平成18年 7月18日(火):初稿 |
○「祖父の孫娘に対する性的虐待の損害賠償義務1、2」と孫娘Xが11歳の小学6年生時から19歳まで丸8年間に渡り性的虐待を受け、外傷性ストレス障害等に罹患したとして、1億2500万円もの損害賠償請求をされた事例を紹介しておりましたが、今回はその結論を紹介します。 ○孫娘Xの請求に対し、祖父Yは全面的に争い、この訴訟の争点は①性的虐待行為の有無、②XのPTSD(外傷後ストレス障害)発症の有無と程度、③性的虐待行為とPSTD発症との因果関係、④Xの労働能力喪失率等損害額算定の4点が争いになり、判決書にはこの争点に関する当事者の主張は別紙「主張対照表」記載の通りとなっていますが、残念ながら判例時報には別紙は省力されていました。 ○孫娘Xは外傷性ストレス障害等によりおそらく労働能力は100%喪失し喪失期間も67歳までの40数年間と主張したことから、賠償請求額が1億2500万円もの高額になったものと思われます。 ○結論として本件判決は、前記①乃至③の争点を殆ど全て孫娘Xの主張に沿って認め、④の損害額についてXはPSTDにより平成14年4月から20年間労働能力を79%喪失したものとして3463万円の逸失利益、2000万円の慰謝料、500万円の弁護士費用等を損害として認め、填補額を控除して約5928万円の損害賠償を祖父Yに命じ、Yはこれを控訴せず判決は一審で確定しました。 ○Xに認められた金額は約1億2500万円の請求に対し約6000万円の半分弱ですが、この種裁判としてはXの完勝と評価して良いと思われます。難事件であり3人の裁判官の合議体で審理していますが、裁判官をしてX主張事実を認定させた最大の功労者はXのPTSD診断に当たった乙山医師(仮名)の証言でした。 ○乙山医師はPTSD患者の診断について豊富な臨床経験を有し、Xの本人供述について妄想によるものではなく虚言の可能性はないと断言し、又近親者から性的虐待を受けた場合一般的に被害者がそのような状態から逃げ出したり抵抗したりすることは非常に困難で且つ性的虐待を受けた事実を他の近親者に相談しない例が多く見られるとした上で、被害者が加害者である近親者に近づくと言うことも複雑な心理状況に起因して見られる行動であると証言しており、これらの証言に対し医師であるYもさしたる反証が出来なかったことがX勝訴の決め手になったようです。 ○近年子供に対する虐待の報道は良く聞き、最近は、子供の親殺しも頻繁に報道され、この乙山医師の証言からは近親者による性的虐待は珍しいことではないらしく、絆が強くあるべき親子関係が逆に憎しみ合う関係になっている例が多いことから、祖父と孫娘の関係ですが本件も氷山の一角ではないかと暗澹たる気持になります。 ○子供時代に受けた精神肉体への傷害の傷痕は成長後に大変な障害となることにも痛感しました。祖父Yは判決時には80歳ですが、厳しく処断されるべきと思った次第です。 以上:1,208文字
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