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妻から不貞行為第三者ではなく夫への損害賠償請求を認めた地裁判例紹介

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平成29年 9月19日(火):初稿
○婚姻中の一方配偶者が不貞行為をした場合、配偶者ではなく不貞行為相手方に対する請求が多いのですが、妻である原告が、夫の不貞行為相手方には請求せず、夫に対してのみ、不貞行為をしたことなどが不法行為に当たるとして、2000万円の慰謝料の支払等を求めた事案において、被告がCと不貞行為を行ったことは、原告に対する不法行為に当たるものと認め、被告夫に対し、慰謝料150万円の支払を命じた平成29年3月13日仙台地方裁判所判決(LEX/DB)全文を紹介します。

○この判決は、妻側が認容金額が150万円では足りないとして控訴し、平成29年8月10日仙台高裁判決(LEX/DB)で200万円に増額されています。「うつ病にり患し,また,不貞行為の有無を問い質した際にも頭ごなしに怒鳴られたため,病状が悪化し,平成23年5月20日,未遂に終わったものの,原告は自殺を図るに至った」等の妻の主張を見る限り、おそらく少なくとも慰謝料は500万円程度認められるのではと踏んで2000万円もの請求をしたと思われます。

○ですから妻としては200万円でも不満と思われますが、確かに20年位前であれば、このような事案で結構な金額の慰謝料が認められた例もあります。しかし、殆どが多くても500万円止まりであり、不貞行為に関する慰謝料金額の低額化傾向が見られ近時は、200万円の認容は多い方と思われます。

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主   文
1 被告は,原告に対し,150万円及びこれに対する平成27年4月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを40分し,その37を原告の負担,その余を被告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

 被告は,原告に対し,2000万円及びこれに対する平成27年4月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
1 本件は,妻である原告が,夫である被告に対し,被告が不貞行為をしたことなどが不法行為に当たるとして,慰謝料2000万円及びこれに対する平成27年4月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

2 争いのない事実等
(1)原告と被告は,平成3年11月13日に婚姻した夫婦であり,その間に平成4年○月○○日生の長女,平成5年○○月○○日生の二女及び平成7年○月○○日生の三女をもうけている(甲1の1,1の2)。
(2)原告と被告は,原告住所地において同居して生活していたが,平成23年1月1日,被告は,同所を出て,それ以降,別居している。
(3)平成27年12月18日,原告と被告は,仙台家庭裁判所において,婚姻費用の分担に関する調停を成立させた(甲18)。
(4)被告は,株式会社○○○○(以下「訴外会社」という。)の代表取締役を務めており,平成26年3月まで,原告も訴外会社の取締役として登記されていた(甲6の1,6の2)。

3 争点
 原告の被告に対する慰謝料請求の当否
〔原告の主張〕

(1)被告は,原告に対し,下記のとおりの不法行為を行ったものであり,これによる原告の精神的損害は2000万円と評価するのが相当である。
ア 平成22年8月頃以降,被告は,訴外C(以下「C」という。)と性交渉を続け,平成23年1月頃にはCのマンションで同棲するようになり,同人との間に,平成23年○○月○○日生,平成25年○月○○日生,平成28年○月○○日生の3人の子供をもうけた。
 上記の結果,原告は,うつ病にり患し,また,不貞行為の有無を問い質した際にも頭ごなしに怒鳴られたため,病状が悪化し,平成23年5月20日,未遂に終わったものの,原告は自殺を図るに至っている。

イ 平成22年12月,原告がCの経営する飲食店に行き,同人に対して被告との不貞行為の有無を問い質した際,同人は被告と共謀して不貞行為があることを否定し,また,被告は,そのことに関し,Cの飲食店に損害を与えたとして,100万円を賠償するように要求した。

ウ 原告は,平成23年3月に東日本大震災が発生するまで,被告が代表取締役を務める訴外会社で経理等の事務に従事していたが,同社が新事務所に移転した際,「おまえなんか,必要ない。会社に来なくていい。」などと罵詈雑言を浴びせ,出社を拒否した。

エ 被告は,原告に対し,平成23年6月まで生活費として月額40万円を支払っていたが,原告に無断で,同年7月から同年12月までは月額30万円,平成24年1月から平成27年4月までは月額20万円しか支払わなかった。

オ 東日本大震災により,原告の居住する自宅建物は損傷したが,その補修のために国からの補助金400万円及び保険金900万円の合計1300万円が被告に支給された。
 しかし,被告は,原告に対し,自宅を補修すると約束したにもかかわらず,補修工事をせず,放置した。

(2)被告は,平成20年頃には,原告と被告の婚姻関係は破綻していたと主張するが,平成23年1月1日に被告が自宅を出ていくまで,原告と被告は一つの布団で寝ていて,性交渉をもっていたこと,就寝前には,毎日,原告が被告の腰をマッサージするなどしていたこと,原告と被告は,沖縄や花巻温泉に旅行したり,家族の食事会に出席していたことなどからすれば,その間の婚姻関係が破綻していたとはいえない。

〔被告の主張〕
(1)
ア 原告主張の頃から被告がCと性交渉をもち,平成23年1月1日から原告と別居し,その後,Cと同棲し,その間に3人の子をもうけた事実は認める。
 しかし,平成20年頃には,原告と被告の婚姻関係は回復不能な程度に破綻していた。

イ 平成22年12月,原告がCの経営する飲食店に行き,同人に対して被告との不貞行為の有無を問い質した事実は認めるが,その余の事実は否認する。

ウ 平成23年3月まで,原告が訴外会社に出社していた事実は認めるが,その後,被告が原告の出社を拒否したり,罵詈雑言を浴びせるなどした事実は否認する。
 被告が原告に対し,出社しないでほしいと述べたことはあるが,これは,原告が,新たに採用した事務員に対し,「あんた誰に雇われてんだ。」,「なんでここにいるんだ。」などと言うようになったため,被告が原告に対し,そのようなことを言うなら,出社しないでほしいと言っただけである。また,原告は,被告とCの関係を知った後,訴外会社の役員を辞めたいと言うようになっていた。

エ 被告が原告に交付していた生活費の内容は,原告が主張するとおりであるが,婚姻費用については調停も成立しており,本訴の訴訟物とは無関係である。

オ 原告が主張する自宅の補修のための補助金等についても,本訴の訴訟物とは無関係である。

(2)原告は,不貞行為による慰謝料を請求するが,平成20年頃には,原告と被告の婚姻関係は修復不能なほどに破綻していた。

第3 争点に対する判断
1 不貞行為について

(1)原告は,被告の不法行為を基礎づける事由として種々の主張をするので,まず,このうちの不貞行為による慰謝料請求について判断するに,平成22年8月頃以降,被告がCと性交渉をもつようになったこと,平成23年1月1日,被告は自宅を出ていき,その後,Cのマンションで同棲するようになり,同人との間に,3人の子供をもうけた事実は,いずれも当事者間に争いがない。

 なお,上記の結果,原告は,うつ病にり患し,また,不貞行為の有無を問い質した際にも頭ごなしに怒鳴られたため,病状が悪化し,平成23年5月20日,未遂に終わったものの,原告は自殺を図るに至った旨主張するが,これは,被告の不貞行為と別個の不法行為ということはできず,不貞行為による慰謝料を算定する際の事情として考慮すべきものというべきである。


(2)上記のとおり,被告は,平成22年8月頃からCと性交渉をもつようになった事実を認める一方で,平成20年頃には,原告と被告の婚姻関係は破綻していたと主張するが,被告の供述によっても,遅くとも,平成22年初め頃までは,両者の間で性交渉があったということや,帰宅後に被告から腰をマッサージしてもらっていたということなどからすれば,平成20年頃に原告と被告の婚姻関係が破綻していたなどということはできない。

 また,被告がCと性交渉をもつようになった平成22年8月頃についても,被告は婚姻関係は破綻していた旨の供述をするものの,原告は平成23年1月まで被告と性交渉をもっていたと供述していること,原告及び被告ともに,平成23年1月1日に被告が家を出ていくまで,両者は一つの布団で寝ていたと供述していること,平成22年10月には,原告,被告ともに,被告の両親や妹らが出席する食事会に出ており,平成23年1月にも花巻温泉に二人で出掛けていたこと,また,花巻温泉に旅行に行った際,原告は被告との婚姻関係を維持する意思を有していたこと(甲26,原告,被告),などからすれば,少なくとも,被告がCと性交渉をもつようになった平成22年8月の時点において,原告と被告の婚姻関係が破綻していたものと認めることはできない。

(3)上記によれば,被告がCと不貞行為を行ったことは,原告に対する不法行為に当たるものと認められる。

2 Cに対する損害賠償の要求について
 原告は,平成22年12月に原告がCの経営する飲食店に行き,同人に対して被告との不貞行為の有無を問い質した際,同人は被告と共謀して不貞行為があることを否定し,また,そのことに関し,被告が原告に対し,Cの飲食店に損害を与えたとして,100万円を賠償するように要求したことが不法行為に当たると主張する。

 しかし,Cが被告との不貞行為を否定する発言をしたとしても,そのことのみで原告に対する不法行為に当たるということはできず,また,そのことに関し,被告が原告に対し,Cの飲食店の損害を賠償するように求める発言をしたことがあったとしても,原告が実際に上記支払をしたわけではなく,また,被告がそれ以上に支払を強要するなどした事実も窺われないことからすると,被告が上記発言をしたことがあったとしても,そのことのみをもって,原告に対する不法行為に当たるものということはできない。

3 訴外会社への出社拒否について
 原告は,東日本大震災で被災した訴外会社が新事務所に移転した後,被告が原告の出社を拒否するなどしたことが不法行為に当たると主張するところ,東日本大震災により訴外会社が被災するまで,原告が同会社に出社して事務を行っていたことは原告,被告ともに供述するところであるが,他方において,原告自身,訴外会社を辞める旨の発言をしたことがあることを認める供述をしていることや,原告の主張を前提としても,被告が強迫的な言辞を用いるなどしていたものとはいえないことからすれば,仮に原告が主張する発言を被告がしていたとしても,そのことだけで,原告に対する不法行為に当たるとまでいうことはできない。

4 生活費の不払について
 原告は,被告が支払ってきた生活費を減額したことが不法行為に当たると主張するが,被告が減額した生活費を原告に交付していた時点において,被告が原告に対して支払うべき生活費(婚姻費用)の額に関する合意等が当事者間に成立していたものと認めるに足りる証拠はない。
 また,前記のとおり,被告が支払うべき婚姻費用については,平成27年12月18日に調停が成立しており,その時点での解決が図られている上,そもそも,金銭債権である婚姻費用の支払債務の履行遅滞があったとしても,法律に別段の定めがある場合を除き,約定または法定の利率以上の損害の賠償を求めることはできないのであるから(最高裁昭和48年10月11日第一小法廷判決・裁判集民事110号231頁)、いずれにせよ,原告の上記主張には理由がない。

5 自宅の補修にかかる補助金について
 原告は,自宅の補修に関する補助金及び保険金が支払われたにもかかわらず,被告が同工事をしなかったことが不法行為に当たると主張するところ,仮に,これらの事情が認められたとしても,被告の原告に対する不法行為に当たるものということはできない。原告の主張は,独自の不法行為を主張するものとしては失当というほかない。 

6 上記によれば,原告が主張するもののうち,被告がCと不貞行為を行ったことは原告に対する不法行為と認められるが,当該事実に加え,平成23年1月1日には被告は家を出て一方的に別居し,その後,Cと同居するようになり,その間に3人の子供をもうけたこと,上記不貞行為と原告がうつ病にり患し,自殺未遂に至ったこととの間の相当な因果関係を認めるに足りる証拠はないものの,原告が相当な精神的な苦痛を受けたことは容易に認められることなどの事情を考慮すると,上記不貞行為によって原告が被った精神的苦痛は150万円と評価するのが相当である。

7 以上によれば,原告の請求は,慰謝料150万円及びこれに対する不法行為後の平成27年4月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
 よって,主文のとおり判決する。なお,被告は,仮執行免脱宣言の申立てをするが,相当ではないので,付さないこととする。
仙台地方裁判所第1民事部 裁判官 高宮健二
以上:5,468文字

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