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男性に妻のあることを知りながら情交関係を結んだ女性の慰藉料請求

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平成27年 7月 8日(水):初稿
○「不倫の法律相談-基本」で妻あるA課長の妻と別れて結婚すると約束を信じて男女関係を継続したP女がAに対して慰謝料請求ができるかと言う問題について、「AのPに対する言動、PがAとの関係で被った損害、例えば妊娠中絶を多数繰り返した等の事情があると慰謝料が認められる場合もありますが、その金額はAが独身で婚約関係が成立した場合に比較して相当低くなります。」と解説していました。

○男性に妻のあることを知りながら男女関係となった女性の男性に対する慰謝料請求を認めたおそらく最初の最高裁判決と思われる昭和44年9月26日最高裁判決(判例タイムズ240号141頁、判例時報573号60頁)全文を紹介します。一審昭和40年2月24日東京地裁判決が女性の請求を棄却していたところ、二審昭和42年4月12日東京高裁が当時としては高額の金60万円の慰謝料請求を認め、男性が上告したものです。


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主   文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。

理   由
 上告代理人水本民雄、同直野喜光、同小川景士の上告理由について。
 原判決によれば、被上告人は、昭和15年10月15日生の女性で高等学校卒業後の昭和35年3月1日から埼玉県所沢市の在日米軍兵站司令部経理課に事務員として勤務することになり、右経理課の上司で米国籍を有する上告人と知り合い、間もなく通勤のため上告人から自動車による送り迎えを受けることになり、また映画館、ナイトクラブ等に連れていつてもらうほどの仲になつたこと、上告人には当時妻Aと3人の子があつたが、それ以前から長らく妻とは不仲で、同居はしているものの寝室を共にしない状態であつたので、上告人は被上告人と交際するうちに性的享楽の対象を被上告人に求めるようになつたこと、上告人は、昭和35年5月頃被上告人に対し右の如き家庭の状態を告げるとともに、被上告人が19才余で異性に接した体験がなく、思慮不十分であるのにつけこみ、真実被上告人と結婚する意思がないのにその意思があるように装い、被上告人に妻と別れて被上告人と結婚する旨の詐言を用い、被上告人をして、上告人とAとの間柄が上告人のいうとおりであつて上告人はいずれはAと離婚して自分と結婚してくれるものと誤信させ、昭和35年5月21日から同36年9月頃までの間10数回にわたり被上告人と情交関係を結んだこと、ところが、上告人は、昭和36年7月頃被上告人から妊娠したことを知らされると同年9月頃から被上告人と会うのを避けるようになり、被上告人が昭和37年1月1日男子Bを分娩した際その費用の相当部分を支払つたほか全く被上告人との交際を絶つたこと、上告人と被上告人間に情交関係のあつた当時上告人の妻には離婚の意思がなく、上告人が近い将来妻と離婚できる状況にはなかつたが、被上告人は、このことに気付かず、むしろいずれは自分と結婚してくれるものと期待して、上告人に身を委ねたところ、その結婚への期待を裏切られ、上告人の子であるBの養育を一身に荷わねばならなくなつたこと、上告人は、かつて昭和34年11月からCという女性と情交関係を結び、日ならずして昭和35年から昭和36年にかけて被上告人と情交関係を結んだほか、その後もDとも情交関係を結んでいたことがそれぞれ認められるというのである。

 思うに、女性が、情交関係を結んだ当時男性に妻のあることを知つていたとしても、その一事によつて、女性の男性に対する貞操等の侵害を理由とする慰藉料請求が、民法708条の法の精神に反して当然に許されないものと画一的に解すべきではない。すなわち、女性が、その情交関係を結んだ動機が主として男性の詐言を信じたことに原因している場合において、男性側の情交関係を結んだ動機その詐言の内容程度およびその内容についての女性の認識等諸般の事情を斟酌し、右情交関係を誘起した責任が主として男性にあり、女性の側におけるその動機に内在する不法の程度に比し、男性の側における違法性が著しく大きいものと評価できるときには、女性の男性に対する貞操等の侵害を理由とする慰藉料請求は許容されるべきであり、このように解しても民法708条に示された法の精神に反するものではないというべきである。

 本件においては、上告人は、被上告人と婚姻する意思がなく、単なる性的享楽の目的を遂げるために、被上告人が異性に接した体験がなく若年で思慮不十分であるのにつけこみ、妻とは長らく不和の状態にあり妻と離婚して被上告人と結婚する旨の詐言を用いて被上告人を欺き、被上告人がこの詐言を真に受けて上告人と結婚できるものと期待しているのに乗じて情交関係を結び、以後は同じような許言を用いて被上告人が妊娠したことがわかるまで1年有余にわたつて情交関係を継続した等前記事実関係のもとでは、その情交関係を誘起した責任は主として上告人にあり、被上告人の側におけるその動機に内在する不法の程度に比し、上告人の側における違法性は、著しく大きいものと評価することができる。したがつて、上告人は、被上告人に対しその貞操を侵害したことについてその損害を賠償する義務を負うものといわなければならない。また、被上告人の側において前記誤信につき過失があつたとしても、その誤信自体が上告人の欺罔行為に基づく以上、上告人の帰責事由の有無に影響を及ぼすものではなく、慰藉料額の算定において配慮されるにとどまるというべきである。そうとすれば上告人の責任を肯認した原審の判断は正当であつて、所論の違法はなく、論旨は採用しえない。
 よつて、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 最高裁判所第二小法廷 裁判長裁判官 草鹿浅之介、裁判官 城戸芳彦、裁判官 色川幸太郎、裁判官 村上朝一


上告代理人の上告理由
第一点 原判決には、判決に影響を及ぼすこと明らかな民法第708条但書の解釈の誤りがある。

一、(略)

二、しかし、原判決は以下述べる理由により、民法708条但書の解釈を誤つている。
(一) 民法第708条但書は「不法ノ原因ガ受益者ニ付テノミ存シタルトキ」のみに適用があり、不法の原因が受益者と給付者の双方に存する場合には、この適用をみないものである。而して、同条但書「不法ノ原因ガ受益者ニ付テノミ存シタルトキ」とは、公序良俗違反すなわち社会の倫理観念によつて非難される行為が受益者たる上告人にのみ存する場合をいうのであるところ、被上告人と上告人が本件の情交関係を結んだ当時は、被上告人が満19才七ケ月で未成年者ではあるが民法上の婚姻適齢と社会通念とにより考えれば、上告人が妻子ある男性と情交関係を結ぶことは社会倫理の認容しないことは十分認識していたと明らかであり、被上告人の上告人に送付したメモ中「……道徳的に考えたらまちがつているし、私現在行つて居る事は貴方の生活、家庭を狂わせる原因になつている……私に取つては心苦しい限りです」(甲第一号証中(三)表面、裏面)との言葉の通り、被上告人は上告人の家庭の破壊に対する自責の念を表明し上告人と情交関係を継続することに対する違法性の認識に関して何等欠缺するところがないのである。そして被上告人が上告人との情交関係を結ぶことを「不倫」なものと認識して、敢えて、この関係に入つたのであるからこの被上告人の行動を社会的に評価すれば自ら不徳な行為をなしたものといわざるをえず、その心情において非難せられるべきものである。

 従つて、原判決は給付者である被上告人の不法性(反倫理性)を無視――少なくともこれを不当に軽視――して、前記結論に到達したのであるが、被上告人に存する不法性(反倫理性)は、現行民法の基礎である一夫一婦制を根底から覆し、これに敵対するもので、これを無視又は軽視するを許されないものである。そうだとすると、原判決が、被上告人に存する不法性(反倫理性)を無視又は軽視したことにより重大なる誤を犯したものと言わざるを得ない。

(二) 原判決は被上告人に存する不法性(反倫理性)を無視又は軽視するための法技術として「不法性の衡量」の原理を採用するのであるが、果して、一夫一婦制を根底から覆し、これに敵対するごとき反倫理性の強度な被上告人の不法性につき、右の「不法性の衡量」の原理で処理することが可能であるか多大の疑問なきを得ないのである。

 先ず、これを理論的に考えれば、給付者たる被上告人に存する不法性が如何に小であつても不法性があることに違いはないのであるから、受益者たる上告人にのみ不法性があるとは言い得ないのである。しかし、右「不法性の衡量」の原理を解釈技術として一応肯定するとしても、この原理の適用については、その結果犠牲に供される利益が如何なるものであるかを見定めることを怠つてはならないのである。

 これを本件につき考えるに、被上告人に存する不法性は前記のとおり、反倫理性の強度なものであり、如何なる意味においても「不法性が小」であるとの評価を下すことを得ないもので、反倫理性の脆弱な強行法規違反行為と同一に断ずることを得ないものである。その上、被上告人と上告人間の「私通関係(情交)」のため、上告人の妻がその円満なる家庭生活を破壊され離婚を決意するの止むなきに到らされたのである(甲第三号証の離婚判決参照)。すなわち、上告人の妻Aに対する関係では、上告人と被上告人は共同不法行為者として立現われているのであり、前記(一)に記述した通り、これがため被上告人自身右妻Aに対し「家庭を狂わせる原因」であることを認めているのである。

 従つて、若し仮りに、右の「不法性の衡量」の原理を適用するとするならば本来法的保護の対象である正妻の地位が犠牲に供されるばかりでなく、夫たる上告人につき損害賠償義務が発生することにより、事実上その共同生活者たる正妻についても、右損害賠償義務履行のために共同責任を負担させる結果となること明らかである。

第二点 原判決は、大審院昭和15年7月6日(民集19巻1142頁)の判決に違反し、延いては判決に影響を及ぼすこと明らかな民法第708条の解釈適用を誤つたものである
一、原判決は上告理由第一点第一項記載の理由で、被上告人の請求を認容したのであるが、これは右大審院昭和15年の判決に違反している。すなわち、同判決は、この種のリーデングケースと目されているもので、事案の内容は、妻が他の男性と姦通して出奔した後、夫たる婿養子が養親の賛同を得て、人を介し、或る女性に対し妻と離婚して結婚するとの約束をなし、事実上の夫婦生活をなしたにも拘らず、その約束を履行しなかつたので、女性より詐欺を理由に損害賠償を請求したものである。しかるに、大審院は「およそ、甲女が正妻ある乙男と事実上の夫婦関係を結びたるは正妻が他の男子と出奔し離婚手続の準備中にして、かつ乙男には真実甲女と婚姻する意思なきに拘らず、之あるものゝ如く装ひて甲女を欺罔したるに因るが如き場合といえども、右事実上の夫婦関係を結びたるは公序良俗に反する行為にして、乙男に正妻あることを知りながら之をなしたる甲女が其結果貞操を蹂躙せられ精神上の苦痛を受くることがあるも其の損害の賠償を請求するは畢竟自己に存する不法の原因に因り生じたる損害の賠償を請求するものにして、斯かる請求に対しては民法708条に示されたる法の精神に鑑み敢えて保護を与ふべき限りにあらず」と判示したのである。

二、右大審院判決は、正妻につき他の男と姦通して出奔している事実があり、甲女に違法の認識を期待することが酷な場合ではないかとの疑問がないではないが、本件は右大審院判決と異り、上告人の正妻Aに離婚原因となるべき事由は存在せず、その他何等責められるべき事由のない場合であるから被上告人につき、前記の通り違法の認識につき、これを認めるに十分であり、正当に保護されるべき家庭生活の破壊者であること疑を入れる余地のない事案で、上告人の正妻Aに何等責められるべき事由が存在しない本件では、右の点に関する疑問は問題とならない。
 そうだとすると、右大審院判決の、正妻のある男性と事実上の夫婦関係又は情交関係を結ぶことは公序良俗に違反すること疑を入れず、本件被上告人は民法708条本文の適用により、法的保護の対象とはならないと言わなければならない。(以下略)
以上:5,095文字

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