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有責配偶者離婚を初めて認めた昭和62年9月2日最高裁判決紹介4

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平成25年 7月15日(月):初稿
○「有責配偶者離婚を初めて認めた昭和62年9月2日最高裁判決紹介3」を続けます。
今回は、反対意見に近い佐藤哲郎裁判官の補足意見です。

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裁判官佐藤哲郎の意見は、次のとおりである。
 私は、多数意見の結論には賛成するが、その結論に至る説示には同調することができない。

一 民法770条1項5号は、同条の規定の文言及び体裁、我が国の離婚制度、離婚の本質などに照らすと、同号所定の事由につき専ら又は主として責任のある一方の当事者からされた離婚請求を原則として許さないことを規定するものと解するのが相当である。

 同条1項1号から4号までは、相手方配偶者に右各号の事由のある場合に、離婚請求権があることを規定しているところ、同項5号は、1号から4号までの規定を受けて抽象的離婚事由を定め、右各号の事由を相対化したものということができるから、5号の事由による離婚請求においても、1号から4号までの事由による場合と同様、右事由の発生について相手方配偶者に責任あるいは原因のある場合に離婚請求権があることを規定しているものと解するのが相当である。法律が離婚原因を定めている目的は、一定の事由の存在するときに夫婦の一方が相手方配偶者に対して離婚請求をすることを許すことにあるが、他方、相手方配偶者にとつては一定の事由のない限り自己の意思に反して離婚を強要されないことを保障することにもあるといわなければならない。

 我が国の裁判離婚制度の下において離婚原因の発生につき責任のある配偶者からされた離婚請求を許容するとすれば、自ら離婚原因を作出した者に対して右事由をもつて離婚を請求しうる自由を容認することになり、同時に相手方から配偶者としての地位に対する保障を奪うこととなるが、このような結果を承認することは離婚原因を法定した趣旨を没却し、裁判離婚制度そのものを否定することに等しい。また、裁判離婚について破綻の要件を満たせば足りるとの考えを採るとすれば、自由離婚、単意離婚を承認することに帰し、我が国において採用する協議離婚の制度とも矛盾し、ひいては離婚請求の許否を裁判所に委ねることとも相容れないことになる。

 法は、社会の最小限度の要求に応える規範であつてもとより倫理とは異なるものであるが、正義衡平、社会的倫理、条理を内包するものであるから、法の解釈も、右のような理念に則してなされなければならないこと勿論であつて、したがつて信義に背馳するような離婚請求の許されないことはすべからく法の要求するところというべきであり、離婚請求の許否を法的統制に委ねた以上、裁判所に対して右の理念によつてその許否の判定をするよう要求することもまた当然といわなければならない。

 右のような見地からすれば、民法770条1項5号は、離婚原因を作出した者からの離婚請求を許さない制約を負うものというべきである。

 実質的にみても、婚姻は道義を基調とした社会的・法的秩序であるから、これを廃絶する離婚も、道義、社会的規範に照らして正当なものでなければならず、人間としての尊厳を損い、両性の平等に悖るものであつてはならないというべきである。また、婚姻は両性の合意のみに基づいて成立するものであることからすると、それを廃絶する離婚についても基本的には両性の合意を要求することができるから、夫婦の一方が婚姻継続の意思を喪失したからといつて、相手方配偶者の意思を無視して常に当該婚姻が解消されるということにはならないこともいうまでもない。

 そして、離婚が請求者にとつても相手方配偶者にとつても婚姻を廃絶すると同時に新たな法的・社会的秩序を確立することにあることからすると、相手方配偶者の地位を婚姻時に比べて精神面においても、社会・経済面においても劣悪にするものであつてはならないが、厳格な離婚制度の下においては離婚給付の充実が図られるものの、反対に、安易に離婚を承認する制度の下においては相手方配偶者の経済的・社会的保障に欠けることになるおそれがあることにも思いを致さなければならない。有責配偶者からの離婚請求を認めることは、その者の一方的意思によつて背徳から精神的解放を許すのみならず、相手方配偶者に対する経済的・社会的責務をも免れさせることになりかねないことをも考慮しなければならないであろう。

 そもそも、離婚法の解釈運用においては、その国の社会制度、殊に家族制度、経済体制、法制度、宗教、風土あるいは国民性などを無視することができないが、吾人の道徳観や法感情は、果たして自ら離婚原因を作出した者に寛容であろうか、疑問なしとしない。
 以上の次第で、私は、婚姻関係が破綻した場合においても、その破綻につき専ら又は主として原因を与えた当事者は原則として自ら離婚請求をすることができないとの立場を維持したいと考える。

二 しかし、有責配偶者からの離婚請求がすべて許されないとすることも行き過ぎである。有責配偶者からされた離婚請求の拒絶がかえつて反倫理的であり、身分法秩序を歪める場合もありうるのであり、このような場合にもこれを許さないとするのはこれまた法の容認するところでないといわなければならない。

 有責配偶者からされた離婚請求であつても、有責事由が婚姻関係の破綻後に生じたような場合、相手方配偶者側の行為によつて誘発された場合、相手方配偶者に離婚意思がある場合は、もとより許容されるが、更に、有責配偶者が相手方及び子に対して精神的、経済的、社会的に相応の償いをし、又は相応の制裁を受容しているのに、相手方配偶者が報復等のためにのみ離婚を拒絶し、又はそのような意思があるものとみなしうる場合など離婚請求を容認しないことが諸般の事情に照らしてかえつて社会的秩序を歪め、著しく正義衡平、社会的倫理に反する特段の事情のある場合には、有責配偶者の過去の責任が阻却され、当該離婚請求を許容するのが相当であると考える。

三 以上のとおり、私は、有責配偶者からされた離婚請求が原則として許されないとする当審の判例の原則的立場を変更する必要を認めないが、特段の事情のある場合には有責配偶者の責任が阻却されて離婚請求が許容される場合がありうると考える。そして、本件においては、被上告人の離婚拒絶についての真意を探求するとともに、右阻却事由の存否について審理を尽くさせるために、本件を原審に差し戻すのを相当とする。

裁判長裁判官 矢口洪一 裁判官 伊藤正己 牧圭次 安岡滿彦 角田禮次郎 島谷六郎 長島敦 高島益郎 藤島昭 大内恒夫 香川保一 坂上壽夫 佐藤哲郎 四ツ谷巖 裁判官 林藤之輔は、死亡につき署名押印することができない。裁判長裁判官 矢口洪一
 

以上:2,780文字

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