような事情があるとも認められない。 (3)以上によれば、抗告人らの本件債務の不履行に対して間接強制決定をするのは相当でない。 三 よって、上記判断と異なる原決定は相当でないからこれを取消して、相手方の間接強制の申立てを却下することとし、主文のとおり決定する。 (裁判長裁判官 松田亨 裁判官 田中義則 檜皮高弘) ********************************************* 平成29年1月27日大阪家裁決定(判例時報2355号55頁) 主 文 一 債務者らは、債権者と債務者ら間の大阪高等裁判所平成24年(ラ)第××号子の監護に関する処分(面会交流)審判に対する抗告事件(原審・大阪家庭裁判所平成24年(家)第××号)において平成25年××月××日に決定された執行力ある決定正本及び大阪高等裁判所平成27年(ラ)第××号子の監護に関する処分(面会交流)申立却下審判に対する抗告事件(原審・大阪家庭裁判所平成27年(家)第××号)において平成27年××月××日に決定された執行力ある決定正本に基づき、この決定が確定した日の属する月の後、最初に到来する偶数月(ただし、この決定が確定した月が偶数月の場合には、その次の偶数月)から、別紙二面会交流の要領のとおり(ただし、別紙二の第一項については、別紙三のとおりとする。)、債権者を、同人と債務者A間の長女である未成年者Dと面会交流させなければならない。 二 債務者らが、本決定が確定した日以降、前項の義務を履行しないときは、債務者らは、債権者に対し、不履行一回につき30万円を連帯して支払え。 事実及び理由 第一 申立ての趣旨 主文同旨 第二 認定事実 一件記録によれば、次の事実を認めることができる。 一 債権者(昭和35年××月××日生)と債務者A(昭和43年××月××日生。××)は、平成13年××月××日に婚姻した夫婦であったが、平成23年××月××日、未成年者である両者間の長女D(平成13年××月××日生)の親権者を債務者Aと定めて協議離婚した。 なお、債務者Aは、平成23年××月××日、債務者Bと再婚し、同月××日、未成年者と債務者Bとが養子縁組をした。 二 債権者と未成年者との面会交流に関する審判等について (1)債権者は、平成24年××月××日、債務者Aに対し、未成年者との面会交流を求めて調停を申し立てたが、不成立となり、平成24年××月××日、別紙一面会交流の要領記載のとおり、月一回の頻度で面会交流の実施を命じる審判がなされた(当庁平成24年(家)第××号)。債務者Aは、上記審判に対し、即時抗告を申し立てたところ、抗告審は、平成25年××月××日、債務者Bを参加させた上、上記審判を変更し、債務者らに対し、別紙二面会交流の要領記載のとおり、未成年者を債務者と、平成25年××月以降、偶数月の第1日曜日の午前10時から午後5時まで、面会交流させる義務のあることを定めることを主な内容とする決定をした(大阪高等裁判所平成24年(ラ)第××号。以下「抗告審決定一」という。)。なお、債務者Aは、この抗告審の決定に対して特別抗告及び抗告許可をそれぞれ申し立てたが、特別抗告については却下され(大阪高等裁判所平成25年(ラク)第××号)、許可抗告については許可しないとの決定がなされた(大阪高等裁判所平成25年(ラ許)第××号)。 そして、債権者は、抗告審決定一が確定した平成25年××月××日の後、債務者Aに対し、抗告審決定一に基づき、未成年者との面会交流を求めたが拒否され、その後、債務者A及び同Bは、大阪家庭裁判所調査官による履行勧告を受けたにもかかわらず、その履行を拒否し、その後も、債権者が、未成年者と面会交流することを拒否し続けた。 (2)債権者は、債務者らが、未成年者との面会交流を拒否し続けたことから、間接強制を申し立てたところ、大阪家庭裁判所は、平成25年××月××日、債務者らに対し、抗告審決定一に基づき面会交流を命ずるとともに、連帯して不履行一回につき10万円の支払を命ずる決定をした(大阪家庭裁判所平成25年(家ロ)第××号)。債務者らは、この決定に対し,執行抗告をしたが、大阪高等裁判所は、いずれも棄却した(大阪高等裁判所平成25年(ラ)第××号)。 (3)債務者らは、平成26年××月××日、大阪家庭裁判所に対し、債権者と未成年者との面会交流を拒否するとの調停を申し立てたところ(平成26年(家イ)第××号)、不成立となって審判手続に移行し、大阪家庭裁判所は、平成27年××月××日、債務者らの申立てをいずれも却下する審判をした(大阪家庭裁判所平成27年(家)第××号)。これに対し、債務者らは、この審判に対し、抗告したところ、大阪高等裁判所は、抗告審決定一を変更し、別紙三記載のとおり、債権者と未成年者の面会交流の日時について、偶数月の第1日曜日の午後2時から午後5時までとするが、第一回目は午後2時から午後3時まで、第二回目は午後2時から午後4時までとする、との決定をした(大阪高等裁判所平成27年(ラ)第××号。以下「抗告審決定二」という。)。 (4)債務者らは、抗告審決定二が、抗告審決定一を変更したことから、大阪家庭裁判所に対し、請求異議を申し立てたところ、大阪家庭裁判所は、平成28年××月××日、抗告審決定二により抗告審決定一に係る面会交流の時間という本質的な要素が変更されたことから、抗告審決定一に基づく債務者らの作為義務が消滅したなどとして、抗告審決定一に係る決定正本に基づく強制執行は、これを許さないとする判決をし(大阪家庭裁判所平成28年(家ヘ)第××号)、この判決は、債権者が控訴しなかったことから確定した。 第三 当裁判所の判断 一 面会交流について審判ないし決定がなされた場合において、審判ないし決定に係る面会交流の日時又は頻度、各回の面会交流時間の長さ、子の引渡し方法等が具体的に定められているなど監護親がすべき給付の特定に欠けるところがないといえるときは、間接強制を許さない旨の合意が存在するなどの特段の事情がない限り、上記審判ないし決定に基づき監護親に対して間接強制決定をすることができると解される。 これを本件について見ると、抗告審決定二により変更された抗告審決定一の内容は、監護親たる債務者がすべき給付の特定に欠けるところがないと認められるから、特段の事情がない限り、間接強制決定をすることができるというべきところ、本件においては、この特段の事情を認めることはできない。 二 この点、債務者らは、抗告審決定二については、未成年者が頑なに債権者との面会交流を拒否していることから、債務者らに不可能を強いるものであり、債務者らとしては履行不能の状況で、債権者の間接強制が成立する余地がない等と主張している。 しかし、一件記録によれば、抗告審決定二は、「未成年者が債権者との面会交流を嫌がる発言をしているとしても、それは、未成年者を現に監護養育している債務者らの面会交流に対する強い拒否的態度に影響されている部分が多分にあると推認し」た上で決定されていることが認められるところ、これによれば、抗告審決定二は、未成年者の心情等を踏まえた上で決定されているといえる。そうだとすると、未成年者が債権者との面会交流を拒否していることは、間接強制を妨げる事情とはならないというべきであり、抗告審決定二が、債務者らに対し、不可能を強いるものであるなどとは到底いえず、債務者らの主張は失当である。 なお、付言するに、仮に、未成年者が、債権者との面会交流を頑なに拒否しているというのであれば、条理上当然にその未成年者の気持ちをほぐし、未成年者が債権者との面会交流を受入れるに至る働きかけをする必要があると解されるところ、債務者らがかかる働きかけをしたことを窺わせる形跡はない。 また、仮に、債務者らが、未成年者の心情等について、抗告審決定二の決定時と異なる状況が生じたと主張しているとすると、このような事情は、抗告審決定二に係る面会交流を禁止し、又は面会交流についての新たな条項を定めるための調停や審判を申し立てる理由となり得ても、間接強制決定をすることを妨げる理由となるものではない(したがって、本件を決定するにあたって、未成年者の意思を再確認する必要性はない。)。 三 以上によれば、抗告審決定一及び抗告審決定二に基づく間接強制決定を否定する特段の事情があるとはいえない。 よって、本件間接強制の申立てはこれを認めるべきである。 そして、債務の不履行に際して債務者らが債権者に対して支払うべき間接強制金については、本件に現れた一切の事情に照らすと、一回の不履行につき30万円とするのが相当である。 別紙一 面会交流の要領 一 面会交流の日時 平成24年××月以降、毎月第1日曜日の午前10時から午後5時まで 二 面会交流の方法 (1)相手方は、面会交流の開始時刻に、××一階ロビーで、未成年者を申立人に引き渡す。 (2)申立人は、面会交流の終了時刻に上記(1)記載の場所で、未成年者を相手方に引き渡す。 三 予定の変更 未成年者の病気、学校行事その他やむを得ない事情により上記一記載の日時を変更するときは、当該事情が生じた者は、他方に対し、速やかに連絡し、予定日の一週間後の同時刻を振替日時として面会交流を行う。 四 申立人と相手方は、未成年者の福祉を尊重し、申立人と未成年者との面会交流の円滑な実施について互いに協力する。 五 申立人は、面会交流時の未成年者の体調及び心情に十分配慮する。 以上 別紙二 面会交流の要領 一 面会交流の日時 平成25年××月以降、偶数月の第1日曜日の午前10時から午後5時まで 二 面会交流の方法 (1)抗告人又は抗告人の指定する者は、面会交流の開始時刻に、××一階ロビーで、未成年者を相手方に引き渡す。 (2)相手方は、面会交流の終了時刻に、上記二(1)記載の場所で、未成年者を抗告人又は抗告人の指定する者に引き渡す。 三 実施日の変更 未成年者の病気、学校行事その他やむを得ない事情により上記一記載の日時を変更するときは、当該事情の生じた者は、他方に対し、速やかに連絡し、予定日の一週間後の同時刻を振替日時として面会交流を行う。 四 連絡先の通知 抗告人及び相手方は、本件確定後速やかに、他方に対し、連絡方法(メールアドレス等)を通知しなければならない。 五 面会交流の要領の変更 抗告人・参加人及び相手方は、その合意により、上記一項ないし三項の定めを変更することができる。 六 抗告人・参加人及び相手方は、未成年者の福祉を尊重し、相手方と未成年者との面会交流の円滑な実施について互いに協力する。 七 相手方は、面会交流時の未成年者の体調及び心情に十分配慮する。 以上 別紙三 一 面会交流の 日時 本決定の確定した月以降、最初に到来する偶数月(確定した月が偶数月の場合には、その次の偶数月)を初回とし、以後各偶数月の第1日曜日の午後2時から午後5時まで。ただし、第一回は午後2時から午後3時までとし、第二回は午後2時から午後4時までとする。 以上:7,101文字
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