平成28年 6月17日(金):初稿 |
○平成11年6月から平成16年5月提訴までの期間の妻の不貞を理由とする不貞の相手方の男性に対する損害賠償請求について、平成12年9月に不貞行為を知ったのでそれ以前の不貞行為は消滅時効が完成しているとして、また、平成12年9月には夫婦の婚姻関係が破綻しているので、それ以降の男女関係継続は不法行為を構成しないとして、結局、全ての損害賠償請求が棄却された請求する側にとっては正に踏んだり蹴ったりの結果となった平成17年6月22日東京高裁判決(判タ1202号280頁)全文を紹介します。 ******************************************* 主 文 1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。 2 被控訴人の請求を棄却する。 3 訴訟費用は、第1、2審を通じ被控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 主文同旨 第2 原判決(主文)の表示 1 控訴人は、被控訴人に対し、100万円及びこれに対する平成16年5月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被控訴人のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は、これを5分し、その4を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。 4 仮執行宣言 第3 事案の概要 1 本件は、控訴人が被控訴人の妻と性的関係を持ち同棲を開始継続していることによって精神的苦痛を被ったとする被控訴人が、控訴人に対し、不法行為に基づく慰謝料500万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成16年5月22日)からの遅延損害金の支払を求める事案である。原審は、上記原判決(主文)の表示記載のとおり、請求を一部認容したので、控訴人が控訴した。 2 前提事実 前提事実は、原判決「事実及び理由」欄の「第2事案の概要」の「2 前提事実(争いのない事実)」(原判決2頁1行目〈編注 本号282頁右段29行目〉から同頁7行目〈同282頁右段37行目〉まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。 3 当事者の主張 当事者の主張は、原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「3 原告の主張」及び「4被告の主張」(原判決2頁8行目〈同282頁右段38行目〉から同4頁1行目〈同283頁左段49行目〉まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。 第4 当裁判所の判断 1 事実経過 事実経過は、次に付加訂正するほかは、原判決「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の「1 事実経過」(原判決4頁3行目〈同283頁左段51行目〉から同6頁2行目〈同284頁左段24行目〉まで)に認定のとおりであるから、これを引用する。 (1) 原判決4頁5行目〈同283頁右段3行目〉の「被告」の次に「及び弁論の全趣旨」を加える。 (2) 原判決4頁18行目〈同283頁右段22行目〉の「継父」を「義父」に改める。 (3) 原判決5頁10行目〈同283頁右段48行目〉冒頭の「花子は」を「花子から被控訴人による暴力に耐えかね家を出たいとか離婚したいとかの相談に乗っていた控訴人は、頻繁に花子と連絡を取り合って会うことがあり、花子は」に改める。 (4) 原判決5頁13行目〈同284頁左段1行目〉の「仕事」を「通信制大学」に改める。 (5) 原判決5頁14行目〈同284頁左段4行目〉の「単身」を「控訴人の自動車で、単身」に改める。 (6) 原判決5頁19行目〈同284頁左段10行目〉の「10月ころ」を「10月1日から」に改め、同行目〈同284頁左段10行目〉の「花子は、」の次に「春日部市において」を加える。 (7) 原判決5頁26行目〈同284頁左段21行目〉から27行目〈同284頁左段21行目〉にかけての「同棲しているのアパート」を「同棲している八潮市所在のアパート」に改める。 (8) 原判決6頁2行目〈同284頁左段24行目〉末尾の次に行を改めて「(13) 控訴人は、妻夏子と未成年の子2人がいたが、平成11年7月1日ころ、家庭裁判所に離婚調停を申し立て、同年9月21日子の親権者を妻と指定する調停離婚が成立した。」を加え、更に行を改めて「(14) なお、花子と控訴人との性的関係は、花子が家を出る前の平成11年6月25日か26日ころが最後であり、その後は全く成り立つことがなかった。」を加える。 2 被控訴人と花子の婚姻関係破綻の時期について 控訴人は、被控訴人と花子の婚姻関係が平成11年6月ころ遅くとも平成12年9月ころには破綻したと主張するので検討するに、上記認定によれば、花子は、長年にわたる被控訴人からの暴力に耐えかねて平成11年初めころに離婚届用紙を入手したり、家を出てアパートを借りる契約をして、被控訴人に離婚を求め、被控訴人も一旦離婚届用紙に署名押印したものの提出までには至らなかったことが認められるが、このころには、花子の婚姻継続意思は、かなり希薄になりつつあったというべきである。もっとも、花子と被控訴人との性的関係は、花子が家を出た日の1〜2日前日が最後であったが、そのことによって上記認定が左右されるものではない。 そして、花子は、悩み事の相談相手である控訴人と平成11年6月ころから性的関係を持ち始め、同月27日単身家出をして以来控訴人と同棲を開始継続しており、以後被控訴人とは没交渉となり、平成12年4月5日には控訴人の子葉子を出産し、同年5月ころ被控訴人からの修復要請を無視し、葉子について、被控訴人を相手に親子関係不存在確認の訴えを提起し、同年9月2日には親子関係不存在確認の裁判が確定し、同月7日、控訴人が葉子を認知し控訴人戸籍に記載したことが認められるのであり、以上の経過にかんがみると、遅くとも平成12年9月2日には、被控訴人と花子の婚姻関係は、完全に破綻したものと認められる。 3 控訴人の不法行為について 被控訴人は、控訴人が花子と性的関係を持ち同棲を開始継続することを不法行為に当たると主張するところ、控訴人が花子と性関係を持ち同棲を開始継続することは、被控訴人の婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する行為であるから、不法行為を構成することは明らかである。もっとも、婚姻関係が既に破綻していた場合には、このような権利又は法的保護に値する利益の侵害が認められないので、特段の事情がない限り、不法行為を構成しないというべきである(最高裁平成8年3月26日第三小法廷判決・民集50巻4号993頁参照)。 これを本件についてみるのに、平成11年6月ころから遅くとも平成12年9月ころまでの控訴人が花子と性的関係を持ち同棲を開始継続した行為は、被控訴人に対する不法行為を構成するが、遅くとも平成12年9月2日以降の控訴人の花子との同棲の継続は、特段の事情がうかがわれない本件においては、被控訴人に対する不法行為を構成しないというべきである。 4 消滅時効について そして、平成11年6月ころから平成12年9月ころまでの控訴人が花子と性的関係を持ち同棲を開始継続した行為に対する被控訴人の不法行為に基づく慰謝料請求権については、被控訴人が同棲関係を知った時から、消滅時効が進行するものと解するのが相当である(最高裁平成6年1月20日第一小法廷判決・判例時報1503号75頁参照)ので、これを本件についてみるのに、被控訴人は、遅くとも平成12年9月には、控訴人と花子の同棲関係を知っていたのであるから、そのころまでの被控訴人の慰謝料請求権の消滅時効は、遅くとも平成12年9月から進行するところ、被控訴人が本訴を提起したのは平成16年5月6日であることは記録上明らかであり、控訴人が被控訴人の慰謝料請求権の消滅時効を本訴において援用する以上、被控訴人の慰謝料請求権は、3年の経過により消滅したものといわざるを得ない。 5 結論 以上によれば、被控訴人の本訴請求は、理由がないので、棄却すべきであるところ、これと一部結論を異にする原判決は、その限度で不当であり、本件控訴は、理由があるから、本件控訴に基づき原判決中控訴人敗訴部分を取り消し、その取消部分に係る被控訴人の請求を棄却することとし、主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官・雛形要松、裁判官・都築 弘、裁判官・中山直子) 以上:3,394文字
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