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面会交流実施誠実協力義務違反理由の弁護士に対する損害賠償請求棄却例2

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平成29年 1月31日(火):初稿
○「面会交流実施誠実協力義務違反理由の弁護士に対する損害賠償請求棄却例1」の続きで、1審被告らの面会交流の不実施につき,1審原告に対する不法行為責任を生じさせるような誠実協議義務違反があったということはできないとして,1審被告らの控訴に基づき,原判決中1審被告ら敗訴部分を取り消し,1審原告の請求をいずれも棄却し,1審原告の控訴を棄却した平成28年1月20日福岡高裁判決(判例時報2291号68頁)の不法行為の成否についての判断部分です。

○一審判決は、弁護士が、メールではなく専ら書面郵送の方法で行ったことについて、「メールによる連絡が可能であり実際に9月まではそのようにされていた本件において、あえて時間のかかる書面郵送を用いることにつき、合理的な理由は見当たらない。」、「10月上旬以降第二調停事件において面会交流に関する協議を行うまでの間原告からの協議の申入れに対して速やかに回答せず、殊更に協議を遅延させ面会交流を妨げた行為につき、弁護士の専門家としての裁量の範囲を考慮しても、なお社会通念上の相当性を欠くものとして誠実協議義務の違反があり、不法行為を構成する」としていました。

○しかし、二審判決は、弁護士が「原告との連絡方法として採った書面郵送の方法が適切さを欠くということはできないし,ましてやこの方法を採ったことが,ことさら面会交流の遅延を目的としたものであるなど,原告に対する不法行為責任を生じさせるような行為であると認めることは到底できない。」としました。

○弁護士の立場としては、当然の判決でしょうが、弁護士に面会を邪魔されたと確信している原告としては、憤懣やるかたない判決です。おそらく最高裁の結論も変わらないと思われますが、弁護士の職務に関して損害賠償請求の訴えまで提起されるのは、不名誉であることは間違いなく、Y2の立場に立った場合、慎重に対処する必要があります。

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2 不法行為の成否
 上記1認定の事実に基づき,不法行為の成否について判断する。
(1) 本件調停成立以前の不法行為について
 原告は,被告Y1が平成24年10月29日から平成25年2月2日まで面会交流を実施しなかった旨主張するところ,前記のとおり,被告Y1は,原告の面会交流の求めに応じなかったものである。
 確かに,監護親は,子の福祉のため,別居中の非監護親と子が適切な方法による面会交流をすることができるように努力すべきであり,協議が調わないときまたは協議をすることができないときは,非監護親は,民法766条を類推適用して,家庭裁判所にこれを求める調停・審判を求めることができる。

 もっとも,調停・審判により面会交流の具体的日時,場所,方法等が定められて具体的権利として形成されるまでは,面会交流を求める非監護親の権利を仮にこれを観念できるとしても,いまだ抽象的なものにとどまるというべきである。したがって,本件調停成立前の上記期間中に,原告が二男と面会交流をすることができなかったからといって,直ちに原告の法的保護に値する利益が侵害されたとはいえないから,被告Y1のその間の行為が原告に対する不法行為を構成するということはできない。上記判断に反する原告の主張は採用できない。

(2) 本件調停成立以降の不法行為について
ア 本件調停においては,面会交流の実施回数と実施日を月2回程度(原則として第2,第4土曜日)と具体的に定めた上で,その具体的日時,場所,方法等の詳細については当事者間の協議に委ねている。そして,面会交流が子の福祉のために重要な役割を果たすことに鑑みれば,当事者は,本件調停を尊重し,これに従って面会交流を実施するため具体的日時,場所,方法等の詳細な面会交流の条件の取決めに向けて誠実に協議すべき条理上の注意義務(誠実協議義務)を負担していると解するのが相当である。そして,一方当事者が,正当な理由なくこの点に関する一切の協議を拒否した場合とか,相手方当事者が到底履行できないような条件を提示したり,協議の申入れに対する回答を著しく遅滞するなど,社会通念に照らし実質的に協議を拒否したと評価される行為をした場合には,誠実協議義務に違反するものであり,本件調停によって具体化された相手方当事者のいわゆる面会交流権を侵害するものとして,相手方当事者に対する不法行為を構成するというべきである。

イ そこで,以上の観点に基づき,各時期について,被告らに誠実協議義務違反があったといえるかについて検討する。
(ア) (平成25年)7月6日から8月上旬までの期間
 前記認定のとおり,7月6日の面会交流につき,被告Y1の父を同行するか否かの点で意見の一致をみなかったため,原告と被告Y1の協議が決裂し,結局,同日の面会交流は実施されなかった。

 確かに,被告Y1の父による4月20日の発言は,長男が母である被告Y1の監護下にあるべきことを前提として,長男が父である原告の監護下にあることが不当であって,長男を被告Y1の監護下に置けなかったことを「守ってやれなかった」と表現したものと受け取れるものであって,原告や長男に対して配慮が足りなかった発言といえる(もっとも,その表現自体からは,原告と被告Y1の夫婦関係が悪化し別居しなければならない事態になったことについて,長男がこれに巻き込まれたことに対する悔悟の念を表したものとも解されないではない。その意味で,被告Y1の父がかかる発言をしたことの真意は必ずしも明らかではない。)。また,被告Y1の父は日頃から激しい言動をする人物であることが窺われる(甲60参照。ただし,「暴言」の具体的態様,内容は明らかではない。)ことから,原告が被告Y1の父が上記発言を謝罪しまたは反省の念を明らかにし,これを動画にして送信することを求め,これが履行されない限り,面会交流での同人の同席を拒否することは理解できないではない。

 しかし,同居中に原告による被告Y1に対する暴力があったことを考慮すると,父の立会いがなければ面会交流を実施できないとした被告Y1の態度は理解することができ,必ずしも不当であるとまではいえない。また,原告がメールに添付して動画を送付するという方法での父の謝罪または反省の念の表明を撮影した動画の送付を要求したことは客観的にみても行き過ぎであって,被告Y1としてはたやすく承服できない内容であったというべきである。しかも,原告は,この謝罪または反省の念の表明を撮影した動画の送信が面会条件交渉の前提であるかのようなメールを被告Y1に送信しており,被告Y1にしてみれば,上記のような無理な条件を面会交流の条件としていることから,原告が実質的には面会交流を拒絶しているかのように受け取るのもあながち無理からぬところであったというべきである(なお,原告の上記要求は面会交流が予定されていた当日朝になっても撤回されなかった。)。そうすると,7月6日の面会交流に際し,被告Y1が事実上の協議拒否をしたとは評価できない。

 その後,7月20日についても面会交流は実施されていないが,被告Y1は,自分自身及び二男の体調不良をその理由としており,これが虚偽であることを認めるに足りる証拠はないので,このことをもって被告Y1に誠実協議義務違反があったということはできない。
 したがって,同期間中の被告Y1の行為は,原告に対する不法行為を構成するものではない。

(イ) 被告Y2受任後9月末までの期間
 確かに,月2回程度の面会交流を認める旨の本件調停が成立していたので,その内容を変更するような合意が成立したり,その旨の審判がされない限り,本件調停の効力は存続しているから,被告Y1の代理人であり,法律の専門家たる弁護士である被告Y2としては,本件調停の内容を遵守することを前提に,原告と誠実に協議するか,少なくとも,第2調停事件の申立てに先立ち,原告との間で,面会の回数等を含め面会交流の実施に向けた具体的な協議をしてしかるべきであった。

 この点,被告Y2は,第2調停事件での調停の場で面会交流についての協議を考えていたものであるが,第2調停事件の申立てに先立ち原告との間で,面会の回数等を含め協議することもないまま,第2調停事件の申立てをするとともに,その後面会交流の具体的条件については同事件の調停の期日において話し合いたいと述べるにとどまったものである。かかる被告Y2の対応は,原告にしてみれば,本件調停をないがしろにし,これを遵守する意思のないことの表明であると受け止めても仕方のないことのように思われる。

 のみならず,被告Y2は,本件調停が成立した熊本家庭裁判所による履行勧告に対しても,調停の場で協議したいとして,応じなかったものである。このような被告Y2の行為は本件調停の存在に照らし適切さを欠くものというほかない。

 しかし,当時,既に当事者間での感情的対立等によって面会交流のための協議自体が困難になっており,前記認定の経緯に照らすと,その原因をもっぱら被告らに帰することはできない。そもそも,交互に相手方の住所地で行うことを前提とすれば,少なくとも毎月1回,1歳の幼子である二男を抱え,休憩を含むとはいえ4時間半もの時間をかけて,自家用車で大分県別府市から熊本市へ移動することが,二男はもとより被告Y1にとっても大きな負担となっていたと推察される。したがって,被告Y1及びその代理人弁護士である被告Y2が,面会の回数を含め,第2調停事件の調停の場で面会交流について協議しようとしたことは相当な措置であったといえ,それ自体を不合理ということはできない。

 また,その後,管轄裁判所ではない大分家庭裁判所に調停を申し立て,自庁処理を求めたことも,被告ら自身の裁判所への出頭の便を考慮すると相応の理由があり,そのことが,特に面会交流の遅延を目的とした不当なものということはできない。

 さらに,9月24日から原告と被告Y2の間で直接協議がされ,被告Y2も,9月30日,第2調停事件の場での協議を考えていたものの,手続が進行しなかったことから早期の面会交流を実現するため,別府市内の同被告の事務所で子の受渡しをする面会交流案を提示しているのである。この面会交流は結局実施されなかったものの,その原因がもっぱら被告Y2にあるといえないことは,原告が被告Y2の上記提案に対し,これまでの面会交流の不実施に被告Y2が関与していたか,被告Y2の提案した面会条件がどのように子の福祉を考慮したものか回答を求めた上,その回答が面会交流実施の前提条件であるかのように告げ,被告Y2提案の面会条件を受け入れることもなく,また自らも具体的な面会条件の提案をしなかったこともその一因と認められることからも明らかである。

 これらの点を考慮すれば,被告Y2の上記行為につき,その手法に不適切なところはあったものの,原告に対する不法行為責任を生じさせるような誠実協議義務違反があったということはできない。被告Y1についても同様である。


(ウ) 10月以降
 (イ)で説示したことに加え,当事者間での感情的対立等によって面会交流のための協議自体がますます困難になっていたこと(被告らの対応の不適切さもあって,原告は,9月30日には,この間面会交流がなされていないことにつき被告Y2が関与したのかを質問し,10月3日には,被告Y2が本件調停の条項に違反する教唆をした可能性が分かったので,その責任について検討している等,原告のメールの内容は被告らに対する不信感をあらわにした激烈な内容になるとともに,面会交流の方法等について必要以上とも思える説明を求めるもので,協議の前提となる信頼感が失われていった。),移送審判書の原告に対する送達が遅くなったのは,被告らの不注意によって原告の住所を誤記したことによるものであり,それ以上に被告らが面会交流の実施を意図的に遅延させる故意によりしたものではないこと,被告Y2と原告との間では,10月の初めころから同月21日までの間,合意には至らなかったものの,面会交流の協議がなされていたこと,被告Y2は10月21日以後原告に対して書面郵送の方法も含め連絡をしなかったが,これは大分家庭裁判所から原告に移送審判書を送達できないとの連絡を受けたので,原告が受領を拒否しているのではないかと考え,一度は受領を求める書留郵便を送ったが届かなかったためであること,被告Y2は,原告に対し,第2調停事件の第1回期日の前である12月17日に面会交流の提案をしたが,いずれも主として被告Y1の父親の同行を巡って面会交流は実施されなかったものである。

 上記面会交流の不実施自体は被告Y1により面会交流を拒否したことによるものであるが,原告は被告Y1の父の同行を拒否しており,原告がこれに固執したことにより被告Y1がこれに反発して面会交流を拒否した側面もあり,上記不実施が一方的に被告らの責めに帰すべきものとはいえない(4月20日の発言があったものの,同居中に原告による暴力があったことに照らせば,被告Y1の父親の同行に固執した点が不当であるということはできない。)。そうすると,(イ)と同様,被告Y2につき,その手法に不適切なところはあったものの,原告に対する不法行為責任を生じさせるような誠実協議義務違反があったと認めることことはできない。被告Y1についても同様である。

 原告は,被告Y2との間での面会交流に関する協議に際し,被告Y2がメールではなく専ら書面郵送の方法により原告に連絡をしていることが,面会交流の不実施を目的とする意図的な遅延行為であると主張する。確かに,メールに比較して書面郵送に時間がかかるのは原告主張のとおりであり,特に,面会の日時,場所,方法等に関する単なる事務的な打合せのためには,双方の都合の調整のため必要に応じて1日に何度もやりとりが可能なメールによる方法が便宜であるとはいえる。

 しかし,書面郵送による連絡方法を採ることが,面会交流の実質的拒否に匹敵するほどの遅延を招くものとは通常は考えにくい。本件において,被告Y2が受任した後に面会交流が実施されなかった原因は,上記認定説示のとおり,双方の感情的対立等から面会条件の具体的協議が困難になったことによるものであって,被告Y2が書面郵送による連絡方法をとったことによるものでないことは明らかである。

 また,内容によっては慎重さを期すために書面による方法が適切な場合もあり,本件においても,原告は,協議に際し,被告Y2の受任後の面会交流の拒否が被告Y2の教唆によるものか,被告Y2の提案した面会条件が子の福祉を考慮したものか回答を求めるなど,その回答の可否の判断及びその内容を直ちに回答することが困難な事項も含まれている。

 これらの事項は,上記事務的打合せの範囲を超えるものである上,原告は,その点に関する回答が面会交流実施の前提条件のように読めるメールを被告Y2に送信しているのである。その場合,被告Y2がこれに即事に回答することはいずれにせよ困難であり,被告Y2から原告への連絡方法が書面郵送によることが面会交流の協議の進展に実質的な影響があったことは窺われない。なお,そもそも原告は,当初は連絡は書面またはメールで行うことを求めていたものである(甲13)。

 以上のとおり,被告Y2が原告との連絡方法として採った書面郵送の方法が適切さを欠くということはできないし,ましてやこの方法を採ったことが,ことさら面会交流の遅延を目的としたものであるなど,原告に対する不法行為責任を生じさせるような行為であると認めることは到底できない。したがって,原告の上記主張は採用できない


(エ) 平成26年2月22日ころ(当審における新たな主張)
 前記認定のとおり,原告は,同月17日ころ,被告Y2に対し,候補日を同月22日か23日として,次回の面会交流についての申し出をしたものの,いずれの日も被告Y1の都合がつかず,面会交流は行われなかったものであり,被告Y1がことさら面会交流を回避するために虚偽の都合を述べたと認めるに足りる証拠もないから,このことが原告に対する不法行為を構成するものではない。

 なお,原告は,当審において,被告Y1は二男を連れ去ったものであり,このことが独自の不法行為を構成する旨主張するが,前記認定のとおり,原告が警察官の説得に応じて当時生後5か月余の二男を任意に被告Y1に渡し,同女が実家に連れ帰ったものであり,このような経緯及び二男の年齢等に照らし,被告Y1の上記行為が原告に対する不法行為を構成するものでないことは明らかである。

(オ) 原告のその他の主張について
 原告は,その他縷々主張するが,いずれも採用の限りではなく,上記認定判断を左右するものではない。

3 結論
 以上によれば,原告の被告らに対する請求はすべて理由がなく,棄却を免れない。よって,被告らの控訴に基づき,原判決中被告ら敗訴部分を取り消して,同部分に係る原告の請求をいずれも棄却するとともに,原告の控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。
  福岡高等裁判所第2民事部 裁判長裁判官 田中俊次、裁判官 金光健二、裁判官 上田洋幸
以上:7,095文字

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