平成29年 4月29日(土):初稿 |
○過去の婚姻費用が請求できるのでしょうかとの質問を受けました。私は、確か請求の意思表示をしたときからの請求は可能ですが、過去の遡っての請求が可能かどうかは、ハッキリしませんと回答しましたが、過去においても生活費-婚姻費用は実際にかかるのですから、過去の婚姻費用が請求できないのはおかしいのではないですかと、重ねて質問され、答えに詰まってしまいました(^^;)。 ○「別居中の婚姻費用分担義務」に「婚姻費用分担の始期については、最高裁は過去の婚姻費用も請求できるとするも何処まで遡及するかについては明確にせず、審判例も一定していません。私としては婚姻費用分担義務発生時まで遡って然るべきと思っております。」なんて記載していました。この立場からは、過去の婚姻費用請求についても積極的に試みるべきでしょう。 ○そこで裁判例を再度復習しましたが、先ずは過去の婚姻費用が問題になったケースについての昭和53年11月14日最高裁判決(判タ375号77頁、判時913号85頁)全文を紹介します。財産分与において過去の婚姻費用の分担の態様を斟酌してその額、方法を定めうるかについての回答ですが、「離婚訴訟において裁判所が財産分与の額及び方法を定めるについては当事者双方の一切の事情を考慮すべきものであることは民法771条、768条3項の規定上明らかであるところ、婚姻継続中における過去の婚姻費用の分担の態様は右事情のひとつにほかならないから、裁判所は、当事者の一方が過当に負担した婚姻費用の清算のための給付をも含めて財産分与の額及び方法を定めることができるものと解するのが、相当」としています。 ○これは、過去の婚姻費用も財産分与額決定に当たり考慮すべき一切の事情に含まれるとするもので、財産分与を前提としており、純粋に過去の婚姻費用を請求できるかどうかは判然としません。これに対し、学説あるいは一部審判例では、過去の婚姻費用分担請求は離婚によつて消滅せず、しかも、財産分与とは別個に婚姻費用の分担として協議又は審判・調停の対象とすべきであるとする見解もあるようです。 ******************************************** 主 文 本件上告を棄却する。 上告費用は上告人の負担とする。 理 由 上告代理人○○○、同○○○の上告理由第一点について 離婚訴訟において裁判所が財産分与の額及び方法を定めるについては当事者双方の一切の事情を考慮すべきものであることは民法771条、768条3項の規定上明らかであるところ、婚姻継続中における過去の婚姻費用の分担の態様は右事情のひとつにほかならないから、裁判所は、当事者の一方が過当に負担した婚姻費用の清算のための給付をも含めて財産分与の額及び方法を定めることができるものと解するのが、相当である。これと同趣旨の原審の判断は正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、独自の見解を主張するものにすぎず、採用することができない。 同第二点について 原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて所論の点についてした原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原判決を正解しないでこれを非難するものにすぎず、採用することができない。 同第三点について 原審において所論の乙第16号証の1ないし4及び同第17号証の1ないし4につき証拠調べがされていること、また、原判決の事実摘示には右の事実の記載がなく、理由中の判断においても右書証の取捨が明らかにされていないことは、所論のとおりである。しかし、本件記録に徴すると、右書証が所論の点に関する原審の事実認定(これは、原判決挙示の証拠関係に照らして是認することができる。)を左右するものとまでは認められないから、前記の瑕疵は、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違背に当たらないものというべきである。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。 よつて、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 (服部高顯 江里口清雄 高辻正己) 以上:1,699文字
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