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意外な盲点夫婦間の権利の消滅時効の停止(完成猶予)

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平成28年 2月17日(水):初稿
○現行民法第159条は次の通りです。
第159条(夫婦間の権利の時効の停止)
 夫婦の一方が他の一方に対して有する権利については、婚姻の解消の時から6箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。

改正民法では次のように規定されます。
第159条(夫婦間の権利の時効の完成猶予)
 夫婦の一方が他の一方に対して有する権利については、婚姻の解消の時から6箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。


○第159条に関する現行民法と改正民法の違いは、見出しの「時効の停止」が「時効の完成猶予」となっただけで条文の中身は全く変わりません。現行民法では、時効の「中断」と「停止」と言う表現の制度がありますが、その違いについて不明確な点があったので、時効の「完成猶予」と「更新」に分け、前者は「時効が完成しない」こと、後者は「新たに進行を始める」としました。夫婦間の権利については、婚姻解消の時から6ヶ月間は時効が完成しない即ち完成が猶予されるという表現に変わりました。

○民法第159条の立法趣旨は、婚姻の性質上、夫婦間では相互の権利行使・時効中断行為を期待できないということで、離婚等で婚姻が解消されてから6ヶ月間は時効が完成しないことにするものです。昭和22年までは、この時効の完成猶予は、夫側には認められず、妻側だけの特典でしたが、男女平等を徹底すると言うことで昭和22年改正で夫婦双方に認められるようになりました。

○この条文は、法律専門家にも意外な盲点となっています。例えば、結婚して15年になるA男・B女夫婦の夫Aが、10年前にC女と男女関係になったことがあり、これが妻Bの知るところとなり、Bが怒って離婚するしないの大騒ぎになりましたが、結局、子供が居たためBが我慢して、Cに対して慰謝料請求をすることなく時が過ぎたとします。通常の考え方では、BはCに対し不法行為を理由に慰謝料請求できますが、Aとの男女関係を知ってから3年経過すると不法行為の消滅時効にかかって請求できなくなります。

○そこで10年後にBとAが離婚することになった際、BがAに対し10年前の不貞行為を理由に慰謝料請求ができないかと相談を受けることがあります。このような相談には10年間も請求しなかったのだからもう消滅時効で請求できませんよと、うっかり、回答しがちです。しかし、BはAの浮気相手のCに対する請求は時効でできなくなっていますが、民法第159条によれば、Aに対しては離婚後6ヶ月以内であれば請求できることになります。

○同様にBがAに対し、12年前に100万円を貸していた場合、離婚に当たり12年前に貸した100万円を返せと請求すると10年以上経っているの時効消滅していると考えそうです。しかし、民法159条によればこの場合も時効は完成せず、離婚後6ヶ月以内であれば請求できることになります。問題は、10年或いは12年前の出来事を事実として立証出来るかと言うことです。現実問題としては大変難しく、不貞行為についてはホテルに入った写真等を、貸し金であれば借用証を保管していることが必要です。
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