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別居1年半で有責配偶者からの離婚請求が認められた判例全文紹介3

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平成27年 9月18日(金):初稿
○「別居1年半で有責配偶者からの離婚請求が認められた判例全文紹介2」の続きで,裁判所の判断部分後半と主文・請求です。

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2 有責配偶者からの離婚請求の抗弁について
(1) 前記認定事実によれば,本件婚姻関係の最も大きくかつ直接的な破綻原因は,原告X1の不貞行為にあるというべきであるが,被告Y1にも,杜撰な家計の管理や,安易で多額な原告X1名義での借金の繰り返し,原告X1に風俗店の利用を勧めるなどの配慮を欠いた言動に及んだこと,本件鍵取替後の一件等,本件婚姻関係の破綻に至る経緯において,一定程度の有責性があるというべきであり,その意味で,本件婚姻関係の破綻に関する原告X1の有責の度合いの高さは,被告Y1の有責の度合いの低さとの関係で相対的なものであるということができる。

(2) 次に,① 原告X1と被告Y1の婚姻期間は,本件口頭弁論終結時までで約18年半であるのに対し,原告X1が2度目の函館単身赴任を終えて札幌に戻ってきてからの別居期間が約1年半であることは前提事実から明らかであり,② また,当事者間に就学前の未成熟子である長男及び長女がいることは,前提事実で摘示したとおりである。③ さらに,前提事実で掲げたような原告X1及び被告Y1のそれぞれの就労形態に照らすと,離婚により,被告Y1が,一定程度経済的に余裕のない状態となることも推認することができる。

(3) もっとも,有責性の程度に関する評価は前記のとおりである上,
① 別居期間は比較的短期間ではあるものの,別居に至った直接のきっかけは,被告Y1が,何らの予告なく自宅の鍵を取り替えて原告X1が自宅に戻ることを不可能にする実力行使に出たことが原因であり,被告Y1において,積極的に原告X1との同居を拒むに至ったものというべきであること,
② 子らは,未成熟子であるとはいっても,比較的年長者であること,
③ 経済的な状況については,原告X1においても,被告Y1の作った借金の返済を未だ続けており,かつ,被告Y1が,平成26年3月以降,原告X1の収入や本件借入の返済額に比して過分ともいうべき婚姻費用の支払を1年以上にわたって受け続けてきていること,客観的には,被告Y1において,未だ家計の切り詰めを十分にしたとはいえない状況であって,今後,相当程度の支出を圧縮することも可能であること,子らの年齢からいっても,被告Y1が稼働制限をしなければならないような状況にはないこと
等を併せ考えると,本件の場合,被告Y1が,離婚によって精神的・社会的・経済的に極めて過酷な状態に置かれる等,原告X1からの離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するということのできるほどの特段の事情を認めるには至らないというほかない(なお,被告Y1側において,予備的にではあっても,原告X1に対する離婚慰謝料の反訴請求や子らの養育費に関する附帯処分の申立てがあれば,それらについても考慮することができるが,本件では,そのような(予備的)申立てがないため,本来,考慮することができるはずの事情を考慮することができない。しかし,そのことを,原告X1側にとって不利な事情として斟酌するのは相当でない。)。

(4) 以上によれば,本件婚姻関係はすでに完全に破綻するに至っており,「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)があるということができる上,原告X1からの離婚請求が,信義則上,許されないものということはできない。

(5) よって,原告X1からの離婚請求を認容するのが相当であり,子らの親権に関する定めについては,原告X1の意見や,仮に離婚を余儀なくされることとなった場合についての子らの陳述(乙26,27)を踏まえると,子らの親権者を,母親である被告Y1と定めるのが相当である。

3 慰謝料請求権の有無ないし額について
(1) まず,前提事実で摘示したとおり,本件肉体関係は平成24年11月頃に始まり,現在も続いていること,本件婚姻関係は,平成25年9月16日頃,本件肉体関係を直接かつ最大の原因として,完全に破綻するに至ったことが認められるから,被告Y1は,原告X1と被告Y2とが本件肉体関係に及んだことによって,原告X1の妻として有する婚姻共同生活の平和の維持という法的利益を侵害されたものということができる。

(2) 次に,被告Y2の故意・過失に関し,証拠(甲10,乙28,29,丙2,原告X1本人,被告Y1本人,被告Y2本人)によれば,次のような事実を認定することができる。
ア 被告Y2は,平成24年6月頃,昼間は自動車関係の仕事を,夜間はホステスの仕事をしていたところ,勤務先のスナックで知り合った原告X1と,何度かいわゆる同伴出勤や店外デートをし,居酒屋に行ったりドライブをしたりする中で,原告X1の好きな自動車の話や被告Y2の昼間の仕事の話等をする中で意気投合し,親しくなっていった。こうした中,被告Y2は,原告X1が,自分に対して好意を持っており,店以外でも自分と会いたいと思っていると感じるようになった。

イ 被告Y2は,平成24年11月頃,スナックの閉店後に原告X1に誘われてカクテルバーに行ったところ,接客時の飲酒に加えてカクテルバーでも飲酒したため,酔いが回ってしまった。帰宅時になって,原告X1から,タクシーで送ると言われたことからこれに甘えたところ,実際にはタクシーで原告X1宅に招き入れられてしまい,半ば強引に原告X1と肉体関係をもつに至った。

ウ しかし,その後も,被告Y2は,原告X1と,今度は合意の上で肉体関係をもつことがあり,平成25年1月中旬頃,3回目に原告X1と肉体関係をもった際,原告X1から,実は配偶者がいることを告げられた。これに対し,被告Y2は,それなら交際をやめようと原告X1に対して持ちかけたが,原告X1から,被告Y1との関係がうまくいっておらず,子らのことは大事に思っているが,本件婚姻関係は破綻していると説明を受けたことや,原告X1が嘘をつくような人ではないと思っていたこと,原告X1の被告Y2に対する気持ちが真剣であったこと,被告Y2も,原告X1のまっすぐなところに惹かれていたことから,交際を続けることにした。

エ 被告Y2は,平成25年7月12日の本件話合いの際,原告X1が,本件話合いの席に被告Y2を連れてこいと言われていたと思ったことから(被告Y1としては,被告Y2との関係を解消し,原告X1に改心してほしいと思ったことから,「1回,被告Y2ともきちんと話をしなければいけないと思っているが,同人を連れてくることができるのか,原告X1の父母の前で不貞関係に及んだという話をすることができるのか」という形で詰め寄ったところ,原告X1が「連れてくるよ,段取りをするよ」と応じてしまったという経緯であったと認識している。),原告X1に同道することとなり,同人と一緒に自動車で札幌まで来たものの,実際には,原告X1も,被告Y2を両親や被告Y1等に会わせるのはおかしいと思ったことから,結局,本件話合いの席には加わることはなく,原告X1が本件話合いをしている間,自動車で他所を回っていた。

(3) 前提事実及び以上の認定事実によれば,
① 被告Y2と原告X1とは,当初こそ,スナックのホステスとその客という関係から始まり,同伴出勤や店外デートを経て,互いに好意を抱くようになりつつも,少なくとも,被告Y2においては,自ら望んで原告X1と最初の肉体関係に及んだわけではなかったこと,
② 2度目以降は,被告Y2も自らの意思で原告X1と肉体関係に及ぶようになったこと,
③ 平成25年1月中旬頃に原告X1から配偶者がいることを告げられた際は,交際をやめようと持ちかけたことはあったものの,嘘をつくような人ではないと思ったからなどといった理由から,本件婚姻関係が破綻しているとの原告X1の話を安易に信用し,原告X1に対する好意等もあって,原告X1との交際を続けることとしたこと,
④ 平成25年7月12日の本件話合いにも原告X1に同道していながら,本件婚姻関係が本当に破綻しているか疑念を抱いたり,確かめたりしようとしなかったこと
が認められる。

 なお,原告X1及び被告Y2は,両名が正式に交際するようになったのは,平成25年6月下旬頃の本件同居時以降のことであり,それ以前は,スナックのホステスとその客という関係であったと主張するが,遅くとも,同年1月中旬頃,被告Y2が,原告X1から配偶者がいることを告げられ,原告X1との交際をやめようと持ちかけたにもかかわらず,結果的に原告X1の言を信用して交際を続けることを決断した時点以降は,両名の関係が,明らかにスナックのホステスとその客という関係を超えた交際をするようになったものと評価すべきであって,到底,所論を採用することはできない。

(4) そうすると,まず,原告X1に半ば強引に肉体関係に持ち込まれた当初は,被告Y2には,ここで問題となっている故意があったといえないことはもちろん,過失もあったと認めることはできない。
 しかし,好意を寄せている人との交際を継続したいと考える者は,往々にして相手の気を惹こうとし,あるいは,相手の気持ちが離れていかないような言動に及ぶものであり,また,その者が,主観的には配偶者との婚姻関係が破綻していると思い,その旨を話したとしても,客観的には婚姻関係が破綻しているとまで評価することができないような場合もままあることであるから,その者から,実は自分には配偶者がいるが婚姻関係はすでに破綻しているというような話を聞かされた場合でも,その話の真偽については,夫婦間の連絡や往来の有無に関する資料等の客観的な情報を交際相手に示してもらう等して,慎重にこれを見極めなければ,適切な判断をすることはできないはずである。

 そうすると,客観的には婚姻関係が破綻しているとまでいえないような場合であったにもかかわらず,交際相手の話を安易に信じて実態の確認を怠り,同人と肉体関係を伴う交際を継続した場合は,これによって同人の配偶者が有する婚姻共同生活の平和の維持という法的利益を侵害したことにつき,過失があるものというべきである。

 この観点から本件をみると,被告Y2が,原告X1から,配偶者はいるが本件婚姻関係はすでに破綻している旨を告げられた際,その説明を信用した根拠は,原告X1が嘘をつくような人ではないと思ったから,などという極めて主観的かつ安易なものだったのであり,客観的には,原告X1と被告Y1との交流が途絶えて久しかったというような事案ではなく,むしろ,前記認定のように,本件大阪旅行や電話,メール等のやりとりが続いていたのみならず,その後,本件話合いの場が設けられたものの,離婚協議は何ら進展せずという段階だったのであり,被告Y2は,本件話合いの場に赴く原告X1とともに札幌に同道する機会まであったにもかかわらず,原告X1の説明を何ら疑わず,同人との肉体関係を伴う交際を継続していたのであるから,これによって被告Y1が有する婚姻共同生活の平和の維持という法的利益を侵害したことにつき,過失があったというべきである。

(5) もっとも,本件肉体関係に及ぶに至った経緯としては,専ら原告X1が主導的な立場にあり,被告Y2はいわば従たる立場にあったといえるのであって,被告Y2が原告X1と共同不法行為責任を負うべき関係にあるとはいっても,それは両名が不貞行為に及んでいたという限度においてであって,本件婚姻関係が完全に破綻し,被告Y1が原告X1との離婚を余儀なくされたことについて,第一次的に責任を負うべき者は原告X1であること,そうすると,被告Y2が被告Y1に対して負うべき責任の範囲は,原告X1の場合とは自ずと異なるものというべきこと,被告Y2が原告X1と肉体関係に及んだ当初は,被告Y2に故意があったといえないことはもちろん,過失もあったと認めることもできないこと,被告Y2は,被告Y1に対し,原告X1と離婚するよう働きかけをするなどの行動には出ていないこと等,諸般の事情を考慮すると,被告Y2が支払うべき被告Y1の精神的苦痛に対する慰謝料は,100万円と認めるのが相当である。

 また,被告Y1が本件の訴訟の提起ないし遂行を弁護士に委任したことは記録上明らかであるところ,訴訟の内容,認容額,難易度その他一切の事情を考慮すると,被告Y2が支払うべき不法行為と相当因果関係のある弁護士費用相当損害金は,10万円と認めるのが相当である。

 なお,被告Y1は,探偵に依頼した調査費用についても損害額として計上し請求しているが,本件の場合,被告Y1が探偵を利用したことによって原告X1と被告Y2との間の不貞関係が発覚したわけではなく,被告Y2の不法行為と被告Y1の支出との間の相当因果関係を認定するに足りないから,この費用を損害と認定することはできない。

 よって,110万円及びこれに対する第2事件の訴状送達の日の翌日である平成25年9月27日から支払済みまで民法所定の年5%の遅延損害金を原告に対して支払うことを求める限りにおいて,被告Y1の被告Y2に対する損害賠償請求には理由がある。

4 結論
 よって,主文のとおり判決する。
 なお,被告Y1は,被告Y2に対する損害賠償請求及び訴訟費用の負担につき仮執行宣言を求めているが,事案に鑑み相当でないので,これを付さない。
    札幌家庭裁判所  裁判官  吉川昌寛

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主   文
1 原告X1と被告Y1とを離婚する。
2 原告X1と被告Y1との間の長男A(平成10年○月○○日生)及び長女B(平成12年○月○○日生)の親権者をいずれも被告Y1と定める。
3 被告Y2は,被告Y1に対し,110万円及びこれに対する平成25年9月27日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
4 被告Y1のその余の請求を棄却する。
5 訴訟費用はこれを10分し,その7を被告Y1の,その余を被告Y2の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

1 原告X1
(1) 主文第1項に同じ
(2) 主文第2項に同じ

2 被告Y1
  (主文第3項につき)被告Y2は,被告Y1に対し,359万8000円及びこれに対する平成25年9月27日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
以上:5,952文字

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