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幼少期性的虐待除斥期間適用排斥平成26年9月25日札幌高裁判決全文紹介1

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平成27年 7月11日(土):初稿
○「祖父の孫娘に対する性的虐待の損害賠償義務3」に「近年子供に対する虐待の報道は良く聞き、最近は、子供の親殺しも頻繁に報道され、この乙山医師の証言からは近親者による性的虐待は珍しいことではないらしく、絆が強くあるべき親子関係が逆に憎しみ合う関係になっている例が多いことから、祖父と孫娘の関係ですが本件も氷山の一角ではないかと暗澹たる気持になります。」と記載していました。

○叔父が姪を3歳から8歳まで性的虐待を繰り返して、姪が心的外傷後ストレス障害(PTSD),離人症性障害及びうつ病などの精神障害を発症したとの正に暗澹たる気持ちになる事案について、一審平成25年4月16日釧路地裁判決では除斥期間経過を理由に被害者の請求を棄却していたものを、加害者の除斥期間の主張を排斥した平成26年9月25日札幌高等裁判所判決(判例タイムズ1409号226頁、判例時報2245号31頁)全文を5回に分けて紹介します。

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主   文
1 原判決を次のとおり変更する。
2 被控訴人は,控訴人に対し,3039万6126円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 控訴人のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は,第1,第2審を通じてこれを4分し,その3を被控訴人の負担とし,その余を控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨

1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,控訴人に対し,4175万1204円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え(控訴人は,当審において,原審における請求(3269万6676円及び附帯請求)をこのように拡張した。)。
3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

第2 事案の概要
1 本件は,控訴人が,昭和53年1月上旬から昭和58年1月上旬にかけて,叔父である被控訴人から,複数回にわたって,わいせつ行為ないし姦淫(以下「本件性的虐待行為」という。)を受け,このことにより,心的外傷後ストレス障害(以下「PTSD」という。),離人症性障害及びうつ病などの精神障害を発症し,損害を被ったと主張して,被控訴人に対し,不法行為に基づいて,損害賠償金3269万6676円及びこれに対する判決確定の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
 原判決は,控訴人の被控訴人に対する本件性的虐待行為を受けたことを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権は,民法724条後段所定の除斥期間の経過により消滅したと判断し,当審における拡張前の控訴人の請求を棄却したところ,控訴人が控訴をするとともに,当審において請求を拡張し,損害賠償金4175万1204円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。

2 前提事実(認定に用いた証拠等(特に注記しない限り,枝番を含む。)は各項の表題部末尾に掲げる。)
(1) 当事者等(甲2~5)

ア 控訴人は,昭和49年□□生まれの女性(父である□□□□)と母である□□□□の長女)である。両親は□□市内に住んでいたが,□□□妹(□□□□),三女□□□□)が生まれたことから,昭和53年ないし昭和58年頃当時,祖父□□□□及び祖母□□□□に預けられ,□□市内にある□□の自宅で生活していた。

イ 被控訴人は,昭和22年○月○○日生まれの男性であり,控訴人の叔父である。被控訴人は,昭和53年ないし昭和58年頃当時□□とは別居していたが,お盆,正月には実家である□□の自宅に帰省していた。

(2) 被控訴人の控訴人に対する性的虐待行為
 被控訴人は,昭和58年1月上旬頃まで,□□の自宅で,控訴人に対し,複数回にわたって性的虐待行為をした(その時期,頻度及び内容には争いがある。)。

(3) 控訴人のその後の生活状況(甲11,12,16,28)
ア 控訴人は,平成4年3月に□□市内の高等学校を卒業後,民間企業での勤務を経て,平成5年4月に□□市内の□□□□に入学した。平成8年3月に□□□免許を取得した後,□□市内の□□で勤務し,平成11年頃に□□市内に転居するとともに,□□県内にある□□□□に入学し,平成13年3月頃に□□□免許及び□□□□免許を取得した。

イ 控訴人は,□□□□と婚姻をした。

ウ 控訴人は,平成17年頃,□□□□を1年間務めた。

エ 控訴人は,□□が□□□□□□を開設したことから,□□□□□勤めるとともに,経理などの事務を含めて統括的な業務に従事していた。□□□□では,同年9月から□□□として勤務を始めた。

(4) 控訴人の治療経過(甲6,11,12,16,54)
ア 控訴人は,平成18年12月頃,□□からうつ病の疑いがあると診断され,抗うつ薬などの向精神薬の処方を受けた。

イ 控訴人は,平成19年7月から,□□□□精神科で通院治療を受けた。

ウ 控訴人は,平成18年7月頃からの不眠,希死念慮などを訴えて,平成21年2月25日から,釧路赤十字病院精神科で通院治療を受けた。
 釧路赤十字病院精神科のA医師(以下「A医師」という。)は,平成23年4月4日,虐待後6か月以内の記憶があいまいだが,控訴人がPTSDを発症していると診断するともに,病名を「心的外傷後ストレス障害・抑うつ状態」とする同日付け診断書を作成した。

エ 控訴人は,平成23年8月1日,東京女子医科大学附属女性生涯健康センター(以下「女性生涯健康センター」という。)のB医師(以下「B医師」という。)の診察を受け,同日以降,同センターで通院治療を受けている。

(5) 控訴人と被控訴人のやり取り(甲13)
 控訴人と被控訴人は,平成23年3月17日,□□市内で会い,その席上,被控訴人は控訴人に対し,本件性的虐待行為の一部をしたことを認め,500万円を支払うとの申出をした。

(6) 本件訴訟の経過(裁判所に顕著な事実)
ア 控訴人は,平成23年4月28日,本件訴訟を提起した。

イ 被控訴人は,平成23年6月13日の原審における第1回口頭弁論期日において,控訴人の被控訴人に対する本件性的虐待行為を受けたことを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権について,消滅時効を援用するとの意思表示をした。

3 争点
(1) 本件性的虐待行為の有無・程度
(2) 本件性的虐待行為による精神障害の発症の有無
(3) 本件性的虐待行為により被った損害の有無・額
(4) 本件性的虐待行為を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権は時効により消滅したか
(5) 上記損害賠償請求権は民法724条後段の規定により消滅したか


4 当事者の主張
(1) 争点(1)(本件性的虐待行為の有無・程度)について

(控訴人)
 控訴人は,昭和53年1月上旬から昭和58年1月上旬にかけて,いずれも□□の自宅で,帰省していた被控訴人から,本件性的虐待行為を受けた。そのうち,現時点で時期及び行為を特定できるものは,以下のとおりである。
ア 控訴人(当時3歳10か月)は,昭和53年1月上旬の午後2時頃,被控訴人から,臀部をなで回される,性器を触られるなどのわいせつ行為を受けた。

イ 控訴人(当時4歳5か月)は,昭和53年8月中旬の午後10時頃,被控訴人から,裸にされる,頬から首筋にかけてキスをされる,舌でなめ回しながら乳房を吸われる,臀部をなで回される,性器に触られるなどのわいせつ行為を受けた。

ウ 控訴人(当時4歳10か月)は,昭和54年1月上旬の午後10時頃,被控訴人から,布団の中で抱きしめられる,パジャマを着ていたのを裸にされる,全身を舌でなめ回される,乳房を吸われる,臀部をなで回される,性器をなで回される,繰り返し性器に指を入れられるなどのわいせつ行為を受けた。

エ 控訴人(当時5歳5か月)は,昭和54年8月上旬の午後10時頃,自分も裸になった被控訴人から,布団の中で抱きしめられる,パジャマを着ていたのを裸にされる,全身を舌でなめ回される,乳房を吸われる,臀部をなで回される,性器をなで回される,繰り返し性器に指を入れられるなどのわいせつ行為を受けた。

オ 控訴人(当時5歳10か月)は,昭和55年1月上旬の午後3時頃,被控訴人から,布団の中に引き込まれた上で,全身をなで回される,胸をもまれる,乳房を指でいじられる,臀部をなで回される,性器を触られるなどのわいせつ行為を受けた。

カ 控訴人(当時6歳5か月)は,昭和55年8月上旬の午後10時頃,被控訴人から,布団の中に引き込まれた上で,全身をなで回される,胸をもまれる,乳房を指でいじられる,臀部をなで回される,被控訴人の性器を握らせ,手淫を強いられる,繰り返し性器に指を入れられるなどのわいせつ行為を受けた。

キ 控訴人(当時6歳10か月)は,昭和56年1月上旬の午後10時頃,被控訴人から,布団の中に引き込まれ,パジャマの上着をめくられた上で,胸を執拗にもまれる,乳房を吸われる,被控訴人の性器を握らせ,手淫を強いられる,繰り返し性器に指を入れられるなどのわいせつ行為を受けた。

ク 控訴人(当時7歳5か月)は,昭和56年8月上旬の午後10時頃,被控訴人から,布団の中に引き込まれ,パジャマの上着を脱がされた上で,胸を執拗にもまれる,乳房を吸われる,被控訴人の性器を握らせ,手淫を強いられる,繰り返し性器に指を入れられるなどのわいせつ行為を受けた。

ケ 控訴人(当時7歳10か月)は,昭和57年1月上旬の午後10時頃,被控訴人から,布団の中に引き込まれ,パジャマの上着を脱がされた上で,胸を執拗にもまれる,乳房を吸われる,被控訴人の性器を握らせ,手淫を強いられる,繰り返し性器に指を入れられるなどのわいせつ行為を受けた。

コ 控訴人(当時6歳5か月)は,昭和57年8月中旬の午後10時頃,被控訴人から,布団の中に引き込まれ,パジャマの上着を脱がされた上で,胸を執拗にもまれる,乳房を吸われる,被控訴人の性器を握らせ,手淫を強いられる,繰り返し性器に指を入れられるなどのわいせつ行為を受けた。さらに,被控訴人は,自分の性器を控訴人の性器に挿入しようとしたが,挿入できず,姦淫には至らなかった。

サ 控訴人(当時8歳10か月)は,昭和58年1月上旬の午後10時頃,被控訴人から,布団の中に引き込まれ,パジャマを着ていたのを裸にされた上で,胸を執拗にもまれる,乳房を吸われるなどのわいせつ行為を受けた。さらに,被控訴人は,自分の性器を控訴人の性器に挿入しようとしたが,控訴人が声を出したことで,不審に思った□□及び□□が控訴人と被控訴人がいた部屋に入ってきたので,このときは姦淫には至らなかった。ところが,被控訴人がその場を取り繕い,□□及び□□が部屋から出て行くと,被控訴人は,自分の性器を控訴人の性器に挿入し,控訴人を姦淫した。

(被控訴人)
ア 被控訴人は,控訴人に対し,
①昭和56年1月頃に,乳首をなめる,性器に指を入れる,
②昭和56年8月頃か昭和57年8月頃のどちらかの時期に,乳首をなめる,性器に指を入れる,
③昭和57年1月頃に,乳首をなめる,性器に指を入れる,
④昭和58年1月頃に,服を脱がせる,乳首をなめる,自分の上に乗せて抱きしめるとの性的行為をしたこと,
⑤④の性的行為の後に,自分の性器を控訴人の性器に挿入しようとしたことは
認めるが,
その他のわいせつ行為はしていないし,姦淫はしていない。

イ 被控訴人は,幼い頃から自分に懐いていた控訴人のことを可愛い姪としてしか見ておらず,実家に帰省した折りには常に添い寝をしていた。しかし,成長するにつれて,よこしまな感情を抱くようになり,昭和56年1月以降,上記アのとおり,性的行為に及ぶとともに,昭和58年1月頃には姦淫を試みてしまったが,挿入する前に我に返るとともに,素直に性的行為に応じる控訴人と自分のことが怖くなり,それ以降は性的行為をしていない。

(2) 争点(2)(本件性的虐待行為による精神障害の発症の有無)について
(控訴人)
ア 控訴人は,本件性的虐待行為を受けたことにより,昭和58年頃にPTSD及び離人症性障害を発症し,高等学校在学中に特定不能の摂食障害を発症した。これらの障害による症状は,睡眠障害,自傷行為(爪かみ),絶望感,過剰な自責感,著しい離人感,フラッシュバック,悪夢,侵入症状に伴う発汗・動悸などというものであり,現時点でも治癒していない。

イ さらに,控訴人は,本件性的虐待行為を受けたことにより,平成18年9月頃に難治性重度うつ病を発症した。当該障害による症状は,著しい睡眠障害,意欲低下,イライラ感,億劫感,胸部圧迫感,頭痛,発汗,体重の減少というものであり,現時点でも治癒していない。

 すなわち,控訴人は,本件性的虐待行為を受けた後,うつ病を発症しないままで推移していたが,平成18年6月頃,□□から,同女も被控訴人から性的虐待行為を受けていたことを知らされるとともに,同年9月から□□□での勤務を始めた□□と毎日接することで,本件性的虐待行為を受けたことに直面せざるを得なくなった。このことに加えて,本件性的虐待行為を受けたことを理由に,妊娠,出産,育児にためらいがあり,当時,妊娠適齢期との関係で,妊娠,出産するかどうかの判断に直面せざるを得なくなっていたことと相まって,うつ病を発症するに至ったものである。

 性的虐待行為を受けたことによりPTSDを発症するとともに,相当期間経過後に,その合併症としてうつ病を発症することは精神医学専門家のコンセンサスとして確認されており,うつ病発症後の経過を踏まえると,うつ病発症の原因が□□□□□過重勤務によるものとは想定し難い。

(被控訴人)
 控訴人が被控訴人から性的行為を受けたことにより精神障害を発症したかどうかは,知らない。

 仮に現時点でうつ病に罹患していても,発症したとする時期は,最後に性的行為を受けた昭和58年1月上旬頃から23年が経過した平成18年9月頃であり,控訴人と被控訴人の関係は良好に推移していた反面,これまでの生活状況がストレス要因となっていることも想定できるのであるから,性的行為を受けたことにより発症したものとみるべきではない。


以上:5,874文字

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