平成27年 7月 2日(木):初稿 |
○平成27年6月30日初版第1刷発行の表記「判例による不貞慰謝料請求の実務」(弁護士会館ブックセンター出版部LABO発行)を紹介します。著者は司法修習52期の中里和伸弁護士です。私は司法修習32期ですのから、52期の中里弁護士は、弁護士としては私より20年後輩です。 ○しかし、中里弁護士著「判例による不貞慰謝料請求の実務」をザッと斜め読みして、感嘆しました。不貞行為に関して、江戸時代から最新判例まで実に良く丹念に勉強されています。日本の不貞行為に関する書籍としては、おそらく最も詳しく、実務に参考になるものです。収録された不貞行為裁判例だけで593にも及び学者の論文でもここまで裁判例を丹念に研究したものはないと思われます。出版社からのコメントは、「不貞慰謝料請求にかかわる判例を整理した実務書は本書が初めてだと思います。 最高裁判例を含む593の裁判例を分析整理し、体系化した本書は、法律相談、訴訟実務に役立ちます。」となっていますが、その通りです。 ○同書は不貞行為に関する判例だけでなく学説も整理しており、間男・間女?の不法行為責任否定説の根拠を、概ね、以下の通り説明しています。 1.「俺の女に手を出した」、「私の夫を奪った」との考え方は相手方配偶者を自己の所有物と見るに等しく、不合理であり、この考えを根拠に慰謝料請求を認めることも不合理 2.不貞行為相手方に慰謝料請求を認めてもそれは事後的制裁に過ぎず、これによって不貞行為発生予防にはならない 3.婚姻継続して不貞行為配偶者を許すのであれば不貞行為相手方も許すことになる 4.不貞行為から離婚に至った場合は、不貞行為配偶者に責任を負わすべきで、不貞行為相手方にまで責任を負わせる実益は乏しい 5.愛情と信頼において最も深く傷ついた者ほど、金銭による賠償から最も遠いところで傷ついているはずで、金銭による償いは不可能 6.欧米の殆どで不貞行為相手方の不法行為責任は否定しており、アメリカではその理由について不貞行為相手方に損害賠償義務を認めても婚姻の安定が確保されることにはならないとしている 7.不貞行為による婚姻破綻によってもたらされる窮状の救済は配偶者間でなされるべきで、不貞行為相手方に対する慰謝料請求という構成を認めるべきではない 8.任意の肉体関係は男女の自由競争の一結果にすぎず、この原理が働いて配偶者間が壊れた場合には貞操義務違反者に責任をとらせることが基本で、裁判所が争いの醜い拡大に手を貸すのは非道徳的 9.不貞行為相手方に慰謝料請求を認める考え方は、不貞行為配偶者の人格否定につながる 10.不貞行為相手方への請求否定説は、不貞行為を理由とする慰謝料請求ばやりの風潮に対して頂門の一針をさすことになる 11.夫婦の関係を屈服や従属ではなく自由意思による対等な結びつきであることを確認する立場では、不貞行為配偶者の意思や人格を無視する不貞行為相手方に対する慰謝料請求は否定されるべき ○これに対し裁判所の立場は、戦前から一貫して不貞行為相手方責任を肯定しており、最高裁判所が不貞行為相手方責任を否定すると、法が正面から愛人関係や妾関係を肯定し、乱交を奨励する結果になることを危惧しているからと思われ、現時点での社会感情としても世論から大旨支持されていると感じるとしています。しかし、「そのような危機感が本当にあるのであれば、(中略)戦前にあった姦通罪を両罰規定とした上で復活させなければ、立法政策としては一貫しないようにも思われる。」とは、何とも過激なお言葉です(^^)。 以上:1,462文字
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