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婚約により将来の婚姻成立後夫婦の地位侵害を認めた判例全文紹介1

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平成26年 1月10日(金):初稿
○「婚約しても婚姻中と同様の守操義務はないとした判例全文紹介2」の続きで、昭和52年8月31日神戸地裁尼崎支部判決の控訴審である昭和53年10月5日大阪高裁判決(家月32巻10号48頁、判タ378号107頁)全文を2回に分けて紹介します。

 原審は、「婚約当事者が互に相手方に対し婚姻当事者(夫婦)と同様の貞操義務を負つているとは解されない」としたものが、控訴審では、「婚約当事者は互いに誠意をもつて交際し、婚姻を成立させるよう努力すべき義務があり(この意味では貞操を守る義務をも負つている。)」として微妙に変化しています。

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主  文
一 本件控訴に基づき原判決を次のとおり変更する。
 被控訴人(附帯控訴人)は控訴人(附帯被控訴人)に対し金50万円及びこれに対する昭和50年10月21日から支払ずみまで年5分の割合による金員を支払え。
 控訴人(附帯被控訴人)のその余の請求を棄却する。
二 本件附帯控訴を棄却する。
三 訴訟費用は(附帯控訴を含め)第一、第二審を通じこれを10分し、その1を被控訴人(附帯控訴人)の、その余を控訴人(附帯被控訴人)の各負担とする。
四 この判決は控訴人(附帯被控訴人)の勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事  実
一 控訴人(附帯被控訴人、以下控訴人という。)代理人は、「原判決中控訴人の敗訴部分を取消す。被控訴人(附帯控訴人、以下被控訴人という。)は控訴人に対し495万円及びこれに対する昭和50年10月21日から支払ずみまで年5分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、附帯控訴につき、主文二項同旨の判決を求めた。

 被控訴人代理人は、控訴棄却の判決、附帯控訴として、「原判決中被控訴人の敗訴部分を取消す。控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第1、2審とも控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

二 当事者双方の主張及び証拠関係は、次に付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これをここに引用する。
(控訴人の主張)
1 婚約は将来婚姻を締結しようとする当事者間の契約であり、権利として法律上の保護を受けうるものであるから、婚約の事実を知りながら、これを侵害した第三者が不法行為者として責任を負うべきことは明らかであり、第三者による権利侵害は婚約当事者の婚姻の実現が妨げられた場合に限定すべきではなく、婚約当事者の婚姻が成立した後においても、その夫婦関係の維持を一時的にせよ不安定ならしめた場合も、侵害があると解すべきである。
 本件にあつては被控訴人は控訴人に対し被控訴人とAとの間に性関係のなかつたことを明言し、控訴人はこれを信じてAと婚姻するに至つたものであるから、婚姻が実現したからといつて不法行為の成立に消長を及ぼすいわれはない。

2 被控訴人は、Aが控訴人と婚姻を前提として交際していたのを知りながら、「死のうと思つている。」といやがらせを言い、同女が控訴人と婚約した後にも「自分が手を下さなくとも、控訴人との話をこわすことができる。」などと言つて、昭和49年4月に3回にわたつてAに性関係を迫つてこれを結んだものであり、被控訴人が当時控訴人とAとの婚約を不快に思い、婚姻の成立を妨害する意思を有していたことは明らかである。

(被控訴人の主張)
1 被控訴人は、控訴人の請求の原因3、1(原判決3枚目裏3行目から11行目まで)記載の日、場所でAと性関係を結んだことはない。Aは控訴人の右主張事実に沿う証言をしているが虚偽である。Aは控訴人と婚姻後控訴人から責められ、被控訴人との性関係を告白したところ、控訴人は同女を許さず、他方被控訴人に対し本件訴を提起した。控訴人に心理的負い目のあるAは控訴人に有利に証言するのは自然で、これが同女に不利、不名誉であるとの一事で信用しうると断ずるのは誤りである。

2 被控訴人は、控訴人の求めに応じて、昭和49年5月中旬頃喫茶店で会つた事実はあるが、控訴人を非難、脅迫した事実はない。

(証拠関係)
1 控訴人は、当審における証人Aの証言、被控訴人本人尋問の結果を援用した。
2 被控訴人は、当審における被控訴本人尋問の結果を援用した。

理  由
一 被控訴人は東京都内に本社を有する有限会社○○事業部(神戸市○○区所在、以下訴外会社という。)の責任者であること、控訴人は昭和49年7月5日Aと婚姻したこと、Aは訴外会社の事務員であつたことは当事者間に争いがない。

二 右争いのない事実に原審及び当審における証人Aの証言及び被控訴人本人尋問の結果(但し後記措信しない部分は除く。)、原審における控訴人本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。
1 控訴人は神戸市○○区に所在する○○株式会社の代表取締役であるところ、昭和47年1月妻礼子を亡くし、それ以後数十回にわたり見合いをし、再婚相手を探していた。控訴人と亡妻礼子との間には2名の子があり、昭和53年8月にはいずれも大学生になつている。
 Aは昭和17年生れの女性で、同42年10月に婚姻したが、翌43年7月に離婚し、その頃いとこである被控訴人の妻の世話で訴会社に雇用され、事務員として勤務していた。

2 控訴人は、昭和48年7月○○市立○○センター結婚相談室の紹介でAと見合いをし、以来交際を続け、同49年2月双方が婚姻の意思のあることを互いに確め、同年4月7日Aに対し結納として現金30万円と指環を交付し、Aと同年7月に婚姻する旨合意(婚約)した。

3 被控訴人は、Aが訴外会社で勤務を始めてから10日位後から同女と性関係を結ぶ目的で誘惑し始め、昭和43年8月頃Aと関係を結び、以後神戸市内や尼崎市内のホテルなどにおいて少なくとも毎月1回位の割合で右関係を継続していたところ、同48年10月頃にはAが同年7月に控訴人と見合いをし、それ以後結婚を前提とした交際をしていることを知り、また翌49年2月には同女から控訴人と結婚することに決めたのでそれまでの関係を清算して欲しいと求められたが、Aに対する恋愛感情を断ち切れず、かえつてこれに不満を述べ、挙句には「死んでやる。」とか「誰かに頼んでも2人の結婚をつぶせる。」などと言つて控訴人とAとの婚姻に反対し、両名が前記のとおり婚約をしたことをその翌日である昭和49年4月8日には知つたが、その後も同月12日、20日、27日の3回にわたり神戸市内のホテルなどにおいてAと性関係を結んだ。

4 被控訴人は同年5月5日訴外会社の業務の都合上Aに連絡するべく控訴人方へ電話をして控訴人にAへの伝言を依頼したが、控訴人はその際の被控訴人の話し振りからAとの関係を疑い、同女の母親にそのことを伝えたところ、Aの母親が被控訴人に真相を質したが、被控訴人はAとの関係を強く否定した。

 控訴人はAの母親から右の事情を聞き、A自身も被控訴人との関係はないと明言するので、同月15日頃謝罪するため被控訴人を訪れたところ、被控訴人は訴外会社の近くの喫茶店において、事実は前記のとおりAとの関係があつたのに、これを偽り、「控訴人があらぬ疑いをかけたから告訴する。」と言つて控訴人を脅迫した。

 このようなことで控訴人は、Aや被控訴人らの言葉を信じ、同年7月5日に同女と婚姻したが、その後やはりAらの態度に釈然としないものを感じ、同女に問い質したところ、Aは同50年3月頃になつて被控訴人と前記関係のあつたことを告白し、被控訴人は強い精神的打撃を受け、夫婦間は円滑な意思疎通を欠き不和となり、控訴人は一時はAとの婚姻関係を解消することをも考えたが、二人の子供を含めた家庭の事情などからこれを決めかね、Aとしては自己に非のあることが明らかなのですべて控訴人の意に従うほかないものと決めて現在に至つている。

 以上の事実が認められ、原審及び当審における被控訴人本人尋問の結果中の右認定に反する部分は前記Aの証言に照らし措信できず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。
以上:3,329文字

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