平成28年 5月30日(月):初稿 |
○「不貞行為慰謝料を財産分与額に考慮した審判例紹介1」の続きで裁判所の判断です。 **************************************** そこで、本件において、夫婦財産関係の清算としての財産分与の対象となるべき財産について検討する。 1、不動産関係 本件記録添付の各登記簿謄本、各固定資産課税台帳登録証明書、家庭裁判所調査官補近藤弘作成の調査報告書、申立人および相手方審問の結果によれば、申立人にはその所有名義に属する不動産はなく、相手方は、 (1) 単独所有名義の 東京都○○○区○○○△丁目○番○○ 宅地34坪(112・39平方米) (2) 相手方の養母と共有名義(持分相手方3分の2、相手方の養母3分の1。もつとも、登記簿上は伊東とめ子、相手方、相手方養母各持分三分の一の共有となつているが、当裁判所昭和44年(家イ)第5、461・5、462号夫婦関係調整、離縁事件記録添付の戸籍謄本によれば、右伊東とめ子は相手方と同様に相手方の養母Aその亡夫伊東秀明の養女であるが、昭和38年12月11日確定した戦時死亡宣告の審判によつて昭和28年3月20日に死亡したものとみなされており、したがつて相手方3分の2、相手方の養母3分の1の共有とみるべきものである。)の、現に相手方および相手方の養母が居住している、 東京都○○○区○○○△丁目○○番地○所在、家屋番号同町16番 木造瓦葺平家建店舗兼居宅13坪9合2勺(46・01平方米。後述する如く、もと店舗部分が約6坪であつたのが、昭和41年5月に約15坪に増築され、また、昭和39年頃居宅部分は、約8坪から二階建約20坪に増築されている) (この家屋の敷地108・3465平方米は、相手方養母が件外大田和好より賃借している。) を有していることが認められる。 しかしながら、(2)の家屋は、前記登記簿謄本によつて明らかな如く、相手方と相手方の養母とが、昭和29年1月27日相手方の養父亡伊東秀明の死亡による相続によつて取得したものであり、相手方が申立人の協力によつて婚姻中に取得したものでなく、また(1)の宅地は、登記簿上は、相手方が申立人と婚姻後の昭和35年7月14日に東京都○○○区○○○△丁目○○番地○○に居住する山崎邦夫から売買により所有権を取得したと記載されているが、相手方が提出した山崎邦夫作成の証明書および相手方代理人の陳述によれば、相手方の養母が現に所有するアパートを建築するための敷地として、右山崎邦夫から昭和33年5月頃まず右宅地のうち17坪を買受け、更に昭和35年3月頃残りの17坪をも買受けたうえ、これを一括して相手方に贈与したものであり、所有権の移転登記手続が申立人と相手方との婚姻後である昭和35年7月15日になされ、かつ、右山崎邦夫から相手方の養母に売買し、更に相手方の養母から相手方に贈与したと登記するのを省略して、右山崎邦夫から直接相手方に売買したものと登記したため、売買の日時も同年7月14日としたものであることが認められ、そうだとすれば、相手方は、いずれの物件をも申立人との婚姻前に取得したものであるから、これらの物件は、直接財産分与の対象となるべきものではないというべきである。 もつとも、申立人は、前記認定事実によれば、昭和41年5月頃自ら○○屋○○店の営業をするに当り、右(2)の建物の店舗部分約6坪を約15坪に増築改装したが、この費用として申立人自らその退職金や預金から若干の金員を支出しているのであつて、この点は、財産分与として考慮されなければならない。 相手方の提出した財産分与対象財産一覧表および相手方代理人の陳述によれば、申立人は昭和41年度の所得税の申告に当り、昭和41年5月に○○屋○○店の増築改装費用として金103万5290円を支出したとしており、他にこれを覆えすに足りる証拠もないので、増築改装の費用は右の金額どおりであると認めざるをえず、また相手方の提出した財産分与対象財産一覧表、斉藤春男作成の証明書および相手方代理人の陳述によれば、右増築改装に要した費用のうち、金50万円は、相手方の養母Aが自己所有の宅地(○○○区○○○△丁目○○番地の○)21坪五合を斉藤春男に売却した代金155万5千円のうちから支出していることが認められ(もつとも申立人は、この相手方の養母Aが支出した金員も、申立人において会社に勤務中、毎月3万円ないし6万円を相手方養母に渡していたものを相手方養母において預金していたから、その預金中から支出したのだと主張し、当裁判所の審問の際申立人はこれに副う陳述をしているが、措信しがたく、他にそれを認めるに足る証拠もない。)、また申立人が提出した株式会社○○○○作成の申立人に対する退職所得の源泉徴収票および株式会社○○銀行○○○支店作成の残高証明書並びに申立人に対する審問の結果によれば、申立人は昭和41年5月株式会社○○○○を退職するに当り、金61万2500円の退職金(2590円の所得税を含む)を受領しており、また○○銀行○○○支店に昭和41年5月23日当時残高8万6456円の指定金銭信託を有しており、申立人はこれらの退職金および金銭信託のうちから、前記増築改造に要した費用のうち、相手方養母の負担した額をのぞく、金53万5290円を支出したことが認められる。 右の申立人の支出によつて相手方および相手方養母の共有にかかる前記家屋は、その価額を増加しているのであつて、清算的財産分与として、相手方から右金53万5290円は申立人に返還されなければならない(相手方は、返還すべき価額は、その後別居まで約3年、離婚まで約4年を経過しているので、減額されるべきであり、再評価すべきものであると主張しているが、その後の工事代金の値上り等を考慮すれば、当時出損した額に相当する利益が現在もなおそのまま存しているとみるのが相当である)。 2 動産関係 イ、家財道具および営業用備品 相手方の提出した財産分与の対象財産一覧表並びに申立人および相手方に対する審問の結果によれば、申立人は、相手方との婚姻生活および営業に供するため、昭和42年度においてクーラー1台(金15万円)、レジスター1台(金19万円)、カラーテレビ1台(金9万円)、書類箱(1万5千円)および乗用車1台(トヨペット・コロナ1500、金70万円)を、昭和43年度においてマイクロテレビ1台(金4万5千円)、電気冷蔵庫1台(金4万6千円)、電気洗濯機1台(金2万5千円)を購入しており、申立人は昭和44年8月20日別居するに際し、右の乗用車1台を持ち去り、他の物件はそのまま相手方の家屋内に現存していることが認められる。 これらの物品は、いずれも購入後2、3年を経過し、損耗しているので、時価に再評価すべきであり、離婚時においては、昭和42年度購入の物品については購入額の約3割、昭和43年度購入の物品については購入額の約4割と再評価するのが相当であり、これによると、昭和42年度購入の物件の合計の離婚時における評価額は金34万3500円、また昭和43年度購入の物件の合計の離婚時における評価額は金4万6400円となる。 この合計額金38万9900円が財産分与の対象となる物件の評価額であり、申立人はその半額に当る金19万4950円を取得すべきであるが、前記の如く乗用車1台金21万円を持ち去つているので、かえつて相手方に対し、金1万5050円を返還すべきものである。 ロ、在庫商品 相手方の提出した財産分与対象財産一覧表、相手方代理人作成の売上、仕入一覧表、相手方代理人作成の昭和44年7月末、昭和45年2月末棚卸推計表によれば、申立人が相手方と別居した昭和44年度8月20日当時の在庫商品は約金129万円相当であり、また申立人が相手方と離婚した昭和45年2月24日当時の在庫商品は約金195万円であると推定される。申立人は○○屋○○店の営業を放棄し別居以後、その営業にあたつていないのであるから、在庫商品については離婚時のものでなく別居当時のものが、財産分与の対象となると解するのが相当である。したがつて、相手方は申立人に対し、その半額にあたる金64万5000円を支払うべきものである。 なお、申立人は、自ら○○屋○○店の営業をするに当つて、店舗の増築改装の費用を支出したほか、自己の退職金や預金の中から約80万円程商品の仕入れに支出したから、相手方は申立人に対しこの約80万円を財産分与として返還すべきであると主張し、これに対し、相手方は、商品の仕入れには金100万円を要し、この費用はすべて相手方の養母Aにおいて支出し、申立人は全然支出していないと抗争している。前記認定の如く、申立人は店舗の増築改装の費用として退職金61万2500円および若干の金銭信託の中から、金53万5290円を支出しており、したがつて、商品の仕入代金として若干は支出しているものと推測されるが、その後申立人と相手方とは、申立人および相手方養母が支出した費用で仕入れた商品をもつて営業して生活し、数年を経過したのであるから、財産分与の対象となるのは、別居時の在庫商品のみで営業開始当時の商品の仕入れ代金を云々する必要はないというべきである。 3 預金関係 申立人は、自ら○○屋○○店の営業をしている間、営業上の利益金を○○○信用金庫の申立人名義の普通預金口座および○○銀行○○○支店の江川信男(虚無人)名義の普通預金口座に預金しており、相手方と別居した昭和44年8月20日当時、右○○○信用金庫の預金が約金30万円、○○銀行○○○支店の預金が、約2、30万円あつたと主張している。 しかしながら、相手方の提出した○○銀行作成の書面によれば、申立人は江川信男(虚無人)名義で○○銀行○○○支店に普通預金口座を有し、その預金額は、昭和44年5月1日当時金42万7500円であつたが、申立人は同日これを解約し、全額の払戻しを受けており、したがつて別居時にもまた離婚時にも右普通預金口座に預金額は存在しないことが認められる。また、相手方の提出した○○○信用金庫の申立人名義の普通預金元帳の写しによれば、申立人は右信用金庫に申立人名義の普通預金口座を有し、その預金額は昭和44年6月20日当時31万1124円であり、申立人は同日金15万円、同年7月8日金10万円、同年7月31日金1万7300円、相手方と別居した同年8月20日金4万3千円をそれぞれ払戻しをしており、右別居時の残高は金824円、離婚時の残高は金441円であることが認められる。 なお、相手方の主張によれば、○○銀行にも小額の申立人名義の預金があり、これも申立人において払戻しを受けているとのことであるが、相手方において同銀行に照会しても、これを裏付ける資料がえられず、申立人も相手方もこれを財産分与の対象としないことに同意しているので、当裁判所としてもこれ以上追及してその調査をせず、右預金を財産分与の対象としないこととする。 そして、申立人の各預金からの払戻しは、申立人および相手方の審問の結果によれば、昭和44年7月31日の金1万7300円の払戻しは税金支払のためであるが、それ以外は、もつぱら申立人が自らの費消のためであることが認められる(もつとも、申立人は、そのうち若干は商品の仕入れ代金にあてたと陳述しているが、この陳述は措信しがたい)。 そうだとすれば、申立人と相手方との別居時である昭和44年8月20日当時、もし申立人の自らの費消のための払戻しがなかつたとすれば、合計金72万1329円の預金(311,241円-17,300円+427,505円 = 721,329円)があつた筈であるから、同金額の預金が財産分与の対象となるべきである(財産分与の対象となる財産の額を決定する基準時は、一般には離婚時と解すべきであるが、本件の如く、離婚前に申立人がそれまでの営業活動を放棄して別居した場合の如きにおいては、別居時であると解するのが相当である)。 右の預金72万1329円は、実質的に申立人と相手方との共有の財産と考えられるので、申立人は、本来その半額にあたる金36万665円を取得すべきものである。しかしながら、申立人は、既に金72万505円を払戻して、自己の用に費消しているのであるから、かえつて、相手方に対し35万9840円を返還すべきものである。 4 債務関係 相手方の提出した財産分与対象財産一覧表並びに申立人および相手方審問の結果によれば、申立人と相手方とが営業をしていた当時の買掛金債務(仕入洋品に関する)が合計金8万9818円存し、これを相手方において申立人と別居後全額支払つていることが認められる。したがつて、申立人は相手方に対し、その半額金4万4909円を返還すべきものである。 四 以上を総合すれば、相手方は申立人に対し清算的財産分与として合計金76万500円(百円未満四捨五入。――535,290円-15,050円+645,000円-359,840円-44,909円 = 760,491円)を支払うべきであるといわなければならない。 しかしながら、ここに考慮を要するのは、本件離婚が、申立人の不貞行為というその責に帰すべき原因に基づくものである点である。相手方は、この点について別個に慰謝料請求の訴訟を提起していないのであるが、前記認定事実によれば相当額の慰謝料を認められるべきである。当裁判所は、この点を斟酌し、前記認定事実により、相手方が申立人に支払うべき清算的財産分与の額は、金50万円程度減額されて然るべきであると思料する。 よつて、相手方は申立人に対し前記金額より金50万円を減額した金26万500円を清算的財産分与として支払うべきであるから、主文のとおり審判する次第である。 (家事審判官 沼辺愛一) 以上:5,583文字
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