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婚約しても婚姻中と同様の守操義務はないとした判例全文紹介2

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平成26年 1月 9日(木):初稿
○「婚約しても婚姻中と同様の守操義務はないとした判例全文紹介1」の続きです。
原告は、親族権(婚約により生ずる権利と思われます)は、対世的権利不可侵の効力を有し、婚約当事者の一方と情交関係を持った者は、婚姻の予約を侵害した第三者として責任があると主張しました。これに対し、昭和52年8月31日神戸地裁尼崎支部判決は、婚約とは将来婚姻をするという当事者の予約(合意)であり、婚約当事者は互に誠意をもつて交際し、婚姻の暁には夫婦共同体を成立させるように努める義務を負つているとはいうものの、婚約当事者が互に相手方に対し婚姻当事者(夫婦)と同様の貞操義務を負つているとは解されないので、婚約前から継続していた第三者との情交関係を婚約後も継続しても、この第三者の不法行為は成立しないとしています。

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(請求原因に対する答弁)
一、請求原因一の事実中、被告の職業、原告とAが婚姻したこと及びAが○○事業部事務員であつたことは認めるが、その余は不知。

二、請求原因二の事実は否認。ただし被告とAとの間に合意で昭和43年8月頃から昭和48年12月頃までの間、月一回程度の肉体関係が続いたことはある。しかし、Aが、昭和48年12月28日被告に対し、クリスマスに原告家庭に招かれたことを話し聞かせたので、被告はAが原告と婚姻を前提とした交際を始めたことを感じ取り、Aの将来を考え、その後の情交関係を断絶した。

三、請求原因三の事実は否認。

四、請求原因四は争う。

五、請求原因五の事実中、神戸家裁で調停があり不調になつたことは認めるが、その余の事実は不知。原告は、Aとの婚約後情交関係があつた事実を被告が認めた旨主張するが、かかる事実は全くない。なお、被告がAの婚約を同人から聞いたのは昭和49年4月下旬のことである。Aは原告から結納を受領したことを被告に伝えたことはない。

第三 証拠
(原告)
一、甲第一ないし第三号証を提出。
二、証人Aの証言及び原告本人尋問の結果を援用。
三、乙第一号証の成立は認。

(被告)
一、乙第一号証を提出。
二、被告本人尋問の結果を援用。
三、甲号各証の成立は不知。 

理由
一 (当事者及び訴外Aの関係)

 請求原因一の事実中、被告の職業、原告とAが婚姻した事実及びAが○○事業部事務員であつた事実は当事者間に争いがなく、証人Aの証言及び原告本人尋問の結果によると、その余の事実が認められる。

二 (当裁判所の認定した事実)
 証人Aの証言、原告本人尋問の結果及び被告本人尋問の結果(後記採用しない部分を除く)を総合して考えると、
〈1〉Aは昭和43年7月有限会社○○事業部に就職したが、その後程なくして同事業部責任者の被告と情交関係をもつようになり、この関係は継続されていたこと、
〈2〉この関係継続中、他方でAは原告と見合いをして交際を続けていたが、同49年2月明確に原告と婚姻する決意を固めてその意思表示をし、同年4月7日原告から結納現金30万円とダイヤ指輪)を受領して正式に婚約したこと、
〈3〉被告は、Aの右正式婚約をその翌日には知つたが、右正式婚約後(但し、婚姻前)、請求原因三記載の日時・場所において三度Aと情交関係をもつたこと、
〈4〉同年5月5日頃被告が原告宅に電話したことを契機に、原告は、被告とAとの関係に疑念をもち、その疑念をA・Aの母・被告の妻等に対し表明したところ、それらの者からそのような不純な関係はないと断定的に否定されたため、それが邪推に過ぎなかつたと考え直し、自己の軽率な言動を謝罪するため、同月中旬頃、ケーキを手土産に持つて被告事務所を訪れ、同所近くの喫茶店で被告と会つたこと、
〈5〉その際、被告は原告に対し、原告の疑念が真実に合致していたにもかかわらず、Aとの関係について事実無根の疑いをかけたと称して、原告を非難し、捜査機関に告訴するといつて原告を脅迫したこと、
〈6〉原告とAはいずれも初婚ではなく再婚であつたこと、
がいずれも認められる。
 被告本人の右認定に反する供述は、証人Aの証言に照して採用できない(〈3〉の事実に関する証言は、証人Aにとつて非常に不利・不名誉な事実についての証言であるから、同証言が虚偽であるとはとうてい考えられない)。

三 (不法行為の成否)
1 結納後の情交

 原告は、前記〈3〉の行為、すなわち右結納授受(正式婚約)後被告がAと情交関係をもつた行為が、原告に対する不法行為になる旨主張する。

 しかし、婚約とは将来婚姻をするという当事者の予約(合意)であり、婚約当事者は互に誠意をもつて交際し、婚姻の暁には夫婦共同体を成立させるように努める義務を負つているとはいうものの、婚約当事者が互に相手方に対し婚姻当事者(夫婦)と同様の貞操義務を負つているとは解されない(そのような行為が、他方当事者による婚約の一方的解消のための正当事由になる場合があることは別個の問題)から、被告がAの結納授受(正式婚約)前約6年前から継続して来た同女との情交関係を、右〈3〉のとおりAの結納授受後に行つたとしても(未だ同女は原告と婚姻していなかつた)、原告に対する不法行為になると考えることはできない。

 もつとも、婚姻の成立を妨げる目的で、婚約の一方当事者を誘惑してこれと情交関係を結び、その結果婚姻の成立を不能ならしめたような場合には、その情交関係が債権侵害として婚約の他方当事者に対する不法行為になると評価されることがあるとは解せられるが、被告の場合は、婚約の一方当事者と婚約数年前から持続してきた情交関係を、婚約後婚姻前の期間に行つたに過ぎず、婚約も履行されて婚姻が成立しているのであるから、婚約後の情交行為が婚約の他方当事者(原告)に対する不法行為になると解することはできない。原告の引用する判例は、婚姻当事者(夫婦)と同様の地位に立つと解すべき内縁(準婚)関係当事者に関するものであつて、本件の如く純粋の婚約関係当事者に関するものではないから、これと同様に考えることはできない。

2 被告の非難・脅迫行為
 前記二〈5〉において認定の被告の行為は原告の人格権(精神的自由ないし精神的平穏)に対する違法な侵害であり、原告はこれにより精神的損害を被つたと認められる。原告及び被告の社会的地位・行為の態様・被害の程度を考慮すると、原告の右精神的損害に対する慰藉料としては、金5万円が相当と認められる。

四 (結論)
 以上の事実によれば、原告の被告に対する本訴請求は損害賠償金5万円と、これに対する昭和50年10月21日(訴状送達の翌日)から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法89条、92条本文を、仮執行の宣言につき同法196条を適用して、主文のとおり判決する。 



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