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不貞行為調査探偵費用を損害と認めない平成22年12月21日東京地裁判決紹介

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平成28年 6月12日(日):初稿
○不貞行為による間男・間女に対する損害賠償請求事件では、しばしば、不貞行為を調査するための探偵事務所・興信所費用を合わせて請求する例があります。不貞行為調査は尾行等で行われますが、数日間・数回に及ぶと数百万円になる場合もあります。妻の不貞行為調査のための興信所の調査費用315万円のうちの一部150万円を損害として請求するもその調査の必要性及び相当性はないとして認めなかった平成22年12月21日東京地裁判決(平22(ワ)17240号、ウエストロー・ジャパン)全文を紹介します。

○被告との不貞行為により、原告と妻の婚姻関係が危機的な状況に陥ったものの,関係が修復されているのにも拘わらず、不貞行為相手方に対し80万円もの慰謝料を請求を認めているのには驚きです。共同不法行為者である妻の責任について、なんらおとがめナシで、不貞行為相手方男性だけに責任を認めるのは、不合理です。原告男性に対しては、先ず奥さんの請求するのが筋でしょうと思うのですが。

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主  文
1 被告は,原告に対し,80万円及びこれに対する平成22年5月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを5分し,その4を原告の負担とし,その余は被告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

 被告は,原告に対し,400万円及びこれに対する平成22年5月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
1 本件は,原告の妻であるA(以下「A」という。)が被告と不貞行為をしたとして,原告が,被告に対し,不法行為に基づき,慰謝料250万円と興信所の調査費用315万円のうちの一部150万円の合計400万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成22年5月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

2 前提事実(争いのない事実並びに証拠〔甲1〕及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 原告とAは,平成13年5月1日,婚姻し,原告は,Aの長女及び長男と養子縁組した。

(2) Aは,原告との間に,Bをもうけた。

3 争点
(1) 被告の不法行為責任の有無(不貞,婚姻関係の破綻等)
(2) 原告の損害額

4 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)(被告の不法行為責任の有無〔不貞,婚姻関係の破綻等〕)について

〔原告の主張〕
ア 被告とAは,平成20年11月ころから平成21年7月までの間,多数回,ホテルにおいて,相互に緊縛行為をするなどして性的行為をした。
 なお,この間の同年4月28日は,性交渉を伴うものであった。

イ Aと被告の外男女数名は,平成21年6月27日,長野県蓼科高原のロッジに宿泊し,Aと被告は,同衾し,同日と翌日,緊縛行為をした。

ウ 原告と被告の婚姻関係が破綻していたことは否認する。

〔被告の主張〕
ア 被告がAと数回ホテルに行ったことは認めるが,基本的に緊縛行為等をしたのみであり,性交渉を持ったのは1回のみである。慰謝料の対象となる行為は,継続的な肉体関係であるから,被告の行為は不法行為に該当しない。

イ Aは,原告の実父からセクシュアルハラスメント(以下「セクハラ」という。)を受けていたこと,原告について,女性との交際がうかがわれたこと,原告との間に性生活がなかったこと等から,原告との婚姻関係について不満を抱いており,原告との間で,離婚の協議をし,口論にまで発展していた。また,Aは,被告以外の男性とも情交関係を有していたことがうかがわれる。
 したがって,原告と被告の婚姻関係は破綻していたものである。

ウ 被告は,Aと原告の婚姻関係が破綻していたと信じていたから,不法行為の故意を欠くものである。

(2) 争点(2)(原告の損害額)について
〔原告の主張〕
ア 原告は,平成21年5月,日本興信探偵業協会こと株式会社MR(以下「MR」という。)に対し,Aの行動の調査を依頼し,同社のAと被告の密会の状況等についての調査報告書により,Aと被告の密会の事実を突き止めることができた。
 その後,原告は,Aとの離婚も考え,原告の実父もAを追い出そうとするなど,原告とAは離婚寸前の危機にまで至ったが,Aとの婚姻関係が8年も経過し,前夫との子2人も含む3人の子がいるAが離婚後困窮することは目に見えるなどのことから,離婚を思い止まった。

イ 原告の上記精神的苦痛を慰謝するには,250万円を下らない。
 また,原告がMRに支払った調査費用315万円は,被告の不法行為と相当因果関係のある損害である。

〔被告の主張〕
 原告の主張は否認ないし争う。

第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(被告の不法行為責任の有無〔不貞,婚姻関係の破綻等〕)について

(1) 前提事実,証拠(甲1,甲2,甲5の1ないし5,甲6,甲7,乙1,乙3の1・2・5,乙7)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。

(ア) A(昭和48年○月○日生)は,平成8年,Cと婚姻し,長女のD(平成8年○月○日生)及び長男のE(平成11年○月○日生)をもうけたが,平成11年,上記Cと離婚し,長女及び長男を引き取り養育していた。
(イ) 原告(昭和49年○月○日生)とAは,平成13年5月1日,婚姻し,原告は,Aの長女及び長男と養子縁組した。
(ウ) Aは,原告との間に,B(平成13年○月○日生)をもうけた。
(エ) 原告とAらの家族は,平成14年8月,原告の実父宅に転居し,以後,実父と同居し,原告は,家業である食品会社の仕事に従事している。

イ 被告は既婚の男性である。

ウ Aは,平成20年4月ころ,SNS(ソーシャルネットワーキングサイト)を通じて,「○○」というハンドルネームを使用していた被告と知り合い,同年8月には,被告と食事をしたり,カラオケに行く間柄となり,被告とAは,同年11月から平成21年7月までの間,多数回,ホテル等において,相互に緊縛行為をするなどして性的行為をした。
 なお,この間の同年4月28日には,被告とAは,性交渉を持ち,同年6月27日と翌28日には,被告とA及びその他の男女数名は,長野県蓼科高原のロッジに宿泊して,被告とAは相互に緊縛行為をするなどした。

エ Aは,SNSに,次のとおり,書き込みをした。
平成20年6月22日(乙3の5)
「旦那の携帯が鳴った」「私が出てみた」「何も言わずに切れちゃいました」「名前からして,クラブかキャバクラのお姉ちゃんだろうけど,何も言わずに切るなんて,営業マナーがなってない,駄目だねえ」

同年10月5日(乙1)
「離婚覚悟 今日の旦那の言動で私は完全にキレた 旦那の返答,今後の態度次第では即離婚する気が固まった 離婚覚悟で旦那と対決する」

平成21年4月20日(乙3の1)
「バッ!と布団をめくられた,旦那が帰って来たのかと思ったら舅だった!舅は私に渡したい物が有ったらしいんだけど…」「渡したなら,さっさと寝室から出て行け!んも~!気色悪いっ!!この,酔っぱらいがあ~」

同年5月16日(乙3の2)
「人の後ろを通るたび…気安く肩に触るなあ!このエロ舅」

オ Aは,平成21年8月上旬,原告に被告との関係を問い質されて,被告と密会していたことなどを認めた。
 原告の実父は,これを知り,原告とAに対し,離婚するよう迫ったが,原告は,子らの存在を考えて離婚しないこととした。

カ 原告とA,子ら及び原告の実父は,現在も,原告の実父宅に同居している。

(2) 検討
ア 上記認定事実によれば,被告は,原告の妻であるAと相互に緊縛行為をするなどの性的行為したり,性交渉を持ったことが認められるところ,このような行為は,原告の婚姻共同生活の平和を維持する権利を侵害するものであって,不法行為を構成するものというべきである。

 これに対し,被告は,慰謝料の対象となる行為は,継続的な肉体関係であるから,被告の行為は不法行為に該当しないと主張するが,継続的な肉体関係がなくとも,第三者の一方配偶者に対する行為が,他方配偶者の婚姻共同生活の平和を毀損するものであれば,違法性を有するものというべきであるから,被告の上記主張を採用することはできない。

イ 被告は,原告とAの婚姻関係は破綻していたと主張するので,これについて検討する。
 被告は,Aが,原告の実父によるセクハラ等から,原告との婚姻関係について不満を抱いており,原告との間で,離婚の協議をし,口論にまで発展していたと主張する。

 しかしながら,上記認定事実,証拠(甲6,乙1ないし3の1ないし10,乙6)及び弁論の全趣旨によれば,Aが,SNSに,原告の実父によるセクハラや原告との婚姻生活に対する不満,離婚する意思を有している旨の書き込みをしたことが認められるものの(乙1ないし3の1ないし10,乙6),他方で,原告とAは,別居したこともなく,Aと被告の関係が発覚した後も,原告の実父宅において同居していることが認められるから,原告との婚姻関係が破綻していたと認めることはできない。

 また,被告は,Aが被告以外の男性とも情交関係を有していたことがうかがわれると主張し,証拠(乙4,乙5)及び弁論の全趣旨によれば,Aが,SNSに,被告以外の男性とも交際している旨の書き込みをしたことが認められるものの(乙4,乙5),Aは,これについて,真実ではない旨供述し(甲6),その信用性も直ちに否定し難いから,Aが被告以外の男性とも情交関係を有していたということはできない。
 この他に原告とAの婚姻関係が破綻していたことを認めるに足りる証拠はない。

ウ 被告は,Aと原告の婚姻関係が破綻していたと信じていたと主張し,陳述書(乙7)において,SNSの書き込みやAによる直接の話から,Aが離婚する強い意思を有していたと認識していた旨供述する。

 しかしながら,SNSの書き込み(乙1ないし3の1ないし10,乙6)からは,Aが原告に不満を有していたことなどを見て取れるものの,これにより婚姻関係が破綻しているものとは認識し難いし,また,Aによる直接の話については,その内容があいまいというほかなく,上記供述を信用することはできない。
 したがって,被告の上記供述を採用することはできない。

2 争点(2)(原告の損害額)について
(1) 上記認定説示の事実,特に被告とAが交際していた期間・態様,被告の不法行為により原告とAの婚姻関係が危機的な状況に陥ったものの,関係が修復されたこと,被告の対応等その他本件に顕れた一切の事情を考慮すれば,被告の不法行為による原告の慰謝料として80万円を相当と認める。

(2) 上記認定事実,証拠(甲2,甲3,甲4の1ないし3,甲6,甲7)及び弁論の全趣旨によれば,原告が,平成21年5月ころ,男性との密会の様子についてのAによるSNSへの書き込みを認めて,同年5月26日,日本興信探偵業協会ことMRに対し,Aの行動の調査を依頼し,調査費用として315万円を支払ったこと,MRが,同年7月末ころ,原告に対し,Aと被告の密会の状況等を記載した調査報告書を提出したこと,原告が,同年8月上旬,Aに対し,上記調査報告書を示して,被告との関係を問い質したところ,被告と密会していたことなどを認めたことが認められる。

 そうすると,原告は,Aによる男性との密会の様子についてのSNSの書き込みの存在を認識していたというのであるから,原告がMRにAの行動の調査を依頼せざるを得なかったということはできず,その調査の必要性及び相当性を認めることはできない。
 したがって,上記調査費用は,被告の不法行為と相当因果関係を有するものということはできない


第4 以上によれば,原告の請求は主文第1項の限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
 (裁判官 矢作泰幸)
以上:4,934文字

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